中国の質問サイト「知乎」に、2016年から続く質問がある。「日本で長く暮らすのは、どんな体験か」。閲覧は558万回、回答は322件。日本に住む中国人が、それぞれの暮らしを書き込んでいる。
いま上位に並ぶ二つの回答は、ほとんど正反対だ。一人は、日本に24年住み、いまは日本の市役所で働く人。もう一人は、14歳で母親と来日し、「普通の中国人は日本に住むのに向かない」と書いた女性だ。
元投稿
質問:在日本长期生活是种怎样的体验?
(日本で長く暮らすのは、どんな体験か)
知乎/2016年7月18日/フォロワー8,133・閲覧5,579,138回・回答322件
→ https://www.zhihu.com/question/48608773
回答者:九五吉祥在东瀛(日本の民商法で博士号を持つという回答者)
投稿日:2023年10月2日
賛同3,129・コメント447
→ 回答ページ
在日24年。中国で大学を出て2年公務員をしたあと来日し、法学の修士を取って日本企業で5年半働き、いまは地方公務員として14年目だという。ラーメン店のアルバイトで学費を稼いだ留学時代、年功序列に息が詰まった日本企業の時代を経て、市役所ではひとり親家庭の手当、市民税、中小企業の補助金、障害福祉、税の徴収と、部署を渡り歩いてきた。
市民税の仕事をして初めて分かったこともあった、と書く。
以前留学时周围说,现在能不交税就不交,毕业一搬家就不用交了,干了这活才知道,这简直就是骗鬼的话。
留学していたころ、周りでは「払わずに済む税金は払うな。卒業して引っ越せば払わなくていい」と言われていた。この仕事をして初めて、それがまったくのでたらめだと分かった。
市役所には他の市から「この人の過去5年の納税状況は」という問い合わせが毎日届く。ビザの更新や永住の申請には、それが必要だからだ。そして、日本での暮らしをこうまとめた。
在哪生活都有好有坏,不能一概而论,我觉得最适合自己的一是办啥事简单,日本虽然不少方面还是沿用老办法,但干啥不用托人,出身平民,无权无势,靠自己努力有口饭吃,干啥几乎不用看人脸色,人际关系相对简单。二是子女教育方面友好些,高中毕业为止,学费实质上免费。
どこで暮らしてもいいことも悪いこともあり、一概には言えない。私にとって一番合っているのは、一つは何をするにも簡単なことだ。日本は古いやり方が残っている面も多いが、何をするにもコネが要らない。平民の出で、権力も後ろ盾もなくても、自分の努力で食べていける。人の顔色をうかがう必要もほとんどなく、人間関係も比較的シンプルだ。二つ目は、子どもの教育に優しいこと。高校卒業までは、学費が実質的に無料だ。
ほかの回答
夏日初(2018年3月28日・賛同5,054・コメント1,218)
→ 回答ページ
14歳で母親と来日し、千葉県に住んで東京でアルバイトをしながら大学に通う女性の回答だ。賛同はこちらのほうが多い。
个人觉得一般的中国人不适合在日本居住。至少我这个北方人是这么觉得的。没暖气,物资匮乏,不交心。优点除了空气好风景美人礼貌赚的多没什么别的了。
個人的には、普通の中国人は日本に住むのに向かないと思う。少なくとも北方出身の私はそう感じる。暖房がない、物が少ない、心を開いてくれない。空気がきれいで、景色が美しく、人が礼儀正しく、稼ぎがいいこと以外に、いいところはない。
总体来说,我很喜欢日本,但以后不打算住在这里,因为人与人之间的感情真的很淡薄,哪怕是彬彬有礼,很有秩序,都让我感到无比疏远。
全体として、私は日本がとても好きだ。でも、この先ここに住むつもりはない。人と人との情が本当に薄いからだ。礼儀正しく、秩序があっても、それがかえってひどく遠く感じる。
回答者は、中国北方のような集中暖房がない木造の家の寒さも挙げている。家庭の事情とアルバイトに追われ、「たぶんうつになった。国に帰って治療したい」とも打ち明けている。一方で、華人の食材店で材料を買って作った中国の料理や、住まいの前に咲く桜の写真を載せている。


