日本旅行のマナー 中国人の反応「友達の分まで列に並ぶな。日本人は自分の分しか並ばない」

中国の質問サイト「知乎」に、2016年から読まれ続けている質問がある。「日本を旅行するなら、知っておくべき常識は何か」。閲覧は133万回を超えた。

答えているのは中国人だ。日本人が外国人に向けて書くマナー集とは違い、中国人が中国人に「ここが違うから気をつけて」と教えている。何を注意書きにしたかを見ると、中国人の目に日本のどこが「当たり前ではない」と映っているかが分かる。

元投稿

質問:去日本旅游,有哪些必须要知道的常识?
(日本を旅行するなら、知っておくべき常識は何か)
知乎/2016年3月25日/フォロワー5,093・閲覧1,337,269回・回答138件
→ https://www.zhihu.com/question/41774114

質問には「近いうちに日本へ行く。攻略記事をたくさん読んだが、日本の生活習慣は国内とかなり違うようだ。旅行中に気をつけることを教えてほしい」と書き添えられている。

いちばん支持された回答「超主観・日本の使い方」

回答者:1CC(ライフスタイルのメディアを運営)
投稿日:2016年4月2日
賛同1,166・コメント31(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

回答者は冒頭で、これは「郷に入っては郷に従え」を説く文章ではない、と断っている。自分や友人の面倒を一つ減らすための、あくまで主観の手引きだという。そして14項目を、灰色の「NO」カードで並べた。

「NO 路上喫煙」「NO 並ばない」「NO ポイ捨て」などと書かれた灰色のカード6枚
回答に貼られていたカード。左上から「路上喫煙」「並ばない」「ポイ捨て」「横に広がって歩く」「優先席に座る」「線路近くでの写真撮影」。回答者が日本語で作っている(出典:知乎の回答)

2番目の項目が「割り込まない」だ。ただ、回答者が書いたのはそれだけではなかった。

请勿插队。但不仅如此——不要自己插队,也不要为亲朋好友占座位。(因为大部分霓虹人都只是排自己的队。)朋友来了,赶时间,要站到你的位子旁边,先跟你后面的人解释下。

割り込まないこと。それだけではない。自分が割り込まないのはもちろん、友達や家族の分まで場所を取っておくのもやめよう(日本人はたいてい、自分の分しか並ばないから)。友達が来て、急いでいて、あなたの隣に入ってもらうなら、まず後ろの人にひと言説明すること。

ゴミの分別では、決まりの中身より先に、日本人がそれをどう感じているかを説明した。

至于为什么要有这些规则——因为能够提升分拣处理效率,便于资源回收利用。他们并没有觉得麻烦,只是从小习惯了而已。

なぜこんな決まりがあるのか。分別の効率が上がり、資源を回収しやすくなるからだ。彼らは面倒だとは思っていない。子どもの頃から慣れているだけだ。

狭い道で横に広がって歩かない、という項目では、日本人の気持ちの根っこに踏み込んでいる。

这是因为,对大多数日本人来说,「不要给别人添麻烦」这个想法根深蒂固。它也是很多日本人敏感结界的根基。

多くの日本人にとって、「人に迷惑をかけない」という考えは深く根を張っている。それが、多くの日本人の敏感な「結界」の土台にもなっている。

ほかにも、トイレでは便座の上にしゃがまないこと(座るのが嫌なら、ペーパーを敷くか洗浄剤で拭く)、ペーパーは水に溶けるので便器に流すこと、「音姫」は遠慮なく押していいこと、タクシーのドアは自動で開くこと、と具体的だ。人を撮るときの注意は、こう書いた。

他们可能会穿一些你觉得很出风头的衣服,也有男性穿女装或者萝莉装。不要像拍对动物园的猩猩那样对待他们。他们只是选择了自己喜欢的样子出现。

あなたから見て目立ちすぎる服を着ている人もいるし、女装やロリータ服の男性もいる。動物園の猿を撮るような扱いをしてはいけない。彼らは、自分の好きな姿を選んで外に出ているだけだ。

最後の項目は「ゆっくり行こう」。電車の扉やエレベーターが開いても押し合わない。エスカレーターは東京では左に立ち、大阪では右に立つ。大阪が右なのは大阪万博がきっかけだ、と回答は説明している。

