中国人「日本がファックスをやめられないのは、漢字を捨てなかったからだ」

日本の役所や会社で、いまもファックスが使われていることは、海外でたびたび話題になる。中国の質問サイト「知乎」でも、2013年からこんな質問が続いている。「なぜ日本では、ファックスがいまだに広く使われているのか」。閲覧は85万回。

2024年に最も支持された回答(賛同4,177)は、理由を日本の文字そのものに求めた。そして、同じ漢字を使う中国がなぜその道を抜け出せたのかを語った。ところが3番目の回答者は、「うちの役所も、いまだにファックスだ」と書いている。

元投稿

質問:为什么传真机在日本仍在广泛使用?
(なぜ日本ではファックスがいまだに広く使われているのか)
知乎/2013年2月18日/フォロワー335・閲覧845,792回・回答84件
→ https://www.zhihu.com/question/20783746

回答者:嘉然大姨的猫
投稿日:2024年1月14日
賛同4,177・コメント414(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

根本原因是日本没有废除汉字,而信息化时代来的太晚,导致日本人长期当手写仙人。传真机和印章一样,都是日本手写文化的产物。

根本の原因は、日本が漢字を捨てず、しかも情報化の時代が来るのが遅すぎたことだ。そのせいで日本人は長いあいだ「手書きの仙人」でいるしかなかった。ファックスは、はんこと同じく、日本の手書き文化の産物なのだ。

回答者はこう説明する。アルファベットの国はタイプライターで文書を打てたが、漢字はタイプライターに向かなかった。だから日本の書類は手書きか、何千もの活字から一文字ずつ拾う専門の「打字仙人」に頼るしかなかった。手書きの書類をそのまま送れるファックスは、そんな文化にぴったりだった。回答者は、写真植字の会社「写研」を例に挙げ、日本の書体の産業がそれほど発達したのもそのためだとする。

写研の写真植字機
回答に貼られていた画像。左は写研の書体がいまも専用の写植機でしか使えないと伝える日本のニュース、右は中国の印刷博物館にある写研の写植機(出典:知乎の回答)

では、同じ漢字の国・中国はどうだったのか。回答者は、中国もかつては同じ悩みを抱え、漢字をやめてローマ字にする案まで真剣に議論されたと書く。そこから抜け出せたのは、1980年代に王選が漢字のレーザー写植を、王永民が「五筆」という漢字入力法を実用化したからだという。

90年代中国得以直接进入信息化社会……而90年代的日本已经进入失落时代,走下坡路的社会再也没有改革的心气儿了。……老百姓自然会有一种“又不是不能用,为什么要改革”的心态。

90年代、中国はそのまま情報化社会に飛び込めた。……一方、90年代の日本はすでに「失われた時代」に入り、下り坂の社会にはもう改革する気力がなかった。……人々は自然と「使えないわけじゃない。なぜ変える必要がある?」という気持ちになった。

ほかの回答

華山(2024年1月18日・賛同634・コメント53)
→ 回答ページ

完了完了,24年了,我所在的市县乡仍然在广泛使用传真……传真的好处是,只要你接收,我就能认为你已被告知,可以明确责任划分。

まずい、まずい。もう2024年なのに、うちの市・県・郷(中国の行政区分)ではいまだにファックスを広く使っている。……ファックスのいいところは、受け取った時点で「通知を受けた」とみなせることだ。責任の所在がはっきりする。

回答者によれば、ファックスが最も飛び交うのは洪水の季節で、夜中の2時、3時にも防災の部署から送られてくる。メールなら「見ていなかった」と言えるが、ファックスは受信した時点で責任が生じる。だから上の役所は、下の役所に自動受信の機械を買わせないのだという。

