中国の質問サイト「知乎」に、2025年7月5日の未明、午前0時過ぎに立った質問がある。「日本の気象庁が『地震の予言』を否定し、デマだと述べた。いま日本の各方面の様子はどうか。この噂は日本にどんな影響を与えたか」。閲覧は86万回、回答は173件。いちばん賛同の多い回答は、日本人が4時過ぎに起きて、緊急地震速報のライブ配信を見ている様子を、面白がって伝えた。ほかの回答は、「何日に来ると言う人は神棍(ペテン師)」「日本は、噂のなかでも通常どおり」と書いた。
予言の出どころと、気象庁の見解、訪日客への影響、南海トラフ地震の「30年以内にほぼ100%」という数字を、報道・観光局の統計・政府の地震調査委員会で答え合わせした。
元投稿
質問:日本气象厅驳斥“地震预言”,称其为骗局,目前日本各方面状况如何?传言对日本有哪些影响?(日本の気象庁が「地震の予言」を否定し、デマだと述べた。いま日本の各方面の様子はどうか。この噂は日本にどんな影響を与えたか)
補足:「この不実の噂に対し、日本政府と専門家は、ネットの情報に科学的根拠はないとして、冷静に見るよう呼びかけた」(要旨)
知乎/2025年7月5日/フォロワー428・閲覧859,877回・回答173件
→ https://www.zhihu.com/question/1924739602696071014
回答1「日本人はひどく怯えて、4時過ぎに起きてライブ配信を見ていた」
回答者:spikenail(プロフィールの表示「吉林大学 法律硕士」)
投稿日:2025年7月5日
賛同644・コメント171
→ 回答ページ
给日本人吓够呛,凌晨4点多钟爬起来,到视频网站上看日本全国地震紧急速报的直播,最高时24万人同时在线。
日本人はすっかり怯えて、午前4時過ぎに起きて、動画サイトで日本全国の緊急地震速報のライブ配信を見た。ピーク時は24万人が同時に視聴した。
看着日本人做着各式各样的准备,还是很有意思的。
日本人が、いろいろな準備をしているのを見るのは、やはり面白い。
回答者は、SNSの投稿のスクリーンショットを並べて、非常用リュックに本や猫の携帯ケースを詰める人、水と食料を積む買い物かごを紹介する。「勉強熱心すぎる」「いつでも猫を連れて逃げられるように」と、軽い調子だ。最後は「でも、みんなもう知っているとおり、必ず起きるはずだったこの地震は、実は、名もない英雄とその友人たちが阻止した」と、冗談で締める。

回答2「日本は、ふだんどおり。影響は観光業に出た」
回答者:等风(プロフィールの表示「新知答主」)
投稿日:2025年7月5日
賛同176・コメント22
→ 回答ページ
除了个别在网上整活的,以及很小部分信这玩意的人以外,日本目前一切正常,该咋过咋过。
ネットで悪ふざけをしている人と、ごく一部の信じている人を除けば、日本はいま全く正常で、いつもどおりに暮らしている。
Xの日本のトレンドにも、この漫画の予言は出ていなかった、と書く。影響は主に観光業だ。地震の評価については、気象庁は、ほぼ毎年、災害の評価を出して住民に注意を呼びかけるが、中国の「流量重視」のメディアが、それを「大地震が迫っている」と煽る。中国の地震局の年次の会商(評価会議)と同じものだが、中国は結果を公表せず、日本は公表するので、自媒体に脚色される、という見方だ。日本の備えとして、①J-SHIS(地震ハザード情報)と、J-RISQ(リアルタイムの被害推定)、②NHKなどの防災番組、③避難所の整備、を挙げる。
回答3「30年以内にほぼ100%。だが、何日と言う人は神棍だ」
回答者:超级地球真理部(プロフィールの表示「航空工程师」)
投稿日:2025年7月5日
賛同211・コメント47
→ 回答ページ
日本未来30年发生南海海槽地震的概率为接近100%,因为这是地质周期决定的
日本が今後30年以内に南海トラフ地震に見舞われる確率は、ほぼ100%だ。地質の周期が決めているからだ。
但是哪个人声称精确到哪一天会震,他/她大概率就是个神棍
ただし、何日に起きると正確に言う人は、たぶん神棍(ペテン師)だ。
たとえは「吹き続けられている風船」。いつ破裂するかを、ミリ秒単位で言える人はいない。南海トラフは、ばねのようなものだ。プレートが押し続けて、ひずみが限界に達すれば、はね返る(地震になる)。歴史上の南海トラフ地震は、エネルギーの蓄積と解放をくり返し、周期性が強い。中国は、整個日本列島が防波堤になるので、津波を心配しなくてよい、とも書く。結びは、「防災の備えは軽視できない。現地の人々と政府は、意識を高めて準備を」。
裏取り
確認できたこと
予言は実在し、その日は何も起きなかった。漫画家たつき諒さんの書籍『私が見た未来』をきっかけに、「2025年7月5日午前4時18分に大災害が起こる」という噂が広がったが、その時刻は何事もなく過ぎ、SNSでは安堵の声が広がった。気象庁は繰り返し「7月5日大地震説」を否定していた(J-CASTニュース)。
回答2の「影響は観光業」は、統計に出た。日本政府観光局(JNTO)の推計では、2025年7月の訪日外国人は343万7,000人(前年同月比4.4%増)で、7月として過去最高。そのなかで、「7月に日本で大地震」という噂がSNSで拡散された香港は17万6,000人で、36.9%減、韓国も大幅に減った(nippon.com)。
