中国人「象印もタイガーも、日本型の米なら一流だ。でも中国南部の米はひどい」

中国の質問サイト「知乎」で、194万回近く読まれてきた質問がある。「日本の炊飯器は何がいいのか。なぜみんな日本から持ち帰るのか。使ってみた本当の感想は?」。2013年に立ち、回答は187件。

いちばん支持を集めたのは、中国で炊飯器を開発しているという人の長い回答だった。日本製を半年かけて1日30回炊き比べ、出した答えは「日本の米なら一流、中国南部の米はだめ」。一方で「高いだけだ」という冷ややかな声もある。回答の年号や数字を確かめ、その後に起きたことを追った。

元投稿

質問:日本的电饭锅好在哪里?为什么那么多人从日本带?使用过后真实感受如何?
(日本の炊飯器はどこがいいのか。なぜあれほど多くの人が日本から持ち帰るのか。使ってみた本当の感想は?)
知乎/2013年5月2日/フォロワー1,604・閲覧1,939,096回・回答187件
→ https://www.zhihu.com/question/21009246

最多賛同の回答「象印もタイガーも、日本型の米なら一流。でも中国南部の米はひどい」

回答者:知乎用户(匿名。中国の炊飯器の開発チームにいると名乗る)
投稿日:2020年7月15日(2022年8月7日に最終更新)
賛同435(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

回答者は2019年、7年たっても製品を出せていない炊飯器の開発チームに加わった。象印、タイガー、パナソニック、中国の美的(Midea)を並べ、十数種類の米を「1日30回」炊いて食べ比べた。結論は冒頭にある。

总结:硬件方面,制造工艺实力,太强悍。设计使用方面,也没太大问题,就是他们的逻辑特别长,上一步下一步很复杂。使用还是比较贴心。
米饭结果:粳米方面,象印虎牌已达到很高水平,籼米太差了(相对于我们的产品)。

まとめ:ハードの面では、ものづくりの力が強すぎる。使い勝手も大きな問題はないが、操作の手順がとても長く面倒だ。それでも使う人への気配りはある。
炊き上がり:ジャポニカ米なら、象印とタイガーはとても高い水準にある。インディカ米はひどい(われわれの製品と比べて)。

ジャポニカ米(粳米)は日本や中国東北部で食べる丸くて粘りのある米、インディカ米(籼米)は中国南部で主に食べる細長くパラッとした米だ。回答者によれば、中国は日本の炊飯器の技術を引き継いだので、日本の米に近い東北の米だけがうまく炊ける。

日本人发明电饭煲是为了解决本地米的炊煮问题,流传到国内,这个逻辑程序也一直被沿用,我们各品牌以制造代工起家,努力普及电饭煲呢,还没有打通大米到电器最后是米饭的链条。

日本人が炊飯器を発明したのは、自分たちの米を炊くためだった。それが中国に伝わり、その炊き方の手順もずっと使われてきた。中国の各ブランドは受託生産から身を起こし、炊飯器を広めることに力を注いできたが、「米から炊飯器、そしてご飯へ」という流れはまだつながっていない。

だから中国には「インディカ米のための炊飯器」がない、と回答者は言う。浸す時間も、でんぷんが糊になる温度も米ごとに違うのに、メーカーはそこを語らない。

都在告诉你什么IH舞动技术(电磁炉技术)、内胆材质、涂层材质、外观设计等等这些和米饭本质无关的点。愚弄消费者。

どこも「IHで米が踊る」だの、内釜やコーティングの素材だの、デザインだの、ご飯の本質と関係のない話ばかりだ。消費者をばかにしている。

机の上に美的、タイガーなど複数の炊飯器と、記録用紙、パソコン、電源タップが並ぶ
回答者が「一鍋ずつ比べるなんて、やりすぎかな」と載せた炊き比べの机。左手前が美的、右手前がタイガー(出典:知乎の回答)

それでも日本製の作りには感心している。象印の「AT10W」を分解して部品と配線の多さを見せ、「6年前の日本の炊飯器なのに」と書く。ボタンを押すとふたが自動で閉まる機能には「初めて使ったとき本当に驚いた」。中国のフリマアプリ「閑魚」では、6年落ちの中古でもまだ4,000元(約9万4,000円)で売れるという。

象印の炊飯器NW-AT10の操作パネル。炊飯ボタンの下に「注意110V!」と書いたラベルが貼られている
回答者が分解した象印のNW-AT10。操作パネルに「注意110V!」のラベルが貼られている。日本の家庭用は100V、中国は220V(出典:知乎の回答)

