中国の質問サイト「知乎」に、身もふたもない質問がある。「日本料理は、どこまでまずくなれるのか」。2017年に立ち、閲覧は757万回、回答は873件にのぼる。
答えているのは、日本に住んで毎日日本の料理を食べている中国人たちだ。悪口の中に、中国の食の当たり前が透けて見える。同じ時期には正反対の質問「日本料理は、どれほどおいしいのか」も立っていて、香港の有名な食の評論家が答えている。両方を読んだ。
元投稿
質問:日本料理可以有多难吃?
(日本料理は、どこまでまずくなれるのか)
知乎/2017年2月3日/フォロワー6,465・閲覧7,573,964回・回答873件
→ https://www.zhihu.com/question/55370905
対になる質問:日本料理到底有多好吃?
(日本料理は、いったいどれほどおいしいのか)
知乎/2017年2月2日/フォロワー3,546・閲覧1,711,372回・回答246件
→ https://www.zhihu.com/question/55321916
いちばん支持された回答「日本には朝ごはんがない」
回答者:壬午(知乎の「日本の漫画」分野で優秀回答者に選ばれている)
投稿日:2017年6月25日
賛同3,503・コメント1,261(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
味が単調だという話で、みんなが見落としている点がある。回答者はそう前置きして、朝ごはんの話を始めた。
日本是没有“早点”这种玩意!没有早点文化!……但他们就是发明不出来一种食物,豆浆油条煎饼果子这种是专门给人早上吃的特色食物。
日本には「早点(朝ごはん専用の食べ物)」というものがない! 朝ごはんの文化がないのだ!……日本人も朝はしっかり食べるし、栄養のバランスも気にしている。それなのに、豆乳と揚げパン(油条)や、クレープ状の煎餅果子のような、朝のためだけの食べ物を生み出せなかった。
中国では、朝は通りの屋台で豆乳や油条、肉まんを買って食べる人が多い。その感覚からすると、日本の朝は奇妙に見えるらしい。
味增汤?烤鲑鱼?这些东西都是能从早上摆到晚上的万能菜,摆出三顿里面都有味增汤烤鱼,分别三餐的办法就是靠摆盘,放小盘子里就是早饭,放大盘子里是晚饭,放盒子里就是午饭。
味噌汁? 焼き鮭? どれも朝から晩まで出せる万能のおかずだ。三食とも味噌汁と焼き魚で、何で見分けるかといえば盛り付けだけ。小皿に盛れば朝ごはん、大皿なら晩ごはん、箱に詰めれば昼ごはん。
回答者は、1泊4万円の箱根の温泉旅館に泊まったとき、朝の食堂に並んでいたのがファミレスの850円の朝食セットと同じベーコンと目玉焼きだった、と書く。「あの絶望と怒りが分かるか」。そして最後に、本気で首をかしげている。
这么多知名厨师xx之神啥的,就是没人创造出一种全新的大和早点,我觉得这难度不高吧?
これだけ有名な料理人や「なんとかの神様」がいるのに、誰も新しい「大和の朝ごはん」を生み出さない。そんなに難しいことではないと思うのだが?
大阪で働く中国人「どの店に入っても同じだった」
回答者:猫球
投稿日:2017年6月26日
賛同1,573・コメント498
→ 回答ページ
回答者の職場は大阪・心斎橋の近くだ。昼に毎日違う店に入り、全部回ったらいちばんおいしい店に通うつもりだった。全部回ったあと、こう決めたという。「店員がいちばんイケメンの店に通おう」。
比如在日本选择餐馆这件事,我真的是无差异的……因为都tm一个味。
日本で店を選ぶことについては、本当にどれでもよくなった……全部同じ味だからだ。
とんかつ、天ぷら、ラーメン、カレー、牛丼はまずくはない。ただ、記憶に残るおいしさや、食べる幸せがない。回答者の矛先は、しゃぶしゃぶにも向かった。
汤底是泡着一片海带、一个蒜瓣的清水……蘸料是……酱油……嗯,不要怀疑,白开水煮牛肉蘸酱油,这就是超有名的日本料理呷哺呷哺火锅。
スープは、昆布一枚とニンニク一片を浸しただけのお湯……つけだれは……醤油……。うん、疑わなくていい。お湯で牛肉を煮て醤油をつける。これがあの有名な日本料理、しゃぶしゃぶだ。
それでも、この回答者は日本料理が嫌いなわけではない。中国の日本料理店は好きだという。
因为!国内的日本料理属于「综合性大学」,日本的日本料理一水儿全是「专科学校」。
なぜなら! 中国の日本料理店は「総合大学」で、日本の日本料理店はどこも「専門学校」だからだ。
中国の日本料理店の食べ放題なら、刺身と寿司、鉄板焼き、天ぷら、おでん、とんかつ、牛肉の鍋、うな重、デザートまで一度に食べられる。同じことを日本でやろうとすると、最低でも6軒回らなければならない。
日本で鯨を食べた中国人
回答者:小東
投稿日:2017年6月26日
賛同798・コメント159
→ 回答ページ
3番目に支持された回答は、一つの料理だけを挙げた。日本で食べた「悪夢のような」鯨の肉だ。箸でつまむと箸が赤く染まり、口に運ぶ前に生臭さが鼻を突く。噛まずに飲み物で流し込め、と勧めている。

