中国人「私たちが欲しいのは、ただ一つの謝罪と、心からの反省だけだ」

中国の質問サイト「知乎」に、2016年からこんな質問が立っている。「日本政府はなぜ、第二次大戦の罪をはっきり謝罪しないのか」。閲覧は756万回、回答は957件。最も支持された回答には5万8,031の賛同が集まっている。このサイトで扱った中で、けた違いに多い数字だ。

日本では「政府は何度も謝罪してきた」と考える人が多い。中国では「日本は謝っていない」と考える人が多い。同じ出来事について、なぜここまで受け止めが違うのか。回答を読むと、中国の人が求めているものの輪郭が見えてくる。

元投稿

質問:日本官方为何不就二战罪行明确道歉?
(日本政府はなぜ、第二次大戦の罪をはっきり謝罪しないのか)
知乎/2016年12月13日/フォロワー4,235・閲覧7,560,201回・回答957件
→ https://www.zhihu.com/question/53591945

不道歉是因为成本过高对日不利,还是因为道歉无利可图,道歉与否无区别?

謝らないのは、代償が大きすぎて日本に不利だからか。それとも謝っても得るものがなく、謝っても謝らなくても同じだからか。

回答者:半夏生(大阪大学で言語文化学の修士課程を修了)
投稿日:2019年2月4日
賛同58,031・コメント5,047(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

回答は、日本に留学していた回答者と、親しい日本人の友人との会話で進む。論文を直してくれ、家に招いてくれ、政治の話も遠慮なくできる相手だった。あるとき回答者は、なぜ謝らないのかと尋ねた。

身为中国人,其实我们想要的只是一个道歉。只是真诚的反省。中国是最擅长遗忘最愿意去原谅的民族,但是我们需要一个原谅的理由。

中国人として、私たちが欲しいのは、ただ一つの謝罪だけだ。心からの反省だけだ。中国は忘れることにも、許すことにも長けた民族だ。でも、許すための理由が要る。

友人はしばらく黙り、こう答えたという。

可能我们要急着往前走,从废墟里建设我们的国家,我们没有时间回顾以前的事情……我们都觉得,中国和韩国为什么要纠结过去不放?

たぶん私たちは、先を急がなければならなかった。焼け跡から国を建て直すのに必死で、昔のことを振り返る時間がなかった。……みんな、中国や韓国はどうして過去にこだわり続けるのだろう、と思っている。

回答者は続けて、戦争がいつ始まったかを尋ねた。日本でも有数の大学の学生で、歴史の試験では満点を取ったこともある友人は、「1942年? いや、もっと前、1939年くらい?」と答えた。教科書で日中戦争が占めるのは「半ページ、1ページもない。試験にも出ない」とも話したという。回答はこう結ばれる。

这或许是因为,他们的学校,让他们不记得自己曾做过,而他们的政府,让他们不认为自己做错了。

それはおそらく、学校が彼らに自分たちのしたことを覚えさせず、政府が彼らに自分たちが間違っていたと思わせないからだ。

回答者は、日本の書店で撮ったという写真も載せている。「日本の侵略を受けた国々が日本に感謝している」とする本が、ベストセラーとして平積みされている、という指摘だ。

日本の書店に並ぶ本の写真
回答者が「日本の書店で撮った」とする写真。帯には「シリーズ15万部突破のベストセラー!」とある(出典:知乎の回答)

ほかの回答

雅木茶(2018年10月19日・賛同5,848・コメント301)
→ 回答ページ

米国の歴史家ジョン・ダワーの『敗北を抱きしめて』をもとに、占領期に理由を求めた長い回答だ。

在日本,应该反思战争的至少有两方,战争发起者:天皇和右派,战争参与者:日军和民众。而因为美军的介入,日本的这两方都没有形成反省意识,成为了棘手的历史创伤。

日本で戦争を反省すべきだったのは、少なくとも二者いる。戦争を始めた者、つまり天皇と右派。戦争に加わった者、つまり日本軍と民衆だ。だがアメリカの介入によって、どちらにも反省の意識が育たず、厄介な歴史の傷になった。

回答者は、冷戦の中で米国が日本の保守層を必要とし、戦犯容疑者の多くを釈放したことを挙げる。その一人が、のちに首相となる岸信介だ。国の過ちが「一握りの戦犯の過ち」にすり替わり、戦犯が裁かれれば日本は無実になった、と人々が受け止めた、と論じている。

降伏文書の調印とマッカーサーと昭和天皇の写真
回答に貼られていた写真。左は1945年9月、戦艦ミズーリ艦上での降伏文書の調印(中国代表の署名)、右はマッカーサーと昭和天皇(出典:知乎の回答)

Hao Wang(2018年10月22日・賛同3,395・コメント242)
→ 回答ページ

因为日本对二战的认知和我们很不一样。日本主流意识中的二战是从偷袭珍珠港开始的。

日本の第二次大戦の認識が、私たちとまったく違うからだ。日本の主流の意識では、第二次大戦は真珠湾攻撃から始まる。

回答者は東京の靖国神社にある展示施設「遊就館」を訪れ、展示の7割が日米戦争だった、盧溝橋事件や上海の戦いの展示は見つからなかった、と書いている。

裏取り

確認できたこと

日本政府は、言葉のうえでは何度も反省とお詫びを表明している。外務省は「歴史問題Q&A」で、先の大戦への「痛切な反省」と「心からのお詫びの気持ち」は戦後の歴代内閣が一貫して持ち続けてきたもので、村山談話(1995年)、小泉談話(2005年)で表明し、2015年の安倍談話でも引き継ぐと明言した、と説明している(外務省)。