値段については「中国の炊飯器の平均は300元(約7,100円)、日本製は3,000元(約7万1,000円)。消費者はばかではない」。保温の話では、74℃を下回るとご飯の老化が始まるとして「冷や飯は絶対に食べるな、軟らかいご飯(软饭)を食べろ」と書く。「吃软饭」は中国語で「女性に養ってもらう」という俗語でもあり、半ば冗談だ。

チームは2021年1月、「米ごとに炊き方を変える」圧力IH炊飯器の生産にこぎつけた。だが2022年8月の追記で「経済環境の変化で、プロジェクトは無期限の停止に入った」と報告している。

別の回答「国産と比べて優越感?笑わせる」

回答者:冉冉淙淙
投稿日:2014年11月6日
賛同22
→ 回答ページ

拿 3000元的电饭煲比国产300元的,还能找出优越感? 真是可笑。
就如同开特斯拉的人说开吉利的,你这车不行,只透出一股子low味,
国内上千的电饭煲,不会比日本的差。

3,000元(約7万1,000円)の炊飯器を国産の300元(約7,100円)のと比べて、それで優越感?笑わせる。
テスラに乗っている人が、吉利(中国の自動車メーカー)の人に「その車はだめだ」と言うようなもので、下品なだけだ。
国産でも1,000元(約2万4,000円)を超える炊飯器なら、日本製に劣らない。

匿名の回答「高い。それだけだ」

回答者:匿名用户
投稿日:2014年8月15日
賛同15
→ 回答ページ

贵。
有一个实验,把普通葡萄酒装到奢侈品牌的瓶子里,专家都说好,品出雨后春笋不是没有可能。为了排除情感和心理因素,还是搞个双盲的实验,再夸也不迟。

高い。
ふつうのワインを高級ブランドの瓶に詰めたら、専門家がそろって褒めたという実験がある。「雨上がりのタケノコの味がする」と言い出してもおかしくない。気持ちや思い込みを除くために、目隠しで食べ比べてから褒めても遅くない。

裏取り

確認できたこと

炊飯器が日本で発明されたのは事実だ。東芝の自動式電気釜「ER-4」は1955年12月10日に発売された。開発は1953年に始まり、東芝の関連会社・光伸社の三並義忠らが約3年かけて仕上げた。発売から4年後には、日本の家庭の約半数に広がっている(発明推進協会「戦後日本のイノベーション100選」)。

ボタンでふたが自動で閉まる機能は、象印が「業界初」とうたった「スマートクローズ」だ(象印)。値段の差もおおむね合っている。中国の炊飯器のネット販売の平均価格は243元(約5,700円、2024年1〜8月・奥維雲網のデータを使った華西証券の資料)。日本の最上位機は10万円前後で(日本経済新聞)、その17倍にあたる。

違ったこと

炊飯器の年表がずれている。回答者は「1953年に加熱だけの炊飯器、1973年に知能化した炊飯プログラム、1985年にIH、1993年に圧力」と書いた。日本電機工業会の年表では、マイコン炊飯器が1979年、IH炊飯器が1988年、圧力IH炊飯器が1992年だ(日本電機工業会)。1953年は発売の年ではなく、東芝が開発を始めた年にあたる。回答者自身、別の箇所では「1955年に発明」と書いている。

「6年前の炊飯器」も違う。象印のNW-AT10は2017年6月21日の発売で(象印)、回答が書かれた2020年7月の時点では3年前の機種だった。

「74℃を下回ると老化する」は逆さまだ。炊飯器の保温は、ほとんどが約60〜74℃に設定されている。60℃を下回ると雑菌が増え、74℃を上回るとご飯が黄ばむからだ(パナソニック)。でんぷんの老化がいちばん進むのは0〜5℃、つまり冷蔵庫の中で、60℃以上ではむしろ進みにくい(農畜産業振興機構)。

「日本は最南端でも北緯31度」も違う。北緯31度は九州本土の南端あたりで、日本の最南端の沖ノ鳥島は北緯20度25分にある(国土地理院)。

確かめられなかったこと

肝心の「日本の炊飯器はインディカ米が苦手」は、確かめられなかった。日本の炊飯器でインディカ米を炊き比べた公開データは見つからなかった。回答者が載せた会話の画面には、相手が「パナソニックの2,000元(約4万7,000円)台の炊飯器には長粒米の機能がある」と答える場面がある。

