中国人「90年代の日本のドラマが映していたのは、2010年代の中国だった。20年ずれていた」

中国の質問サイト「知乎」で約300万回読まれた質問がある。「なぜ日本のドラマは、中国で韓国ドラマほど人気がないのか」。2020年3月に立ち、回答は985件。

いちばん支持された回答は、ドラマの出来ではなく「社会の時差」で説明した。日本の社会は中国より一時代先を走っていて、日本のドラマはその時代を映す。だから中国人には、20年遅れでしか分からない、と。

元投稿

質問:为什么日剧在国内的热度比不上韩剧?
(なぜ日本のドラマは、国内〔中国〕での人気が韓国ドラマに及ばないのか)
知乎/2020年3月2日/フォロワー2,435・閲覧2,983,439回・回答985件
→ https://www.zhihu.com/question/376202804

いちばん支持された回答「日本のドラマは、20年先の中国を映していた」

回答者:齐家
投稿日:2020年3月6日
賛同4,770・コメント771(この質問でいちばん多い)
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其实自打韩国电视剧开始涌入国内后(2000年上下开始),韩剧的热度一直高于日剧。我觉得很重要的原因是,日本的社会发展其实要比中韩两国快一个时代,而日剧是紧跟本国社会潮流的,因此日剧很难在广义层面上赢得中国老百姓的喜爱。

韓国ドラマが国内に入ってきた2000年前後から、韓国ドラマの人気はずっと日本のドラマより上だった。大きな理由は、日本の社会の発展が中国や韓国より一時代早く、日本のドラマはその自国の社会の流れにぴったりついていくことだと思う。だから日本のドラマは、中国の一般の人に広く好かれるのが難しい。

例に挙げたのが、1991年の『東京ラブストーリー』だ。

比如东京爱情故事,其实本质上是一个东漂的故事,一个乡下年轻人来到东京,在迷茫期谈了一次恋爱,这个恋爱失败了。90年代的中国人看东京爱情故事,更多是看日本的帅哥美女,发达城市。我们把丸子和莉香爱情的失败归结于丸子的懦弱。

たとえば『東京ラブストーリー』は、本当は「東京に流れてきた若者」の話だ。地方の若者が東京に出てきて、迷っている時期に恋をして、その恋に破れる。90年代の中国人がこのドラマで見ていたのは、日本の美男美女と、発展した都会だった。私たちは、完治(カンチ)とリカの恋が終わったのを、完治が弱かったせいだと思っていた。

回答者によれば、見落としていたのは、地方と都会の価値観のぶつかり合いと、故郷を離れた若者が大都会で抱く心細さだ。完治が同郷のさとみを選んだのは、さとみのほうが安心できたからで、リカの速さについていけなかったからだという。

这种感受,是当今中国90后才能深刻体会的东西,当时的中国人并不能很好的理解。90年代中国不是没有北漂,但不占据主流文化。换句话说,90年代的日本拍的电视剧,反应的是2010以后的中国。差了20年。

この感覚は、いまの中国の90年代生まれにして、やっと深く分かるものだ。当時の中国人には、よく分からなかった。90年代の中国にも「北漂」(地方から北京に出てきて働く若者)はいたが、主流の文化ではなかった。言い換えれば、90年代に日本が撮ったドラマは、2010年代以降の中国を映していた。20年ずれていたのだ。

そして、いまの日本のドラマが扱うのは、人と人のつながりが切れた「無縁社会」、同性愛、社畜、結婚しない生き方だと続ける。中国ではまだ深刻でないか、主流の価値観にはじかれるか、話題にしにくいものばかりだ(「前にあった996〔朝9時から夜9時、週6日の働き方〕の話題も、すぐに消えた」)。だから日本のドラマは「文化の壁が高い」。韓国ドラマは早くから純粋な恋愛ものが中心で、いまはサスペンスや頭を使う要素でテンポよく見せ、その壁がないという。

この回答には「日本を持ち上げすぎだ」という反発が集まったらしい。回答者は冒頭に追記している。

原来你们觉得无缘社会,不婚主义,社畜这些东西算是日本发达的表现啊?社会层面的快,不代表好。但你不能否认,我国确实也在往无缘社会(三和大神,北漂),老龄化社会这个方向发展,难道不是日本社会比我们快一步的证明?

