日本語の「アイドル」と中国語の「偶像」は、同じ字で、同じものを指していない。中国の質問サイト「知乎」に2018年1月、こんな質問が立った。「日本のアイドル(アイドルグループ)と中国の偶像は、どこが違うのか」。閲覧は11万2,000回、回答は39件。
上位の回答は、握手券、恋愛禁止、給料制を挙げ、日本のアイドルを「ファンが金を出さなければ消える職業」と描いた。その後、中国ではアイドルを育てる番組が禁止され、日本ではジャニーズが社名を変えた。8年後の答え合わせをする。
元投稿
質問:日本偶像(及偶像团体)和中国偶像的区别在哪?
(日本のアイドル(およびアイドルグループ)と中国のアイドルの違いはどこにあるのか?)
知乎/2018年1月/フォロワー118・閲覧112,379回・回答39件(2026年9月29日に確認)
→ https://www.zhihu.com/question/264879016

最多賛同の回答「日本のアイドルは夢を売る。そして給料をもらう会社員だ」
回答者:匿名ユーザー
投稿日:2018年1月1日(3月9日に更新)
賛同260・コメント37(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
偶像贩卖的是梦想,会有自己的人设,而且日本肖像权特别严格,要买到自家爱豆的照片只能买官方的烧普、场限,还有和经纪公司签约的生写公司出的生写
アイドルが売るのは夢で、それぞれにキャラクター設定がある。日本は肖像権が厳しく、推しの写真は公式の写真か、会場限定品か、事務所と契約した会社の生写真を買うしかない。
不准恋爱不准骑摩托车 ……hey!say!jump的龙太郎因为未成年抽烟,直接被无限期雪藏,然后退社了,(所以不是很懂国内那些吸毒的还能堂皇继续做明星的那些…)
恋愛も、バイクも禁止だ。Hey! Say! JUMPの龍太郎は、未成年で喫煙して無期限の活動停止になり、事務所を去った。「だから、薬物をやったのに堂々とスターを続ける中国の連中が、私には分からない」と回答者は書く。個人のSNSも禁止だ、とも書いている。
所以j家的偶像也是每月领钱的工薪族而已,(和国内那些拍一部电影拿拿几百万的明星完全不一样。)所以喜欢就要给自家爱豆花钱啊!比如买烧普就等于是给他打钱啊!!
だからジャニーズのアイドルは、毎月給料をもらう会社員にすぎない。好きなら推しに金を使え。公式写真を買うのは、その人に金を渡すことだ。CDもチケットもグッズも買って初めて、事務所は本人に仕事を回す。だから日本のファン界は「ただ乗り」を嫌う、と回答者は言う。
別の回答「中国の偶像は、資本にやさしすぎる」
回答者:大兄弟Jesse
投稿日:2018年1月6日
賛同62・コメント7
→ 回答ページ
资本对中国偶像太友好了,并且中国偶像包含了演员歌手主持等。。。一律被视为明星。不像日本是个单独的一种职业。你让中国小鲜肉去干日本偶像的那些事,他们绝对嗤之以鼻
資本は中国の偶像にやさしすぎる。しかも中国では、俳優も歌手も司会者も一律に「スター」で、日本のような独立した職業ではない。若手のイケメン俳優(小鮮肉)に日本のアイドルがやっていることをやれと言っても、鼻で笑うだろう。
別の回答「アイドルは職業。偶像は崇拝の対象。熊と猫ぐらい違う」
回答者:常瑾明
投稿日:2018年1月6日
賛同31
→ 回答ページ
日本的“アイドル”虽然翻译为偶像,但是是一个具体的职业,并不是一类统称。
日本の「アイドル」は偶像と訳されるが、具体的な一つの職業であって、憧れの対象を広く指す言葉ではない。中国語の「偶像」は、歌手でも文学者でも優れた労働者でも、崇拝される人ならなんでも指す。だから不祥事が起きると、中国の感覚の人は「普通の人」として弁護し、職業の意味を知る人は職業の常識で判断する。中国の偶像という職業は、日本の48系が広まってから育ち始めた、と回答者は見る(それ以前の偶像は大半が歌手だった)。
记住什么专辑CD只是用来装握手券的,是真爱请まとめ而不是“买张cd回去听听歌好不好”这种奇怪的行为。
覚えておけ。CDは握手券を入れるための箱にすぎない。本当に好きならまとめ買いをするものだ。「1枚買って歌を聴いてみよう」なんて妙な真似はしない。