12年後の答え合わせ

「日本から抱えて帰る」ブームは、とうに終わっている。裕福な中国人が親戚の分まで高級炊飯器を買い込んだ2014〜15年のブームは、2016年ごろに下火になった。中国の持ち込み品の免税枠は5,000元(約11万8,000円)で(中国新聞網)、税関の取り締まりも厳しくなった(Wedge)。

日本メーカーの中国の売上も落ちている。象印の中国での売上は2022年の約89億円から、2025年は54億円(見込み)に減った。理由は「個人消費の低迷」だという(象印 中期経営計画)。2026年上半期の訪日中国人は205万8,200人で、前年より56.4%少ない。首相の台湾をめぐる発言をきっかけに、中国政府が日本への渡航を控えるよう呼びかけたためだ(nippon.com)。

そして「国産でも日本製に劣らない」という2014年の声に、中国企業は資本でも答えた。自動式電気釜を生んだ東芝の家電部門は、2016年に美的が株式の80.1%を買い取った(第一財経)。象印の筆頭株主は、中国の家電大手ギャランツ(格蘭仕)の創業家側で、2022年時点で15.51%を持つ(日本経済新聞)。中国のネット販売では、美的・蘇泊爾(SUPOR)・九陽の3社が台数の66%を占める(華西証券)。象印はいま、家庭ではなく中国の飲食店に業務用炊飯器を売り込み、2027年度までに6,000店へ広げる計画だ(日本経済新聞)。

日本側のデータ

炊飯器の年表と、日中の数字

自動式電気釜1955年 東芝ER-4(開発開始は1953年)
マイコン炊飯器1979年
IH炊飯器1988年
圧力IH炊飯器1992年
日本の出荷台数(2025年度)449.6万台・IH式が7割台
中国の市場(2022年の推計)年5,700万台・IHは6%、圧力IHは3%
家庭用の電圧日本100V/中国220V
象印の中国での売上約89億円(2022年)→54億円(2025年・見込み)

出典:日本電機工業会・発明推進協会・日本家庭電化製品修理業協会(JEMA統計)・Wedge・Mains electricity by country・象印

日本視点

回答者の見立てのうち、日本人がいちばん気づきにくいのは「日本の炊飯器は日本の米のためにある」という点だろう。日本の炊飯器は、ほとんどジャポニカ米しか炊かない国で、その米をおいしく炊くために磨かれてきた。日本人は、それが「偏り」だとは思わない。インディカ米を毎日食べる人から見れば、日本の高級炊飯器は「東北の米専用の道具」に見える。

高級炊飯器が当たり前なのも日本の事情だ。日本では出荷される炊飯器の7割以上がIH式で、10万円前後の機種が毎年のように出る。2022年の推計では、中国の炊飯器は年5,700万台と日本の10倍を超える一方、IHは1割に満たない。「日本製と国産を比べるな」という2014年の反発は、土台の違うものを比べることへの苛立ちでもある。

状況も動いた。象印の中国ビジネスは「旅行者が日本で買って持ち帰る」から、「中国の飲食店に置いてもらう」へ移りつつある。「日本から持ち帰る炊飯器」は、2015年ごろの一時期の姿だった。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:1955年の発明、象印の自動で閉まるふた、日中の大きな値段の差。
  • ずれている:IHと圧力IHの年、「6年前の機種」、74℃と老化の関係。
  • 確かめられない:日本の炊飯器がインディカ米に弱いかどうか。
  • 変わった:持ち帰りブームは終わり、中国企業が日本の炊飯器メーカーの株主になった。

日本人にとっての学びはこうだ。中国人から見ると、日本の炊飯器のすごさは「どんな米でもおいしく炊けること」ではなく、「日本の米だけを、とことんおいしく炊けること」にある。日本人が当たり前に思っている炊飯器は、一つの米のために作り込まれた道具なのだ。

関連書籍

回答者が「看板の技術より、炊き方の手順こそが本質だ」と訴えた電気釜。その電気釜がおいしいご飯を炊けるようになるまで、日本の技術者がどこに目をつけ、どんな工夫を重ねてきたのかをたどる本です。

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まとめ

  • 知乎で194万回近く読まれた「日本の炊飯器は何がいいのか」。最多賛同の開発者は「ジャポニカ米なら象印とタイガーは一流、インディカ米はひどい」と答えた
  • 炊飯器が1955年に日本で生まれたのは事実。だがIHや圧力IHの年、「6年前の機種」、保温と老化の話は食い違った
  • 「日本から持ち帰る」ブームは終わり、象印の中国の売上は減った。中国企業は東芝の家電部門を買い、象印の筆頭株主になっている

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