中国人「日本の果物が高い理由は一つ。農協の独占だ」

中国の質問サイト「知乎」で、420万回以上読まれた質問がある。「なぜ日本の果物はあんなに高いのか」。質問者は東京を旅行して、スイカが1玉150元(約3,500円)ほど、マスクメロンが贈答用の箱に入って数百元で売られているのを見て、驚いたという。

いちばん支持された回答は、2万4千以上の賛同を集めた。答えは一言、「農協の独占だ」。回答は、農協をやめようとした農家や乳業会社がどんな目にあったかを、日本のテレビ番組の画面を貼りながら並べていく。書かれた出来事を、報道と統計で一つずつ確かめた。

元投稿

質問:为什么日本的水果那么贵?
(なぜ日本の果物はあんなに高いのか)
補足:去东京旅行的时候看到西瓜一般折合RMB150,类似哈密瓜的网纹瓜放在礼盒里卖,一般都好几百大洋的,着实很不理解啊。(東京を旅行したとき、スイカはだいたい人民元で150元(約3,500円)、ハミ瓜のようなマスクメロンは贈答箱に入って数百元もして、本当に理解できなかった)
知乎/2013年8月30日/フォロワー2,250・閲覧4,200,911回・回答199件
→ https://www.zhihu.com/question/21571055

いちばん支持された回答「農協の独占だ。生産者も消費者も搾り取られている」

回答者:羽颀
投稿日:2018年12月30日
賛同24,193・コメント1,531(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

因为农协的垄断。很多人有种天真的误解,觉得日本蔬菜水果贵,是因为农协在给农民谋福利。现实要真有这么美好,就不会出现「農協離れ」的现象了。

農協の独占のせいだ。日本の野菜や果物が高いのは、農協が農家のために頑張っているからだと素朴に誤解している人が多い。現実がそんなに美しいなら、「農協離れ」なんて起きない。

回答者によれば、農協は農薬・肥料・農具をまとめて安く仕入れ、農家には市価の1.5倍から2倍で売る。作物は安く買って高く売る。「両側から搾り取っている」。農協の金融部門は融資と保険を抱き合わせで売る。そして、農協を抜けようとする農家には報復がある、と続ける。

最初の例は、北海道・富良野のメロン農園だ。

富良野有家农园在脱离农协后,靠着直销年入1亿,结果:……先是全自动换气装置数度失灵,然后是水龙头大开,电闸被拉,最后终于被喷了除草剂。6600颗密瓜全灭

富良野のある農園は、農協を抜けて直販で年に1億円を売り上げた。その結果……自動換気装置が何度も狂い、水道の栓が開けっぱなしにされ、ブレーカーが落とされ、ついに除草剤をまかれた。メロン6,600玉が全滅した。

ビニールハウスの中で、葉が茶色く枯れたメロンの株と、地面に転がる多数のメロン
回答に貼られた、除草剤をまかれたメロンのハウスの写真(出典:知乎・羽颀の回答)

ただ回答者自身も、「農協がやったのか、濡れ衣なのか、真相は分からない」と書き添えている。そのうえで「実際に報復を受けたことがはっきりしている例」として、北海道の酪農家の話を挙げる。

本来全国只有农协下的10家指定团体收购生奶,他没的选择,但这时出现了一家叫MMJ(Milk Market Japan)的公司,高价收购生奶……对此农协表示:退群可以,记得定期发红包啊。你每卖出1公斤生奶,我收你0.5日元。

生乳は全国で農協系の指定団体10か所しか買い取ってくれず、農家に選択肢はなかった。そこに、高く買い取るMMJ(ミルク・マーケット・ジャパン)という会社が現れた。……すると農協は言った。「抜けるのはいい。でも上納金は忘れずに。生乳を1キロ売るごとに0.5円もらう」。

さらに、福島の乳業会社がMMJからも生乳を仕入れ始めると、農協系の団体が取引条件を急に変え、会社の売掛金を担保として取り立てた、という経済番組の報道を紹介している。

最後は数字だ。農林水産省は1日に果物200グラム・野菜350グラムを目標にしているが、日本人は果物140グラム、野菜266.5グラムしか食べていない。「理屈の上では買えても、実際には控えている」と回答者は書く。

のちに回答者は、「農協には農家を守る良い面もある。質問が『なぜ高いか』だったので悪い面を書いた」と追記している。

別の回答「日本の果物が高いのは、安い外国産を入れないからだ」

回答者:Xie Harry
投稿日:2019年1月1日
賛同655・コメント124
→ 回答ページ

日本国产的高品质水果怎么会便宜呢?只有中、韩以及东南亚不符合日本要求的普通水果才便宜。希望日本继续延续肯定列表制度,把便宜的水果御于国门之外。

日本産の高品質な果物が安いわけがない。安いのは、中国・韓国・東南アジアの、日本の基準に合わない普通の果物だけだ。日本がこれからもポジティブリスト制度(残留農薬の規制)を続けて、安い果物を国境の外に締め出してくれることを願う。

旅行者の回答「上野では桃1個200円、福島の農園では1個50円」

回答者:知乎ユーザー(日本で旅の写真を撮る人)
投稿日:2019年1月1日
賛同241・コメント181
→ 回答ページ

この回答者は、同じ桃の値段を場所ごとに比べた。上野の果物売り場では6個で1,200円、スーパーでは福島産が2個734円、そして福島の桃農園では12個入りの箱が600円。「物流の費用も大きい」と書いている。