日本に20年以上住む中国人ガイドの回答

回答者:中田深雪-郑洁(日本在住20年以上・自由旅行のガイド)
投稿日:2016年3月25日(質問が立った当日)
賛同708・コメント42
→ 回答ページ

关于排队,曾经很多人讲过,这是一个【排队民族】。起初看到这句话不以为意,来到日本之后才真正体会到排队文化的极致之处,只要想在这里生活在任何地方排队是必不可少的,即使2个人也不例外。

並ぶことについては、多くの人が「日本人は行列の民族だ」と言ってきた。最初は聞き流していたが、日本に来て初めて、行列文化の徹底ぶりを身をもって知った。ここで暮らすなら、どこへ行っても並ぶことは避けられない。たとえ2人でも、例外ではない。

グラウンドを蛇行する長い行列を上空から写した写真
回答に「地震の被災地で物資が足りず、給水を待つ人たちの列。ネットで長く出回っている写真」として貼られていた一枚。撮影場所と時期は回答に書かれていない(出典:知乎の回答)

この回答者がいちばん字数を割いたのは、電車で席を譲る話だった。中国では、お年寄りに席を譲るのは強く求められるマナーとされる。その感覚で日本の電車に乗ると、戸惑うことになるという。

在日本让座的行为是非常非常少的,也是不提倡的,通常被让的人会感觉不舒服,让座的人会觉得给别人添麻烦。

日本では、席を譲る行為はとても少なく、勧められてもいない。たいてい、譲られた側は気まずく感じ、譲った側は相手に迷惑をかけたと感じる。

回答者は、先日見た場面を書いている。60歳くらいの夫婦が乗ってきて、夫だけが座れた。近くの人が妻に席を譲ろうと立ち上がると、妻はこう言った。「私はまだ元気ですよ。あなたより若いんじゃないかしら」。立った人はばつが悪そうに「すみません、すぐ降りるので」と答えたという。

優先座席のステッカーとマタニティマークの説明
回答に貼られていた優先座席とマタニティマークの説明(出典:知乎の回答)

車を運転する人に向けては、赤い逆三角形の「止まれ」を説明している。信号のない交差点でも、この標識があればタイヤが完全に止まるまで停車しなければならない。止まったつもりで動いていると、警察に捕まる。

住宅街の交差点に立つ赤い逆三角形の「止まれ」標識
回答に貼られていた「止まれ」の標識(出典:知乎の回答)

高速道路の料金所では、ETCでなければほぼ有人で、係員が「お疲れさまです」と声をかけ、半ばおじぎをしたまま、お釣りを皿に載せて手で押さえて渡す、と書いた。回答者はこう続ける。

刚来到日本的时候,感觉比较有意思的一点是:收费人员是站立式服务。

日本に来たばかりの頃、面白いと思ったことがある。料金所の係員が、立ったまま応対することだ。

裏取り

確認できたこと

路上喫煙の過料は、回答のとおりだ。京都市は、指定した区域での路上喫煙に1,000円の過料を科している(京都市)。東京都千代田区の条例は「2万円以下の過料」と定め、実際には2,000円を徴収している(千代田区)。

京都のポイ捨ての「3万円」も、条例にある。ただし、市の職員が取り立てる「過料」ではなく刑法上の「罰金」にしたため、取り締まりは警察の判断になり、施行から26年で摘発はゼロだった(京都新聞)。

席を譲って断られる人は、実際に増えていた。ヴァル研究所が2016年に発表した調査では、優先席で「譲るべき」と答えた人は75.9%で、3年前より減った。譲ろうとして断られた経験のある人は増えていた(乗りものニュース)。

事実と少し違ったこと

大阪の「右に立つ」は、万博から始まったわけではない。始まりは1967年ごろ、阪急の梅田駅が「左側を空けてください」とアナウンスしたことだとされる。1970年の大阪万博はそれが広まるきっかけになった、という見方だ。東京の「左に立つ」は1989年ごろに自然にできたという(中日スポーツ、日本経済新聞)。

「日本では席を譲るのは勧められていない」は言い過ぎだ。上の調査でも、優先席で譲るべきだと考える人は4人に3人いる。譲る気持ちはあるが、断られるのが気まずくて控える人が増えた、と読むほうが近い。

10年後の答え合わせ

回答は2016年に書かれた。いま読み返すと、変わったことが四つある。

日本側のデータ

回答が書かれた2016年と、いま

高速道路の料金所ETC利用率 95.9%(2026年6月)
エスカレーター埼玉県(2021年)と名古屋市(2023年)が条例で「立ち止まって乗る」と定めた
京都・祇園の撮影私道の入り口に「罰金1万円」の看板(2024年)
訪日中国人2016年 637万人 → 2025年 909.6万人 → 2026年5月は前年同月比 60.4%減

