中国の質問サイト「知乎(ジーフー)」で、146万回以上読まれた質問がある。「同じ残業大国なのに、日本の残業と中国の996は何が違うのか」。996とは、朝9時から夜9時まで、週6日働くこと。IT企業に広がった働き方だ。
質問が立ったのは2019年4月5日。中国で996への抗議が広がった直後で、日本では残業に罰則つきの上限ができた4日後だった。日本の会社で働いた中国人たちの答えと、7年後の両国の残業を確かめた。
元投稿
質問:同为加班大国,日本的加班和中国的996相比有何异同?
(同じ残業大国として、日本の残業と中国の996には、どんな違いと共通点があるのか)
知乎/2019年4月5日/フォロワー1,354・閲覧1,460,142回・回答150件
→ https://www.zhihu.com/question/318857082
最多賛同の回答「日本の残業を減らしたのは、会社の良心ではなく過労死の代償だ」
回答者:排骨(南京の国際学校の副校長で、日本コースの責任者。日本からの帰国組)
投稿日:2019年4月6日(7日に追記)
賛同2,371
→ 回答ページ
回答者はまず、日本の法律は1日8時間・週40時間と定めるが、会社は管理職扱いなどで抜け道を作れるので、法律は働かせ方を取り締まれないと書く。そこで日本は「結果で取り締まる」ことにしたという。
2011年日本劳动法严格了对过劳死的认定:即在出现身体状况问题前1个月工作加班超过100小时,或者2-6个月内有一个月超过80个小时的加班,即可认定为过劳,公司负有不可推卸的责任。换句话说,如果一个公司敢推行996工作制,那就等于一个月工作12*6*4=288个小时,比正常工作时间超过128个小时,足以构成过劳死的认定。
2011年、日本は過労死の認定を厳しくした。体を壊す前の1か月に100時間を超える残業、または2〜6か月のうち1か月に80時間を超える残業があれば過労と認められ、会社は責任を逃れられない。言いかえれば、996を敷く会社は、ひと月に12×6×4=288時間働かせることになる。通常より128時間多く、それだけで過労死と認定されうる。
例に挙げたのは、2015年に電通の新入社員が月100時間超の残業の末に亡くなった件だ。社長は辞任し、罰金を科され、「賠償金は1億円を超えた」。代償が残業の利益よりはるかに大きいから、大企業は残業を厳しく管理するようになったという。
所以,指望企业来约束自己是不现实的。发达国家之所以有这么完善的法律环境和轻松的工作条件就是因为这些都是企业早就经历过的,如果不能在法律层面做出规定,指望企业那是不可能的。
だから、企業が自分で自分を縛ると期待するのは現実的ではない。先進国の法律が整い、働く環境がゆるやかなのは、企業がそういう痛みをとっくに経験してきたからだ。法律で決めなければ、企業に期待しても無理だ。
回答者は、大企業ほどルールを守るが、小さな会社は「生き残るために残業が必要なこともある」とし、こう書き添えた。「私はもう5か月、土日に休んでいない。もちろん自分から望んで残業している」。
日系企業で十数年働いた人の回答「日本の残業は自分から、中国の996は強いられたものだ」
回答者:Lance(日本とフランスで働くビジネスマン。いまは大阪勤務)
投稿日:2019年4月9日
賛同977
→ 回答ページ
最大的不同是日本的加班大半是主动的,中国的996是被迫的。
日本员工的加班,绝大多数情况下,是为了做出一个态度给公司,给领导看。
明明没什么事情,就是不走,明明4个小时能干完的活,非要拖到用12个小时干完,谁效率越低越牛逼。
いちばんの違いは、日本の残業は大半が自分からで、中国の996は強いられたものだということだ。
日本の社員の残業は、ほとんどの場合、会社や上司に「姿勢」を見せるためのものだ。
用事がないのに帰らない。4時間で終わる仕事を12時間かけてやる。効率が悪いほど偉い。
上司は「部下より先に帰れない」と思い、部下は「上司が残っているのに帰れない」と思う。こうして全員が「デッドロック」に陥る。
ところが過労死の認定が厳しくなると、日本は「極端から極端へ」振れた。回答者の会社(製造業)では、パソコンの起動と終了の記録で出退勤を測り、月の残業が36時間を超えると本人に自動で警告メールが届き、50時間を超えると上司が人事から警告を受ける。
