中国人「日本人が疲れているのは、北欧と比べての話だ。中国と比べれば、2015年以降、日本のほうがずっと楽だ」

中国の質問サイト「知乎」に、2021年8月から答えが集まっている質問がある。「日本はこれほど発達しているのに、なぜ多くの日本人が疲れていて、息苦しそうに見えるのか」。閲覧は72万回、回答は117件。上位3回答のうち2つは、日本そのものより「中国と比べて」答えていた。

労働時間、夏の服装、見知らぬ人への助け合いを、厚生労働省・中国の国家統計局・イギリスの慈善団体の調査で答え合わせした。

元投稿

質問:日本已经那么发达了,为什么感觉很多日本人还是活的很累很压抑?(日本はこれほど発達したのに、なぜ多くの日本人はまだ疲れて息苦しそうなのか)
知乎/2021年8月19日/フォロワー535・閲覧721,876回・回答117件
→ https://www.zhihu.com/question/480924918

最多賛同の回答「日本人が疲れているのは、北欧と比べての話だ」

回答者:随便
投稿日:2022年8月24日
賛同1,839・コメント372
→ 回答ページ
前半は東洋と西洋の思考の違いを論じる長い文章で、最後に質問への答えが置かれている。

日本人活得累,是相对于欧洲人,特别是北欧高福利国家而言的。但是相对于中国而言,从我个人的生活经验看(答主在那边工作过一两年),我个人感觉日本还是要轻松一些,特别是2015年之后,这个差距越来越明显。

日本人が疲れているのは、ヨーロッパ、とくに北欧の高福祉国家と比べての話だ。中国と比べるなら、日本で1〜2年働いた自分の経験では、日本のほうが楽で、2015年以降はその差がどんどん広がっている、と書く。

如果我们的物价和收入增长水平,还有工作时长能回到2008年左右的水平的话,或许还能说日本人比我们累。但今天和以往确实有点不大一样了,我们现在可能比香港人都累,更别说日本了。

物価と収入の伸び、労働時間が2008年ごろの水準に戻るなら、日本人のほうが疲れていると言えるかもしれない。でも今は違う。中国は香港の人よりも疲れていて、日本はなおさらだ、と結ぶ。

この回答の大半は、東洋人が「役に立つ研究」ばかりして、西洋人が「面白いから研究する」ために科学で遅れた、という歴史の仮説だ(秦の焚書坑儒以降に人口が増え続けた、など)。質問への答えは、上の最後の部分だけである。

ほかの回答1「東アジアは全員、紙でできた枷から逃れられない」

回答者:myaochin
投稿日:2021年9月27日
賛同975・コメント560
→ 回答ページ

反正个人认为日本卷的更严重,我们这卷的多是回报而不是付出,日本相反卷的多是付出,这个付出可没有说的那么轻松。

個人的には、日本のほうが「卷」(過当競争)がひどいと思う。中国は見返りを巡る卷が多く、日本は「付ける努力」の卷が多い。その努力は言われるほど楽ではない。

在日本,上班滑着手机的物业前台,临时停业或者手续流程的相关规定从不更新的官方网站,桃子上玻璃纸扯下来胶还粘在果皮上的nc商标粘贴,一切大大小小的不到位在日本都挺少见的。

日本では、勤務中にスマホをいじる管理人、臨時休業や手続きの案内を更新しない公式サイト、桃の透明フィルムをはがしたら果皮に糊が残るシール。そうした大小の「行き届かなさ」が、日本ではめったにない、と回答者は言う。

而在东京大手企业的精英照样提着个低调奢华的手提包挤地铁通勤。……一到夏天就要搞节电之夏,日本人的职业面貌还特别正,公务部门带头打着领带汗流浃背。

東京の大手企業のエリートも、控えめな高級バッグを提げて満員電車で通勤する。夏は節電の夏で、公務の職場が率先してネクタイを締め、汗だくになる、と描く。

さらに回答者は、悲劇の原因を「国民性」に求め、日本も中国も、同じ東アジアの苦しみの中にいると見ている。

ほかの回答2「日本人の人間関係は冷たい。礼儀は表面だけだ」

回答者:日本狸猫田中裕之(オンライン日本語講座の代表)
投稿日:2021年8月23日
賛同256・コメント61
→ 回答ページ
日本人の回答者が、日本人として答えている。

因为日本人际关系很冷漠,日本人只是表面上讲礼貌,难以找到朋友,困难的时候没有人帮助你。日本人朋友之间如果麻烦了对方,明天以后没有人理你了。

日本人の人間関係は冷たいからだ。礼儀正しいのは表面だけで、友達ができにくく、困っても誰も助けてくれない。友達に迷惑をかけたら、翌日から誰も相手にしてくれなくなる。

一般来说,中国人对素不相识的人既没有礼貌又冷淡,但人际关系的距离缩短得很快,一旦成为同伴就会相当献身,要求对方也有同样的献身。与此明显对比的是,日本人对关系很好的朋友也会产生心理上的隔阂,想要保持距离。

中国人は知らない人には礼儀もなく冷たいが、距離が一気に縮まり、仲間になると身を尽くし、相手にも同じことを求める。日本人は、仲のいい友達にも心理的な壁を作って距離を保つ。回答者は「日本人は親しい人にも壁を作り、知らない人には丁寧に接する」という対比をした。理由は、読書と思考の末にいつか知乎で発表したい、と書いて回答を終えている。

