中国の質問サイト「知乎」に、2026年10月8日、日本のニュースを受けた質問が立った。「日本側が、高市早苗首相に適切な敬意を払うよう求めている。外交部が会見でよく名前を呼び捨てにするという。中国側は『中日関係の立場は何度も述べた』と答えたが、どう見るか」。閲覧は21万回、回答は88件(10月10日時点)。いちばん賛同の多い回答(365)は、肩書きを外すことを、「対等な交渉相手として認めない合図だ」と読んだ。
この記事は、日本のニュースに対する中国の人の反応を紹介するものだ。何が起きたのかを共同通信などの報道で確かめ、回答の言うことがどこまで裏づけられるか、答え合わせする。
何があったのか(先に事実)
共同通信によると、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は2026年9月30日の定例記者会見で、小泉進次郎防衛相が核兵器や原子力潜水艦の保有をめぐる議論に触れたことを問われ、「日本首相」の肩書きを付けずに「高市早苗」と呼んだ。外務省の会見録でも、そのままになっている(秋田魁新報(共同))。日本外務省の北村外務報道官は10月7日の会見で、発言の逐一にはコメントしないとしたうえで、「立場の違いがあっても、一国の指導者にしかるべき敬意を払うのは国際儀礼上当然だ」と述べ、この立場は中国側にも申し入れていると明らかにした(外務省の公式X投稿(会見のやり取りを掲載))。
翌10月8日の会見で、記者が「日本側が敬意を求めているが」と問うと、毛寧報道局長は「中国側は、現在の中日関係についての立場を、すでに何度も述べてきた」と答えた。報じられた範囲では、この一文だけだった(澎湃新聞(東方財富網の転載))。知乎の質問は、この日に立てられた。
元投稿
質問:如何看待日方要求对高市早苗给予适当的尊重,称外交部经常直呼其名,中方回应已多次阐明当前中日关系的立场?(日本側が高市早苗に適切な敬意を払うよう求め、外交部がよく呼び捨てにすると言っている。中国側は「中日関係の立場は何度も述べた」と答えた。どう見るか)
補足:「10月8日、外交部の毛寧報道官が定例会見を主宰した。AFPの記者が、日本側が高市早苗首相に適切な敬意を払うよう中国に求めたと報じられている、と質問した……」(要旨・本文は途中で切れている)
知乎/2026年10月8日/フォロワー119・閲覧217,556回・回答88件
→ https://www.zhihu.com/question/2091580116203738705
回答1「肩書きを外すのは、対等な交渉相手と認めないという意味だ」
回答者:知乎ユーザー(匿名)
投稿日:2026年10月9日
賛同365・コメント4
→ 回答ページ
取消了对方的首相称呼,意味着已经开始不承认对方的对等谈话地位了。
首相という呼び方をやめたのは、相手が対等に話す立場にあることを、もう認めないという意味だ。
回答者は続けて、ビジネス交渉にたとえる。交渉の最初は互いに「社長」と呼び合い、話がうまく運ばなくても、そこは変わらない。呼び捨てになるところまで来たら、すでにまとまらない、という。
如果谈判谈到开始直呼大名了,你想都崩成啥样了?
交渉が、名前を呼び捨てにするところまで来たなら、どれほど壊れているか考えてみろ、という意味だ。
結論は、日本が「実質的な変化」を示さない限り、中国は一歩も前に出ない、というものだ。回答は日本を指して、蔑称にあたる言い方を使っている。この記事では、その部分は引用しない。
回答2「米国は中国を超大国として礼遇するのに、日本は手下扱いしたいのか」
回答者:pk82
投稿日:2026年10月9日
賛同249・コメント6
→ 回答ページ
こちらは短く、日本を指す蔑称を使った一文の回答だ。趣旨は、日本が頼りにしている米国は、中国を超大国として礼遇しているのに、日本は中国を手下のように扱おうとしている、というもの。引用は避け、趣旨だけ紹介する。賛同は249で、回答1に次ぐ。
回答3「ほかの首脳には、ファーストネームで親しく呼ぶのに」
回答者:和安吉也
投稿日:2026年10月9日
賛同241・コメント14
→ 回答ページ
萨娜桑很亲切的称呼美国特朗普大统领为唐纳德,很亲切的称呼法国大统领马克龙为埃马,很亲切的称呼英国首相斯塔默为基尔,很亲切的称呼意大利总理梅洛尼为吉奥。
サナさん(高市首相への愛称)は、米国のトランプ大統領を親しげに「ドナルド」と呼び、フランスのマクロン大統領を「エマ(エマニュエル)」と、英国のスターマー首相を「キア」と、イタリアのメローニ首相を「ジョ」(ジョルジャの略とみられる)と呼んでいる。
そのうえで、「だから中国も親しげに『高市早苗』と呼んでやる」と、皮肉でつなぐ。さらに、日本が「仕事の場では肩書きで呼ぶべきだ」と言ったことを、「英米仏伊には偽りの熱意で、中国には本当の顔だ」と書く。賛同は241。
裏取り
確認できたこと
回答3の、トランプ氏とマクロン氏の部分は、日本側の記録で確かめられる。2026年3月19日の日米首脳会談を受けた報道で、高市首相が「平和と繁栄をもたらせるのはドナルドだけ」と述べたと報じられている(北海道新聞)。2026年4月1日の日仏首脳会談では、共同記者発表で、首相がマクロン大統領を「エマニュエル」と呼び、「明日、エマニュエルと一緒に」と語った記録が、首相官邸のページに残っている(首相官邸)。