日本側のデータ

日本政府が中国・アジアに向けて示してきた主な表明

1972年 日中共同声明戦争で中国国民に重大な損害を与えた責任を「痛感し、深く反省する」
1995年 村山談話「痛切な反省」と「心からのお詫び」を表明
2005年 小泉談話村山談話の反省とお詫びを引き継ぐ
2015年 安倍談話歴代内閣の立場を引き継ぐ。一方で「私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」
外務省の見解(南京事件)「非戦闘員の殺害や略奪行為等があったことは否定できない」。被害者数は諸説あり認定は困難

出典:外務省「日中共同声明」/外務省「歴史問題Q&A」

「日本の学生は世界史中心」も、制度のうえでは裏付けがある。1994年度に高校に入った生徒から、必修になったのは世界史で、日本史は選択科目だった。理系の生徒などは、高校で日本史を学ばずに卒業できた。日本史と世界史の近現代をまとめて学ぶ「歴史総合」が全員必修になったのは、2022年度からだ(東洋経済オンライン)。回答の友人の世代は、日中戦争の経緯を高校で体系的に学ばなかった可能性が十分にある。

岸信介の件も事実だ。岸は敗戦後にA級戦犯容疑者として巣鴨拘置所に約3年収監されたが、1948年12月、不起訴のまま釈放された。米国の占領政策が冷戦を背景に転換していた時期で、岸は1957年に首相になった(文春オンライン)。

事実と違ったこと

「初版で15万部売れた」は、写真の帯と合わない。回答者は、書店の本が「初版だけで15万部売れた」と書いている。だが写真に写る帯の文字は「シリーズ15万部突破」で、1冊の初版の部数ではない。本は井上和彦『日本が戦ってくれて感謝しています』(産経NF文庫)だ(楽天ブックス)。

「遊就館には盧溝橋事件の展示がない」は疑わしい。國學院大學の神社博物館事典によれば、遊就館の展示は四つのゾーンに分かれ、その一つが「日清・日露戦争と支那事変」だ(國學院大學 神社博物館事典)。「支那事変」は日本側の当時の呼び名で、盧溝橋事件から始まる日中戦争を指す。展示の比重が日米戦争に偏っているという印象は別として、日中戦争がまったく扱われていないわけではない。

「教科書で日中戦争は半ページ」は確認できなかった。教科書は出版社や科目ごとに違い、一律には言えない。

日本視点

日本側から見れば、「謝罪していない」は事実と違う。政府は1972年から繰り返し、反省とお詫びを文書で示してきた。それでも、756万回読まれた質問の答えとして5万8,000人が支持したのは「謝っていない」という感覚のほうだった。

このずれを解く手がかりは、回答者の言葉の中にある。回答者が問題にしているのは、首相の談話の文言ではない。目の前の優しい日本人の友人が、戦争がいつ始まったかを知らないことだ。謝罪は、何をしたかを覚えている人がして初めて意味を持つ。中国の人が「謝っていない」と言うとき、それは「覚えていない」という意味を含んでいる。

2015年の安倍談話も、この受け止めに影響している。談話は歴代内閣の反省とお詫びを引き継ぐとしつつ、「子や孫……に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と述べた。日本では「区切り」と報じられたこの談話に、中国外交部は同じ日、「被害を受けた国の人々に誠実に謝罪すべきだ」と求めた。(CNN/ダイヤモンド・オンライン)。同じ文書が、読む側によって正反対の意味を持った。

そして、日本の制度の側にも理由がある。1994年度から2021年度まで、高校では日本史を学ばずに卒業できた。回答の友人は、特別に無関心だったのではなく、制度どおりに育った一人だった可能性が高い。2022年度から「歴史総合」が必修になったことで、この点は変わり始めている。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:日本の若い世代の多くは、日中戦争の経緯を高校で体系的に学ばずにきた。1994〜2021年度は日本史が選択科目だった。
  • 当たっている:冷戦の中で、岸信介のようなA級戦犯容疑者が不起訴で釈放され、のちに首相になった。
  • ずれている:「日本政府は謝罪していない」。政府は1972年の日中共同声明から、反省とお詫びを繰り返し表明している。
  • ずれている:「初版15万部」は「シリーズ15万部」。遊就館にも日中戦争(支那事変)の展示ゾーンがある。

日本人にとっての学びはこうだ。中国の人が求めているのは、謝罪の言葉の回数ではない。日本人一人ひとりが、何があったかを覚えていることだ。

関連書籍

回答が下敷きにした、占領期の日本人を描いたピュリツァー賞受賞作です。戦後の日本人が戦争をどう受け止めたのかを、日本側の資料から追えます。

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まとめ

  • 知乎で756万回読まれた「日本政府はなぜ戦争の罪をはっきり謝罪しないのか」に、中国人が「欲しいのは一つの謝罪と、心からの反省だけ」と答え、5万8,031の賛同を集めた
  • 日本政府は1972年の日中共同声明から、村山・小泉・安倍の各談話まで、反省とお詫びを繰り返し表明してきた
  • それでも「謝っていない」と受け止められる背景には、日本人が戦争の経緯を学ぶ機会の少なさがある。高校の日本史は2021年度まで選択科目だった

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