裏取り
確認できたこと
回答に出てくる日本の制度
| ひとり親への児童扶養手当(子1人・全部支給) | 月4万6,690円(2025年4月分から) |
| 永住申請に出す住民税の納税証明 | 直近5年分(2019年7月から。それまでは3年) |
| 高校の授業料 | 2025年度から公立は所得制限なし。2026年度から私立も上限45万7,000円・所得制限なし |
| 在日中国人の数(2024年末) | 87万3,286人(国籍別で最多) |
「永住申請には過去5年の納税状況が要る」は本当だ。2019年7月の申請から、就労系の在留資格などで住民税の課税・納税証明書が「直近3年」から「直近5年」に変わった(CALICO LEGAL行政書士事務所)。回答者が市役所で見ていた問い合わせは、この制度の裏側だ。
「高校までは学費が実質無料」も、2023年の回答の時点より進んでいる。2025年度から公立高校の授業料支援の所得制限がなくなり、2026年度からは私立高校にも所得に関係なく最大45万7,000円が支援される(リセマム)。
少し違っていたこと
「ひとり親は月7万円ほど受け取れる」は、国の手当だけではない。国の児童扶養手当は子ども1人で月4万6,690円が上限だ(こども家庭庁)。回答の数字は、自治体独自の手当などを合わせたものとみられる。回答者自身も「細かいことはもう忘れた」と断っている。
日本視点
二つの回答は、同じ日本を正反対に描いている。けれど、よく読むと、見ているものは同じだ。日本では「人の顔色をうかがわなくていい」ことが、ある人には自由に、別の人には「心を開いてもらえない」冷たさに映る。
市役所で働く回答者が挙げた「コネが要らない」は、日本人にはあまりに当たり前で、長所だと意識されることが少ない。中国では、何かを頼むときに知り合いを通す「関係(グアンシ)」がものを言う場面が多いと言われる。そこから来た人の目には、窓口で書類を出せば誰でも同じ扱いを受けることが、それだけで大きな価値に見える。
一方で、14歳で来日した女性の孤独も本物だ。日本で暮らす中国人は87万人を超え、国籍別で最も多い。制度が整っていることと、そこで暮らす一人ひとりが居場所を感じられるかどうかは、別の問題だ。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:永住申請には過去5年の納税状況が要る。高校の授業料は2026年度から私立も含めて所得制限なく支援される。
- 当たっている:日本の家には中国北方のような集中暖房が少なく、冬の寒さに驚く人は多い。
- ずれている:ひとり親の手当「月7万円」は、国の児童扶養手当(上限4万6,690円)だけの額ではない。
- 見えていない:在日中国人は87万人を超え、いまは日本の市役所で働く人もいる。
日本人にとっての学びはこうだ。「コネが要らない」「人の顔色をうかがわなくていい」。日本人が当たり前だと思っていることが、中国から来た人には、日本に住み続ける一番の理由になっている。
日本で暮らす中国人が、どこに住み、どう働き、何に悩んでいるのかを取材した一冊です。回答者たちの暮らしの背景が見えてきます。
※本欄には楽天アフィリエイトのリンクを含みます(広告)
まとめ
- 知乎で558万回読まれた「日本で長く暮らすのはどんな体験か」に、日本の市役所で働く在日24年の中国人が「何をするにもコネが要らない。後ろ盾がなくても努力で食べていける」と書いた
- 一方、14歳で来日した女性は「暖房がない、心を開いてくれない。普通の中国人は日本に住むのに向かない」と書き、より多くの支持を集めた
- 永住申請には過去5年の納税証明が要り、高校の授業料は2026年度から私立も所得制限なく支援される

