中国人「トヨタは中国でVWに勝てないのではない。勝てるかどうかは、トヨタの戦略しだいだ」

中国の質問サイト「知乎」に、2019年1月に立った質問がある。「なぜトヨタは、中国でフォルクスワーゲンに売り負けるのか」。閲覧は486万回、回答は504件。いちばん賛同の多い回答は、「トヨタは中国でVWに勝てないのではない。勝てるかどうかは、完全にトヨタ(日系全体)の中国での戦略しだいだ」と書いた。ほかの回答も、売り負けの理由を「実力」ではなく、トヨタの「選択」に求めていた。

この回答が書いた2017年の販売台数、「トヨタは中国に頼っていない」という説明、「トヨタは負けなければいい」という見立てを、2025年と2026年の最新の数字で答え合わせした。

元投稿

質問:为什么丰田在中国卖不过大众?(なぜトヨタは中国でフォルクスワーゲンに売り負けるのか)
補足:「『なぜVWは北米でトヨタに売り負けるのか』という質問をよく見るので、この質問に人がどう答えるのか、鏡のようなものか気になった」(要旨)
知乎/2019年1月21日/フォロワー1,420・閲覧4,860,535回・回答504件
→ https://www.zhihu.com/question/309879602

回答1「トヨタは売り負けているのではない。利益を取り、シェアは追わない」

回答者:兔子的寒冷年华(自動車などの話題の「優秀回答者」)
投稿日:2019年3月9日
賛同1,876・コメント478
→ 回答ページ

丰田在中国并不是卖不过大众,能不能卖得过大众完全取决于丰田(整个日系)在华的策略。

トヨタは中国でVWに勝てないのではない。勝てるかどうかは、完全にトヨタ(日系全体)の中国での戦略しだいだ。

理由の一つ目は、トヨタが中国で、わざと保守的に売っていること。ほかのメーカーが市場を広げ続けるのに、トヨタは車種と生産能力を絞る。日系車が在庫の少ないこと、現車がないことが多いのは、そのためだという。背景に、民族感情や、打ち壊し事件のような「コントロールできない要因」があり、事件が起きても「ほぼ無傷で撤退できる」ようにしている、と書く(回答者の見立て)。韓国の現代・起亜が、THAAD(高高度防衛ミサイル)の問題で在庫の山を抱えたことを引き合いに出している。

你别看大众销量高,全球的营收和丰田差不多,但是丰田的利润能达到大众的三倍。

VWは販売台数が多いが、世界での売上はトヨタと同じくらいで、トヨタの利益はVWの3倍に達する。

二つ目は、数字の見せ方。2017年のVWの世界販売623万台のうち、中国が318万台(51%)。トヨタは世界897万台のうち、中国が113万台(12.5%)。「トヨタは、中国以外ではすべて独資で、利益を全部自分で取れる。中国の市場に頼らなくても生きていける。VWは、中国が半分だから、中国人の好みを必死に研究するしかない」と書く。

我只要保证利润就行。至于销量第一第二?我根本就不在乎。

利益さえ確保できればいい。販売台数が1位か2位かなんて、全く気にしていない。

回答者は、トヨタ側の気持ちをこう語って締める。「売れた分だけ売ればいい。消費者も感情的にならなくていい」。

回答2「日系車は中国に最初に入ったのに、合弁が遅れた」

回答者:那个谁谁谁
投稿日:2019年1月23日
賛同280・コメント84
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日系车其实才是最早成规模进入中国的,当然是以进口的形式。

日系車こそ、最初に規模をもって中国に入ったのだ。もちろん輸入という形で。

日系車は安く、運賃も安い。中国は1978年から日系車を大量に輸入し、円借款の調達でも日系が優先された。そこで「口コミが十分に積み上がった」。ところが日本側は「中国はまだ日系と合弁するに値しない」と思ったのか、工場を建てなかった。欧州車が中国と合弁を始めてから、はじめて「国産車」が日系車と比べられるようになった、と書く。

そのうえ、VWは中国で売れる台数を読めず、販売権を上汽(上海汽車)に任せたが、合弁車の「コスパ」の高さで、VWは「申し訳ないほど」儲けた。それを見て、日本は1999年に広汽本田(広州ホンダ)を始めた。もう十数年遅い。日系車は、型としては「先鋒にならない」のが日本の特色だ、と書く。

