中国人「日光を歩いて最初に感じるのは、人が少ないことだ。2〜3泊すると、話すのも歩くのも考えるのも、半拍遅くなる」

中国の質問サイト「知乎」に、2011年2月に立った質問がある。「日本へ旅行に行くなら、一度は行く価値のある場所は、どこか」。閲覧は185万回、回答は403件。回答は、2011年、2016年、2023年と、10年以上にわたって書き足されている。いちばん賛同の多い回答(2016年)は、東京から2時間の日光と鬼怒川、八ヶ岳、修善寺を「人が少ない」と薦め、2023年の回答は、初めての人向けに、到着する空港ごとに25の行き先を挙げた。

この質問の10年を、日光の人口、日本の「市」の数、瀬戸内国際芸術祭の来場者、そして、訪日中国人の数の変化で答え合わせした。

元投稿

質問:去日本旅游的话,都有哪些值得一去的地方?(日本へ旅行に行くなら、一度は行く価値のある場所は、どこか)
補足:なし(続きの質問「京都自助游」へのリンクのみ)
知乎/2011年2月18日/フォロワー16,241・閲覧1,845,442回・回答403件
→ https://www.zhihu.com/question/19563664

回答1「日光を歩いて最初に感じるのは、人が少ないこと」(2016年)

回答者:Feekr君
投稿日:2016年5月4日
賛同3,084・コメント114
→ 回答ページ

走在日光的第一感觉就是:人少。

日光を歩いて最初に感じるのは、人が少ないことだ。

この回答は、旅行メディアの運営者が書いたもので、東京から1〜2時間の4か所を紹介する。日光は、中国人観光客がほとんどいない。日本人が心のなかで「日本の光」と呼び、「日光を見ずして結構と言うなかれ」ということわざがある、と書く。中禅寺湖のほとりの小さな喫茶店、旅行団のにぎやかさも、自撮り棒も、買い物袋の客もいない静けさ。鬼怒川は、貴族の専用だった温泉場が、いまは庶民の温泉街になった。八ヶ岳は家族向け、修善寺は、夏目漱石が胃潰瘍で倒れた、伊豆の古い温泉地。

在这里住上2-3个晚上以后,会感觉整个人不论是说话、走路、思维好像都开始慢了半拍。

ここに2〜3泊すると、話すことも、歩くことも、考えることも、すべて半拍遅くなる気がしてくる。

日光の苔むした地蔵と、神橋の写真
回答1が添えた日光の写真。左:苔むした地蔵が並ぶ道、右:神橋。知乎 Feekr君の回答より。

回答2「第一回なら、到着する空港を軸に、25か所を選ぶ」(2023年)

回答者:飞行电熨斗(プロフィールの表示「日本旅游等 3 个话题下的优秀答主」)
投稿日:2023年1月3日
賛同324・コメント25
→ 回答ページ

我们经常说,日本是个弹丸小国。

私たちはよく、日本は「弾丸のような小国」だと言う。

続けて、日本の国土は中国の零細な割合にすぎないが、市の数は日本が791で、中国の691より、ちょうど100多い、と指摘する。大阪・京都・奈良・神戸のように、都市同士が車で30分ほどの場所も多い。第1回の旅行におすすめの25か所を、札幌(富良野・小樽・洞爺湖・函館)、東京(仙台・鎌倉・富士山)、名古屋・大阪(奈良・京都・宇治・琵琶湖・姫路・鳥取・金沢)、大阪・岡山(高松と瀬戸内の島々・松山・広島)、福岡(北九州・熊本・阿蘇・別府・鹿児島)と、降りる空港ごとに並べる。

大家尽量不要做那种飞东京要跑到熊本玩的这种事情,虽然坐新干线也就是四个个多小时,但既浪费时间,又浪费钱。

東京に着いて熊本まで遊びに行くような旅は、なるべくしないでほしい。新幹線で4時間ちょっとだが、時間もお金も無駄になる。

小樽運河と、江ノ電の写真
回答2が添えた写真。左:小樽運河、右:鎌倉の江ノ電。知乎 飞行电熨斗の回答より。

回答3「いま帰ってきたところ。四国と瀬戸内の島」(2011年)

回答者:范圈圈(プロフィールの表示「家庭 CEO」)
投稿日:2011年2月19日
賛同81・コメント16
→ 回答ページ

刚刚回来!

いま帰ってきたところ!

愛媛県では、松山の道後温泉(『千と千尋の神隠し』の湯屋のモデル)、内子・大洲・宇和島の江戸から明治の街並み、今治から来島大橋を自転車や徒歩で渡る瀬戸内の景色。香川県では、自然と芸術が融合する直島(安藤忠雄の建築群)、金刀比羅宮、丸亀の猪熊弦一郎美術館と骨付鳥。兵庫県では、神戸の三宮から海辺の大きな市場、安藤忠雄の建築が集まる神戸・姫路を挙げる。

裏取り

確認できたこと

回答2の「日本の市は791、中国は691」は、ほぼ合う。日本の市の数は、2018年10月1日の那珂川市の誕生で792になった(総務省)。回答2の791は、その1つ前の数字だ。中国の691は、2021年末の数字として知られる(日本の「市」と中国の「城市」は定義が違うので、単純には比べられない)。

回答3・回答2の「直島、瀬戸内の島々」は、その後、人気が爆発した。3年に1度の瀬戸内国際芸術祭は、2025年の第6回(3会期・計107日間)の延べ来場者が約108万人で、直島が最多の33万8,459人。国外からの来場者は全体の約23%で、国・地域別の1位は台湾。香川県内の経済波及効果は195億円で、2022年の103億円から増えた(訪日ラボ)。

