中国の質問サイト「知乎」に、2026年4月3日、日本のマンガ・アニメの「お金」をめぐる質問が立った。「日本人は、ドラゴンボール、ワンピース、NARUTOなど、世界的な価値のあるIP(作品の権利)をたくさん持っているのに、なぜ売上はディズニーに及ばないのか」。閲覧は259.7万回、回答は222件(10月20日時点)。賛同のいちばん多い回答(4,703)は、たった一行で、「ずるい比べ方(田忌賽馬)も、昔ながらの得意技だ」と答えた。この記事では、ディズニーと日本の会社の売上の数字を並べて、「差」が何から来るのかを確かめた。
元投稿
質問:为什么日本人拥有大量世界级价值IP,营收比不过迪士尼?(なぜ日本人は世界級の価値のあるIPをたくさん持っているのに、売上はディズニーに及ばないのか)
補足:「拥有龙珠,海贼王,火影等等世界级IP的东映集英社营收与迪士尼相差较大」(ドラゴンボール、ワンピース、NARUTOなど世界級のIPを持つ、東映や集英社の売上は、ディズニーとの差が大きい)
知乎/2026年4月3日/フォロワー438・閲覧2,597,244回・回答222件
→ https://www.zhihu.com/question/2023395511995041540
回答1「ずるい比べ方(田忌賽馬)も、昔ながらの得意技だ」
回答者:amuro
投稿日:2026年4月9日
賛同4,703
→ 回答ページ
只能说田忌赛马这一块也是传统艺能了
「田忌賽馬」(相手の強い馬に、こちらの弱い馬をぶつけるやり方)も、昔ながらのお家芸だ、としか言えない。(質問は、日本の一社と、ディズニー全体を比べている、という皮肉)
回答2「日本は、海外の市場を、気にかけているのではなく、軽く見ている」
回答者:夺命帅逼阿凡提
投稿日:2026年4月15日
賛同4,242
→ 回答ページ
因为到了2026年,日本那边还是很轻视海外市场,不是不重视,是轻视。
2026年になっても、日本は、まだ海外の市場を軽く見ている。重視していないのではなく、軽視している。
北美图书市场25年的增量是0.3%,但日漫书店是正增长33.1%,就算是传统书店的日漫区域,增长率也高于9%,这个年增长率是非常恐怖的。
北米の本の市場は、2025年の伸びが0.3%だったが、マンガの専門店は33.1%の増加。従来型の書店のマンガの売り場でも、増加率は9%を超えている。この年の伸び率は、恐ろしいほどだ。
都不是,是一个月前。2026年《火影忍者》才开通了官方英文账号。
(「NARUTO」の公式YouTubeを開いたのは、3年前か、5年前か、10年前か、と問いかけたあとで)どれでもない。1か月前だ。2026年になって、ようやく「NARUTO」が公式の英語アカウントを作った。
回答3「アメリカ式に数えれば、ジャンプの作品は、ひとつのIPにまとまる」
回答者:哈基头四
投稿日:2026年4月10日
賛同2,605
→ 回答ページ
火影,死神,海贼王,龙珠等等通通算作少年jump一个IP的作品
NARUTO、BLEACH、ワンピース、ドラゴンボールなどは、まとめて「少年ジャンプ」という、ひとつのIPの作品に数える。(アメリカのマンガのやり方で数えると、IPの価値は一気に高く見える、と続く)
回答4「日本のマンガと、アメリカのコミックの、本質的な違いは、権利の持ち主だ」
回答者:sd240324
投稿日:2026年4月8日
賛同1,150
→ 回答ページ
日漫和美漫有一个本质区别,就是版权归属。
日本のマンガと、アメリカのコミックには、本質的な違いがある。権利の持ち主が違う、ということだ。
大部分的日漫IP版权归属于作家个人,像集英社这样的公司只是和作家分享版权收益,而不是独享版权收益。
日本のマンガのIPの大部分は、権利が作者個人のもので、集英社のような会社は、作者と権利の収益を分け合うだけで、ひとりじめはしない。
反过来,大部分美漫的IP版权归属于公司而非个人,像迪士尼旗下的IP收益归迪士尼而非具体作者。
逆に、アメリカのコミックのIPの大部分は、権利が会社のもので、個人のものではない。ディズニー傘下のIPの収益は、ディズニーのもので、個々の作者のものではない。
裏取り(売上の数字と、権利の仕組みで確かめる)
