中国人「三菱電機に入って、結論は快適だった。日本語ができれば年収500万円は届く。でも日本のITは日本語ができないと危ない」

中国の質問サイト「知乎」に、2014年9月に立った質問がある。「日本で働くのは、どんな体験か」。閲覧は160万回、回答は140件。2025年7月に書かれた最多賛同の回答は、三菱電機に入った中国人の院卒1年目が、「結論から言うと、とても快適だ」と書いたものだった。ただし回答のなかには、ほかの中国人の声から、「日本のIT派遣は、まず日本語だ」と警告するものもあった。

三菱電機の新入社員をめぐる事件、日本の年収の分布、日本の残業時間と有給の取得率を、報道・国税庁の調査・厚生労働省の統計で答え合わせした。

元投稿

質問:在日本工作是怎样一种体验?(日本で働くのは、どんな体験か)
補足:「できれば、業種と会社のタイプ(金融・IT・機械…)を教えてほしい。職場環境、生活のペース、将来性など、あらゆる面の体験を歓迎する。中国人と日本人を分けて話してもよい」(要旨)
知乎/2014年9月4日/フォロワー1,949・閲覧1,604,322回・回答140件
→ https://www.zhihu.com/question/25119917

回答1「三菱電機に入って、とても快適だ。上司は低姿勢で、中国人の課長が兄貴分になった」

回答者:猪儿虫
投稿日:2025年7月11日
賛同1,111・コメント369
→ 回答ページ

24岁院卒,毕业4月进了三菱电机上班,哪个部门就不说了。先说结论,我觉得挺爽。

24歳、大学院卒で、4月に三菱電機に入社した(部署は伏せる)。結論から言うと「とても快適だ」。14歳のとき、アニメが好きで日本語を学び始め、16歳でN1に合格、17歳(2018年)で日本へ留学した。就職活動は4社だけに応募して、3社は落ちた。

进三菱之前觉得三菱很黑但是我不怕,我要整顿职场,结果刚进去研修期间就觉得不对劲了,那些领导怎么都把我们供着

三菱は「黒い(ブラック)」と聞いていて、「職場を正してやる」と思って入ったのに、研修の間から様子が違った。幹部が新人を「もてなす」ように、低い声で穏やかに話し、要望は何でも聞いてくれる。6月に配属されると、「教育主任」(1人の先輩が新人に付く制度)が付いた。2019年に、この教育主任の圧力で職員が飛び降り自殺した事件があり、「大ニュースになった。それ以来、三菱は変わった」と書く。

隣の課の課長は中国人で、「兄と呼べ」と言い、遊びにも誘ってくれる。給料は、初任給296,000円(同業の中では少し低め)で、手取りは28万円。2か月後から保険料が引かれて23万円になったが、住んでいる社員寮の家賃は安く、不満はない。最後に「専門知識より、言葉の力のほうが大事だと感じる。三菱は、私の語学力を見て採ったのだと思う」と結ぶ。

回答2「ITもゲームも音楽も見てきた。日本語ができれば、年収500万円は『背伸びすれば届く』」

回答者:阿灯(ラベル「退乎 不写代码了 真の日本底层音乐人」)
投稿日:2025年5月17日
賛同203・コメント57
→ 回答ページ

日本绝大部分人一辈子是过不了年收千万日元的(目前汇率也就是五十万人民币左右)。但同时只要你日语流畅,哪怕你没大学毕业,基本上过五百万日元几乎是稳的

国内と日本の両方で働き、起業(「全部すった」)もした人が、ITを中心に書く。日本の大部分の人は、一生のうちに年収1,000万円(回答は「50万元(約1,180万円)」と換算)に届かない。ただし日本語が流暢なら、大学を出ていなくても、500万円はほぼ確実。東京の全業種の平均なら、35万元(約826万円)〜40万元(約944万円)の水準は、中国より日本のほうが達成しやすい。下限は日本が高く、上限は中国が高い、という見方だ。