無縁社会や、結婚しない主義や、社畜が「日本が発達している証拠」だと思ったの?社会が早く進むことは、良いことと同じではない。でも、わが国もたしかに無縁社会(深圳の日雇い労働者「三和大神」や、北京の「北漂」)や高齢化社会に向かっている。日本の社会が一歩先を行っている証拠じゃないのか。

2024年の回答「日本の芸能界は、海外市場をまったく気にしていない」

回答者:Kalamara(自己紹介は「金融の会社員」)
投稿日:2024年12月9日
賛同939・コメント218
→ 回答ページ

日娱是极致地不在乎海外市场,主打一个自娱自乐,影视剧和音乐相当本土化。而韩娱则是另一个极致,它就是靠海外市场生存的,是专业研究过你的心趴的。

日本の芸能界は、海外市場をとことん気にしない。自分たちで楽しむのが主眼で、ドラマも音楽もかなり国内向けだ。韓国の芸能界は反対の極で、海外市場で生きている。あなたの心のツボを、専門に研究してきたのだ。

回答者は、日本のドラマの作り方を「漫画のような顔芸、舞台のような感情の爆発、説教と励まし」とまとめ、俳優の撮り方にも触れる。中国のドラマなら、美形の俳優はしわ一本見せないよう角度も照明も選ぶ。ところが日本の監督は、堺雅人の端正な顔を、ネットで何度も使われる「顔芸の画像」にしてしまった。日本の視聴者は、それをかえって喜ぶ、と。

理由は市場の大きさだという。日本は世界2位の音楽市場で、国内の客を喜ばせるだけで十分に稼げる。韓国は国内市場が小さく、外に出なければ食べていけない。

日本的国民天团Arashi堪称tfboys+周杰伦+快乐家族,但他们直到2019-2020才开通了油管、ins、tt。几个成员端着手机,皱着眉头研究怎么给自家官方频道点关注,整个一花甲老人发微信的即视感。

日本の国民的グループ嵐は、中国でいえばTFBOYSと周杰倫(ジェイ・チョウ)と『快楽大本営』の司会陣を合わせたような存在だ。それが2019〜2020年になって、やっとYouTube、Instagram、TikTokを始めた。メンバーがスマホを手に、眉をひそめて自分たちの公式チャンネルのフォローの仕方を研究している姿は、まるで還暦の老人が初めて微信(ウィーチャット)を使っているようだった。

最後はこう結んでいる。

不过普适性强了,特征势必减弱。如果一种饭要求迎合世界人民的口味,它就只能是快餐,而不能是带有强烈地域特色的家乡菜。

ただ、誰にでも合うようにすれば、個性はどうしても薄まる。世界中の人の口に合わせようとした料理は、ファストフードにしかなれない。土地の味が濃い、故郷の料理にはなれないのだ。

韓国ドラマのファン「日本のドラマの上下関係は、見ていて息苦しい」

回答者:斯嘉丽聊电影(知乎の「新知答主」。映画の書き手)
投稿日:2024年12月20日
賛同42・コメント10
→ 回答ページ

この回答者は、子どものころは日本のドラマのほうがファンが多かったと振り返る。中学を卒業するとき、同級生の家に集まって『東京ラブストーリー』を見た。ほとんどの同級生が赤名リカを好きだった。ところが大学に入ったころ、『秋の童話』や『冬のソナタ』が来て、アジアを席巻した。

