中国の質問サイト「知乎」で318万回読まれた質問がある。「日本には画面も部品もカメラもある。なのに、なぜ売れるスマホを作れないのか」。2018年末に立ち、回答は308件。
答えたのは、中国のスマホに詳しい書き手と、日本に16年近く住んだ中国人だ。一人は「中国メーカーは何が違ったのか」を語り、もう一人は日本の携帯電話が輝いていた時代を、写真を並べて振り返った。
元投稿
質問:日本要屏幕有屏幕、要零件有零件、要摄像头有摄像头,为什么无法生产出畅销的手机呢?
(日本には画面も部品もカメラもある。なのに、なぜ売れるスマホを作れないのか)
知乎/2018年12月27日/フォロワー2,069・閲覧3,181,923回・回答308件
→ https://www.zhihu.com/question/307106209
いちばん支持された回答「部品を積み上げてもスマホにはならない」
回答者:小蒜苗(知乎の「華為(ファーウェイ)の携帯」など3分野で優秀回答者に選ばれている)
投稿日:2018年12月28日
賛同4,448・コメント895(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
这充分说明了一件事儿,手机并不是简单的零件堆叠就可以做好的,硬件是产品的基础,但不等于产品的体验,更不是产品的全部。
この質問が、はっきり示していることがある。スマホは部品を積み上げれば作れるものではない。ハードは製品の土台だが、使い心地とは別物で、まして製品のすべてではない。
回答者は、日本が負けたこと自体は「ごく普通のこと」だと言う。ノキアもモトローラも覇者の座を追われた。普通でないのは、苹果(アップル)とサムスンが健在なうちに、中国のメーカーが一社ではなく「軍団」で台頭したことだ、と。その理由として挙げたのが、速さと値段、そして消費者の見方だった。
另一方面,中国的手机厂商们比日系厂商明显更清楚消费者想要什么,而不是我能做什么?
もう一つ、中国のメーカーは日本のメーカーより、はっきりと「消費者が何を欲しいか」を分かっている。「自分に何ができるか」ではなく。
但索尼不是,索尼还是在思考,我们能做什么,我们想做什么,工程师思维和技术导向会让索尼的产品变得极其怪异,而这,恰恰就是日系的代表风格,比如刘海屏的先驱——夏普.
でもソニーは違う。ソニーはいまも「自分たちに何ができるか、何を作りたいか」を考えている。技術者の発想と技術優先が、製品をひどく風変わりなものにする。それこそが日本メーカーの典型だ。たとえば、画面上部の切り欠き(ノッチ)の先駆者、シャープのように。
回答者は値段も比べている。ファーウェイの旗艦機Mate 20 Proは5,399元(約12万8,000円)、傘下ブランドの栄耀(オナー)V20は2,999元(約7万1,000円)。OnePlusやシャオミの旗艦機は3,000元(約7万円)あまりで、「同じものをソニーが作ったら6,000元(約14万円)以上はつける」。※円はいまのレート(三菱UFJ銀行の9月25日の仲値、23.63円/元)で換算した。
そして最後に、中国メーカーの強さを3行にまとめた。
第一,我的手机比你便宜。第二,我的手机比你懂消费者。第三,我的手机比你便宜的前提下还比你懂消费者!
一、うちのスマホはあなたのより安い。二、うちのスマホはあなたのより消費者を分かっている。三、うちのスマホは、あなたのより安いうえに、消費者を分かっている!
