中国人「70、80歳になっても食べるために働く。それのどこが高福祉なのか」

日本を訪れた中国人がよく驚くことの一つが、タクシーの運転手や警備員、清掃員に高齢者が多いことだ。中国の質問サイト「知乎」には、2021年からこんな質問が立っている。「日本は高福祉の国なのに、なぜ高齢者がまだ働きに出るのか」。閲覧は301万回、回答は551件にのぼる。

中国では、日本は「年金も医療も手厚い先進国」と見られることが多い。だから、お年寄りが働く姿は謎に映る。最も支持を集めた回答は、その「高福祉」という前提そのものを皮肉った。

元投稿

質問:日本是高福利国家为什么老年人还要出去上班?
(日本は高福祉の国なのに、なぜ高齢者がまだ働きに出るのか)
知乎/2021年12月25日/フォロワー971・閲覧3,015,663回・回答551件
→ https://www.zhihu.com/question/508321665

回答者:李昀
投稿日:2024年11月30日
賛同2,570・コメント683(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

这下面已经不吹高福利了。开始跟国内70岁农民比惨了。

この質問の下では、もう高福祉を自慢する人はいない。代わりに、中国の70歳の農民と比べて「どっちがつらいか」を競い始めた。

回答欄には「日本の高齢者は働いてもまだ中国の高齢の農民より稼げている」という声が並んでいた。回答者はそれに呆れて、こう続ける。

一个人均gdp快4万美元的国家。七八十岁的老头不能退休,还得干活才能活。……高福利就是七八十还得为了吃口饭去工作呗?那你发达了个啥,高福利在哪?在嘴上吗?

一人当たりGDPが4万ドル近い国で、70、80歳の老人が引退できず、働かないと生きていけない。……高福祉とは、70、80歳になっても食べるために働くことなのか。それで何が先進国だ。高福祉はどこにある?口先だけか?

ほかの回答

逸之(2024年10月25日・賛同1,180・コメント533)
→ 回答ページ

首先纠正提问,日本从来就不是一个高福利的国家,普通老百姓相反被高税多税压的喘不过气。日本的高福利仅仅只是和周边国家相比而言。

まず質問を正しておきたい。日本はもともと高福祉の国ではない。普通の庶民は、むしろ高い税と多くの税に押しつぶされそうになっている。日本の高福祉は、周りの国と比べての話にすぎない。

この回答者は、日本に住む中国人とみられる。理由として挙げたのは、年金を払ってこなかった人たちだ。「昔の日本は国民年金を払うかどうか選べた。70歳まで生きないと思って払わなかった人が、長生きして働かざるをえなくなった」。例に出したのが隣に住む84歳の女性だ。

她说她年轻时和她老公喜欢旅游爬山,两人工作一段时间,存够一定的钱就会辞职去旅游……所以一直没交国民年金,现在她老公病了……只好每天出去工作。

若いころ夫婦で旅行や山登りが好きで、しばらく働いてお金が貯まると仕事を辞めて旅に出ていた。……だから国民年金をずっと払っていなかった。いまは夫が病気で……毎日働きに出るしかない。

女性は近所では「年を取りすぎている」と断られ、友人が営む介護施設まで毎日往復2時間かけて通っているという。回答者はもう一つ、ひきこもりの子を抱えた親が、年金があっても子のために働き続ける例も挙げている。

烈阳(2026年3月2日・賛同625・コメント122)
→ 回答ページ

西欧・北欧、オーストラリア・ニュージーランド、カナダの制度と日本を一つずつ比べた長い回答だ。日本の年金は若いころに保険料を払った分しか返ってこない仕組みで、「若いころ働かなかった日本人は、老後の年金がゼロだ」と説明する。そのうえで、日本がオーストラリア並みの最低保障年金を配れない理由をこう書いた。

日本的核心问题不是金额低,而是人数太多,澳洲给 500 万人发钱,日本要给 3600 万人发钱……日本现在是每 1 个老人大约由 2 个在职人口支撑。而澳洲是接近 4 个在职人口在支撑 1 个老人。

日本の核心の問題は、金額が低いことではなく、人数が多すぎることだ。オーストラリアは500万人に配ればいいが、日本は3,600万人に配らなければならない。……日本はいま、高齢者1人をおよそ2人の働き手が支えている。オーストラリアは4人近くで1人を支えている。

裏取り

確認できたこと

日本の高齢者が働いているのは本当で、しかも増え続けている。総務省の推計では、65歳以上で働く人は2025年に943万人。22年連続で増えて過去最多になり、働く人全体の7人に1人を占める(日本経済新聞)。