比如我每次看到日剧中压抑的上下级和同事之间的关系,就觉得浑身难受。这种出现在韩剧里,一定是对现实的批判,但是出现在日剧里,日剧粉丝会教育你,这就是分寸感。

日本のドラマで、上司と部下や同僚の息苦しい関係を見るたびに、体じゅうが落ち着かなくなる。同じものが韓国ドラマに出てくれば、それは必ず現実への批判だ。でも日本のドラマに出てくると、日本ドラマのファンが「それが距離感というものだ」と教えてくる。

例に出したのは、どちらもNetflixで配信されたデスゲームものだ。『イカゲーム』は世界中で話題になったが、日本の『今際の国のアリス』は「一部の熱心なファンを生んだだけ」。回答者自身もアリスを見始めたが、「日本独特の文化の空気が息苦しくて」最終話までたどり着けなかったという。

裏取り

確認できたこと

『東京ラブストーリー』の筋は、回答のとおりだ。1991年1〜3月にフジテレビの月曜9時枠で放送され、愛媛から上京した永尾完治、帰国子女の同僚・赤名リカ、完治が高校時代から思いを寄せていた同郷の関口さとみの話だ。最終回の視聴率は32.3%だった(Wikipedia)。

嵐のSNS開設も、ほぼそのとおりだ。2019年10月9日にYouTubeチャンネルを開き、11月3日にTwitter、Facebook、Instagram、TikTok、そして中国の微博(ウェイボー)の5つを同時に開設した(BuzzFeed/ORICON NEWS)。回答は「2019〜2020年」と書くが、実際は2019年に集中している。

「日本は世界2位の音楽市場」も正しい。国際レコード産業連盟(IFPI)の最新の報告では、2025年の録音音楽の市場は1位アメリカ、2位日本、3位イギリス、4位中国の順だった(IFPI)。東方神起の日本デビューも、回答のとおり2005年(4月27日の「Stay With Me Tonight」)だ(Wikipedia)。

「日本社会は一時代先」は、高齢化の数字で見るとおおむね当たっている。65歳以上が人口の14%を超えた年は、日本が1994年(内閣府『高齢社会白書』)、中国が2021年(14.2%、中国国家統計局)。差は27年で、回答の「20年」より少し長い。

事実と違ったこと

BLACKPINKは「デビューから英語の歌」ではない。2016年8月のデビュー作「WHISTLE」「BOOMBAYAH」は、英語のフレーズを混ぜた韓国語の歌だ(Wikipedia)。

『今際の国のアリス』は「一部のファンだけ」ではなかった。2022年12月に配信されたシーズン2は、Netflixの週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で1位になり、90か国でTOP10に入った。日本発のNetflix作品として、世界で最も見られた作品になった(Netflix)。ただ、規模では『イカゲーム』に及ばない。イカゲームは配信から4週間で1億4,200万世帯が見た(ITmedia)。

回答がどれも触れていないことがある。中国では2016年、韓国の迎撃ミサイルTHAAD配備への対抗として、韓国の芸能人やドラマを締め出す「限韓令」が始まった。その後、韓国ドラマは中国の配信サイトから大きく減った(Wikipedia)。質問が立った2020年は、韓国ドラマが公式にはほとんど流れていない時期だった。それでも「韓国ドラマのほうが人気」と感じられていたこと自体が、韓国ドラマの強さを示している。

4年後の答え合わせ

日本の放送コンテンツ海外輸出額のジャンル別の棒グラフ。ドラマは2022年度36.9億円、2023年度40.1億円、2024年度105.6億円。アニメは658.0億円、741.2億円、951.8億円
日本の放送番組の海外輸出額(ジャンル別)。ドラマ(橙)は2024年度に2.6倍になった(出典:総務省「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析(2024年度)」)

Kalamaraの「日本は海外市場を気にしない」には、答え合わせがある。総務省によると、日本の放送番組の海外輸出額は2024年度に1,147億円。そのうちドラマは105.6億円で、前の年(40.1億円)の2.6倍になった。増えた分の多くは、特定の地域ではなく「全世界」向けの販売だ(総務省)。