尊重本地市场,是日系车在美国的成功。尊重本地市场,是大众(德系)在中国的成功。

現地市場を尊重したことが、日系車のアメリカでの成功だった。現地市場を尊重したことが、VW(ドイツ系)の中国での成功だ。

いま中国で競っているのは、合弁VW対合弁日系、そして高級輸入のドイツ系対高級輸入の日系で、日系の多くは不利だ、と整理する。

回答3「大衆の波に乗ったVW、ずっと慎重なトヨタ」

回答者:冯晞帆-稀饭(自動車などの話題の「優秀回答者」)
投稿日:2019年2月13日
賛同388・コメント150
→ 回答ページ

从对中国市场风口的反应,就不难看出为何丰田在中国卖不过大众。

中国市場の「風口(追い風)」への反応を見れば、なぜトヨタが中国でVWに売り負けるのか、わかりやすい。

一つ目の風口は「特供」のAセグメント車。中国の主流の予算は10万元(約240万円)〜15万元(約350万円)で、合弁のAセグメントのセダンか、自主ブランドのSUVかを選ぶ。VWは、ゴルフやジェッタとは別に、サイズが大きく、価格が安い「朗逸(ラヴィーダ)」「宝来」を中国のために作った。ホンダの凌派、ビュイックの英朗、フォードの福睿斯も、同じやり方で売れた。ところがトヨタの「カローラ」「レイリン」は、世界共通の商品で、需要に合わせにいく態度が見えない。

二つ目の風口はSUV。VWは、探歌、探岳、途岳、途昂など「一ダース」のSUVを出し、予算がいくらでも合う車種がある。トヨタは、長いあいだ主力がRAV4とハイランダー(漢蘭達)だけだった。三つ目は新エネルギー車。VWは車種を一気に投入したが、トヨタはプラグインハイブリッド(PHEV)の技術があるのに、カローラのPHEVを売るまで時間がかかった。

大众在中国必须赢,而丰田做到不输就可以了。

VWは中国で勝たなければならないが、トヨタは負けなければそれでいい。

理由は、回答1と同じく「依存度」。VWは欧州と中国でしか売れず、中国を失えば「株価が半値になり、さらに半値になる」。トヨタは米国、豪州、東南アジア、日本、中東、アフリカなどで売れていて、中国を失っても「手足を一本失うくらいで、命には関わらない」。トヨタが中国の消費の流れに「鈍感」なのは、そのためだ、と結ぶ。

裏取り

確認できたこと

2017年のVWの数字は、公式の発表のとおりだった。VWブランドの2017年の世界販売は623万台で過去最高、中国は初めて300万台を超え318万台だった(VW 公式プレスリリース)。中国の割合は318÷623で約51%。回答1の「中国が51%」は合う。

回答2の「合弁の差は十数年」も、年表と合う。上汽大衆(上海VW)は1984年10月に契約・設立され、最初の車種は「サンタナ」。広汽本田(広州ホンダ)は1998年に設立され、中国製の「アコード」の発売は1999年3月(Wikipedia: SAIC Volkswagen・Wikipedia: GAC Honda)。日系の合弁の本格化は、VWより約14年遅れた。

回答3の「トヨタの慎重さ」は、その後トヨタ自身が動いて変えた。2025年2月5日、トヨタは上海に単独出資の新工場を作り、レクサスのEVを中国で生産すると発表した。生産開始は2027年以降(36Kr Japan)。回答1の「なぜレクサスは中国で作らないのか」という疑問に、回答から6年で答えが出たことになる。2025年3月6日には、広汽トヨタが中国専用のEV「bZ3X」を、約11万元(約220万円。発売当時の報道の換算)からで発売し、1時間で1万台以上の予約が入った(36Kr Japan)。

VWの朗逸とトヨタのカローラを並べた写真
回答3が挙げた、中国専用のVW「朗逸」(左)と、世界共通のトヨタ「カローラ」(右)。回答者が添えた写真を並べたもの(知乎 @冯晞帆-稀饭の回答より)。2019年当時の車種で、現在のモデルとは異なる。

違った・古かったこと

回答1の「トヨタは中国に依存していない」は、2025年の数字では少し違ってきた。VWグループの中国販売は2025年に269万3,800台(8%減)で、世界の898万3,900台の約30%(CarNewsChina)。一方、トヨタ(レクサス含む)の2025年の世界販売は1,053万6,807台で、中国は約178万台(0.2%増・4年ぶりの前年超え)。割合は約17%で、2017年の回答の12.5%より上がっている(秋田魁新報(共同)・マークラインズ)。

中国が自社の世界販売に占める割合。VW2017年51%、VW2025年30%、トヨタ2025年17%の棒グラフ
中国が自社の世界販売に占める割合(%)。VW 2017年はVWブランド(318万÷623万)、2025年はグループ(269.4万÷898.4万)。トヨタ2025年は約178万台÷1,053.7万台の計算で、トヨタの2017年は同じ基準の数字を確かめられなかった。

回答1の「トヨタの利益はVWの3倍」は、2019年の数字で、いまは差がさらに開いている。トヨタの2025年度(2025年4月〜2026年3月)の営業利益は3兆7,662億円(21.5%減、売上高は50兆6,849億円で日本企業初の50兆円超)(MONOist)。VWの2025年の営業利益は約89億ユーロ(53%減)。1ユーロ=170円で円に直す概算では、トヨタはVWの約2.5倍で、比率としては3倍に届かないが、金額の差は大きい。