回答1の「鬼怒川は、貴族の温泉場だった」は、資料と合う。鬼怒川温泉は、300年以上前の1691年に源泉が発見されたといわれ、明治初期までは僧侶と大名しか入れなかった(FUN! JAPAN)。

違った・古かったこと

回答1の日光の人口の数字は、合わない。回答1は「1985年に22万人だった日光の人口が、2005年に16.3万人に減った」と書くが、日光市の人口は、1955年の11万2,940人がピークで、1995年は9万9,988人(日光市の資料)(日光市)。国勢調査では、2020年は7万7,661人(住民基本台帳では2025年1月1日現在7万5,281人)。人口が減っている、という点は当たりだが、数字は、回答の約半分だ。

そして、「日光は中国人が少ない」は、10年で、まったく別の意味を持つようになった。訪日中国人は、2016年に初めて600万人台(約637万人)(トラベルボイス)、2019年に959万4,300人(トラベルボイス)と増えたあと、2023年は約243万人(訪日ラボ)。2025年は909万6,455人(前年比30.3%増)で、2019年の水準には戻っていない(訪日ラボ)。ところが、2026年8月は41万8,000人で、前年同月比59.0%減。nippon.comは、2025年11月の首相の台湾有事発言が尾を引き、中国政府の訪日自粛の呼びかけが続いている、と伝えている(nippon.com)。

訪日中国人の年間人数。2011年104万、2016年637万、2019年959万、2023年243万、2024年698万、2025年910万の棒グラフ
訪日中国人の年間人数(万人)。出典:日本政府観光局(JNTO)の統計(2025年は推計値)。2026年は8月が前年同月比59.0%減。

見落とされがちなこと

この質問の10年は、「中国人が何を薦めるか」の変化でもある。2011年は、まだ「日本へ行く」こと自体が珍しく、安藤忠雄や道後温泉を探すような個人旅行の記録が中心だった。2016年は「有名どころではない場所」で人の少なさを楽しむ。2023年は、行き先が多すぎて迷う人向けに、「到着する空港を軸に、遠くへ行きすぎない」ための整理になった。薦めるものが、「発見」から「選び方」へ、少しずつ変わっている。

確かめられなかったこと

回答1の「日光を見ずして結構と言うなかれ」は、日本人にとっての名言は、今回、日本側の資料では確かめなかった。回答2の「25か所は、日本を初めて訪れる人に最適」は、書き手の選択で、検証できる種類の話ではない。回答3の「道後温泉が『千と千尋』の湯屋のモデル」は、一般にそう言われるが、制作側の公式の説明は確かめなかった。

日本側のデータ

この質問の答え合わせに使った事実

日本の市の数(2018年10月1日〜)792(市)/町743/村183
日光市の人口1955年 11万2,940人(ピーク)→ 1995年 9万9,988人 → 2020年 7万7,661人
瀬戸内国際芸術祭2025延べ 約108万人/直島 33万8,459人/国外 約23%/経済波及効果 195億円
訪日中国人(年間)2016年 約637万人/2019年 959万4,300人/2023年 約243万人/2025年 909万6,455人
訪日中国人(2026年8月)41万8,000人(前年同月比 59.0%減)

出典:総務省・日光市・訪日ラボ・訪日ラボ・トラベルボイス・nippon.com

日本視点

この質問は、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人は、日本の旅行を「有名な場所を回る」から「人が少ない場所を探す」へ、さらに「選び方」へと、10年かけて変えてきた。回答1の「日光は人が少ない」は、2016年の中国人にとっては褒め言葉だった。

日本の人にとって、ここは耳が痛いかもしれない。「人が少ない」ことは、旅行者にとっては魅力でも、住む人にとっては、人口が減っている、という同じ事実の裏側だ。日光市の人口は、1955年のピークから約3割減っている。

そして、訪日中国人は、2019年の959万人を、2025年も下回ったまま、2026年にはさらに6割近く減っている。10年前に「穴場」として薦められた場所が、いまは、中国からの客が減ったことで、本当の意味で静かになっている。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:日本の市の数(792)。鬼怒川が貴族の温泉場だったこと。瀬戸内の島々の人気。日光の人口が減っていること。
  • 注意が必要:日光の人口の数字は、回答の約半分。「中国人が少ない」は、2016年と2026年で意味が違う。
  • 確かめられなかった:「日光を見ずして…」の言い回し、『千と千尋』のモデルの公式の説明。
関連書籍

中国人観光客を迎える事業者に向けて、旅行の傾向と受け入れの考え方を、マーケティングの面から解説した本です。回答1〜3が挙げた行き先に、中国の人がどんな視点で向かうのかを、日本側の事業者の立場から知りたい人に向いています。

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まとめ

  • 知乎で185万回読まれた「日本へ旅行に行くなら、一度は行く価値のある場所は?」。2016年の賛同の多い回答は、日光・鬼怒川・八ヶ岳・修善寺を「人が少ない」と薦め、2023年の回答は、到着する空港ごとの25か所を挙げた
  • 裏取りでは、日本の市の数(792)、瀬戸内国際芸術祭2025の約108万人は合った。日光の人口の数字は合わなかった(ピークは1955年の11万2,940人、2020年は7万7,661人)
  • 訪日中国人は、2019年の959万人、2025年の909万6,455人に対し、2026年8月は41万8,000人で59.0%減。「人が少ない」の意味は、10年で変わった

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