日本側のデータ

日本の放送番組の海外輸出額(ドラマとアニメ)

ドラマ 2022年度36.9億円
ドラマ 2023年度40.1億円
ドラマ 2024年度105.6億円(うち「全世界」向け55.4億円、東アジア向け15.7億円)
アニメ 2024年度951.8億円
全体 2024年度1,147億円

出典:総務省「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析(2024年度)」

2024年度に海外販売された主な放送コンテンツの一覧。ドラマはグランメゾン東京、日本一の最低男、ホットスポット、東京サラダボウルなど
2024年度に海外に売れた主な番組。ドラマの欄に7本が並ぶ(出典:総務省 16ページ)

それでも、輸出の8割以上はアニメ(951.8億円)で、ドラマは1割に届かない。東アジア向けのドラマは15.7億円だった(総務省)。日本のドラマは世界の配信に乗り始めたが、「アジアで韓国ドラマと並ぶ」にはまだ遠い。

日本視点

日本では「日本のドラマはなぜ海外で売れないのか」を、作り手の内向きや、ネット配信への出遅れで語ることが多い。Kalamaraの回答は、その日本側の説明とほぼ同じだ。

目を引くのは、いちばん支持された齐家の回答のほうだ。日本のドラマを「中国の20年後を映す鏡」として読んでいる。90年代の中国人は『東京ラブストーリー』に都会の華やかさを見たが、いまの中国の若者は、故郷を離れて大都市で働く心細さのほうに共感する。日本のドラマの人気が低いのは、中身が遠いからではなく、中国がまだそこに着いていなかったからだ、という見方だ。

この見方は、日本の読者にとっても示唆がある。日本のドラマの「地味さ」は、中国では「先に来る未来」として読まれうる。無縁社会も、結婚しない生き方も、高齢化も、中国はいま日本の後を追っている。回答から6年、日本のドラマが中国でどう見られるかは、ドラマの側より中国社会の側で変わっていくのかもしれない。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:『東京ラブストーリー』の筋、嵐のSNS開設(2019年)、日本が世界2位の音楽市場、東方神起の日本デビュー(2005年)。
  • 当たっている:「日本社会は一時代先」。65歳以上が14%を超えたのは日本1994年、中国2021年で、27年の差。
  • ずれている:BLACKPINKのデビュー曲は英語ではなく韓国語。『今際の国のアリス』は非英語シリーズで世界1位になっていた。
  • 見えていない:2016年からの「限韓令」で、韓国ドラマは中国で公式にはほとんど流れていなかった。
  • 変わり始めた:日本のドラマの輸出は2024年度に2.6倍(105.6億円)。ただしアニメの1割程度。

日本人にとっての学びはこうだ。中国人は日本のドラマを「中国の20年後の社会」を映したものとして読み、その地味さや息苦しさを、自分たちがまだ着いていない未来として受け止めている。

関連書籍

齐家が「東京に流れてきた若者の話」と読み直した『東京ラブストーリー』の原作漫画です。愛媛から上京した完治、帰国子女のリカ、同郷のさとみ。90年代の東京で揺れる三人を、ドラマより先に描いた作品です。

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まとめ

  • 知乎で約300万回読まれた「なぜ日本のドラマは中国で韓国ドラマほど人気がないのか」。いちばん支持された回答は「90年代の日本のドラマは、2010年代の中国を映していた。20年ずれていた」と書いた
  • 2024年の回答は「日本の芸能界は海外市場を気にしない」と書き、韓国ドラマのファンは「日本のドラマの上下関係は息苦しい」と書いた。ただ『今際の国のアリス』は非英語シリーズで世界1位になっていた
  • 回答が触れない「限韓令」で、韓国ドラマは2016年から中国で公式にはほとんど流れていない。日本のドラマの輸出は2024年度に2.6倍になったが、まだアニメの1割程度だ

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