国内实施996的公司们可就不一样了。就摆出一张牛逼哄哄的脸,要么996要么滚。
我大华为,大京东,大阿里就是这么牛逼,市面上找三条腿的蛤蟆难,找两条腿的人还不容易吗。
中国で996をやっている会社は、まるで違う。偉そうな顔をして「996が嫌なら出ていけ」だ。
ファーウェイも、京東(ネット通販大手)も、アリババも、そういう態度だ。三本足のカエルは見つけにくいが、二本足の人間ならいくらでもいる、というわけだ。
中国の日系企業にいた人の回答「日本の会社では、残業すると上司が反省文を書かされた」
回答者:匿名ユーザー
投稿日:2019年4月8日
賛同15
→ 回答ページ
我以前在日企工作的时候,也有加班。但是首先我会有加班费,其次加班要扣部门主管的绩效,项目结束后要开总结会,检讨为什么加班。
最惨的一个月,我报了180个小时的加班,拿到了3倍多工资。研发部课长的书面检查抄送全部门。
以前、日系企業で働いていたときも残業はあった。でもまず残業代が出る。次に、残業は部門の責任者の評価から引かれる。プロジェクトが終わると反省会があり、なぜ残業したのかを検討する。
いちばんひどかった月は180時間の残業を申告し、給料の3倍以上をもらった。開発部の課長の反省文は、部署全員にCCで送られた。
回答者は「すべての日系企業がそうではない。でも中国の会社で、こんなことをするところは見たことがない」と書く。
裏取り
確認できたこと
過労死ラインの数字は正しい。脳・心臓の病気の労災認定では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月にわたって月おおむね80時間を超える残業があれば、業務との関連が強いとされる(厚生労働省)。
電通の件も、大筋では合っている。2015年12月に亡くなった新入社員は2016年に労災と認められ、直前1か月の残業は約105時間とされた(毎日新聞)。社長は2017年1月に辞任し(Bloomberg)、会社は同年10月、労働基準法違反で罰金50万円の判決を受けた(日本経済新聞)。
中国の996は、法律上はもともと違法だ。中国の労働法は、残業を長くても1日3時間・月36時間までとしている。2021年8月、人力資源社会保障部(日本の厚労省にあたる)と最高人民法院は、996を「法律の上限に著しく反する」とする事例を公表した(最高人民法院)。

違ったこと
「2011年に過労死の認定が厳しくなった」は、年も中身もずれている。「過労死ライン」ができたのは2001年12月だ(厚生労働省)。2011年12月に定められたのは、うつ病など精神障害の認定基準だった(厚生労働省)。また80時間は「2〜6か月のうちどこか1か月」ではなく、「2〜6か月の平均」で見る。
「法律は働かせ方を取り締まれない」も、回答の時点でもう古かった。回答が書かれる5日前の2019年4月1日、大企業で残業の上限規制が始まっていた。原則は月45時間・年360時間。特別な事情があっても1か月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内で、破れば6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金だ(厚生労働省)。過労死ラインが、そのまま上限になった。
「電通の賠償金は1億円を超えた」は、別の事件と混ざっている可能性が高い。2015年の件で1億円を超える賠償の記録は見つからなかった。1億円を超えたのは1991年に入社2年目の社員が過労自殺した件で、2000年に1億6,800万円で和解している(電通事件)。
確かめられなかったこと
Lanceの会社の警告の仕組みや、匿名ユーザーの「180時間の残業」は、個別の会社の話で確かめようがない。「日本の残業の大半は自分から」を裏づける統計も見つからなかった。
7年後の答え合わせ
中国では、996は違法とはっきりしたが、働く時間は延びた。企業で働く人の週平均の労働時間は、2020年1〜8月の45.1時間から、2023年4月には20年で最長の48.8時間になった(RFA)。2025年は48.6時間と9年ぶりに下がったが(国家統計局)、2026年8月も48.2時間と、法定の週40時間を大きく上回っている(国家統計局)。