確認できたこと
売上の差は、本当に大きい。ディズニーの2025会計年度(2025年9月27日まで)の売上高は944億ドル(前年は914億ドル)。1ドル=150円として計算すると、約14兆円だ(The Walt Disney Company)。日本側は、集英社が2,097億円(2023年5月期。確認できた最新の数字・このうち版権の売上が27%、電撃オンライン)、東映アニメーションが936億6,900万円(2026年3月期・gamebiz)。同じ円の見積もりで、ディズニーは、集英社の約68倍、東映アニメーションの約150倍になる。
ただし、比べているものの「大きさ」がちがう。回答1の皮肉のとおり、ディズニーは、映画・テレビ・配信・テーマパーク・商品まで、ひとつの会社の売上だ。テーマパークなどの部門だけで、2025会計年度の営業利益が過去最高の約100億ドル(1ドル=150円で約1.5兆円)。これは、集英社の2023年5月期の売上全体(2,097億円)の、約7倍にあたる。日本の側は、マンガ(集英社)、アニメ(東映アニメーション)、おもちゃ、ゲーム、テレビと、権利の周りの会社が、別々に売上を立てている。
「権利が、作者と会社に分かれる」という回答4の説明は、出版社の公式ページとも矛盾しない。講談社は、自社のコミックの実写化・アニメ化・商品化などの二次利用は、「小社及び当該刊行物の著作権者」が管理する、と案内している(講談社)。つまり、出版社だけでなく、著作権者(作者)も関わる仕組みだ。ただし、これは講談社の例で、集英社の契約の中身は、この記事では確かめていない。
東映アニメーションの数字では、海外の版権が大きく伸びている。質問に貼られた東映アニメの資料では、2026年3月期の4〜12月の海外版権の売上が232億8,300万円。内訳は、ワンピース87億6,700万円、ドラゴンボール82億8,500万円。会社は、2026年3月期の通期の上振れの理由の一つに、「海外における版権事業が、期初見込みを上回ったこと」を挙げた(gamebiz)。
「NARUTO」の公式YouTubeは、2026年3月2日に開設された。英語のアニメメディアが、この日、新しい公式の「NARUTO / BORUTO」のYouTubeチャンネルが始まったと報じた(Anime Corner)。回答2の「1か月前」は、回答の日付(4月15日)から見て、およそ合う。
違った・古かったこと
回答2の「マンガの専門店は33.1%増」は、「書店」の数字ではなかった。二次資料の整理(ICv2の報道を引用)では、2025年のアメリカで、コミックショップ(専門店)の売上が33.1%増、書店など本の販売経路のマンガは、金額で4.6%増とされる(Voxbooster・二次資料)。回答2は、33.1%を「書店」の伸びのように書いていて、販売経路が違う。本の販売経路でもマンガが伸びているのは確かだが、「恐ろしい伸び」は、専門店の数字だ。
回答2の「日本は海外をただ軽視している」は、数字からは言い切れない。東映アニメは、海外の版権事業が見込みを上回ったと説明している。アメリカの2025年のマンガ売上ランキング(上位20作品)では、20作品のうち15作品が、日本の出版社と提携した北米の出版社「VIZ Media」の本だった(ICv2(Circana BookScan))。日本の側が、海外に力を入れていないとも、入れているとも、この数字だけでは決められない。
確かめられなかったこと
集英社の最新の売上高(2025年5月期・2026年5月期)は、公式の資料が見つからず、確認できた最新の2023年5月期(2,097億円)で比べた。回答2の「北米の本の市場は、2025年の伸びが0.3%」「NARUTOが2025年上半期に配信の視聴時間でトップクラス」「英語アカウントの動画が、日本語字幕のまま」は、確かめられなかった。ディズニーを円に直した数字は、為替を1ドル=150円と仮定した、この記事の目安で、公式の円の数字ではない。
この記事の答え合わせに使った数字(売上・版権・開設日)
| ディズニー 2025会計年度(2025年9月27日まで)の売上高 | 944億ドル(前年914億ドル) |
