中国最大の質問サイト「知乎」に、「日本の学生はなぜみんな弁当が好きなのか?学校に食堂はないのか?」という質問がある。閲覧280万回、回答103件。
アニメやドラマで日本の学生が弁当を広げる場面を見て、中国の人が抱いた素朴な疑問だ。ところが回答欄は、やがて「なぜ子どもに冷たい弁当を食べさせるのか」という議論で埋まっていった。
元投稿
質問:日本学生为什么都那么喜欢吃便当呢?学校没有食堂吗?
(日本の学生はなぜみんな弁当が好きなのか?学校に食堂はないのか?)
知乎/フォロワー1,239・閲覧2,802,563回・回答103件
→ https://www.zhihu.com/question/303091179
回答者:毛毛
投稿日:2018年11月24日
賛同1,724・コメント238
→ 回答ページ
大多数公立学校都是有食堂的。——或者说,有厨房?由值日生把食物从厨房(或中央厨房来的卡车上)把食物搬去教室分给大家吃。
公立学校の大半には食堂がある。いや、厨房というべきか。当番の生徒が厨房(あるいは給食センターから来たトラック)から食べ物を教室へ運び、みんなに配る。
回答者は続けて、献立は栄養士が月ごとに作ってカロリーまで書いてあること、費用は月に1〜2百元ほどで、低所得の家庭は払わなくていいことを説明している。そして、弁当が必要になるのは別の場所だと書いた。
私立学校一般都是没有给食的,需要家长带便当。……渐渐的,便当发展成妈妈们的比拼活动。
私立学校にはたいてい給食がなく、親が弁当を持たせる必要がある。……そのうち弁当は、母親どうしの競い合いになっていった。
ほかの回答
叶佳桐(2018年12月28日・賛同1,191・コメント130)
→ 回答ページ
首先日本动画里还是有很多好吃的便当的。因此才会让大家产生错觉,以为全都是在吃便当。
まず、日本のアニメにはおいしそうな弁当がたくさん出てくる。だからみんな、日本の学生は全員弁当を食べていると錯覚するのだ。
蓮田水生(2018年11月22日・賛同868・コメント236)
→ 回答ページ
この回答者は、自分の回答のコメント欄が荒れたことを追記で書いている。
本来题主问为什么日本学生爱吃便当,评论区变成了声讨为什么日本人要吃(让孩子吃)冷便当的大会。……他们世世代代吃凉饭,带便当的习惯已经有几十年了,为什么要用中国胃去揣测人家呢?
質問は「日本の学生はなぜ弁当が好きか」だったのに、コメント欄は「なぜ日本人は(子どもに)冷たい弁当を食べさせるのか」を糾弾する大会になってしまった。……彼らは代々冷たいご飯を食べてきて、弁当の習慣は何十年も続いている。なぜ中国人の胃袋で日本人を推し量るのか。
そして、温かいまま詰めればいいという意見にはこう答えた。
强调一下这是不可以的,目的是防止食物中毒。热饭菜放在封闭的饭盒里慢慢冷却……25~40度加潮湿的环境,最利于细菌滋生,便当放4小时以上就很危险了。
はっきり言っておくが、それはだめだ。食中毒を防ぐためだ。温かい料理を密閉した弁当箱の中でゆっくり冷ますと……25〜40度で湿った環境は細菌がいちばん増えやすく、4時間以上置いた弁当は危険になる。
裏取り
確認できたこと
文部科学省「学校給食実施状況等調査」(令和5年5月1日現在)完全給食の実施率・学校数ベース
| 公立小学校 | 99.5% |
| 公立中学校 | 97.1% |
| 私立小学校 | 43.4% |
| 私立中学校 | 8.2% |
出典:文部科学省(第2表)
1本目の回答は正確だった。公立の小中学校はほぼ全校が給食で、弁当が要るのは私立だ。私立中学校で給食がある学校は1割に満たない。
この調査が対象にしているのは、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程、特別支援学校、それに夜間定時制の高校だ。全日制の高校は対象に入っていない。
弁当を冷ましてから詰めるのは食中毒対策。農林水産省は「ごはんやおかずが温かいうちに盛りつけてしまうと、蒸気がこもって水分となり、傷みの原因となってしまいます」と注意を呼びかけている(農林水産省)。3本目の回答者の説明と一致する。
確認できなかったこと・事実と変わったこと
「梅干しは細菌を防ぐために入れる」は確認できなかった。3本目の回答にある説明だが、上記の農林水産省のページには抗菌食材についての記述がない。
「アニメを見て錯覚した」は回答者の見立てであり、数字で確かめられるものではない。
給食費の話は古くなった。1本目の回答は「低所得の家庭は払わなくていい」と書いたが、2026年4月からは公立小学校の給食費が所得に関係なく実質無償化され、国が児童1人あたり月5,200円を支援している(リセマム)。回答は2018年のものだ。
日本視点
この質問は、前提そのものが半分ずれていた。日本の学生の昼食は、小中学校なら給食で、弁当は私立か、給食の制度がない全日制の高校のものだ。
そして日本のアニメや青春ドラマの舞台は、たいてい高校だ。屋上で弁当を広げる場面は、給食の制度がない場所で起きている。中国の人が見ていた「日本の学生」は、高校生という、日本の学校のなかでも給食がない一角だった。
冷たい弁当への反発にも理由がある。中国では、温かい食事を体にいいものとする感覚が根強い。その感覚から見れば、子どもに冷めたご飯を食べさせるのは不思議に映る。
ただ日本側の理由は「習慣」だけではない。温かいまま蓋をすると蒸気がこもって傷む。冷ますのは衛生のためだ。蓮田水生さんは、それを中国の読者に向けて説明していた。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:公立は給食、私立は弁当という1本目の説明。私立中学校の完全給食の実施率は8.2%で、数字どおりだった。
- 当たっている:冷ましてから詰めるのは食中毒対策という3本目の説明。農林水産省の注意喚起と一致する。
- ずれている:質問の前提。「日本の学生はみんな弁当」ではなく、弁当が主役なのは高校と私立だ。
日本人にとっての学びはこうだ。日本人がいちばん当たり前だと思っている給食は、海外にはほとんど知られていない。代わりに流通しているのは、アニメが描いた高校生の弁当だ。
日本の学校給食がどう生まれ、どう変わってきたのか。中国の読者が知らなかった「当たり前」の側の歴史です。
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まとめ
- 知乎で280万回読まれた「日本の学生はなぜ弁当が好きか」は、前提がずれていた。公立の小中学校はほぼ全校が給食だ
- 弁当が主役なのは私立と全日制の高校。アニメの舞台が高校であることが、中国側のイメージをつくった
- 冷たい弁当は習慣であると同時に食中毒対策でもある。それを中国人の回答者が中国の読者に説明していた
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