ラピダス2nm 日本の半導体のいちばんの問題は客だ 中国人の反応(2nmができても、誰が日本で試作するのか)

中国の質問サイト「知乎」に、2025年7月22日、日本のラピダス(Rapidus)の2ナノ(nm)チップの試作をめぐる質問が立った。「ラピダスが、日本初の2nmのトランジスタの生産に成功した。日本はチップ製造で追いついたと言えるのか」。閲覧は31万回、回答は52件(10月12日時点)。賛同のいちばん多い回答(303)は「ラピダスは、GAAという新しい構造に直行した。本当の意味で、カーブでの追い越しだ」と評価し、次の回答(291)は「日本の半導体のいちばんの問題は、客だ。2nmができても、誰が日本で試作するのか。ラピダスは、『日本の復活の序曲』ではなく、『最後の輝き』に近い」と書いた。それから1年あまり。いまの数字で、答え合わせをした。

元投稿

質問:Rapidus 成功生产出日本首个 2 纳米晶体管,这是否意味着日本在芯片制造领域已经迎头赶上?(ラピダスが、日本初の2nmトランジスタの生産に成功した。日本は、チップ製造の領域で追いついたと言えるのか)
補足:「最近、『日経アジア』の報道によると、日本が340億ドルを投じる2nmチップのプロジェクトが重大な進展を発表したが、製品の品質と、このスタートアップが顧客を引きつける面の詳細は、……」(要旨・本文は途中で切れている)
知乎/2025年7月22日/フォロワー181・閲覧314,564回・回答52件
→ https://www.zhihu.com/question/1931024747413632679

回答1「日本の半導体のいちばんの問題は、客だ。誰が日本で試作するのか」

回答者:歪睿老哥(プロフィールの表示「チップ(集積回路)の話題の優秀回答者」)
投稿日:2025年7月23日
賛同291・コメント90
→ 回答ページ

日本半导体最严重的问题,其实是客户。即使做成了2nm先进工艺,谁会去日本流片?谁帮他打磨制程,提升良率?

日本の半導体のいちばん深刻な問題は、実は客だ。たとえ2nmの先端プロセスを作れても、誰が日本で試作(テープアウト)するのか。誰が、プロセスを磨いて、歩留まりを上げる手伝いをするのか。

回答は、TSMCが1位になれたのは、アップル・エヌビディア・AMD・クアルコム・メディアテックという設計会社が、いっしょにラインを磨いたからだ、と書く。2nmを使えるほどの客は、新竹・台南・アリゾナに行き、残りは「地図に載っていない深圳の工場」で磨く。だから、ラピダスは、客も需要もないまま、時が過ぎる。そして、結ぶ。

所以,Rapidus不是日本半导体制造王者归来的序曲,更像是回光返照的昙花一现。

だから、ラピダスは、日本の半導体製造の王者の復活の序曲ではなく、むしろ、最後の輝きとして一瞬だけ咲く花に近い。

そのうえで、「原型の成功」と「量産」の間の距離を述べる。2027年量産、2026年第1四半期にPDKという計画を、全世界の競争のなかでは「足りない」と見て、「小ロット・カスタム」の戦略は「天方夜譚(ありえない話)」と書く。資金は、承諾済み1.72兆円に対し、総投資5兆円とされ、3兆円ほどの穴がある、人材も足りない、と続ける。賛同は291。

回答2「ラピダスは、TSMCと正面からは競わない。客は、米国が受けられない安全保障の用途と、スタートアップだ」

回答者:Robin(プロフィールの表示「昔から、何が経綸か。一片の青山で身を終える」)
投稿日:2025年7月24日
賛同238・コメント31
→ 回答ページ

東京で開かれたRISC-V Tokyoの会議にたびたび出て、ラピダスなどが来ていたのを見聞きした、という立場から書く。試験ラインが動き出したのは、日本の人たち自身の予想を超えたかもしれない、人員は定員の半分ほどだ、と述べたあと、こう整理する。

Rapidus 的策略大概也不是和 TSMC 正面竞争……面向的其实就是两种,第一个是美国现在承接不了的安保需求……第二个是承接 startup 之类的小规模量产需求。