日本に16年近く住んだ中国人「犯人は通信会社だ」
回答者:排骨(南京の国際学校で副校長・日本プログラム責任者。日本からの帰国者)
投稿日:2019年1月3日
賛同3,324・コメント444
→ 回答ページ
日本に15年10か月いたという回答者は、ほかの回答が「いまの状況」だけで語っていると不満を述べ、日本の携帯電話の歴史を60枚を超える写真でたどった。結論は冒頭に書いている。
曾经的日本手机什么都不缺,要设计有设计,要技术有技术。但走到今天这一步的有两个原因:1,内部问题是日本通信商的鼠目寸光。2,外部问题是智能手机的变革。
かつての日本の携帯電話には、何も欠けていなかった。デザインもあれば、技術もあった。それがいまのようになった理由は二つある。一つは内側の問題で、日本の通信会社の目先しか見ない姿勢。もう一つは外側の問題で、スマートフォンという変革だ。
話は1985年の「ショルダーホン」から始まる。重さ3キロで、肩から提げるしかない。保証金20万円、月額2万6,000円。

そこから回答者は、2000年に背面カメラを載せたJ-フォンのシャープ製J-SH04、テレビが見られる機種、音楽プレーヤーになる機種、漆器をかたどった機種と、2000年代の日本の携帯電話を次々に並べていく。au一社だけで5年間に200機種近く、3社合わせれば600機種を超えた、と書く。

それでも、これらはほとんど日本の外に出なかった。回答者は、通信会社と端末メーカーの関係に原因を見ている。
某种机型设计出来了只能由某家通信商采用,不能贩卖给其余通信商。所以哪怕是同一个生产厂商都有不同的开发小组,都要为几个通信商设计不同的手机。这就导致了日本手机再高级,也只是在日本的小范围内生产和贩卖。
ある機種を設計すると、それは一社の通信会社しか扱えず、ほかの通信会社には売れない。だから同じメーカーの中にも別々の開発チームがあり、通信会社ごとに違う端末を設計しなければならなかった。その結果、日本の携帯電話はどれほど高性能でも、日本という狭い範囲で作られ、売られるだけになった。
その壁を壊したのがiPhoneと、ソフトバンクの孫正義だという。日本の業界がiPhoneを見くびる中、ボーダフォン日本法人を買ったばかりのソフトバンクが独占で扱い、契約数を伸ばした。
可以说,要没有孙正义,iPhone在日本估计要至少晚2年以上。
孫正義がいなければ、iPhoneが日本に来るのは少なくとも2年は遅れていただろう。
回答者は数日後に追記している。携帯ショップをのぞくと、日本にはまだ折りたたみ式の携帯電話が売られていて、新機種まで出ていた、と。
虽然销量指望不上,但能坚持到现在的翻盖手机也就日本才有了,真正的加拉帕戈斯现象呀。个人觉得还是应该保护一下的。
売れ行きは期待できないが、いまも折りたたみ式を作り続けているのは日本だけだ。本物のガラパゴス現象だね。個人的には、守ってあげるべきだと思う。

裏取り
確認できたこと
ショルダーホンの数字は、回答のとおりだ。1985年に登場したショルダーホンは重さ約3キロ、保証金20万円、月の基本料2万6,000円、連続通話は約40分だった(NEWSポストセブン)。
iPhoneがソフトバンクから始まったのも、そのとおりだ。国内初のiPhoneは2008年7月11日にソフトバンクが発売した(日本経済新聞)。auは2011年のiPhone 4Sから、ドコモは2013年のiPhone 5sから扱い始めた(ITmedia)。回答の「auはiPhone 4から」は一世代ずれている。
事実と違ったこと
「日本の携帯電話はほとんど海外に出なかった」は、少なくとも2000年ごろには当てはまらない。2000年の世界の出荷台数で、パナソニックはノキア、モトローラ、エリクソン、シーメンスに次ぐ5位(5.2%)で、三菱電機が8位、京セラが9位に入っていた(ASCII/米データクエスト調べ)。回答は「世界シェアは最高で6%」と書くが、2000年はパナソニック一社で5%を超えていた。日本メーカーが海外から退いたのは、その後のことだ。
京セラのVP-210は「白黒画面」ではない。1999年9月にDDIポケットから出たVP-210は、2インチのカラー液晶で、約11万画素のカメラを画面の上に載せていた。市販されたカメラ付きのPHS端末としては世界初とされる(Wikipedia)。
7年後の答え合わせ
国内のスマホなど携帯電話の出荷シェア(2025年度)
