中国人「日本の街にはごみ箱がない。だれもが、ごみを入れるビニール袋を持ち歩く必要がある」

中国の質問サイト「知乎」に、2015年11月から368万回以上読まれている質問がある。「初めて日本に旅行するのは、どんな体験か」。回答は746件。いちばん支持されたのは、14日間で東京・京都・奈良・大阪を回った編集者の写真日記で、賛同は1万2,054だった。

上位3つの回答は、驚いた場所も失敗談もばらばらなのに、そろって同じことを書いていた。街にごみ箱がない。2015〜16年の回答を、11年後の数字で答え合わせした。

元投稿

質問:初次去日本旅行是种怎样的体验?
知乎/2015年11月27日/フォロワー23,755・閲覧3,684,443回・回答746件
→ https://www.zhihu.com/question/37954732

初次去日本旅行是种怎样的体验?

最多賛同の回答「東京が都会なら、大阪は田舎だ」

回答者:牛氷(編集者と本人が書いている)
投稿日:2015年11月27日
賛同12,054(コメント583)
→ 回答ページ

2015年10月末、出張の名目で行った旅で、旅行記を書くことが唯一の「公務」だったという。ビザの滞在は15日以内で、14日間かけて東京から富士山、京都、奈良、大阪を回った。文章のほとんどは、50枚の縦長の画像の中にある。

在日本,尤其东京,街道太过干净,想找垃圾桶,只有便利店才有,且注意分类放置,每个人都需常备一塑料袋放置随身垃圾,秩序性与团体意识太过强大。

日本、とくに東京は、街がきれいすぎる。ごみ箱を探しても、あるのはコンビニだけで、しかも分別して入れなければならない。だれもが、手元のごみを入れるビニール袋を持ち歩く必要がある。秩序と集団意識が強すぎる。

ファミリーマートの看板と、コンビニの前に並ぶびん・缶、ペットボトル、プラスチック類の分別ごみ箱
牛氷が「ごみ箱はコンビニにしかない」と書いたときに載せた写真。びん・缶、ペットボトル、プラスチックの3つに分かれている(出典:知乎の回答(牛氷))

对于大阪最大的印象,便是沿街随处可见的垃圾!这在东京市里从来没有看到过!
……如果说东京是大中城市,大阪就是乡下农村!

大阪でいちばん強く残った印象は、通りのあちこちに見えるごみだ。東京の市街では一度も見なかった。……東京が大中規模の都市なら、大阪は田舎の農村だ。

大阪の歩道に置かれた袋入りのごみや、汚れた路面を写した4枚の写真
牛氷が大阪の街角で撮った4枚。袋に入ったごみが濡れた歩道に置かれている。右下には、ごみを捨てないよう求める黄色い注意書きが見える(出典:知乎の回答(牛氷))

別の回答「朝ごはんの包み紙を持って、午前中ずっとごみ箱を探した」

回答者:池也(プロフィールは「大俗一凡人」)
投稿日:2016年2月27日
賛同1,760(コメント287)
→ 回答ページ

2015年5月25日、卒業論文を書き終えた直後に、一人で15日間・11都市を回った。費用は服や化粧品を除いて約8,000元(約18万9,000円)。この記事で元に添える円は、いまのレート(三菱UFJの9月27日の中値で1人民元あたり約23.6円)で直した。

所以注意收好自己的垃圾,我就这么捧着早餐包装找了一上午垃圾桶。而且住民宿也要小心翼翼将垃圾分类。

だから自分のごみはしまっておくこと。私は朝食の包み紙を手に持ったまま、午前中ずっとごみ箱を探した。民宿でも、ごみは慎重に分別しなければならない。

失敗談はもう一つある。夕方まで大阪で遊んでから奈良に着き、バスを一つ手前で降りて、Googleマップの案内どおりに進むと、明かりのない森に入っていた。

越来越不对劲,但是退也退不出去了,只有月光和偶尔的类似牌位前的灯光,风吹着树叶,行李箱在石子路上太吵我就气喘吁吁提着走,生怕惊动了什么……

だんだんおかしいと気づいたが、もう引き返せない。頼りは月明かりと、位牌のようなものの前にときどき灯る明かりだけ。何かを驚かせてしまうのが怖かった。

我从黑暗中拖着箱子出现的时候,两个管理人员是挽着手打着手电筒在往我这边瞅的……
他们也受到了惊吓……

半時間ほどして観光地の大通りに出ると、管理員の2人がいた。暗闇からスーツケースを引いて現れた池也を、2人は腕を組み、懐中電灯で照らしていた。……彼らも驚いていた。