ラピダスの戦略は、おそらく、TSMCと正面から競うことではない。……向いている先は、実は2種類。1つ目は、アメリカがいま受けきれない、安全保障の需要。……2つ目は、スタートアップなどの、小ロットの量産だ。

そして「意向が比較的はっきりしているのは、PFN(日本のAIの大型スタートアップ)、Tenstorrent、ほか数社で、IBMも、海外の制約から逃れたい客だ」と書く。最後に、「ラピダスの発展は、日本の人がいくら出すか、トランプ氏がどこまで動くかによる」と結んでいる。

回答3「GAAを選んで、いま競争に戻ったのは賢い。ただ、IBMの技術を買っている」

回答者:稗田椎菜(プロフィールの表示「傷を知恵に変えよう」)
投稿日:2025年7月24日
賛同303・コメント48
→ 回答ページ

日本在 22nm 進入 FinFET 時代的時候錯失機會……選擇此時重新加入競爭是很聰明的選擇。並且因為沒有 FinFET 的歷史包袱,可以將全部精力投入 GAAFET 的開發,完全按 GAAFET 的需求來訂製產線,是真正的彎道超車。

日本は、22nmでFinFETの時代に入るときに機会を逃した。……このタイミングで競争に戻ったのは、とても賢い選択だ。FinFETの歴史の重荷がないから、全力をGAAFETの開発に注げるし、GAAFETの必要に合わせて、ラインを丸ごと作れる。本当の意味で、カーブでの追い越しだ。

回答者は、「利害関係があるので、書きすぎるとインサイダーになる」と断る。そして、「ラピダスのGAAは、IBMから買った技術だ。日本の8社が出した資金の半分は、EUV(極端紫外線)の装置に、半分は、IBMのライセンスに使った」「300mmウェハーで流れた時点で、実験室の手作りではない」「ラピダスは2028年に量産する予定だったが、いまの進み具合なら、前倒しになりそうだ」と書く。ただ、IBMが今後の成果を共有するかは分からない、政府の補助が止まったあとの採算が問題だ、とも添える。

裏取り(いまの数字で答え合わせ)

確認できたこと

「GAAの試作に成功」は、2025年7月に発表された。ラピダスは2025年7月18日、北海道千歳市のIIM-1で、2nmのGAA(ゲート・オール・アラウンド)トランジスタの試作を始め、試作ウェハーの電気特性が取れ始めたと発表した。2nmのプロセスは、2026年第1四半期までに先行顧客へ提供し、2027年の量産を目指す、と記した(ラピダス)。日経クロステックは、小池社長が「2026年3月までにPDKを先行顧客の数社に提供する」と述べたと伝えた(日経クロステック)。回答1の「2026年第1四半期にPDK、2027年に量産」は、この計画と合う。

回答1の「客がいない」は、2026年に入っても、当たっている部分がある。2026年3月、社長は、60社以上と協議していると述べた。分野は、HPC・AI・エッジが中心で、約10社が概算の価格を受け取った。ただし、協議先の大半は海外の企業だった(TrendForce(MONOistの報道))。大口の量産の顧客が確定した、という報道は、私が確かめた範囲では見つからなかった。

回答2の「安全保障と小ロット」「日本がいくら出すか」は、資金の動きと合う。2026年2月までに、32の民間企業が、合計1,676億円を出資した。2025年度の民間調達の目標1,300億円を超えた(TrendForce)。2026年4月、経済産業省は、読売新聞によれば、6,315億円の追加支援を決めた(TrendForce(読売新聞の報道))。

違った・古かったこと

「ラピダスは、2028年に量産する予定だった」(回答3)は、違う。会社が公表している目標は、一貫して2027年の量産だ。2025年7月の発表文も、「2027年の量産に向けて」と書いている(ラピダス)。「前倒しになりそうだ」という見立ても、私が確かめた範囲では、前倒しを示す公式の発表は見つからなかった。2026年の報道は、量産の立ち上げの目標を、2027年後半としている。

「承諾済み1.72兆円・総投資5兆円」(回答1)は、数字が動いた。2026年4月に6,315億円が加わった。ただ、政府支援の累計は、報道によって2.35兆円〜約3兆円と幅があり、私は一つの数字に絞れなかった。