変化もある。2025年2月、ドローン大手のDJIは夜9時の「強制退社」を始め、家電大手の美的は終業後の会議や形だけの残業を禁じた(界面新聞)。

日本では、働く時間は確かに減った。日本の年間労働時間は2019年の1,644時間から2025年は1,598時間に(OECD)。週60時間以上働く雇用者は6.5%から4.6%(2024年)に下がり(厚生労働省)、有休の取得率は52.4%(2018年)から66.9%(2024年)と過去最高になった(厚労省2019年調査・2025年調査)。
ただし、仕事のストレスによる精神障害の労災認定は2024年度に初めて1,000件を超えた(人と仕事研究所)。そして2025年10月、高市首相は「労働時間規制の緩和」の検討を指示し(日本経済新聞)、労働基準法の改正案も2026年の国会提出が見送られた(日本経済新聞)。7年前に「極端から極端へ」振れた日本の振り子は、いま少し戻ろうとしている。
日本の残業のルールと、7年間の変化
| 法定労働時間 | 1日8時間・週40時間 |
| 残業の上限(原則) | 月45時間・年360時間(2019年4月〜) |
| 年間労働時間(OECD) | 1,644時間(2019年)→1,598時間(2025年) |
| 週60時間以上働く雇用者 | 6.5%(2019年)→4.6%(2024年) |
| 有休の取得率 | 52.4%(2018年)→66.9%(2024年・過去最高) |
| 精神障害の労災認定 | 1,055件(2024年度・初の1,000件超) |
日本視点
Lanceの「上司が帰らないから帰れない」は、日本人には耳が痛い。残業の長さは仕事の量だけでなく、職場の空気でも決まる。パソコンの記録で出退勤を測り、上司に警告を出すところまでやったのは、空気は本人の意思では変えられないからだ。
意外なのは法律の数字だ。中国の残業の上限は月36時間で、日本の原則の月45時間より短い。紙の上の残業の上限は、中国のほうが日本より厳しい。それでも996が広がったのは、破っても会社が困らなかったからだ。排骨の言葉は正確には「法律があっても、破ったときの代償がなければ無理だ」になる。
ただし、日本を「残業を克服した国」と見るのも早い。働く時間は減ったが、心の不調による労災は増え続けている。日本は7年で「働く時間」を減らしたが、「働く人の疲れ」まで減らせたとは言えない。そして政治は、規制をゆるめる方向へ動き始めた。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:過労死ラインの時間数。電通の社長辞任と罰金50万円。996は中国の法律の上限を大きく超え、2021年に違法と明示された。
- ずれている:過労死ラインは2001年から。80時間は「平均」で見る。回答の5日前に罰則つきの上限が始まっていた。1億円超の賠償は1991年の別の件。
- 変わった:日本は労働時間が減り、有休の取得は過去最高に。中国は996が違法とされたあとも労働時間が延びた。
日本人にとっての学びはこうだ。中国人から見ると、日本の残業の問題は「強いられること」より「自分から残ってしまうこと」にある。そしてそれを止めたのは会社の良心ではなく、上限と罰則と、過労死という大きすぎる代償だった。
労働時間や残業代、解雇のルールを、日本と中国で条文に沿って比べた実務書です。「996は違法」の意味を、日本の制度と照らして確かめられます。
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まとめ
- 知乎で146万回以上読まれた「日本の残業と中国の996は何が違うのか」。日系企業で働いた中国人は「日本の残業は自分から、996は強いられたもの」と答えた
- 過労死ラインや電通の処分は大筋で正しいが、基準の年や賠償額に取り違えがあった
- 7年後、日本の労働時間は減り、中国では996が違法と明示された。それでも中国の週平均は48時間台で、日本では規制緩和の議論が始まった
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