中国人「『鬼滅』は北米の初週だけで、『哪吒2』の北米の全部の約3倍を稼いだ。ただ、日本人は愛国心がないので、勝ちは0.5回だけだ」

中国の質問サイト「知乎」に、2025年9月14日、アニメ映画『鬼滅の刃 無限城編』の北米での大ヒットをめぐる質問が立った。「『鬼滅の刃:無限城編』が欧米市場で大成功を収めたことを、どう見るか」。閲覧は140万回、回答は213件(10月13日時点)。賛同のいちばん多い回答(742)は、「『鬼滅』は北米の初週だけで7,000万ドルで、『哪吒2』の北米の全部の約3倍だ。ただ、日本人は愛国心がないので、勝ちは0.5回ぶんしかない」と、中国のネットの「勝った、勝った」をからかった。それから1年。いまの数字で、答え合わせをした。

元投稿

質問:如何看待《鬼灭之刃:无限城篇》在欧美市场取得巨大成功?(『鬼滅の刃:無限城編』が、欧米市場で大成功を収めたことを、どう見るか)
補足:「最新の興行のデータによると、『鬼滅の刃:無限城編』は、破竹の勢いで国際的な映画館を席巻していて、欧米市場で最も成功した日本のアニメ映画の一つになる見込みだ。この作品は、吾峠呼世晴の漫画の最終章を原作にして、すでに……」(途中で切れている)
知乎/2025年9月14日/フォロワー380・閲覧1,398,530回・回答213件
→ https://www.zhihu.com/question/1950642556632281313

回答1「全世界が、青少年の文化の需要を軽く見た誤りの代価を払っている」

回答者:知乎ユーザー(名前は非表示)
投稿日:2025年9月16日
賛同729・コメント254
→ 回答ページ

迄今为止,所有的日漫粉丝在论证日本动画的巨大优势时,都会强调,迪士尼的动画电影仍然是世界第一,其影响力和收入都是日本动画电影难望其背的。
现在这个理论已经开始有崩溃的迹象。

これまで、日本のアニメのファンが日本の強みを論じるとき、みんな強調した。ディズニーのアニメ映画は、いまも世界一で、その影響力と収入は、日本のアニメ映画の及ぶところではない、と。いま、その理論が崩れ始めている。

鬼灭剧场版1爆火主要是偶然因素,但是后续在世界范围的大幅扩张与索尼的资本投入有很大关系。那么索尼是哪年开始重金押注日本动画的呢?答案是2009年。也就是卖大楼那段时间。

『鬼滅』の劇場版1が大ヒットしたのは、主に偶然だ。ただ、その後の世界での大きな拡大は、ソニーの資本の投入と深く関係している。では、ソニーが日本のアニメに大金を賭け始めたのは、いつか。答えは2009年。ビルを売っていた時期だ。

回答は、2009年に、ソニーがビルとゲームを売った金でアニメに投じたことに、当時のソニーのファン(「索匪」)は、みんな罵っただろう、と続ける。賛同は729。

回答2「『鬼滅』は北米の初週で7,000万ドル。ただ、勝ちは0.5回、私たちは3回だ」

回答者:哭泣小恐龙(プロフィールの表示は、有名人をからかった一文)
投稿日:2025年9月17日
賛同742・コメント104
→ 回答ページ

虽然《鬼灭》在北美首周就7000w,大约3倍于《哪吒2》在北美所有的票房,但是由于日本人缺乏爱国热情,他们既没有乘胜追击推广霓虹文化,也没被激发出爱日热情到处宣传,所以他们获得的快乐很少,只能算小赢,大概赢了0.5次;

『鬼滅』は、北米の初週だけで7,000万ドル、『哪吒2』の北米の全部の約3倍だ。しかし、日本人は愛国心が足りない。勝ちに乗じて「日本文化」を広めることも、日本を愛する熱に火がついて、あちこちで宣伝することもない。だから、得た喜びは少なく、小さな勝ちにすぎない。おそらく、0.5回勝っただけだ。

相较之下,我们这里的《哪吒》如果有人看,那就是华夏文明威镇四夷,赢一次;如果下架了,那就是美国人害怕中国文化了,赢两次;因为美国下架,国内要加大力度对冲,赢三次;

それに比べて、私たちの『哪吒』は、見る人がいれば、「華夏の文明が四方の異民族を威圧した」で、1回勝ち。上映が打ち切られたら、「アメリカ人が中国の文化を恐れた」で、2回勝ち。アメリカが打ち切ったから、国内で力を入れて対抗する、で、3回勝ち。

