中国最大の質問サイト「知乎(Zhihu)」に、「日本ではなぜ安心して小学生を一人で登下校させられるのか」という質問がある。閲覧742万回、回答1,195件。
最も賛同を集めているのは、日本で子育てをしている中国人の母親の回答だった。彼女が挙げたのは、子どもの自立心ではなく、8つの仕組みだった。
元投稿
質問:在日本为什么放心让小学生自己上下学?
(日本ではなぜ安心して小学生を一人で登下校させられるのか)
知乎/フォロワー2,339・閲覧7,423,175回・回答1,195件
→ https://www.zhihu.com/question/401542763
回答者:南木香(プロフィール「第一手真例实案:日本移民・经营管理签证・房产投资」)
投稿日:2020年6月23日(翌24日に追記)
賛同3,959・コメント466
→ 回答ページ
日本的小学生不让接送,从小学一年级入学开始,就要求自己上学自己放学。当然,一年级头几天,不放心,娃爹曾偷偷跟在后面(保持10米)。
日本の小学生は送り迎えをしない。1年生の入学の時点から、自分で登校し自分で下校することが求められる。もちろん1年生の最初の数日は心配で、うちの夫はこっそり後ろをついて歩いていた(10メートルの距離を保って)。
彼女が挙げた8項目は、学区制/通学路の指定/通学路の路面表示と歩道橋/ボランティア・PTA・警察の見守り/交通安全教育/時差下校/保護者への情報配信/こども110番だった。通学路についてはこう書いている。
选好路线——画好从家到学校的路径——不申请变动的话,今后六年都是同一条路线。
経路を選び、家から学校までの道筋を描く。変更を申請しない限り、この先6年間ずっと同じ経路だ。
そして、見守りについて。
早上的上学路上,只是家长不送,但并不代表没有大人盯着。
朝の通学路は、親が送らないだけで、大人が見ていないわけではない。
最後に、こども110番の家をこう表現した。
利用人民群众的汪洋大海,织起一道绵密的安全保护网。
人民大衆という大海を使って、すきまのない安全の網を織り上げている。
日本の子ども見守りを、中国の政治用語で言い換えている。この一行に、この回答が中国人に向けて書かれたものだということが出ている。
ほかの回答
賛同を集めた回答は、称賛一色ではない。
一个爱较真的boy(2020年6月23日・賛同1,144)
→ 回答ページ
你以为的自己上下学:小朋友独立自主,完全靠自己。真实的自己上下学:多功能gps一键报警书包+老头老太太志愿者跟警察站在铁轨和所有学校附近的路口立大牌子并指挥交通。
あなたが思っている「一人で登下校」は、子どもが自立していて、完全に自分の力でやっているというもの。実際の「一人で登下校」は、GPSと非常ボタンつきの多機能ランドセル+じいさんばあさんのボランティアが警察と一緒に線路や学校近くの交差点に大きな看板を立てて交通整理をしている、というものだ。
锦木千束(2024年6月18日・賛同2,754・コメント686)
→ 回答ページ
この回答者は、日本と中国それぞれの「子どもの横断」を映した対外宣伝動画を並べている。日本側は小学生が手を挙げると車が止まり、渡り終えた子が振り返ってお辞儀をする動画。中国側は集団横断の途中で信号が変わり、子どもたちが車の流れに取り残される動画だった。
就算是摆拍,双方的想象力都完全不在一个级别。
たとえやらせだとしても、双方の想像力はまるで別次元だ。
裏取り
確認できたこと
通学路は制度として実在する。2021年の事故を受けて、文部科学省・国土交通省・警察庁が全国の市町村立小学校の通学路について合同点検を要請し、対策が必要な箇所が76,404箇所抽出された。うち教育委員会・学校が対応すべき箇所は37,862箇所(文部科学省「通学路における合同点検の結果について」)。行政が点検する対象として通学路が定義されている。
こども110番の家も実在する。警察庁が「子ども110番の家 地域で守る子どもの安全対応マニュアル」を公表しており、通学路沿いや公園の近くに設置される(警察庁)。
確認できなかったこと・事実と違うこと
「送り迎えが認められていない」は言いすぎ。送迎を禁じる法令はない。学校ごとの方針や地域の慣行であって、全国一律の決まりではない。
黄色いランドセルカバー、防犯ブザーの配布、PTAの旗振り当番は、自治体や学校ごとの取り組み。広く行われてはいるが全国一律の制度ではなく、回答者の地域での実施は本人の証言以上には確認できなかった。
日本視点
仕組みがあるのは事実だ。ただし完成しているわけではない。
内閣府『令和7年交通安全白書』(令和2〜6年の5年合計)によると、小学生の交通事故死者・重傷者のうち歩行中が1,875人で55.6%を占める。学齢別では1年生446人、2年生453人が突出し、3年生以降は学年が上がるほど減っていく。
そして通行目的別を見ると、登校中232人(12.4%)に対して、下校中は484人(25.8%)。下校が登校のちょうど2倍だ。時間帯も14〜15時台が最も多い(内閣府)。
南木香さんが書いた見守りは、原文でも「早上的上学路上(朝の通学路)」に厚い。旗振り当番も、登校時の交差点に立つ。データは、薄いのは帰り道だと示している。
その「通学路」で何が起きたか
2021年6月28日午後3時半すぎ、千葉県八街市。下校中の児童の列に、飲酒運転のトラックが突っ込んだ。2人が死亡し、3人が負傷した。
現場は幅約7メートルの直線道路で、歩道もガードレールも路側帯もなく、交通量が多いのに信号もなかった。そこは通学路だった。それでも市教育委員会は、危険箇所として把握していなかった。PTAは2008年と2014年にガードレールの設置を要望していた。運転手は危険運転致死傷罪で懲役14年の実刑となった。
先に挙げた76,404箇所は、この事故のあとに数え直して出てきた数字だ。制度は最初から整っていたのではなく、子どもが死ぬたびに作り直されてきた。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:通学路という制度があり、地域の大人が関わる仕組みが実際に動いている。中国の回答者が「子どもの自立」ではなく「大人が作った網」として見ているのは正確だ。
- ずれている:それが完成した安全装置のように読めるところ。小1の歩行中死傷が突出し、下校中が登校中の2倍という現実は、網に穴があることを示している。
日本人にとっての学びはここだ。日本人はこの話を「子どもの自立」として語りがちだが、中国の人は「大人が作った仕組み」として読んでいる。同じ光景を見て、見ている場所が違う。
そして、より正確なのは後者のほうだ。八街の市道には自立心では足りなかった。足りなかったのはガードレールだった。
この記事で見たのは、中国の人が日本の仕組みをどう読むかという一例です。同じ視線が暮らしの他の場面にも向いています。
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まとめ
- 知乎で742万回読まれた質問に、日本在住の中国人の母親が8つの仕組みを挙げて答え、3,959の賛同を集めた
- 中国の読者は日本の一人通学を、子どもの自立ではなく大人が張った網として見ている
- その網は朝に厚く、帰りに薄い。下校中の死傷者は登校中の2倍で、通学路の点検は子どもが死んだあとに始まった
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