中国の質問サイト「知乎」に、2015年3月から読まれ続けている質問がある。「日本の都市の住民は、一部の人しか車に乗らないのか」。閲覧は72万回、回答は156件。質問者は「車は生活の質を大きく高めると思う。日本人は地下鉄やバスが多いというが、生活の質に影響しないのか」と尋ねた。
いちばん支持された回答(賛同8,192)の書き出しは、「東京は交通網が発達しているかもしれない。でも日本にあるのは、東京だけではない」。11年前の回答を、いまの統計で答え合わせした。
元投稿
質問:日本的城市居民只有少部分人开车吗?(日本の都市の住民は、一部の人しか車に乗らないのか)
知乎/2015年3月2日/フォロワー2,820・閲覧721,118回・回答156件
→ https://www.zhihu.com/question/28473371
觉得汽车对提高生活品质有巨大作用。日本人大都坐地铁公交,请问这会影响到生活质量吗?
本人去过新加坡韩国,整体感觉是买车的人相对中国大城市的确比例低很多…
車は生活の質を大きく高めると思う。日本人はたいてい地下鉄やバスに乗るというが、それは生活の質に影響しないのか。シンガポールと韓国に行ったことがあるが、全体として、車を買う人は中国の大都市よりずっと少ないと感じた……(質問文の一部。後半は省略されている)
最多賛同の回答「日本の一般家庭の車の保有率は、絶対に低くない」
回答者:苏菲(「新知答主」)
投稿日:2015年3月2日
賛同8,192(この質問でいちばん多い)・コメント726
→ 回答ページ
回答者は、前日に中国の元記者・柴静氏の環境ドキュメンタリーを見て、東京の車の使用率が「6%以下」と紹介されたことに疑問を持ち、調べたという。
首先,日本一般家庭的汽车保有率绝对不低,“出行都靠地铁公交”只适用于极少的城市。
まず、日本の一般家庭の車の保有率は、絶対に低くない。「移動は地下鉄とバスばかり」は、ごく少数の都市にしか当てはまらない。
东京可能交通网发达,但是日本只有一个东京。像东京大阪以外的地方基本就是大农村,中国小镇子的感觉。出行基本靠车的。也因此,每个家庭平均保有1台以上汽车。
東京は交通網が発達しているかもしれないが、日本にあるのは東京だけではない。東京・大阪以外はたいてい農村で、中国の小さな町の感じだ。移動はほぼ車で、だから1世帯あたり平均1台以上の車がある。

回答者は、東京都が2010年に行った世論調査(20歳以上・標本3,000人、有効回答2,078人)を読み解く。日常の交通手段で「マイカー」を挙げた人は32.3%、車を持つ人は約6割、持つ人のうち平日に使う人は74%だった。柴静氏の「6%以下」とは、大きく違う。

それでも回答者は、結論では柴静氏に賛同する。東京の公共交通は車を減らす効果が大きい。理由は、駅の距離が近く、電車の間隔が短く、時間が正確なことだ。車を持たない理由の上位は、「歩きと公共交通で十分」53%、「車を持つ必要がない」50%、「自転車で足りる」29%。「税金・駐車場・ガソリン代がかかる」は28%だった。
大部分东京都心的居民,都是不开车的。而且也没有影响到生活质量。比起光依靠汽车而没有发达的交通系统的城市,生活质量反而可能更高。
東京の都心に住む人の大部分は、車に乗らない。そして生活の質にも影響していない。車だけに頼り、交通機関が発達していない都市より、生活の質はむしろ高いかもしれない。
ほかの回答
回答者:林浩轩
投稿日:2015年3月2日
賛同52・コメント87
→ 回答ページ
日本家庭一般都有两辆车,一辆mpv和一辆微型盒子车(轻自动车k-car)但由于公共交通的发达一般日常出行很少开车。
日本の家庭にはたいてい車が2台ある。ミニバンが1台と、小さな箱型の軽自動車が1台。ただし公共交通が発達しているので、ふだんの移動で車に乗ることは少ない。
回答者:angelman
投稿日:2016年3月30日
賛同32・コメント8
→ 回答ページ
2015年,日本全国汽车的销售量是504万辆,比2014年减少了9%。而2015年,中国的汽车销售量是多少呢?2500万辆,是日本的5倍,而且保持了7%的增长的势头。
2015年、日本全国の自動車販売は504万台で、2014年より9%減った。2015年の中国は2,500万台と、日本の5倍で、7%増の勢いを保っている。この回答は続けて、日本では「城市の人は車を買わず、田舎の人が買う」と書く。
裏取り
確認できたこと
「日本の車の保有率は低くない。東京だけが突出して低い」は、統計のとおりだ。2025年3月末の自家用乗用車(軽自動車を含む)は、1世帯あたり全国平均1.009台で、39県が1台以上。1台に満たないのは東京(0.405台)、大阪(0.611台)、神奈川(0.664台)、京都(0.784台)、兵庫(0.880台)、埼玉(0.915台)、千葉(0.921台)、北海道(0.986台)の8都道府県だけだ。いちばん多い福井は1.670台だった(自動車検査登録情報協会)。