这样一下,鬼灭不过是票房多我们几倍,但是3:0.5,我们的赢点是日本人的6倍,还是我们赢

こうすれば、『鬼滅』は、興行収入が私たちの数倍多いだけで、3対0.5。私たちの勝ち点は日本人の6倍で、やはり私たちの勝ちだ。

この回答は、数字を比べているようで、中国のネットの「何があっても勝ったことにする」見方を皮肉っている。賛同は742で、コメントは104。

回答3「いま、9〜17歳向けのACGを、まじめに作っているのは日本だけだ」

回答者:夺命帅逼阿凡提(プロフィールの表示「日暮れて道遠し」)
投稿日:2025年9月16日
賛同420・コメント51
→ 回答ページ

全世界真的只有日本在正儿八经生产9~17岁青少年喜欢的ACG内容了。

世界で、9〜17歳の青少年が好きなACG(アニメ・漫画・ゲーム)の内容を、まじめに作っているのは、本当に日本だけになった。

回答は、ゲームは、任天堂だけが家族向けを作り、ほかの大手は、課金の携帯ゲームか、暗くて難しい作品か、暴力的な街の作品を作っている。アニメは、欧米が極端に二極化して、18歳以上向けの作品か、ディズニーのような9歳以下向けのアニメ映画かのどちらかだ。唯一ヒットした『赛博行者』(おそらく『サイバーパンク エッジランナーズ』のこと)も、日本が作った、と書く。そして、ビリビリの利用者が日本のアニメが低年齢向けになったと分析するのは、自分が大人になったのに気づいていないからだ、と皮肉り、こう結ぶ。

而这部分青少年虽然当时没消费能力,但迟早会有消费能力,迟早会在全世界各地开花,《鬼灭》在欧美的大爆只是理所当然的结果。

当時、お金を使う力がなかったこの層の青少年も、いつかは使う力を持つ。いつかは世界のあちこちで花開く。『鬼滅』が欧米で大ヒットしたのは、当然の結果にすぎない。賛同は420。

裏取り(いまの数字で答え合わせ)

確認できたこと

「北米で7,000万ドル」は、事実だ。『無限城編 第一章』の北米の初週末は、約7,000万ドル(コムスコアの推計)で、アニメ映画としては北米で最高の初動だった。それまでの記録は、1999年の『ポケモン・ザ・ファースト・ムービー』の3,100万ドルだった(カナディアン・プレス(Castanet))。

「『哪吒2』の北米の全部の約3倍」も、合う。『哪吒2』は、全世界で約22.6億ドルと、世界のアニメ映画の歴代1位だが、北米は約2,330万ドルで、全体の約1%だ(Box Office Mojo、NBC)。7,000万ドルは、その約3.0倍に当たる。

日本映画としての歴代1位も、その後に確かめられた。公開から約1か月の2025年9月24日に、全世界の総興収が823億円を超え、日本映画の歴代1位になった(コミックナタリー)。2026年4月9日の終映時には、国内が402億円(観客2,745万人)、全世界は約1,179億円になった(GameBusiness.jp)。

回答1の「ソニーの資本」は、筋が通る。ソニーは、ソニー・ピクチャーズとアニプレックスの合弁会社「ファニメーション」を通じて、2020年12月、アメリカの配信大手クランチロールを11.75億ドルで買うと発表した(Cartoon Brew)。『無限城編』の日本以外の配給は、ソニー・ピクチャーズとクランチロールが担った。

違った・古かったこと

「ディズニーが世界一で日本は及ばない、という理論が崩れ始めた」(回答1)は、言い過ぎだ。『無限城編』の全世界の興収は、2025年10月初めの時点で約7.6億ドル(Hollywood Reporter・Box Office Mojoの集計。集計によって差がある・Anime News Network)。これは、同じ作品の「日本映画の歴代1位」「アニメ映画として最高の初動」であって、世界のアニメ映画の歴代1位ではない。世界の歴代1位は、『哪吒2』の約22.6億ドルだ。

「欧米のアニメは、成人向けかディズニーの二極化だ」(回答3)も、粗い。同じ週の世界ランキングでは、Netflixの『KPop Demon Hunters』(ソニー・ピクチャーズ アニメーションの制作)が、上位5位に入ったと報じられた(Cartoon Brew)。ただし、これも、ソニーが関わっている。

見落とされがちなこと

3つの回答は、公開から2か月後に、中国の映画館で起きたことを、まだ知らなかった。『無限城編』は、2025年11月14日に中国の内地で公開され、初日の興収は1億元(約24億円)を超え、前売りは輸入アニメの最高記録になった(星島日報)。ところが、数日後から興収は急に下がり、中国のメディアは、日本の首相の台湾をめぐる発言への反発が影響したと報じた(香港01)。回答2が皮肉った「勝ち負け」は、本物の映画館で、日中の関係と結びついた。