日本側のデータ

高齢者の就業率(2025年・総務省推計)

65〜69歳54.5%
70〜74歳36.2%
75歳以上12.6%
65歳以上で働く人943万人(22年連続で増加)

出典:日本経済新聞(総務省推計・2026年9月)

65〜69歳は半分以上が働いている。70代前半でも3人に1人を超える。いずれも過去最高だ。

年金の額も、回答の数字とおおむね合う。厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2023年度)では、会社員だった人が受け取る厚生年金の平均は男性で月16万6,606円、女性で月10万7,200円。自営業などで国民年金だけの人は、男性で月5万9,965円、女性で月5万5,777円だ(イオン銀行による同資料のまとめ)。烈阳が書いた「普通の会社員で月14万〜18万円」は、男女を合わせて見ればおおむね合っている。国民年金だけの人は、月6万円前後で暮らすことになる。

「昔は国民年金を払うか選べた」は、一部の人については本当だ。国民年金は1961年に始まったが、会社員の妻(専業主婦)は1986年3月まで、学生は1991年3月まで加入が任意だった(厚生労働省「公的年金制度の歩み」)。この時期に払わなかった人は、いまも受け取る年金が少ない。

事実と違ったこと

「一人当たりGDPが4万ドル近い」は、いまの日本には当てはまらない。内閣府の集計では、2024年の日本の一人当たり名目GDPは3万3,785ドルで、OECD加盟国の中で24位だった。比べられる1994年以降で最も低い順位だ(日本経済新聞)。円安の影響が大きい。

「日本の子育て手当は子ども1人に月1.5万円」は、3歳未満だけの話だ。児童手当は2024年10月に拡充され、3歳未満は月1万5,000円、3歳から高校生までは月1万円、第3子以降は月3万円になった。所得制限もなくなった(政府広報オンライン)。

日本視点

中国の回答は、ほぼそろって「働かないと食べていけないからだ」と答えている。半分は当たっている。内閣府の2024年度の調査で、働いている理由を聞くと「収入のため」が5割を超えて最も多かった。

ただ、それだけではない。65歳以上に限ると、「働くのは体によいから、老化を防ぐから」と答えた人が3割近くいて、若い世代より多い。(内閣府「令和7年版高齢社会白書」)。お金のためと、体と頭を動かすためが、同じ人の中に同居している。中国の回答には、この後者がほとんど出てこない。

国も働き続けることを前提に制度を組んでいる。2021年4月から、企業には70歳まで働ける場を用意する努力義務が課された(厚生労働省)。「高福祉なのに働く」のではなく、少子高齢化の中で、働けるうちは働いてもらうことが福祉の設計に組み込まれているのが、いまの日本だ。

そしてこれは、中国にとっても他人事ではない。中国は2025年1月から、15年かけて定年を引き上げ始めた。男性は60歳から63歳へ、女性は50歳(管理職は55歳)から55歳(同58歳)へ(労働政策研究・研修機構)。烈阳が書いた「支え手の数」の問題は、日本の後を追う中国でも、同じ形で始まっている。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:日本の高齢者が働く最大の理由はお金。「収入のため」は5割を超える。
  • 当たっている:日本の年金は払った分しか返らない保険の仕組みで、国民年金だけの人は月6万円前後。専業主婦や学生が任意加入だった時代もある。
  • ずれている:一人当たりGDPは4万ドル近くない(2024年は3万3,785ドル)。子育て手当の1.5万円は3歳未満だけ。
  • 見えていない:65歳以上の3割近くは「体によいから」働いている。国も70歳まで働ける仕組みを企業に求めている。

日本人にとっての学びはこうだ。日本人は「高齢者が働く国」を元気さの表れと見る。中国の人は、同じ姿を年金の貧しさの表れと見る。どちらも半分ずつ正しい。

関連書籍

定年後に働く人たちの仕事と収入を、統計データから描いた一冊です。「なぜ働くのか」を日本側の数字で確かめられます。

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まとめ

  • 知乎で301万回読まれた「高福祉の日本で、なぜ高齢者が働くのか」という質問に、中国人が「70、80歳でも食べるために働く。それのどこが高福祉だ」と答え、2,570の賛同を集めた
  • 日本の65歳以上で働く人は943万人と過去最多。国民年金だけの人は平均で月5万〜6万円ほどで、「収入のため」が働く理由の5割を超える
  • 一方で65歳以上の3割近くは「体によいから」働いている。中国も2025年から定年の引き上げを始めた

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