出典:国土交通省「ETCの利用状況」/埼玉県/名古屋市/トラベルボイス/JNTO(2016年)・(2025年)・(2026年5月)

料金所の係員は、いなくなりつつある。高速道路のETC利用率は95.9%に達し(国土交通省「ETCの利用状況」)、国と高速道路会社は2030年度ごろまでにすべての料金所をETC専用にする方針だ(日本自動車会議所)。回答者が面白がった「立ったままの応対」は、見られなくなっていく。

エスカレーターは「片側を空ける」こと自体が見直されている。埼玉県は2021年10月、名古屋市は2023年10月から、条例で「立ち止まって乗る」ことを求めている(埼玉県、名古屋市)。東京は左、大阪は右という説明は、もう十分ではない。

祇園では、看板が立った。回答が「芸妓を呼び止めて撮るな」と書いてから8年後の2024年、私道を管理する地元の協議会が、入り口に「通り抜け禁止」「罰金1万円」の看板を立てた(トラベルボイス)。

そして、中国からの旅行者そのものが減った。2016年に637万人だった訪日中国人は、2025年には909.6万人に増えた。しかし2025年11月、中国で観光を所管する文化観光省が「近いうちは日本への旅行を避けるよう」呼びかけ(中国文化観光省)、2026年5月は31.3万人と前年同月の4割以下になった(やまとごころ)。

日本視点

日本人が外国人向けに作るマナー集は、たいてい「してはいけないこと」の一覧になる。この回答が違うのは、理由を中国の読者の言葉で説明しているところだ。分別は「面倒だと思っていない、慣れているだけ」。並んで歩かないのは「人に迷惑をかけない」が根にあるから。決まりを守らせるより先に、日本人がどう感じているかを伝えようとしている。

何を注意書きにしたかにも、中国との違いが出ている。友達の分まで列に場所を取っておく、便座の上にしゃがむ、目立つ服の人を撮る。わざわざ書いたのは、中国から来た人がやりがちだと見たからだろう。中国の公衆トイレにはしゃがむ式がいまも多く、便座に腰を下ろすのを嫌う人もいる。回答者はそれを責めず、「嫌ならペーパーを敷けばいい」と代わりの方法を示した。

席を譲る話は、日本人にとって耳の痛いところだ。中国では、お年寄りや子ども連れに席を譲るのは当然のマナーとされ、バスや地下鉄の車内放送でも繰り返し呼びかけられる。日本に20年住んだ人の目には、日本人は譲らないと映った。日本人の多くは「譲るべきだ」と思っているのに、断られる気まずさが先に立って、その気持ちが外から見えなくなっている。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:路上喫煙の過料(京都1,000円・千代田区2,000円)、京都のポイ捨ての罰金3万円は、条例にある。
  • 当たっている:席を譲って断られる人は、実際に増えていた。
  • ずれている:大阪の右立ちの始まりは万博ではなく、1967年ごろの阪急のアナウンスとされる。
  • ずれている:「日本では譲るのが勧められていない」は言い過ぎ。4人に3人は優先席で譲るべきだと答えている。
  • 変わった:料金所はETCが95.9%に。エスカレーターは「立ち止まって乗る」条例ができた。

日本人にとっての学びはこうだ。中国人が中国人に書いた日本旅行の心得は、決まりの一覧ではなく「日本人はなぜそうするのか」の説明だった。そして、日本人が当たり前だと思っている行列や分別が、外からはいちばん先に教えるべき「違い」に見えている。

関連書籍

中国人は日本の何に惹かれ、なぜ日本に住もうとするのか。在日中国人への取材を重ねてきた著者が、中国人の目に映る日本を描いた一冊です。

※本欄には楽天アフィリエイトのリンクを含みます(広告)

まとめ

  • 知乎で133万回読まれた「日本を旅行するなら知っておくべき常識」に、中国人が中国人向けの心得を書いた。いちばん支持された回答は、決まりの理由まで説明していた
  • 「友達の分まで列に並ぶな」「分別は面倒ではなく慣れ」「人に迷惑をかけない」。中国人の目に、日本の行列と分別がいちばんの違いに映っている
  • 路上喫煙の過料は回答のとおり。大阪の右立ちの始まりは万博ではなく阪急のアナウンス。10年で料金所はETCになり、訪日中国人は2026年に大きく減った

→ 関連記事:旅行・街 日本に行って初めて知ったこと

タイトルとURLをコピーしました