対になる質問では「鰻は専門店で」
「日本料理は、どれほどおいしいのか」で最も支持されたのは、香港の作家で食の評論家、蔡瀾(チャイ・ラン)の回答だ(2017年7月11日・賛同2,952)。金庸らと並んで「香港四大才子」と呼ばれ、中国語圏でもっとも知られた食の書き手の一人だった。2025年6月に83歳で亡くなっている(澎湃新聞)。
→ 回答ページ
鳗鱼饭要做得好,只能在专门店吃,而在日本之外,很少有鳗鱼专门店。
うな重がおいしいのは、専門店だけだ。そして日本の外には、鰻の専門店がほとんどない。
蔡瀾は、背開きにして骨を抜き、蒸してたれを塗り、備長炭で焼く手順を細かく書く。東京の老舗「野田岩」が1996年にパリへ店を出したこと、日本でも鰻の9割以上が養殖になったこと、専門店は頑固な職人が代々守っていることにも触れている。中国人が「専門学校」と笑った日本の店のあり方を、蔡瀾は「日本でしか食べられない理由」として書いた。

2番目の回答(糖三角・賛同815)は、築地の海鮮丼、東京・六厘舎のつけ麺、飛騨牛、小樽のカニ汁など、旅先で食べた料理の写真を34枚並べ、「和牛の脂が口の中でとけたとき、生きていてよかったと思う」と書いた(回答ページ)。

裏取り
確認できたこと
しゃぶしゃぶのだしが昆布なのは、そのとおりだ。ただ、そのしゃぶしゃぶの元をたどると中国に行き着く。北京の名物、羊肉をさっとくぐらせる「涮羊肉(シュワンヤンロウ)」を、戦時中に北京にいた鳥取出身の吉田璋也が日本に伝えたとされる。関西で「牛肉の水炊き」として広まり、1952年に大阪のスエヒロが「しゃぶしゃぶ」と名付けた(永楽町スエヒロ本店、Wikipedia)。
回答者が書いた「呷哺呷哺(シャブシャブ)」は、中国の火鍋チェーンの名前でもある。台湾出身の経営者が1998年に北京で始めた一人鍋の店で、名前は日本語の「しゃぶしゃぶ」から取った(Wikipedia中国語版)。北京の涮羊肉が日本でしゃぶしゃぶになり、その名前が中国に戻ったことになる。
日本人も、鯨はほとんど食べていない。鯨肉の消費量は1962年度の約23万トンが最高で、2022年度は約2,000トン。牛・豚・鶏の合計が400万トンを超えるのと比べると、ごくわずかだ(水産庁)。
蔡瀾の「鰻の9割以上が養殖」は、むしろ控えめだ。天然の鰻の漁獲は2020年に65トンと、統計が始まって以来の最低になった(水産庁・水産研究・教育機構)。野田岩のパリ店は1996年の開店で、回答のとおりだ(Wikipedia)。
事実と違ったこと
「しゃぶしゃぶは醤油につける」は違う。定番のたれは、ポン酢とごまだれだ(ミツカン)。ポン酢には醤油が入っているので、醤油に見えたのかもしれない。
9年後の答え合わせ
中国の日本料理店の数(農林水産省の調査)
| 2023年 | 約78,760店 |
| 2025年 | 約63,500店(前回より約15,260店減) |
| 2025年の国・地域別の順位 | 世界1位(2位の米国は約26,360店) |
「まずい」と言われながら、日本料理店がいちばん多い国は中国だ。農林水産省の2025年の調査では、中国の日本料理店は約63,500店で、世界で最も多い。米国の2倍を超える。ただし前回2023年から約15,260店減っており、農林水産省は「中国における経済停滞の影響」を挙げている(農林水産省)。
日本視点
悪口の中身を並べると、中国の食の当たり前が見えてくる。朝は屋台で買うもの。鍋はスープそのものに味があるもの。一軒の店で何でも食べられるもの。日本料理は、そのどれにも当てはまらない。
朝ごはんの話は、日本人には意外に聞こえるかもしれない。納豆や卵かけご飯、焼き海苔は、朝食の定番としてよく挙がる。ただ、それは家で食べるもので、通りで朝ごはんを買う文化は、日本には確かに育たなかった。回答者が「早点」と呼んだのは、料理の種類ではなく、朝の食事を外で済ませる暮らし方のことだ。
「専門学校」という悪口と、蔡瀾の「専門店でしか食べられない」という褒め言葉は、同じことを言っている。一つの料理を代々磨く店が多いのが日本の外食のかたちで、何でもそろう総合型を好む人には退屈に映り、一つを極めたものを好む人には日本でしか味わえない理由に映る。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:しゃぶしゃぶのだしは昆布。日本には、屋台で朝ごはんを買う文化がない。
- 当たっている:日本人も鯨はほとんど食べない。消費はピークの100分の1以下だ。
- ずれている:しゃぶしゃぶのたれは醤油ではなく、ポン酢とごまだれ。
- 見えていない:しゃぶしゃぶの元は北京の涮羊肉。「呷哺呷哺」は、その名前が中国に戻ったものだ。
日本人にとっての学びはこうだ。「日本料理はまずい」という悪口は、中国の食の当たり前を映している。そして、そう言われながら、日本料理店がいちばん多い国は中国だ。
日本人は何を食べ、なぜいまのような食卓になったのか。米と魚を中心にした日本の食の歴史をたどる一冊です。「朝も夜も味噌汁と焼き魚」の理由が見えてきます。
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まとめ
- 知乎で757万回読まれた「日本料理はどこまでまずくなれるか」。いちばん支持された回答は「日本には朝ごはん専用の料理がない。小皿に盛れば朝ごはん」と書いた
- 大阪で働く中国人は「どの店も同じ味」「日本の店は専門学校、中国の日本料理店は総合大学」。対になる質問では、香港の評論家・蔡瀾が「鰻は日本の専門店でしか食べられない」と書いた
- しゃぶしゃぶの元は北京の涮羊肉で、たれは醤油ではなくポン酢とごまだれ。中国の日本料理店は2025年に約63,500店で、いまも世界一多い