IT派遣の会社は、元請け・二次請け・三次請けと続く階層で、客が払う100万円の単価から、手元に残る額が減っていく。社員に払える額は「最大でも40万円」。また「中国で、日本で3年働けば年収500〜600万円と言う仲介業者がいても、慎重に」。日本語ができない人が、日本のITで人生を変えよう、という考えは危ない、と強く警告する。残業は、ITでは月平均160時間(総労働時間)を超えないことが多く、ゴールデンウィークと年末年始は12日休みが普通、と書く。

回答3「半導体メーカー。日本のほうがのんびり。中国は仕事が速く、給料は倍だ」

回答者:知乎ユーザー(匿名)
投稿日:2024年12月26日
賛同329・コメント83
→ 回答ページ

日本:节奏慢,人情世故少,下了班没人联系,工作单纯有自己生活。但是晋升慢,工资不高(高于平均500w日币)

日本の大学・大学院を出て10年、日本で2年働いたあと、中国へ戻って半導体メーカーに勤める人。日本は、ペースが遅く、人づきあいの気苦労が少なく、退勤したら誰も連絡してこない。ただし昇進が遅く、給料は高くない(平均の500万円よりは上)。中国は、日本の1週間の仕事が1日で終わるほど速く、勤務外もWeChatで仕事が来る。接待や飲み会も多い。ただし昇進は日本より速く、給料は日本の2倍ほど。「どちらも一長一短で、家庭と自分の追求に合わせて決めよ」と結ぶ。

裏取り

確認できたこと

回答1の「2019年の事件」は、実際にあった。2019年8月、三菱電機の新入社員だった男性が、配属先でのハラスメントを受けて自殺し、尼崎労働基準監督署が労災と認定した。男性が書き残したメモには、教育担当の社員からの言葉が残っていた(弁護士ドットコムニュース、2021年3月11日)。遺族の代理人の弁護士が3月11日に会見で明らかにした(弁護士ドットコム)。会社は、この件について文書で謝罪を公表している。回答1の「大ニュースになった」は事実で、そのあとに「会社が変わった」かどうかは、今回確かめられなかった。

回答2の「年収1,000万円は、ほとんどの人が届かない」は、国税庁の統計のとおりだ。国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」では、1年を通じて勤務した給与所得者のうち、年収が1,000万円を超える人は全体の6.2%(男性9.7%・女性1.6%)。給与所得者の平均は478万円(前年比3.9%増)で、過去最高だった(LIMO)。

年収1000万円を超える給与所得者の割合。全体6.2%、男性9.7%、女性1.6%の棒グラフ
年収1,000万円を超える給与所得者の割合(%)。出典:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」(LIMOの報道)。1年を通じて勤務した給与所得者が対象。

「日本は、のんびり」も、統計の方向と合う。厚生労働省の毎月勤労統計では、2025年の所定外労働時間(残業)は、調査産業計で月平均9.8時間だった(JILPT)。また令和6年の年次有給休暇の取得率は66.9%で、過去最高になった(労働新聞系サイト)。平均の話で、会社や職種で大きく違うが、回答3の「退勤したら連絡が来ない」という感覚とは、同じ向きだ。

違った・古かったこと

回答1の「三菱電機で働く気持ちよさ」は、個人の体験だ。三菱電機の2024年度の新卒の初任給は、修士修了で277,000円と報じられた(就職情報サイトの集計)。回答1の「296,000円」は、2025年度の水準かもしれないが、今回、会社の公式の発表では確かめられなかった。ここでは回答の数字として紹介する。

回答2の「日本語で500万円は確実」は、2025年ごろの感覚だ。平均給与は478万円まで上がったが、年収500万円は平均よりやや上で、「確実」かどうかは、職種と会社による。回答2が挙げる「元請け・下請けの階層で、社員に出せるのは最大40万円」は、IT派遣の構造の説明で、数字は例示にとどまる。