奈良公園の石灯籠が並ぶ木立と、大きく枝を広げた古木の写真2枚
池也が「昼はきれいでしょう。でも私は一人で、夜だった」と添えた奈良の写真。左は苔むした石灯籠、右はねじれた古木(出典:知乎の回答(池也))

宿でも失敗した。Bookingで毎日の宿を確認していたはずなのに、予約が「あすの夜」になっていた。カウンターで30分ほど頼み込むと、宿の青年がベッドを空け、自分はカウンター裏の小部屋で寝てくれた。

6日間の回答「ごみ箱がないなら、まずカバンに入れる」

回答者:周天真的小宇宙(上海の日系ファッション好き。日本語が話せる)
投稿日:2016年8月31日
賛同3,100(コメント439)
→ 回答ページ

4月15日から20日の6日間、留学中の同級生と回った。準備はほとんどせず、見たことを45項目で書き並べた。そのひとつが、ごみだ。

路上没垃圾桶,只有地铁站和便利店门口有。地铁站的也是有盖子上有小洞的垃圾桶。

道にごみ箱はない。あるのは地下鉄の駅とコンビニの前だけ。駅のごみ箱も、ふたに小さな穴が開いたものだ。(回答者は、家庭ごみを駅に捨てさせないためだろう、日本ではごみを出す日が決まっているから、と推測する。)

如果没有垃圾桶,手里的垃圾没有地方扔,那就先放在包包里。不能破坏大环境的整洁。
而我们不是做不到,是根本意识不到,自身和社会的联系——

ごみ箱がなく、手のごみを捨てる場所がなければ、まずカバンに入れる。大きな環境の清潔さを壊してはいけないからだ。私たちにできないのではない。自分と社会のつながりに、そもそも気づいていないだけだ——。

裏取り

確認できたこと

3人が書いた「ごみ箱の少なさ」は、旅行者への調査にも出る。観光庁が訪日客に聞いた調査で、旅行中に困ったことの1位は3回続けて「ごみ箱の少なさ」だった。2023年11月〜2024年2月は30.1%(4,012件・観光庁)、2024年12月〜2025年1月は21.9%(4,189件・観光庁)、2025年11月〜2026年1月は17.2%(4,110件・観光庁)。減ってはいるが、首位は動いていない。

違ったこと

「東京では、個人の住宅の多くが一戸建てだ」という牛氷の見立ては、東京都全体では逆だ。2023年の住宅・土地統計調査で、東京都の住宅のうち共同住宅は71.6%と全国でいちばん高い。次が沖縄県の60.9%、大阪府の57.4%。全国平均は44.9%だった(総務省統計局)。牛氷が見たのは一部の街並みで、しかも調査は2023年のものだ。

確かめられなかったこと

「大阪のほうが東京よりごみが多い」。都市ごとに比べられる統計は見つからなかった。ただ、大阪市の人口は2020年から2025年の国勢調査速報で5万6,212人増え、280万8,624人になっている(総務省統計局)。牛氷が写したのは濡れた歩道の数か所で、街全体を「田舎」とは言いにくい。

周天真の「店員が、忘れ物は3日で捨てると言った」。落とし物は、法律の建前では警察に届けられ、3か月保管される(警察庁)。その店の実際の運用は分からない。

11年後の答え合わせ

訪日客は2.2倍になり、中国は増えたあと大きく減った。2015年は1,973万7,409人(中国499万3,689人・25.3%)、2025年は4,268万3,301人(中国909万5,931人・21.3%)だった(日本政府観光局)。転機は2025年11月14日。中国の外交部と文化観光部が、日本への渡航を控えるよう呼びかけた(新華社・文化観光部)。中国の12月は前年同月比45.3%減、2026年1〜8月は290万4,600人と、前年同期から56.7%減っている。

ビザの「15日」は、今も同じ枠にある。在中国日本大使館の案内(2026年7月1日付)では、個人観光の一次ビザの滞在は「15日」か「30日」で、大使館が決める(在中国日本大使館)。変わったのは、2023年6月19日に電子ビザが始まったこと(同大使館)。2024年12月に発表された「10年有効の観光数次ビザ」(日本経済新聞)は、この案内ページでは見つけられなかった。

