日本では「日本のアニメは中国でも大人気」と語られることが多い。ところが中国の質問サイト「知乎」には、2025年4月にこんな質問が立った。「なぜ今の日本のアニメは、中国の若者市場を征服できないのか」。閲覧は263万回、回答は816件にのぼる。
回答の多くは、昔の日本アニメと今を比べる形で書かれている。好きだったからこそ、言葉は厳しい。2番目に支持された回答は、わずか4行で「何が変わったのか」を言い切った。
元投稿
質問:为什么日本现在的动画征服不了中国的年轻人市场?
(なぜ今の日本のアニメは、中国の若者市場を征服できないのか)
知乎/2025年4月19日/フォロワー1,053・閲覧2,635,407回・回答816件
→ https://www.zhihu.com/question/1897054381775499766
回答者:四体
投稿日:2025年7月16日
賛同1,716・コメント75
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哭哭啼啼,没有出息。
还有就是滤镜碎了。
二十年前路飞跟你说,我要做海上最自由的人。
现在,自由是tm一种血统。
めそめそ泣いてばかりで、情けない。
それに、フィルターが割れた。
20年前、ルフィは言った。「おれは海で一番自由な男になる」と。
今じゃ、自由ってのはクソみたいな血筋の話だ。
『ONE PIECE』の終盤で、ルフィの力や一族の「血」に物語の大きな意味が与えられたことを指している。自分の意志で自由をつかむ話だと思っていたのに、生まれで決まる話になった、という失望だ。「フィルターが割れた」は、日本への憧れが冷めたことを言う中国のネットの言い回しだ。
回答者:打左向右
投稿日:2025年8月19日
賛同1,845・コメント458(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
现在流行躺平。区别在于日本的年轻人是真躺了,而中国的年轻人顶多算是蛰伏待机,瞅准时机还是要翻身奴隶做主人的。
いまは「寝そべり」が流行っている。違いは、日本の若者は本当に寝そべってしまったが、中国の若者はせいぜい身を潜めて機をうかがっているだけで、チャンスがあれば奴隷から主人へ這い上がるつもりでいることだ。
「寝そべり(躺平)」は、競争をやめて最低限の暮らしで満足する生き方を指す中国の流行語だ。回答者は、中国のアニメが「努力」「運命は自分で決める」といった大きな物語を描くのに対し、日本のアニメは人間の暗い面ばかりを見るようになった、と続ける。
如果说过去日漫的主题在于爱与勇气,那么现在日漫展示出来的就是躺平后所产生的纯粹的恶。
かつての日本のアニメのテーマが愛と勇気だったとすれば、今の日本のアニメが見せているのは、寝そべったあとに生まれる純粋な悪だ。
この回答は業界の懐事情にも踏み込む。ジブリの新人アニメーターの月給は20万円で「東京でどう暮らせというのか」と書き、2023年のジブリは赤字だったとしている。証拠として貼られていたのが、次の画像だ。

ほかの回答
斩风花无迹(2025年8月24日・賛同1,421・コメント661)
→ 回答ページ
这不是再正常不过了吗,假如现在的日漫还能受到追捧,那才是邪了门呢!
当たり前じゃないか。今の日本のアニメがまだもてはやされていたら、そっちのほうがおかしい。
回答者は、怪獣や異形のものが出てくる昔の漫画の絵を何十枚も並べ、「昔はこの水準だった」と懐かしむ。そして今の人気作として『呪術廻戦』の名前を挙げ、「これで誰を征服するんだ。むしろ自分が征服できそうだ」と書いた。
裏取り
確認できたこと
日本のアニメ産業が海外頼みになっているのは本当だ。日本動画協会の集計では、2024年のアニメ産業市場は3兆8,407億円で過去最高。このうち海外が2兆1,702億円で、全体の半分を超える(日本動画協会)。回答が言う「海外の売上が国内を上回った」は、数字のうえでも正しい。
アニメーターの収入が低い層があるのも本当だ。日本アニメーター・演出協会の2023年の調査では、制作者全体の平均年収は455.5万円で、会社員全体の平均とほぼ同じだった。ただし工程による差が大きく、新人が多い「動画」の担当は平均263.2万円だった(日本アニメーター・演出協会)。
事実と違ったこと
「2023年のジブリは赤字」は誤り。官報に載った決算では、スタジオジブリの純利益は2023年3月期が34億3,000万円、2024年3月期が49億700万円で、いずれも黒字だった(官報決算データベース)。
「ジブリのアニメーターは月20万円」は、新人の基本給の話だ。貼られていた画像は2021年の新人の初任給の一覧で、業界全体や中堅の給料ではない。出どころも海外の掲示板の転載で、各社の公式な数字は確認できなかった。
「2006年の市場2,415億円がピーク」は確認できなかった。どの統計の数字かが示されていない。日本動画協会の広い意味での市場規模は、2024年が過去最高だ。
日本視点
回答者たちの失望は本物だ。ただ、「中国の若者市場を征服できない」という前提は、映画館の数字とは合わない。
中国で公開された日本映画の興行収入
| 1位 | 『すずめの戸締まり』(2023年) |
| 2位 | 『君たちはどう生きるか』(2024年) |
| 3位 | 『君の名は。』(2016年) |
| 4位 | 『鬼滅の刃 無限城編 第一章』(2025年・約6億7,700万元=約150億円) |
上位4本はすべて日本のアニメ映画で、うち3本はこの3年以内の作品だ。中国で最も稼いだ日本映画の記録は、ここ数年で塗り替えられ続けている。『鬼滅の刃 無限城編』は日中関係が冷え込んだ2025年秋の公開で、上映は28日間で終わった(予定どおりの終了と報じられている)。それでも歴代4位に入った。
つまり、中国の若者は日本のアニメを見なくなったのではない。劇場に足を運ぶほどの大作は今も見ている。知乎の回答が嘆いているのは、毎期大量に作られるテレビアニメの「中身」のほうだ。「異世界転生」や続編ばかりで、昔のような希望の物語がない、という不満である。
これは日本のファンの間でもよく聞かれる声だ。違うのは、中国の回答がそれを日本社会そのものの「寝そべり」、つまり国の勢いの衰えと結びつけて語っていることだ。アニメの中身の変化を、国の盛衰として読む。そこに、いまの中国の若者の自己像が映っている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:日本のアニメ産業は海外の売上が国内を上回り、市場の半分以上を占める。
- 当たっている:アニメーターには収入の低い層がいる。新人が多い工程の平均は年263万円。
- ずれている:ジブリは2023年も黒字。月20万円は新人の初任給の話。
- 見えていない:中国で最も稼いだ日本映画の上位は、ここ数年のアニメ映画が占めている。
日本人にとっての学びはこうだ。中国の若者は日本のアニメを捨てたのではない。20年前に受け取った「愛と勇気」を、今の日本のアニメに見つけられなくなっている。
アニメがどう作られ、お金がどこに流れるのかを図解した業界入門書です。回答が問題にした「制作現場の懐事情」を日本側から確かめられます。
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まとめ
- 知乎で263万回読まれた「なぜ今の日本アニメは中国の若者を征服できないのか」という質問に、中国人が「20年前、ルフィは自由を語った。今、自由は血筋だ」と答えた
- 最多賛同の回答は、日本アニメが「愛と勇気」から「寝そべったあとの悪」に変わったと批判した。ただし「ジブリは赤字」は誤りだった
- 中国の日本映画の興行収入上位は、ここ数年のアニメ映画が占めている。失望されているのは、アニメそのものより中身の変化だ