そして、「負けなければいい」は、2026年に初めて強く試されている。共同通信によると、トヨタの2026年8月の中国販売は11万8,449台で22.8%減。中東危機によるガソリン価格の高騰で、エンジン車が敬遠されている、という(熊本日日新聞(共同))。回答3が「風口」と呼んだ新エネルギー車の波が、いま、VWにもトヨタにも押し寄せている。

見落とされがちなこと

3つの回答は、どれも「トヨタが負けている」を、「トヨタが選んだ結果」として説明している。回答1は利益優先、回答2は合弁の遅れ、回答3は慎重さ。そのうえ回答1は、「民族感情で起きる打ち壊しのリスクに備えて、在庫と生産を絞る」と書いた。中国の人が日系車を見るときの視線には、商品の評価の前に、「日本のメーカーは、中国をどう見ているのか」という問いがある、と読める。

確かめられなかったこと

回答1の「在庫・生産を絞るのは民族感情への備えだ」は、会社の発表では確かめられなかった(回答者の見立て)。回答1の「トヨタの2017年の世界販売897万台・中国113万台」も、同じ基準の数字を確かめられなかった。2017年のトヨタの中国販売は、報道では129万台で過去最高(J-CASTニュース)。回答の113万台は、レクサスを除いた数字かもしれない(推測)。回答2の「円借款の調達で日系が優先された」「日本は中国を、合弁に値しないと考えた」は、回答者の説明で、一次資料では確かめられなかった。

日本側のデータ

この質問の答え合わせに使った事実

VWブランドの世界販売・中国(2017年)世界623万台/中国318万台(約51%)
VWグループの中国販売(2025年)269万3,800台(8%減)/世界898万3,900台の約30%
トヨタ(レクサス含む)の世界・中国販売(2025年)世界1,053万6,807台(3.7%増)/中国 約178万台(0.2%増)/約17%
トヨタの2025年度の営業利益3兆7,662億円(21.5%減)
レクサスの上海・単独出資工場(2025年2月発表)生産開始は2027年以降
トヨタの中国販売(2026年8月)11万8,449台(22.8%減)

出典:VW 公式・CarNewsChina・秋田魁新報(共同)・マークラインズ・MONOist・36Kr Japan・熊本日日新聞(共同)

日本視点

この質問は、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人は、トヨタの売れ行きを「実力」ではなく、「どこまで本気で中国を取りにくるか」という会社の決意の問題として見ている。回答1が「トヨタは勝つ気がない」、回答3が「トヨタは負けなければいい」と書いたのは、批判であると同時に、トヨタの強さの説明でもある。

日本の人にとって、ここは耳が痛い。トヨタは2025年に世界販売が過去最高で、6年連続で世界首位を守った。しかし、「世界のほかの場所で稼げるから、中国は負けなければいい」という構えは、中国のEVが世界へ出ていく時代には、通用しなくなっている。トヨタが上海に単独出資の工場を作り、中国専用のEVを出したのは、その変化に気づいたからだろう。

もう一つ。回答2の「現地市場を尊重する」は、トヨタがアメリカで成功した理由であり、中国で遅れた理由でもあるという対比だ。成功した方法を、市場が変わったあとも使い続けるのは難しい。この教訓は、トヨタだけの話ではない。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:VWの中国依存度が高いこと(2017年51%、2025年も約30%)。トヨタが中国以外の地域で稼げること。トヨタの慎重さが、中国のEVの波への出遅れにつながったこと。
  • 注意が必要:「トヨタは中国に頼らない」は、2025年の割合が約17%に上がり、2026年の販売減で、以前ほどは言えなくなった。
  • 確かめられなかった:在庫を絞るのが民族感情への備えか、トヨタの2017年の同じ基準の数字、合弁が遅れた理由。
関連書籍

トヨタが、中国のEVメーカーとの競争をどう乗り越えようとしているのかを、自動車産業の専門家が分析した本です。回答3の「風口」への出遅れが、その後どうなったかを知りたい人に向いています。

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まとめ

  • 知乎で486万回読まれた「なぜトヨタは中国でVWに売り負けるのか」。賛同の多い回答は、「トヨタは売り負けているのではなく、利益を取り、シェアを追わない」と書き、別の回答は「VWは中国で勝たなければならないが、トヨタは負けなければいい」と見た
  • 裏取りでは、2017年のVWの中国比率51%は公式の数字と合った。トヨタは2025年に上海で単独出資のレクサス工場を発表し、中国専用のEVを発売して、慎重さを変えた。2026年8月の中国販売は22.8%減
  • 「在庫を絞るのは民族感情への備え」「合弁が遅れた理由」は確かめられなかった。中国の人は、日系車を「中国をどう見ているか」という問いで見ている

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