中国の質問サイト「知乎」に、2021年からこんな質問が立っている。「日本の自衛隊の戦闘力をどう評価するか」。閲覧は207万回、回答は235件。質問者は「ずっと自衛隊は少し強い警察ぐらいだと思っていたが、動画を見たら英仏軍に劣らないと言っていた。本当か」と尋ねている。
最も支持された回答(賛同3,494)は、自衛隊の装備や事件を次々に挙げて笑いものにする長い回答だ。その中で回答者は、一つの結論にたどり着いたと書いている。自衛官は、軍人ではなく公務員だ、と。
元投稿
質問:如何评价日本自卫队的战斗力?
(日本の自衛隊の戦闘力をどう評価するか)
知乎/2021年9月20日/フォロワー611・閲覧2,070,071回・回答235件
→ https://www.zhihu.com/question/487980846
回答者:小豆豆是傻瓜
投稿日:2021年9月25日(その後、何度も追記)
賛同3,494・コメント580(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
回答は、富士の総合火力演習で、戦車の車長が車載の端末でアニメを見ていたという話から始まる。上官に叱られた車長は「陸自の戦車が国内で戦う事態なら、米軍も空自も海自も終わっている。早く降伏したほうがいい」と答えた、という。そして、自衛隊の募集の話に移る。
自卫队现在已经开始拿二次元来试图打动平成废宅了。没办法,实在招不到人啊……但凡有点能力或者有点本事的,谁去自卫队啊?
自衛隊はいまや、アニメで平成のオタクの心をつかもうとしている。仕方ない、本当に人が集まらないのだ……少しでも能力のある人間が、誰が自衛隊に行くものか。

后来我才理解到“自卫队不是军队”这句话的真正含义——这帮自卫官与其说是军人,不如说是公务员更合适一点。
あとになって、「自衛隊は軍隊ではない」という言葉の本当の意味が分かった。自衛官は、軍人というより公務員と言ったほうがいい。
回答者は、自衛官の法的な身分は「特別職の国家公務員」で、勤務は平日の8時15分から17時、土日祝日は休みだと書き、「こんなところで戦える人材が育つのか」と続ける。さらに陸上自衛隊の歩兵戦闘車が69両しかない、新型護衛艦「もがみ」型にミサイルの発射装置が付いていない、と装備も挙げている。
※回答の原文には、日本人を指す「鬼子」、米国を指す「米畜」などの蔑称が多く使われている。訳文では省いた。
ほかの回答
穿靴子的猫(2022年11月3日・賛同1,209)
→ 回答ページ
美国拍电影是海陆陆战队老兵回家团灭黑帮。日本是现实海自老兵刺杀首相。
アメリカは、海兵隊の退役兵が故郷でギャングを全滅させる映画を撮る。日本では、現実に海自の元隊員が首相を暗殺した。
2022年7月、安倍晋三元首相が元海上自衛官の男に銃撃されて亡くなった事件を指している。
匿名ユーザー(2021年9月29日・賛同1,216・コメント184)
→ 回答ページ
「すごいぞ」と一言だけ書き、自衛隊の事故や不祥事を年ごとに並べた回答だ。1995年に空自のF-15が訓練中に味方機を撃墜した件、1996年に護衛艦「ゆうぎり」が米軍機を撃ち落とした件、隊員の窃盗やわいせつ事件まで、数十件が続く。

裏取り
確認できたこと
自衛隊の現状
| 2023年度の自衛官の採用 | 計画1万9,598人に対し9,959人(達成率51%) |
| 達成率 | 過去最低(それまでの最低は1993年度の56%) |
| 2026年度の防衛関係費(予算案) | 9兆353億円(初の9兆円台・12年連続で過去最大) |
「人が集まらない」は本当だ。2023年度の自衛官の採用は計画の51%にとどまり、過去最低だった。防衛省は少子化と、ほかの業界との人材の取り合いを理由に挙げている(nippon.com)。自衛官の身分が「特別職の国家公務員」であることも、制度のとおりだ。
「もがみ型にミサイル発射装置がない」も、当時は本当だった。もがみ型は就役時にミサイルの垂直発射装置(VLS)を積まず「後日装備」とされていた。7番艦からは就役時に装備されることになった(Yahoo!ニュース エキスパート)。
事故の一覧の中にも、実際にあったものが含まれる。1995年の能登半島沖でのF-15の味方機撃墜(Wikipedia「F-15僚機撃墜事故」)、1996年のリムパックでの護衛艦「ゆうぎり」による米軍機の誤射は、いずれも事実だ。
確認できなかったこと
「戦車の車長がアニメを見て上官に言い返した」話は、出典が示されていない。回答者は「本当の話だ」と書くが、裏付けは見つからなかった。
事故の一覧には、1985年の日航機墜落事故で「自衛隊が救助を意図的に遅らせた」とする記述もあるが、これを裏付ける公的な資料は見つからなかった。
日本視点
この回答のいちばん面白いところは、中国の人が日本の軍事力を警戒する質問に、「警戒するほどのものではない」と答えて支持を集めていることだ。回答者自身も、以前は日本の軍国主義の復活を心配していたが、自衛隊が軍隊ではなく公務員の集まりだと分かって安心した、という流れで書いている。
だが、日本側の数字は別の姿も示している。人が集まらない一方で、防衛費は12年続けて過去最大を更新し、2026年度予算案では初めて9兆円を超えた。人手不足と予算の急増が同時に進んでいるのが、いまの自衛隊だ。
そして、「自衛官は公務員」という指摘は、日本人にとっては皮肉ではなく、戦後の日本が意図して選んだ形でもある。政府は自衛隊を、憲法が禁じる「戦力」には当たらないと説明し、自衛官は公務員として法律に縛られてきた。中国の回答者は、それを弱さと見た。日本では、それを文民統制の表れと見る見方もある。同じ事実が、見る側によって「弱さ」にも「歯止め」にもなる。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:自衛官の採用は計画の半分ほどしか集まっていない(2023年度51%)。
- 当たっている:もがみ型護衛艦は当初、ミサイル発射装置を「後日装備」としていた。訓練中の誤射など、実際の事故も含まれている。
- ずれている:戦車の車長の逸話や、日航機事故の「救助の意図的な遅れ」は裏付けがない。
- 見えていない:防衛費は12年連続で過去最大。2026年度予算案は初めて9兆円を超えた。
日本人にとっての学びはこうだ。中国のネットでいちばん支持されたのは、自衛隊を恐れる声ではなく、笑う声だった。その笑いの根拠には、事実も誇張も混ざっている。
自衛隊の装備や人員、法律上の制約までを、池上彰さんがやさしく解説した一冊です。中国の回答が笑った点の実際を確かめられます。
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まとめ
- 知乎で207万回読まれた「自衛隊の戦闘力をどう評価するか」に、中国人が「自衛官は軍人というより公務員だ」と答え、3,494の賛同を集めた
- 採用が計画の51%にとどまったこと、もがみ型のミサイル発射装置が後日装備だったこと、訓練中の誤射事故は事実。一方、戦車長の逸話などは裏付けがない
- 人手不足の一方で、防衛費は2026年度予算案で初の9兆円台になった