| 同・テーマパーク等の部門の営業利益 | 過去最高の約100億ドル |
| 集英社の売上高(2023年5月期・確認できた最新) | 2,097億円(うち版権27%) |
| 東映アニメーションの売上高(2026年3月期) | 936億6,900万円(純利益250億7,000万円) |
| 東映アニメーションの海外版権(2026年3月期の4〜12月) | 232億8,300万円(ワンピース87億6,700万円・ドラゴンボール82億8,500万円) |
| 1ドル=150円で円に直した、ディズニーの売上(目安) | 約14兆円(集英社の約68倍・東映アニメの約150倍) |
| アメリカのマンガ売上(2025年・二次資料) | 専門店+33.1%・書店など本の経路+4.6%(金額) |
| 「NARUTO / BORUTO」公式YouTubeの開設 | 2026年3月2日 |
出典:The Walt Disney Company・電撃オンライン・gamebiz・Anime Corner・Voxbooster
日本視点
この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。賛同の多い回答は、「ずるい比べ方だ」(回答1)、「日本は海外を軽く見ている」(回答2)、「ジャンプをひとつのIPと数えれば高く見える」(回答3)、「権利の持ち主が違う」(回答4)と、売上の差を、4つの違う理由で説明した。質問は「なぜ及ばないのか」と聞いたが、答えの多くは、「そもそも、比べ方がおかしい」と返していた。
数字で見ると、差は本物だが、ディズニーの売上のなかに、テーマパークと配信とテレビが全部入っている。日本は、マンガ・アニメ・おもちゃ・ゲームが別々の会社に分かれて、売上を立てている。「日本のIPが弱い」というより、「権利と売上が、多くの会社に分かれている」ので、ひとつの会社の数字にならない、というのが、数字に近い。海外の版権が伸びているのは、東映アニメの決算にも出ている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:回答1・3の「一社と、ディズニー全体を比べている」という指摘(ディズニーはテーマパークの利益だけで約100億ドル)。回答4の「権利が多くの会社と作者に分かれる」(講談社の公式ページの二次利用の案内と矛盾しない)。「NARUTO」の公式YouTubeが最近できた点(3月2日)。
- ずれている:回答2の「マンガの書店で33.1%増」は、二次資料では、専門店の数字で、書店など本の経路は4.6%増。「日本は海外を軽視している」は、東映アニメの海外版権の好調と、アメリカの売上ランキングでの出版社「VIZ Media」の多さからは、言い切れない。
- 確かめられなかった:集英社の最新の売上高、北米の本の市場全体の伸び、NARUTOの配信の視聴時間、公式の英語アカウントの動画の字幕、権利の契約の中身(集英社)。
マンガ、アニメ、ゲーム、おもちゃ。日本のIPは、どの会社が、どう組んで、お金を生んでいるのか。「製作委員会」や版権の仕組みを、やさしく説明した入門書です。今回の「なぜディズニーに及ばないのか」の背景を、一歩深く知りたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で259.7万回読まれた質問「世界級のIPを持つ日本人の売上が、なぜディズニーに及ばないのか」。賛同のいちばん多い回答(4,703)は、「ずるい比べ方も、昔ながらの得意技だ」と皮肉った
- ディズニーの2025会計年度の売上は944億ドル(1ドル=150円で約14兆円)で、集英社(2,097億円・2023年5月期)の約68倍、東映アニメ(936億円)の約150倍。ただし、ディズニーはテーマパークの利益だけで約100億ドルあり、日本は権利と売上が、複数の会社に分かれている
- 「マンガの書店で33.1%増」(回答2)は、二次資料では、専門店の数字(書店など本の経路は4.6%増)。集英社の最新の売上高と、「NARUTOの視聴時間」は、確かめられなかった
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