裏取り

確認できたこと

「日本のほうが中国より楽だ」は、労働時間でも確かめられる。厚生労働省の令和6年(2024年)の「毎月勤労統計調査」では、1人あたりの月間総実労働時間は、全体で136.3時間、一般労働者で161.6時間、パートタイム労働者で79.9時間。週あたりに直すと(月÷4.33)、一般労働者は約37.3時間になる(厚生労働省)。中国の国家統計局は、全国の企業就業者の週平均労働時間を49.0時間と発表している(2024年12月の発表・国家統計局)。調べた範囲が違い(日本は従業員5人以上の事業所の常用労働者、中国は企業就業者)、集計の仕組みも違うので、そのまま引き算はできない。それでも、回答者の「中国のほうが長く働いている」は、方向としては統計と合っている。

週あたりの労働時間の比較。日本の全体31.5時間、日本の一般労働者37.3時間、中国の企業就業者49.0時間の横棒グラフ
週あたりの労働時間(日本は月間の総実労働時間÷4.33で換算・令和6年/中国は企業就業者の週平均・2024年12月)。調査の範囲が違うため、目安として見る(出典:厚生労働省・国家統計局)

日本人が見知らぬ人を助けない、というのは、国際調査にも出ている。イギリスの慈善団体CAFの「世界寄付指数」(2024年版・2023年のデータ)で、「過去1か月に知らない人を助けた」と答えた日本人は21%。142か国中142位、つまり最下位だった(CAF・Japan Today)。田中さんの「困っても誰も助けてくれない」という感覚と、方向は重なる。

違った・ずれていたこと

「公務の職場が率先してネクタイを締め、汗だくになる」は、いまの日本には当てはまらない。環境省は2005年の夏から「クールビズ」を提唱し、ネクタイや上着を着けない夏の軽装を、政府として勧めてきた(国立環境研究所)。myaochinさんの描いた光景は、20年前の日本に近い。

確かめられなかったこと

「日本の卷は付ける努力のほうが多い」「日本では行き届かなさがめったにない」は、個人の印象で、統計では確かめられない。「大手企業のエリートも満員電車で通勤する」も同じだ。随便さんの東洋と西洋の歴史の仮説(焚書坑儒以降の人口増加が思考の自由を奪った、など)は、仮説として興味深いが、数字や資料では確かめられない。田中さんの「友達に迷惑をかけると翌日から誰も相手にしない」は、日本人1人の見立てだ。

日本側のデータ

この質問の答え合わせに使った数字

日本の月間総実労働時間(令和6年)全体 136.3時間/一般労働者 161.6時間(週約37.3時間)/パート 79.9時間
中国の週平均労働時間(企業就業者)49.0時間(国家統計局・2024年12月の発表)
クールビズ環境省が2005年の夏から提唱。ネクタイ・上着を着けない軽装
「過去1か月に知らない人を助けた」日本 21%(142か国中 142位・CAF世界寄付指数2024)

出典:厚生労働省・国家統計局・国立環境研究所・CAF

日本視点

この質問には、日本人が読むと意外な点がある。上位の答えが、日本を「疲れている」と決めつけず、「何と比べて疲れているのか」を答えの中心に置いていることだ。北欧と比べれば疲れているが、中国と比べれば楽だ、という見方は、数字(週37.3時間と49.0時間)からも、方向として支えられる。

一方で、日本人にとって痛いのは、田中さんの指摘が国際調査と重なっていることだ。見知らぬ人を助けた日本人は21%で、世界最下位。日本の「疲れ」は、働く時間より、困ったときに頼れる相手が少ない、という見えにくい負担に出ているのかもしれない。礼儀正しさと、助けの届きにくさは、同じ国の表と裏だ。

また、myaochinさんが描いた「ネクタイで汗だくの公務員」は、20年前の日本のイメージが中国側で更新されていないことを示している。日本が変わったことを、回答者自身も外から見ていない。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:中国の労働時間のほうが長いこと(週49.0時間と37.3時間・範囲は違う)、見知らぬ人を助けた日本人が21%で最下位なこと。
  • ずれている:「公務の職場が率先してネクタイを締める」(クールビズが2005年から)。
  • 確かめられなかった:日本の卷は付ける努力が多い、行き届かなさがめったにない、東洋と西洋の歴史の仮説、友達に迷惑をかけると翌日から誰も相手にしない。

日本人にとっての学びはこうだ。「日本人は疲れているか」という問いの答えは、何と比べるかで変わる。中国と比べれば楽でも、困ったときに頼れる人が少ないという疲れは、数字にも出ている。

関連書籍

日本社会が息苦しい理由を、演出家・作家の鴻上尚史さんが「同調圧力」から読み解いた本です。田中さんの「表面は礼儀正しい」という指摘の背景を考える手がかりになります。

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まとめ

  • 知乎で72万回読まれた「日本はなぜ疲れて見えるのか」。上位の回答は、「北欧と比べればそうだが、中国と比べれば日本は楽だ」「東アジアは全員苦しい」「人間関係が冷たい」と答えた
  • 裏取りでは、日本の一般労働者が週約37.3時間、中国の企業就業者が週49.0時間で、方向は回答のとおり。見知らぬ人を助けた日本人は21%で142か国中最下位。一方、「公務員が率先してネクタイを締める」は2005年のクールビズ以前の姿
  • 「付ける努力の卷」「行き届かなさが少ない」は個人の印象で、東洋と西洋の歴史の仮説も数字では確かめられない

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