| 1位 アップル | 50.1% |
| 2位 グーグル | 12.4% |
| 3位 サムスン電子 | 11.0% |
| 4位 シャープ | 7.1% |
| 5位 FCNT | 6.0% |
| 6位 京セラ | 3.7% |
回答から7年。日本のメーカーは、さらに減った。2023年5月、バルミューダがスマホ事業から撤退し、京セラが個人向けスマホの終息を発表し、富士通の携帯電話事業を継いだFCNTが民事再生法の適用を申請した(ITmedia)。FCNTはその後、中国のレノボの出資を受けて事業を続けている。シャープはすでに2016年から台湾の鴻海(ホンハイ)の傘下だ。2025年度の国内出荷の上位6社に、ソニーの名前はない(MM総研)。
世界では、中国メーカーの「軍団」がそのまま残った。調査会社IDCによると、2025年の世界のスマホ出荷はアップル(19.7%)、サムスン(19.1%)に続き、3位シャオミ(13.1%)、4位vivo(8.2%)、5位OPPO(8.1%)と、上位5社のうち3社が中国メーカーだった(GSMArena/IDC調べ)。
日本視点
二つの回答は、同じ出来事を別の角度から見ている。日本に住んだ回答者は「通信会社の囲い込み」という仕組みを責め、中国のスマホに詳しい回答者は「消費者より技術を見ていた」という考え方を責めた。前者は日本でもよく語られる説明で、通信会社が端末を仕様ごと決め、販売奨励金で安く売る仕組みが、メーカーを国内に閉じ込めたとされる。
後者は、日本人にとって耳の痛い指摘だ。「技術で勝ってビジネスで負ける」は日本でも繰り返し言われてきた。ただ、中国の書き手はそれを、自分たちの成功の裏返しとして語っている。「何が作れるか」ではなく「何が欲しいか」から始めたから勝てた。日本の失敗は、中国メーカーの勝ち方を説明するための対照として使われている。
一方で、中国メーカーが世界で勝っても、日本の店頭では勝てていない。国内出荷の上位6社に中国メーカーはなく、半分をiPhoneが占める。知乎には「なぜ中国のスマホは日本市場に入り込めないのか」という質問も立っている(知乎)。回答者が「守ってあげたい」と書いた日本の独自性は、形を変えて、中国メーカーの前にも立ちはだかっている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:ショルダーホン(約3キロ・保証金20万円・月2万6,000円)、iPhoneがソフトバンクの独占で始まったこと。
- 当たっている:2025年、世界の上位5社のうち3社が中国メーカー。回答の言う「軍団」はそのまま続いている。
- ずれている:「日本の携帯は海外に出なかった」は言い過ぎ。2000年にはパナソニックが世界5位だった。
- ずれている:auのiPhoneは「4」ではなく「4S」から。VP-210はカラー液晶だった。
- 見えていない:中国メーカーも、日本の国内市場では上位6社に入っていない。
日本人にとっての学びはこうだ。中国人は日本の携帯電話の失敗を、「何が作れるか」から考えた失敗として読み、自分たちの「何が欲しいか」から考えた成功と並べて語っている。そして、その中国メーカーもまだ、日本の店頭では勝てていない。
TDKで記録メディアの事業に携わり、日米で業界の最盛期と凋落を見てきた著者が、日本の電機メーカーがなぜ負けたのかを内側から書いた一冊です。「ユーザーの求めるものよりメーカーの都合を優先した」という反省は、小蒜苗の回答と重なります。
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まとめ
- 知乎で318万回読まれた「日本には部品が全部あるのに、なぜ売れるスマホを作れないのか」。いちばん支持された回答は「日本は『何が作れるか』を考え、中国は『何が欲しいか』を考えた」と書いた
- 日本に16年近く住んだ中国人は、ショルダーホンから2000年代の携帯電話までを写真でたどり、「通信会社の囲い込み」が日本の携帯を国内に閉じ込めたと書いた。ただ2000年には、パナソニックが世界5位だった
- 2023年に京セラ・FCNT・バルミューダが相次いで撤退・破綻。世界では中国メーカーが上位5社のうち3社を占めるが、日本の国内市場では上位6社に入っていない
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