2025年11月19日、中国政府が日本産水産物の輸入を再び止めると日本側に伝えた。中国は同じ年の6月に、一部の地域からの輸入再開を決めたばかりだった。きっかけとみられているのは、11月7日の国会で高市首相が、台湾有事は日本の「存立危機事態」になり得ると答弁したことだ(日本経済新聞)。
その日のうちに中国の質問サイト「知乎」に質問が立ち、閲覧は499万回に達した。最も支持された回答は、これを「大蛇が獲物を少しずつ呑み込むような制裁」と表現した。日本はただ締め上げられていくしかない、というのだ。実際に日本はどうなったのか。1年近くたった数字で確かめた。
元投稿
質問:日媒称中国向日方通报暂停进口日本水产品,哪些信息值得关注?
(日本メディアが、中国が日本に水産物の輸入停止を通告したと報道。注目すべき点は?)
知乎/2025年11月19日/フォロワー757・閲覧4,987,485回・回答353件
→ https://www.zhihu.com/question/1974475139145044027
回答者:阿努比苏丹
投稿日:2025年11月19日
賛同3,227・コメント292(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
今天日元已经贬到155了,这才刚开始
比起雷霆万钧的军事报复,老中现在这种蟒蛇吞咽式的制裁又是另一种恐怖
你站在对方立场想想——现在你只能看着对方一点一点绞死自己,每天在疲于应对今天制裁的同时,还要担惊受怕明天又有什么杀招
今日、円はもう155円まで下がった。これはまだ始まりにすぎない。
雷のような軍事的報復に比べて、いまの中国の、大蛇が獲物を呑み込むような制裁は、また別の恐ろしさがある。
相手の立場で考えてみればいい。いまは、相手が自分を少しずつ締め殺していくのを見ているしかない。今日の制裁に追われながら、明日はどんな手が来るのかとおびえ続けるのだ。
「老中」は、中国のネットで中国が自国を指して使う言い方だ。回答者は続けて、日本人がおびえている証拠だとして、日本のネットの様子を挙げる。前の晩に大規模なネット障害と大きな火事が重なり、「中国が攻めてきたと思った日本人がいた」という。さらに日本のニュースサイトの画面を貼り、中国関連のニュースに数千から1万を超えるコメントが付いていると書いた。


※回答の原文では、日本を指して「倭」という蔑称が使われている。訳文では省いた。
ほかの回答
李爷四十三(2025年11月19日・賛同2,939・コメント208)
→ 回答ページ
昨天(2025/11/18)晚上跟岛国友人吃饭时,还聊到这个话题。岛国友人的判断:这个月刚解禁的日本水产品进口,应该不会因为这个事儿再禁止了。……结果今天就啪啪打脸:再次禁止进口!
昨日(2025年11月18日)の夜、日本の友人と食事をしたとき、ちょうどこの話になった。友人の見立ては、今月解禁されたばかりの日本の水産物の輸入が、この件でまた止まることはないだろう、というものだった。……ところが今日、見事に外れた。再び輸入停止だ。
友人は食品関係の仕事をしていて、「再開のために両国がいろいろ努力してきたのだから」と考えていたという。「島国」は、中国のネットで日本を指す言い方だ。
不正经的大可乐(2025年11月19日・賛同1,513)
→ 回答ページ
进度太慢了吧,才到禁止进口水产品吗?
進み方が遅すぎないか。まだ水産物の輸入禁止の段階なのか。
回答者は、米国との貿易摩擦で使ったレアアースの輸出規制などを、日本にも早く使えと書いている。
裏取り
確認できたこと
輸入停止と、その理由の説明は事実だ。中国外務省の報道官は、停止について「高市首相が台湾に関して誤った発言をした」と述べ、あわせて「品質の安全を保証する資料が提供されていない」とした(東京新聞)。中国政府はこの時期、自国民に日本への渡航の自粛も呼びかけている。
11月19日に円が155円台まで下がったのも事実だ。ただ日本経済新聞は、主な理由を高市政権の財政拡張への警戒と伝えている(日本経済新聞)。円はその後も下がり、2026年6月には162円台と39年半ぶりの安値をつけた(日本経済新聞)。
前の晩の「ネット障害と火事」も実際にあった。11月18日の夜、米クラウドフレアの障害でXなどがつながりにくくなり(ITmedia)、同じ日の夕方には大分市佐賀関で180棟を超える大規模な火災が起きていた(Wikipedia「大分市大規模火災」)。
言い過ぎだったこと
「日本人は中国が攻めてきたと思った」は、一人の投稿を広げた話だ。回答が根拠にしているのは、Xの一つの投稿の画面だ。日本人全体がそう受け止めたことを示すものではない。
日本視点
では、1年近くたった今、日本は「締め上げられた」のか。数字は、回答の見立てとは違う形を示している。
輸入停止のあとの日本側の数字
| 水産物の輸出額(2025年) | 4,231億円(前年比17.2%増) |
| うちホタテ(生鮮など) | 906億円(30.4%増)。ベトナム向けの加工用が伸びた |
| 農林水産物・食品の輸出全体(2025年) | 1兆7,005億円(13年連続で過去最高) |
| 中国からの訪日客(2026年1月) | 38万5,300人(60.7%減) |
| 訪日客全体(2026年3月) | 362万人(3月として過去最高) |
中国向けが止まっても、日本の水産物の輸出は2025年に過去最高を更新した。ホタテは米国やベトナムに売り先を移した。中国からの訪日客は半分以下に減ったが、訪日客全体は他の国や地域からの客で過去最高の水準を保っている。「大蛇に呑み込まれる」ほどの打撃は、統計には表れていない。
ただし、痛みがないわけではない。中国人客に頼っていた観光地や店、中国向けに販路を築いてきた水産業者には、確かに影響が出ている。数字の合計が崩れていないことと、個々の現場が無傷であることは別の話だ。
そして、この回答が教えてくれる一番大きなことは、数字ではない。中国のネットで最も支持されたのが、制裁の効き目を喜び、次の手を待ち望む声だったことだ。2番目の回答の日本人の友人は「両国が努力してきたから、また止めることはない」と考えた。日本人の多くが持つこの感覚と、中国のネットの空気とのあいだには、大きな隔たりがある。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:中国は水産物の輸入停止に加え、渡航自粛の呼びかけなど、複数の手段を重ねた。中国からの訪日客は半分以下に減った。
- 当たっている:円はその後も下がり、2026年6月には162円台をつけた。
- ずれている:円安の主な理由は日本の財政政策への警戒と報じられている。日本人が「攻めてきた」とおびえたという話も、一つの投稿を広げたものだ。
- 見えていない:日本の水産物輸出は2025年に過去最高。訪日客全体も高い水準を保っている。
日本人にとっての学びはこうだ。制裁の数字上の効き目は限られていた。だが中国のネットでは、それを「締め上げ」と呼んで待ち望む声が最も支持されていた。その温度差を知っておくことが大事だ。
輸入停止やレアアースの輸出規制のような「経済を使った圧力」に、国や企業がどう備えるのかを整理した一冊です。
※本欄には楽天アフィリエイトのリンクを含みます(広告)
まとめ
- 2025年11月、中国が日本産水産物の輸入を再び停止。知乎では「大蛇が少しずつ呑み込むような制裁」と表現した回答が最も支持された
- 輸入停止も、円安も、前夜のネット障害と火事も事実。ただ円安の主な理由は日本の財政政策と報じられ、「日本人がおびえた」は一つの投稿を広げた話だった
- 日本の水産物輸出は2025年に過去最高。中国からの訪日客は半減したが、訪日客全体は高い水準を保っている