見落とされがちなこと

3つの回答は、どれも「日本語ができる人」の話だ。回答1は、自分の語学力が採用の決め手だったと書き、回答2は、「日本語ができない人が日本のITで人生を変えようとするのは危ない」と警告する。日本の職場の「快適さ」は、言葉が通じる人にとっての快適さだ、という共通点がある。回答1の「教育主任」の制度が、自殺事件を生んだ制度でもあることも、同じ回答の中にある。

確かめられなかったこと

回答1の「事件のあと、三菱は変わった」、「幹部は新人を、もてなすように扱う」は、個人の体験で、会社全体の姿ではない。回答2の「IT派遣の社員への配分は最大で40万円」、「中国のIT・半導体は日本の2倍の給料」(回答3)は、いまの実際の給料を調べたものではない。回答2の「年収1,000万円は約50万元(約1,180万円)」は、2026年10月のレートでは約42万元(約1,000万円)で、回答の換算(50万元(約1,180万円))とは違う。

日本側のデータ

この質問の答え合わせに使った事実

三菱電機の新入社員の自殺(2019年8月)尼崎労働基準監督署が労災認定(2021年3月に遺族の代理人が公表)/会社が文書で謝罪
年収1,000万円超の割合(令和6年分)全体 6.2%(男性9.7%・女性1.6%)/給与所得者の平均 478万円
所定外労働時間(2025年・調査産業計)月平均 9.8時間
年次有給休暇の取得率(令和6年)66.9%(過去最高)

出典:弁護士ドットコム・LIMO・JILPT・労働新聞系サイト

日本視点

この質問は、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人が日本の職場について「快適」と感じるのは、給料の高さではなく、退勤したら連絡が来ない、人づきあいの気苦労が少ない、という「静けさ」だ。回答1も回答3も、そこを褒めている。日本の人には「静けさ」は当たり前だが、競争の激しい中国から来た人には、大きな価値になっている。

そして、日本の人にとって耳が痛いのは、その「静けさ」と、昇進の遅さ・給料の頭打ちが、同じ制度から出ていることだ。回答3が「昇進が遅い」、回答2が「年功序列は昇給が少ない。年に5,000円しか上がらない例も見た」と書く。職場の静けさは、日本が成長の速さを手放した代わりに得たものでもある。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:三菱電機の新入社員の自殺と労災認定(2019年・2021年)。年収1,000万円に届く人が少ないこと(全体の6.2%)。日本の職場がのんびり寄りであること(残業は月9.8時間・有給取得率66.9%)。
  • 注意が必要:「日本語で500万円は確実」は、職種と会社による。平均給与は478万円。
  • 確かめられなかった:事件後に会社が変わったか、初任給296,000円、IT派遣の配分、中国のIT・半導体の給料。
関連書籍

日本・中国・韓国のしきたりとマナーを、冠婚葬祭からビジネスの場面まで比べた本です。日本で働く前に、日本側の常識を確かめたい人に向いています。

※本欄には楽天アフィリエイトのリンクを含みます(広告)

まとめ

  • 知乎で160万回読まれた「日本で働くのは、どんな体験か」。賛同の多い回答は、三菱電機に入った中国人の院卒1年目が「とても快適だ」と書き、日本語ができれば年収500万円は届き、日本の職場は静かでのんびり、と答えた
  • 裏取りでは、2019年の三菱電機の新入社員の自殺が労災と認定されたこと、年収1,000万円超は全体の6.2%であること、2025年の残業は月平均9.8時間・有給の取得率は66.9%であることを確認
  • 「事件後に三菱は変わった」「初任給296,000円」「IT派遣の配分」などは確かめられなかった。日本語ができない人にとっての日本は、回答の話とは違うと警告する声もある

→ 関連記事:経済・物価・給料 中国人「日本人の残業はほとんどが自分から。中国の996は強いられたものだ」 中国人「年収500万〜700万円は、日本で働く多くの人が一生でたどり着く最高点かもしれない」

タイトルとURLをコピーしました