「3倍」は、同じものさしでの比べ方ではない。7,000万ドルは、初週末の数字で、『哪吒2』の約2,330万ドルは、累計の数字だ。『哪吒2』は、北米では限定公開で、字幕つきの上映が中心だった(Koimoi)。『哪吒2』の主戦場は中国で、北米は全体の約1%だ。数字の差は、作品の強さの差というより、市場の使い方の差が大きい。

確かめられなかったこと

回答1の「ソニーが2009年に、ビルとゲームを売った金でアニメに大金を賭けた」は、探した範囲では、出どころが見つからなかった。回答3の「世界で9〜17歳向けのACGを作っているのは日本だけ」は、意見なので、事実としては確かめようがない。『無限城編』の中国内地での最終の興収は、公開直後の報道しか読めず、最終の数字は見つからなかった。

日本側のデータ

この記事の答え合わせに使った事実

北米の初週末(2025年9月)約7,000万ドル。アニメ映画として最高の初動(旧記録は1999年の3,100万ドル)
『哪吒2』(全世界)約22.6億ドル。世界のアニメ映画の歴代1位
『哪吒2』(北米)約2,330万ドル。全体の約1%。『鬼滅』の初週末は、その約3.0倍
『無限城編 第一章』全世界(2025年10月初め)約7.6億ドル(集計によって差がある)
日本映画の歴代1位に(2025年9月24日)全世界の総興収が823億円を突破
終映時(2026年4月9日)国内402億円・観客2,745万人/全世界約1,179億円
ソニーのクランチロール買収(2020年12月発表)11.75億ドル。『無限城編』の日本以外の配給はソニー・ピクチャーズとクランチロール
中国内地の公開(2025年11月14日)初日1億元(約24億円)超。前売りは輸入アニメの最高記録。最終の数字は確かめられなかった

出典:Castanet・Box Office Mojo・コミックナタリー・GameBusiness.jp・Cartoon Brew・星島日報

日本視点

この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。中国の人は、『鬼滅』の北米の成功を、アニメの出来より、「国と国の勝ち負け」と「若者の文化を誰が作っているか」で読んだ。賛同のいちばん多い回答が、数字の比べ方そのものを皮肉ったことが、その読み方をよく表している。

ただ、日本の人にとっては、『鬼滅』のヒットは、「国の勝ち」というより、作る会社・配る会社・見る人が、国境をまたいでそろった結果だ。制作のufotable、アニプレックス、日本の東宝、海外のソニー・ピクチャーズとクランチロール。国内の2,745万人と、世界の約1,179億円が、それを表している。勝ち負けの物語は、数字の比べ方しだいで、どちらにも書ける。中国の人も、同じ作品を、2025年11月に映画館で見た。その興収は、関係が冷えたときに急に下がった。作品とは別の理由で、数字が動くことがある。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:北米の初週末約7,000万ドル、『哪吒2』の北米の約3倍、日本映画の歴代1位、ソニーの資本とクランチロールの役割。
  • ずれている・注意が必要:「ディズニーを超え始めた」(世界のアニメの歴代1位は『哪吒2』)、「3倍」(初週末と累計という違う数字の比べ方)、「欧米は二極化」(『KPop Demon Hunters』など)。
  • 確かめられなかった:ソニーの2009年の投資、中国内地での最終の興収、「日本だけがACGを作っている」という見方。
関連書籍

日本のアニメが、世界でどうお金を生むかを、現地の取材とデータで読み解いた1冊です。『鬼滅』のヒットを「作品の力」だけでなく、「配る仕組み」の面から見たい人に向いています。

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まとめ

  • 知乎で140万回読まれた質問「『鬼滅の刃:無限城編』が欧米で大成功。どう見るか」。賛同のいちばん多い回答(742)は「北米の初週で7,000万ドル、『哪吒2』の北米の約3倍。ただ、日本人は愛国心がないので勝ちは0.5回だ」と、勝ち負けの見方を皮肉り、別の回答(729)は「ディズニーが世界一という理論が崩れ始めた」と書いた
  • いまの数字では、北米の初週末は約7,000万ドル(アニメ最高)。『哪吒2』は全世界約22.6億ドルで、北米は約2,330万ドル。『無限城編』は日本映画の歴代1位になり、終映時は国内402億円、全世界約1,179億円。中国内地では2025年11月14日に初日1億元(約24億円)超で始まったが、その後急に下がった
  • 「ディズニーを超え始めた」は言い過ぎで、「3倍」は初週末と累計の比べ方だ。ソニーの2009年の投資や、中国内地の最終の興収は確かめられなかった。勝ち負けの物語は、数字の比べ方しだいでどちらにも書ける

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