何威利备份(2025年1月31日・賛同760)
→ 回答ページ

この回答はファックスには触れず、日本の警察の拳銃の話を書いた。1955年、米軍から供与された6連発の回転式拳銃に暴発の恐れがあったため、弾は5発までと定められた。その後、自動拳銃に替わっても規則が残り、改められたのは2001年だった、という。決まりが理由を失っても、変えられずに残る。日本のファックスも同じだ、という皮肉だ。

裏取り

確認できたこと

日本側のデータ

日本のファックスの現状

ファックスがある世帯(2024年)24.6%
20代の世帯0.9%
60歳以上の世帯3割超
2021年、霞が関のファックス原則廃止の方針各省庁から約400件の反論

出典:ガベージニュース(総務省「通信利用動向調査」)/J-CASTニュース

日本の家庭の4軒に1軒には、まだファックスがある。総務省の調査では、世帯のファックス保有率は2024年に24.6%。ただし20代の世帯では1%に満たず、60歳以上では3割を超える。ファックスは、世代とともに消えつつある。

役所のファックスは、国が「やめる」と決めてもなかなか消えなかった。2021年、河野太郎行政改革担当相は、霞が関のファックスを原則廃止してメールに切り替えると表明した(ITmedia NEWS)。だが各省庁から約400件の反論が寄せられ、「メールはサイバー攻撃で情報が漏れる」「地方の出先機関は通信環境が整っていない」などの声が相次いだ(J-CASTニュース)。

警察の拳銃の「5発」の規則も、実際に2001年に改められている。2001年の改正で、「5発」の決まりは「別に定める数」に変わった(奈良県警察の例規)。

確認できなかったこと

「ファックスが残ったのは漢字のせい」という説は、一つの見方にとどまる。パソコンやワープロで日本語が打てるようになった後も、ファックスは使われ続けた。漢字が普及のきっかけになったことはあり得ても、今もファックスが残る理由を漢字だけで説明するのは難しい。役所の回答が示すように、「受け取った記録が残る」ことを重んじる仕事の仕組みも大きい。

日本視点

最多賛同の回答は、日本のファックスを「漢字」と「失われた30年」で説明し、中国は技術で漢字の壁を越えた、と誇る。だが同じ質問の中で、中国の役所の人が「うちも夜中の洪水警報はファックスだ」と書き、それにも600を超える賛同が集まっている。

この回答は、日本がファックスをやめられない理由を、日本人より的確に言い当てているかもしれない。「受け取った時点で責任が移る」。霞が関の反論も、つまるところは確実に届いた記録が欲しい、という話だった。日本と中国の役所は、同じ理由で同じ機械を手放せずにいる。

日本の家庭のファックスは、20代では1%に満たない。世代が替われば自然に消えていくだろう。消えにくいのは、役所や会社の「責任を確かめる仕組み」のほうだ。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:日本ではいまも4世帯に1世帯がファックスを持ち、国の廃止方針にも役所から多くの反論が出た。
  • 当たっている:警察の「弾は5発」のように、理由を失った規則が長く残る例は実際にある。
  • ずれている:「漢字のせい」は一つの見方にすぎない。パソコンで日本語が打てるようになった後もファックスは残った。
  • 見えていない:中国の役所でも、責任をはっきりさせるためにファックスが使われている。

日本人にとっての学びはこうだ。ファックスを手放せない理由は、文字ではなく「確かに届いた」という安心だった。それは中国の役所も同じだった。

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消えた年金からコロナ対策まで、日本の行政のデジタル化がなぜつまずき続けるのかを追った一冊です。霞が関のファックスの話の背景が分かります。

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まとめ

  • 知乎で85万回読まれた「なぜ日本ではファックスが残るのか」に、中国人が「漢字を捨てなかったからだ。中国は技術で壁を越えた」と答え、4,177の賛同を集めた
  • 日本の世帯のファックス保有率は24.6%(2024年)。2021年に霞が関の廃止を打ち出すと、各省庁から約400件の反論が出た
  • 一方、中国の役所の人も「うちも洪水の季節は夜中にファックス。受け取れば責任が生じるから」と書いていた

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