円が安くなったのに、円建ての値段は上がった。人民元の年平均は2015年が1人民元あたり19.44円、2025年が20.82円、いまは約23.6円(世界経済のネタ帳)。池也のJRパスは、家計メモで2,400元(約5万7,000円)。当時の14日券46,390円(JRパス公式ページの保存版)を当時のレートで直すと、ほぼ合う。同じ券がいま80,000円(JRパス公式)で、約3,390元(約8万円)にあたる。

スカイツリーは、日ごとに値段が変わる。牛氷が上った天望デッキは2,060円(本人の切符)。2026年4月から変動制になり、大人1,800円からだ(東京スカイツリー)。

京都は、外国人が一気に増えた。2025年の京都市の観光客は6,279万人で過去最高。うち外国人は1,268万人(参考値)だが、日本人の5,011万人は2015年の5,202万人を下回る(京都市)。2026年3月から宿泊税も上がり、10万円以上の宿泊は1人1泊1万円になった(京都市)。池也の民宿は1泊140元(約3,300円)で、200円の区分だ。

旅の道具も変わった。牛氷と池也が泊まった民宿には、2018年6月15日に住宅宿泊事業法ができ、届出住宅は42,070件になった(観光庁)。周天真が「免税店も特別安くない」と書いた免税は、2026年11月1日から、いったん税込みで払って出国時に返金を受ける方式に変わる(観光庁)。

日本側のデータ

「初めての日本」を測る数字(2015年→今)

訪日外客数(総数)2015年 1,973万人 → 2025年 4,268万人
うち中国2015年 499万人 → 2025年 909万人 → 2026年1〜8月 290万人(前年同期比56.7%減)
JRパス14日券(普通車)46,390円 → 80,000円(2023年10月〜)
旅行中に困ったこと「ごみ箱の少なさ」(観光庁)30.1% → 21.9% → 17.2%(3回とも1位)
京都市の観光客2025年 6,279万人(過去最高・外国人1,268万人)
東京都の共同住宅の割合(2023年)71.6%(全国1位)

出典:JNTO・観光庁・JRパス・京都市・総務省統計局

日本視点

3人が口をそろえた「ごみ箱がない」は、日本人の礼儀だけでなく、設計の結果でもある。街からごみ箱が減った出発点は、1995年の地下鉄サリン事件だった。事件後、危険物を仕掛けられる恐れから駅のごみ箱が撤去された。2004年のマドリード、2005年のロンドンの爆破事件のあとにも、東京メトロや大手私鉄で再び撤去が広がり、コロナ禍以降もセキュリティや衛生を理由に減った(乗りものニュース)。

置けば解決、という話でもない。京都・嵐山では、市が置いた4つのごみ箱があふれて周りが散らかり、2017年に商店街の要望で撤去された。それでも観光客はごみを持ち帰らず、路上に捨て続けたという(関西テレビ)。

この11年、日本は電子ビザや民泊の法整備で、入り口を広げてきた。だが、受け皿は追いついていない。京都は宿泊税を最大1万円にし、観光庁の調査ではごみ箱の少なさが3回続けて最大の困りごとだった。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:街にごみ箱が少ない(観光庁の調査で3回連続1位)。
  • ずれている:「東京は一戸建てが多い」は、東京都全体では共同住宅が71.6%で逆だった。
  • 変わった:訪日客は2.2倍、JRパス14日券は72%の値上がり、京都の宿泊税は最大1万円。中国からの訪日客は2025年に909万人になり、2026年は半分以下に減った。
  • 確かめられなかった:「大阪のほうがごみが多い」「忘れ物は3日で捨てられる」。

日本人にとっての学びはこうだ。初めての日本で中国人が驚いたのは、名所より「ごみ箱がないのに、街にごみが落ちていない」ことだった。当たり前の清潔さは、旅行者にはいちばん先に出会う不便でもある。

関連書籍

3人が書いたのは、中国の人が初めて日本に来て、何に驚き、何に困ったかの記録でした。訪日中国人の意識を、調査をもとに整理した本で読み比べられます。

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まとめ

  • 知乎で368万回以上読まれた「初めての日本旅行」。上位3つの回答は、驚きも失敗談も違うのに、そろって「街にごみ箱がない」と書いた
  • 観光庁の調査では、ごみ箱の少なさは今も訪日客の困りごと1位(30.1%→21.9%→17.2%)。一方、「東京は一戸建てが多い」は逆で、共同住宅が71.6%だった
  • 11年で訪日客は1,974万人から4,268万人へ。中国は909万人まで増えたあと、2026年1〜8月は56.7%減った

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