見落とされがちなこと

3つの回答は、「技術」と「客」を別々に語ったが、客を呼ぶ役目の中身(設計の入口)を語っていない。回答1は「客がいない」、回答3は「技術は正しい」。しかし、2nmのチップは、設計に使うPDKがあって初めて、客が自分で試作できる。そのPDKを先行顧客に出す計画が、2026年3月の期限だった。つまり、いま起きている問いは、「できるか」ではなく、「PDKを受け取った客が、実際に量産の注文を出すか」だ。この点は、回答のどれも、まだ問えていなかった。

確かめられなかったこと

回答3の「資金の半分がEUV、半分がIBMのライセンス」「IBMが今後の成果を共有するか」、回答2の「PFNやTenstorrentが客」「人員が定員の半分」は、確認していない。2026年にPDKが実際に先行顧客へ提供されたかは、計画の記事は確認できたが、提供の完了を示す一次情報は読めなかった。歩留まりは、公表された数字が見つからなかった。10月に、17社との設計パートナーの提携が報じられたという記事も検索で見たが、中身は確認していない。TSMCの2nm量産やサムスンの動き(回答1)も、確認していない。

日本側のデータ

この記事の答え合わせに使った事実

GAAの試作の開始2025年7月18日(千歳のIIM-1)。2027年の量産を目標
PDKの提供(計画)2026年3月までに先行顧客の数社へ(日経クロステック)
協議中の顧客(2026年3月)60社以上(大半が海外)。約10社が概算価格を受け取った
民間の出資(2026年2月まで)32社・1,676億円(2025年度の目標1,300億円を超えた)
政府の追加支援(2026年4月)6,315億円(経産省・読売新聞の報道)
量産の目標2027年(報道では2027年後半)
歩留まり公表された数字は、確かめた範囲では見つからなかった

出典:ラピダス・日経クロステック・TrendForce・TrendForce

日本視点

この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。中国の人は、ラピダスを「技術はできたが、客がいるのか」という問いで読み、「日本の半導体の復活」と「最後の輝き」の二つに、意見が割れた。この割れ方は、1年たっても、変わっていない。

ただ、日本の人にとっては、1年の間に動いたのは、技術の話より、お金と客の入口の話だった。民間の出資は1,676億円に届き、政府の追加支援は6,315億円。PDKの提供で、客が設計に入る入口はできた。残る問いは、「客が、実際に量産の注文を出すか」と、「歩留まりの数字が出るか」の2つだ。回答1の「客がいない」は、まだ、外れとも当たりとも言えない。量産の目標が2027年なら、判定は、来年以降に出る。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:2025年7月の試作、2026年3月のPDK提供の計画、2027年の量産目標、客の確保が主な課題であること、政府と民間の資金の追加。
  • ずれている・注意が必要:「2028年に量産の予定だった」(会社の目標は2027年)、「資金は承諾済み1.72兆円・総投資5兆円」(4月に6,315億円が加わった)、「前倒しになりそうだ」(公式の発表は確認できず)。
  • 確かめられなかった:PDKの提供の完了、歩留まり、IBMとの契約、PFN・Tenstorrentが客であること、TSMCやサムスンの動き。
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まとめ

  • 知乎で31万回読まれた質問「ラピダスが日本初の2nmトランジスタの生産に成功。日本は追いついたのか」。回答(291)は「日本の半導体のいちばんの問題は、客だ。誰が日本で試作するのか」と書き、別の回答(303)は「GAAに直行したのは賢い。本当の意味で、カーブでの追い越しだ」と評価した
  • いまの数字では、2025年7月にGAAの試作を発表。2026年3月までにPDKを先行顧客へ提供する計画で、60社以上と協議、約10社が概算価格を受け取った。民間は32社が1,676億円を出資し、政府は4月に6,315億円を追加支援。量産の目標は2027年。歩留まりの数字は見つからなかった
  • 「2028年に量産の予定」は違う(会社の目標は2027年)。PDKの提供の完了や、IBMとの契約は確かめなかった。「客がいない」が当たるかは、来年以降の注文で決まる

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