所以虽然都叫偶像,但是除了这几年按照日本48模式运作的国内团体制外,我觉得还是把中文的“偶像”和アイドル分开理解比较好,就像熊猫和花猫一样,一个是熊,一个是猫。是完全不一样的事物
だから同じ「偶像」と呼んでも、ここ数年、日本の48(AKB48)方式で運営している中国のグループを除けば、中国語の「偶像」と日本のアイドルは分けて理解したほうがいい。パンダと猫のように、一つは熊で、一つは猫。まったく別のものだ。
裏取り
確認できたこと
「CDは握手券の入れ物」は、数字にはっきり出ている。オリコンの2017年の年間シングルランキングでは、1位から4位までをAKB48が占め、1位「願いごとの持ち腐れ」は139.2万枚だった。回答の直前の年の数字だ(ORICON NEWS)。同年10月には、AKB48の総選挙の投票券が目当てで買ったCD585枚を山中に捨てた会社員が、廃棄物処理法違反の疑いで逮捕された(マネーポストWEB)。

「ジャニーズは個人のSNSを持てない」は、当時は事実だった。ジャニーズ事務所(当時)のグループが初めてSNSでの発信を解禁したのは2019年11月3日、嵐のデビュー20周年のときだ(文春オンライン)。
龍太郎の話は、おおむね合っている。森本龍太郎は2011年6月、15歳のときの喫煙写真が週刊誌に載り、無期限の活動休止になった。同年11月には事務所の公式サイトのHey! Say! JUMPのページからプロフィールが消えた(ウィキペディア)。ただし「退社」の発表は公式にはなく、本人は「君はもういないよ」と事務所に言われたと語っている。
「恋愛禁止」は契約に実在し、裁判所も認めた。だが無条件ではなかった。2015年9月、東京地裁は、異性と交際した17歳の元メンバーに65万円の支払いを命じた。デビューは2013年7月で、3か月後の10月に解散していた(日本経済新聞)。ところが2016年1月、別の東京地裁の判決は賠償請求を退け、賠償は悪意のある場合などに限る見方を示した(骨董通り法律事務所のコラム)。
違ったこと
「中国の偶像の職業は、48が広まってから始まった」は、少なくとも2018年の大きな波には当てはまらない。回答の直後の2018年1月19日、動画サイトiQiyi(愛奇芸)が『偶像練習生』を始めた。視聴者の投票で9人を選ぶ、中国初の男性アイドルグループ育成番組とされる(中国語版ウィキペディア)。韓国のMnetは1月下旬、この番組が自局の『PRODUCE 101』と設定や仕組みに多くの共通点があるとして、制作には関与していないと声明を出した(Soompi)。波の型は48方式ではなく、韓国の育成方式だった。
確かめられなかったこと
次の点は、公式の資料も信頼できる報道も見つからなかった。公式写真は「1枚20円しか会社が取らない」、TOKIOのサインを事務所が取り戻した話、「アイドルはバイクに乗れない」、「映画の前売券は使われなくても累計の興行収入に入る」。
8年後の答え合わせ
中国では、アイドルを育てる番組そのものが禁止された。2021年5月4日、北京市広播電視局はiQiyiに『青春有你』第3シーズンの収録停止を命じた。投票用のQRコードが付いた乳飲料を大量に買い、中身を捨てるファンの動画が広まっていた(新華網)。8月27日には中国のネット管理当局が、ファン界隈の取り締まり10項目でスター個人・グループのランキングの廃止を求めた(新華網)。
決定打は9月2日、国家ラジオ・テレビ総局の通知(広電弁発〔2021〕267号)だった。放送局と動画サイトは「偶像養成類節目」(アイドルを育てる番組)を放送してはならない。場外の投票や、金を払って票を入れさせることも禁じ、「娘炮」(女性的な男性)を「ゆがんだ美意識」として排除するとも書いた(中国政府網)。

番組がなくなっても、職業は消えなかった。テンセントは2023年、『創造営』をタイで録画する形で復活させた(騰訊新聞)。もう一つは日本式の逆輸入だ。2025年3月の報道では、中国の「地下アイドル」(小さな劇場で活動するグループ)の新グループが、2023年に91、2024年に174生まれ、活動中は250組を超えた。稼ぎは公演後の「特典会」で、50〜100元(約1,200〜2,400円)の券を買うと、アイドルと2分話して写真を撮れる。ただしファンの総数は増えていないという(新周刊/36氪/新浪科技)。