東京の通勤・通学は、鉄道が主役だ。2020年の国勢調査では、東京都は通勤・通学に鉄道を使う人が59.68%(全国平均25.19%)、自家用車だけで通勤・通学する人は8.48%で全国最下位だった(令和2年国勢調査の都道府県別集計)。回答の「東京の都心は車に乗らない」は、数字で裏づけられる。
違った・ずれていたこと
「東京・大阪以外はたいてい農村」は言いすぎだ。神奈川(0.664台)、京都(0.784台)、兵庫(0.880台)、埼玉・千葉(0.9台台)のように、東京・大阪以外にも、車が1世帯に1台に満たない都市圏は広がっている。
「東京の車は北京より少ない」は、東京だけを見た話だ。東京都の自家用乗用車は、2014年の約308.8万台から2025年の約311.5万台とほぼ変わらない。世帯数が増えたぶん、世帯あたりは0.461台から0.405台に下がった。
確かめられなかったこと
柴静氏のドキュメンタリーにあった「東京の車の使用率6%以下」の出どころは、回答者も「どこから来た数字か分からない」と書いており、確かめられなかった。「日本の若者は車より自転車に興味がある」「ベンツはヤクザか成金の車」は、angelmanの体験談で、統計は示されていない。
11年後の答え合わせ
東京の人は、11年前よりさらに車を持たなくなっている。東京都が同じ質問を繰り返している世論調査では、「自動車を所有している」は、2010年の59.3%から、2018年は52%、2022年10月調査は50%に下がった(東京都・2018年調査・同・2022年調査)。全国でも、世帯あたりの自家用乗用車は2006年の過去最高1.112台から、2025年の1.009台へ12年連続で減っている(自動車検査登録情報協会)。
11年前の回答と、いまの数字(東京都)
| 車を所有している人の割合(東京都の世論調査) | 2010年 59.3% → 2018年 52% → 2022年 50% |
| 1世帯あたりの自家用乗用車(東京都) | 2014年 0.461台 → 2025年 0.405台 |
| 通勤・通学の手段(2020年・東京都) | 鉄道 59.68%/自家用車のみ 8.48%(全国最下位) |
出典:自動車検査登録情報協会・東京都。2014年の0.461台は、回答に貼られた同協会の表による
新車販売も、日本は縮み、中国は膨らんだ。日本の2025年の新車販売は456万6,000台で、前年から3.3%増えたが、回答が挙げた2015年の504万台より約9%少ない(自動車産業ポータル)。中国は、2025年に3,440万台(前年比9.4%増)で、日本の約7.5倍になった(国際在線・中国汽車工業協会)。
日本視点
質問者は「車がない生活は、生活の質を下げるのか」を聞いた。回答者の答えは、「日本のほとんどは車の国で、東京だけが違う」だった。統計は、この見立てを11年後も支えている。全国では1世帯に1台、東京では2世帯に1台未満という二重構造だ。
東京の人が車を持たない理由は、東京都の2010年の調査で、「歩きと公共交通で十分」「車を持つ必要がない」が半数を超え、「お金がかかる」は3割に満たなかった。お金の問題ではなく、必要がないから持たない。回答者の言う「生活の質が下がらない」を、本人たちの言葉が裏づけている。
ただし、「東京だけ」の話でもない。神奈川・大阪・京都・兵庫も1台に満たない。日本の都市圏が増えるほど、「車なしで暮らせる」人も増える構造だ。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:全国の保有率は1世帯1台超、東京だけが突出して低い(0.405台)、東京の通勤・通学は鉄道が約6割。車を持たない理由は「必要がない」。
- 半分当たっている:「東京・大阪以外は農村」(神奈川・京都・兵庫も1台未満)。柴静氏の「6%以下」への反論(調査は複数回答で、単純には比べられない)。
- 確かめられなかった:6%の出どころ、「日本の若者は車より自転車」。
日本人にとっての学びはこうだ。中国で「日本人は車に乗らない」と言われるとき、見ているのは東京だけだ。日本全体では、車は1世帯に1台ある。でも東京の人が車を持たないのは、我慢ではなく、「必要がない」からだ。その見方は、11年たった今も数字で支えられている。
車がなくても暮らせる街と、車がないと暮らせない街の違いを、データで考える本です。日本の都市と地方の移動の格差が分かります。
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まとめ
- 知乎で72万回読まれた「日本の都市の住民は、一部の人しか車に乗らないのか」。最多賛同の回答は「日本にあるのは東京だけではない」と答えた
- 2025年も、全国の自家用乗用車は1世帯1.009台で、1台に満たないのは東京など8都道府県だけ。東京都民の車の所有率は59.3%(2010年)から50%(2022年)に下がった
- 「東京・大阪以外は農村」は言いすぎで、神奈川・京都・兵庫も1台未満。柴静氏の「6%以下」の出どころは確かめられなかった
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