違った・古かったこと
回答3の「南海トラフ地震は30年以内にほぼ100%」は、公式の数字とは違う。政府の地震調査委員会は、南海トラフのM8〜9クラスの30年以内の発生確率を、2013年1月時点の「60〜70%」から、2025年1月に「80%程度」へ引き上げた(地震調査研究推進本部)。さらに2025年9月の一部改訂で、「60〜90%程度以上」と、幅を持たせた表記になった。別の計算方法による「20〜50%」も併記された(北海道新聞の社説)。「ほぼ100%」ではないが、北海道新聞の社説は、どちらの数字も、リスクのランクでは最上位の「高い」で、「いつ起きてもおかしくない状況に変わりはない」と書いている。
回答2の「J-RISQは、気象庁と防災科研の共同開発」は、正確ではない。J-RISQ(リアルタイム地震被害推定システム)は、防災科学技術研究所(防災科研)が開発を進めたもので、2013年10月に「J-RISQ地震速報」を公開した(防災科研 プレス発表)。
見落とされがちなこと
3つの回答は、どれも「予言は笑い話だが、南海トラフ地震自体は本物」という線で、きれいに揃っている。回答1は準備する日本人を面白がり、回答2は、日本の公開する評価が中国で煽られる、と見て、回答3は、日付を言う人を神棍と呼ぶ。中国の人は、予言そのものを信じていないが、「日本人が備える姿」には、感心と親しみを持って見ている、と読める。
確かめられなかったこと
回答1の「ライブ配信のピークは24万人同時視聴」は、確かめられなかった(添付の画面には「21万人が視聴中」と出ている)。回答1の「必ず起きるはずだった地震を、名もない英雄が阻止した」は冗談で、検証の対象ではない。回答3の「ばねのたとえ」「周期性が強い」は、一般的な説明の範囲だ。回答2の「中国の地震局の会商結果は公表されない」も、今回は確かめなかった。
この質問の答え合わせに使った事実
| 予言の日時 | 「2025年7月5日午前4時18分」に大災害、という噂。当日は何事もなく過ぎた |
| 訪日客(2025年7月・JNTO推計) | 全体 343万7,000人(4.4%増・7月として過去最高)/香港 17万6,000人(36.9%減) |
| 南海トラフの30年以内の発生確率(M8〜9) | 2013年 60〜70% → 2025年1月 80%程度 → 2025年9月 60〜90%程度以上(別の計算方法の20〜50%も併記) |
| J-RISQ(リアルタイム被害推定) | 防災科研が開発。2013年10月に地震速報を公開 |
日本視点
この質問は、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人は、日本の予言騒ぎを「面白がって見る」一方で、日本人の備えの習慣には、感心を持っている。回答1のスクリーンショットに並んだ、非常用リュックや猫の携帯ケースは、日本の人にとってはふだんの備えだが、外から見ると、独特の「日本の姿」に映る。
日本の人にとって、ここは耳が痛い。噂を信じた人は少数でも、それに反応した外国の旅行者は多かった。香港からの訪日客は、7月に3割以上減った。デマは、信じた人の数より、動かした人の数で、実害になる。
そして、予言が外れたことで、備えの理由は消えない。南海トラフ地震の発生確率は、「80%程度」から「60〜90%程度以上」に表記が変わっても、いちばん高いランクのまま。回答3の結びの「防災準備は軽視できない」は、噂とは別に、いまも正しい。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:予言の日に何も起きなかったこと。影響が主に観光業に出たこと(香港36.9%減)。南海トラフ地震は、いつ起きてもおかしくないこと。
- 注意が必要:「30年以内にほぼ100%」は、公式の「80%程度」「60〜90%程度以上」とは違う。J-RISQの開発元は防災科研。
- 確かめられなかった:ライブ配信のピーク(24万人)、中国の地震局の会商結果の公表。
デマが、真実より速く広く伝わる理由を、大規模なデータから明らかにした本です。回答2が指摘した「日本の公表する評価が、自媒体に脚色される」仕組みを、さらに知りたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で86万回読まれた「日本の気象庁が地震の予言を否定した。日本はいまどうか」。賛同の多い回答は、4時過ぎにライブ配信を見て備える日本人を面白がり、別の回答は「日本は通常どおり」「何日と言う人は神棍」と書いた
- 裏取りでは、予言の日時(2025年7月5日午前4時18分)は何事もなく過ぎ、7月の訪日客は全体で過去最高の343万7,000人なのに、香港は36.9%減った。南海トラフの30年以内の確率は「ほぼ100%」ではなく、「80%程度」「60〜90%程度以上」
- 「ライブ配信のピーク24万人」は確かめられなかった。中国の人は、予言を信じず、日本人の備えを感心して見ている
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