左:上野の果物売り場に並ぶ桃。中:スーパーで2個入り680円(税込734円)の桃。右:段ボール箱に詰められた福島の桃
回答者が撮った桃の値段。上野の売り場、スーパー、福島の農園(出典:知乎の回答)

裏取り

確認できたこと

富良野のメロン農園の被害は実際にあった。2017年7月、富良野市の寺坂農園のハウスに除草剤がまかれ、メロン約6,600玉、約1,500万円分が被害を受けた。農園はクラウドファンディングで1,561人から1,769万8,000円を集めた(ねとらぼ)。

北海道の酪農家と農協の対立も報じられている。阿寒農協の酪農家が生乳の出荷先をMMJに変えようとしたところ、生乳1キロあたり50銭の負担を求められたと、経済番組が伝えた(らくする(酪農専門メディア))。

野菜が目標に届いていないのも事実だ。2023年の国民健康・栄養調査で、野菜の摂取量は平均256.0グラム。目標の350グラムを大きく下回り、前の年より有意に減った(日本生活習慣病予防協会)。

事実と違ったこと・確かめられなかったこと

富良野の事件を「農協の報復」と結びつける根拠は見当たらない。犯人は捕まっておらず、報道は直販の農園の被害として伝えている。農協への言及はない(ねとらぼ)。回答者自身が「真相は分からない」と書いたとおりだ。

果物の摂取量は、回答の「140グラム」より少ない。2019年の国民健康・栄養調査では、1日の果物の平均は約100グラム。20代と30代は50グラムに届かず、20〜50代の男性の約6割は果物をまったく食べていなかった(医薬基盤・健康・栄養研究所)。

「農協は資材を市価の1.5〜2倍で農家に売る」は、確かめられなかった。

7年後の答え合わせ

生乳の「指定団体にしか売れない」仕組みは変わった。2017年に畜産経営安定法が改正され、指定団体以外に出荷する酪農家も国の補給金を受けられるようになった(農林水産省「改正畜安法の概要」(畜産の情報))。回答で農協と争っていたMMJは、2025年も工場休止で余った生乳を受け入れるなど、活動を続けている(らくする)。

そして果物は、この数年でさらに高くなった。2024年に卸売市場で取引された果物の平均価格は5年続けて過去最高を更新した。ミカンもリンゴも最高値で、日本経済新聞は猛暑による不作やカメムシの被害、そしてブランド化を理由に挙げている(日本経済新聞)。2024年のミカンは、夏の雨不足と台風の大雨で1割以上の実が割れた産地もあった(東海テレビ)。

日本側のデータ

回答(2018年)と、いま

果物の摂取量回答「1日140g」→ 実際は約100g(2019年)。目標は200g
野菜の摂取量回答「266.5g」→ 256.0g(2023年・前年より有意に減少)。目標は350g
生乳の出荷先農協系の指定団体だけ → 2017年の法改正で、指定団体以外に出しても補給金の対象に
果物の卸売価格2024年、5年連続で過去最高。ミカンとリンゴは最高値

出典:医薬基盤・健康・栄養研究所・日本生活習慣病予防協会・農林水産省・日本経済新聞

日本視点

日本でも、農協の問題はたびたび批判されてきた。回答が引いた話の多くは、日本の経済番組が報じたものだ。ただ、中国の回答は、それを「果物が高い理由」の一つの答えにまとめてしまった。実際には、果物の値段は天候や不作、産地のブランド化、物流の費用にも左右される。桃の値段を上野と福島で比べた回答のほうが、値段の中身を具体的に示している。

質問者が驚いたのは、贈答箱に入ったメロンだった。中国では果物は毎日たくさん食べる安いもので、日本のように「贈り物の高級品」として売られることは少ない。中国人から見ると、日本の果物は「日常の食べもの」ではなく「高級品」として作られ、売られている。その結果、日本人自身があまり果物を食べなくなっている、というのが回答の最後の数字の意味だ。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:富良野のメロン農園の被害(2017年・6,600玉)、北海道の酪農家と農協の対立、野菜の摂取不足。
  • ずれている:富良野の事件を農協と結びつける根拠はない。犯人は捕まっておらず、回答者自身も「真相は分からない」と書いた。
  • ずれている:果物の摂取量は「140グラム」ではなく約100グラム。若い世代はほとんど食べていない。
  • 変わった:生乳は2017年の法改正で指定団体以外にも出せるようになった。果物の卸値は2024年に5年連続の過去最高。

日本人にとっての学びはこうだ。中国人は日本の果物の高さを「農協の独占」という一つの構図で説明しがちだ。ただ、日本の果物は贈答用の高級品として作られてきた面が大きく、その高さが日本人の果物離れにもつながっている。

関連書籍

回答者が「両側から搾り取る」と書いた農協。その内部で、職員に共済の契約のノルマが課され、自腹で契約する「自爆営業」が広がっている実態を、農業専門のジャーナリストが追ったルポです。回答の批判のどこが当たっているかを、日本の取材から確かめられます。

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まとめ

  • 知乎で420万回以上読まれた「なぜ日本の果物は高いのか」。いちばん支持された回答は「農協の独占だ」と書き、農協を抜けた農家や乳業会社が受けた報復の例を並べた
  • 富良野のメロン農園の被害や北海道の酪農家と農協の対立は実際に報じられている。ただ富良野の事件と農協を結びつける根拠はなく、果物の摂取量も回答より少ない約100グラムだった
  • 生乳は2017年の法改正で指定団体以外にも出せるようになった。一方、果物の卸値は2024年に5年連続で過去最高になり、ミカンもリンゴも最高値だった

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