日本では、握手券商法の看板が下りた。AKB48の総選挙は2018年の第10回が最後で、2019年は開催見送りが発表された。NGT48メンバーの暴行被害事件が影を落としたと報じられた(Real Sound)。私が確認した範囲では、その後も開かれていない。
ジャニーズは、2023年8月の調査報告書が創業者の性加害を認定し(ORICON NEWS)、10月に「SMILE-UP.」へ社名を変えた。マネジメントは新会社「STARTO ENTERTAINMENT」が引き継いだ(Musicman)。
皮肉にも、日本にも韓国方式が入った。2019年、吉本興業が韓国のCJ ENMと組み、日本版『PRODUCE 101 JAPAN』を始めた(モデルプレス)。『偶像練習生』と同じ型で、ここから2020年にJO1、2021年にINIが生まれた(吉本興業)。矢野経済研究所によれば、2024年度の日本のアイドル市場は前年度比23.7%増。韓国式の育成を取り入れたグループが伸びたためだという(矢野経済研究所)。
日本のアイドルの数字(2017年と2025年)
| 2017年の年間シングル1位 | 139.2万枚 AKB48「願いごとの持ち腐れ」 |
| AKB48選抜総選挙 | 2018年の第10回が最後 |
| 2025年の年間シングル1位 | 97.5万枚 Snow Man「SERIOUS」 |
| アイドル市場(2024年度) | 前年度比 +23.7% |
日本視点
この3人が描いた「ファンが金で支える職業」という姿には、当たっているところが多い。2025年になっても、日本の音楽市場(3,988億円)のうちCDが1,686億円で、約4割を占める(日本レコード協会)。
一方で、8年で動いたものも大きい。握手券商法の看板だった総選挙は、2018年を最後に開かれていない。2017年の年間1位は139.2万枚で、100万枚超えが6作あったが、2025年の1位は97.5万枚だ。AKB48は2025年も52作連続で1位を取ったが(ORICON NEWS)、初週は37.2万枚だった。
中国語圏の読者が驚くのは、次の点かもしれない。「個人のSNSは持てない」と描かれたジャニーズの掟は、名前ごと変わった。日本のアイドルは、この8年で大きく動いた業界だった。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:CDは握手券の「入れ物」で、複数買いされる。恋愛禁止は契約に実在し、賠償を命じた判決もある。
- ずれている:「48方式が中国の偶像を作った」。2018年の波の型は韓国の育成方式だった。
- 時代が変わった:個人SNS禁止(2019年に解禁)、総選挙(2018年が最後)、ジャニーズの名前(2023年に消えた)。
日本人にとっての学びはこうだ。中国語の「偶像」は憧れて崇める人、日本の「アイドル」はファンが金を出して支える職業だ。8年のあいだに、中国は「支える金」の流れを法令で止め、日本は職業の中身を書き換えた。日本人が当たり前だと思う「推す」消費は、隣の国から見ると、法令で止めるほど強い仕組みに見えた。
回答が「ファンが金を出して支える職業」と描いた日本のアイドルを、「推す」ファンの側から論じた新書です。
※本欄には楽天アフィリエイトのリンクを含みます(広告)
まとめ
- 知乎で11万回読まれた質問で、上位の回答は日本のアイドルを「ファンの金で食べる職業」と描き、中国の偶像とは「パンダと猫」ほど別物だと言った
- CDが握手券の入れ物である点、恋愛禁止が契約にある点は確認できた。だが「中国の偶像は48方式から始まった」は、韓国方式の『偶像練習生』(2018年)とずれていた
- 8年後、中国は2021年に偶像を育てる番組を禁じ、日本は総選挙をやめ、ジャニーズは名を変えた。日本のアイドル市場は、韓国式の育成へ寄りながら伸びている
→ 関連記事:アニメ・ゲーム・エンタメ 中国人「20年前、ルフィは『海で一番自由な男になる』と言った。今、自由は血筋だ」 中国人「90年代の日本のドラマが映していたのは、2010年代の中国だった。20年ずれていた」