「外交部がよく呼び捨てにする」は、2回までなら確かめられる。9月30日の郭嘉昆副報道局長のほか、共同通信は、林剣副報道局長が8月17日の会見で、高市首相の全国戦没者追悼式の式辞について問われた際にも呼び捨てにした、と伝えている(共同通信)。同じ報道は、香港紙・星島日報が9月30日の呼び方を「意図的」と分析し、11月に中国で開かれるAPEC首脳会議に合わせた日中首脳会談は、実現する可能性が低いとした、とも伝えている。
違った・古かったこと
「肩書きを外す」は、常にではない。同じ郭嘉昆副報道局長は、2026年4月と6月には「日本首相高市早苗」と肩書き付きで言い、9月30日の同じ会見でも、ロシアのプーチン大統領は「普京総統(大統領)」と肩書き付きで呼んでいる(セキュリティ対策Lab)。つまり、中国外務省が日本の首相に対して、いつも肩書きを外しているわけではない。質問文の「よく」や、回答1の「もう交渉の扉は閉まった」を、事実として言い切る材料は、今のところ見つからなかった。
回答3の「親しげな呼び方」は、トランプ氏とマクロン氏までしか確認できなかった。スターマー首相を「キア」、メローニ首相を「ジョ(ジョルジャ)」と呼んだ記録は、今回探した範囲では見つからなかった。
見落とされがちなこと
中国語には、日本語の「さん」にあたる敬称を、いつも付ける習慣がない。だから、名前だけで呼ぶこと自体は、日本語の「呼び捨て」と同じではない。ただし、公式の場で首相の肩書きを外すことは別の話で、共同通信も「異例」と伝えている(共同通信)。3つの回答は、どれも肩書きを外したことの「意味」を語っているが、中国外務省が理由を公式に説明していない点には、ほとんど触れていない。
この対立の発端は、2025年11月の高市首相の国会答弁だ。台湾有事で武力行使を伴えば「存立危機事態になり得る」とした答弁を、中国外務省は「3カ国協力の雰囲気を破壊した」と非難し、日中韓文化相会合の延期を韓国に通知した(共同通信)。呼称の問題は、その続きにあるが、3つの回答のどれも、この背景には触れていない。
確かめられなかったこと
回答3が書く「日本が『仕事の場では肩書きで呼ぶべきだ』と言った」は、今回の検索では、元の発言を確認できなかった。日本外務省の公式の記録にあるのは、「国際儀礼上、敬意を払うのは当然だ」という見解で、「仕事の場では肩書きで呼ぶべきだ」という言い方は、記録のなかには見当たらなかった。回答1の「交渉の扉は、ほぼ閉まった」は、書き手の読みであり、検証できる事実ではない。回答2の「手下扱い」も、同じく評価の言葉だ。
この記事の答え合わせに使った事実
| 2025年11月 | 高市首相が国会で、台湾有事は「存立危機事態になり得る」と答弁。中国外務省が非難し、日中韓文化相会合を延期(11月20日報道) |
| 2026年8月17日 | 林剣副報道局長が、高市首相の追悼式の式辞を問われた際に呼び捨てにしたと報じられる |
| 2026年9月30日 | 郭嘉昆副報道局長が「日本首相」の肩書きなしで「高市早苗」と発言。会見録も同じ |
| 2026年10月7日 | 日本外務省の北村報道官が会見で、国際儀礼上の敬意を求める立場を中国側にも申し入れていると明らかにする |
| 2026年10月8日 | 毛寧報道局長は「中日関係の立場は何度も述べた」と答えた。知乎に質問が立つ |
日本視点
この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。中国の人は、肩書きという小さな言葉の違いを、外交の段階を示す合図として読んでいる。回答1が、ビジネス交渉の「社長」にたとえたのは、そのためだ。日本の外務省が「国際儀礼」を理由に抗議したことと、同じ土俵の話をしている。
一方で、事実として確かめられたのは、「呼び捨てが2回あった」ことと「毛寧報道局長が理由を述べなかった」ことまでだった。意図を語る回答は、どれも推測だ。合図として読むこと自体が、中国の人たちの反応の中身だ。日本の側も、反応の根にある「台湾答弁をめぐる対立」を、呼称の話と切り離さずに見る必要がある。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:9月30日に肩書きなしで呼んだこと、日本外務省が10月7日の会見で敬意を求める立場を示したこと、高市首相がトランプ氏とマクロン氏をファーストネームで呼んだこと。
- 注意が必要:「外交部がよく呼び捨てにする」は、確認できたのは2回。4月と6月は肩書き付きで、プーチン氏には9月30日も肩書き付きだった。
- 確かめられなかった:スターマー氏・メローニ氏へのファーストネーム、日本側の「肩書きで呼ぶべきだ」という発言、交渉が閉じたという見立て。
戦後の日中関係を、当時の関係者の証言でたどる本です。外交の場での言葉や、首脳どうしの距離感がどのように積み重なってきたかを、歴史の側から知りたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で21万回読まれた質問「日本が高市首相への敬意を求めたが、どう見るか」。賛同のいちばん多い回答は、肩書きを外したことを「対等な交渉相手と認めない合図」と読み、別の回答は、他国の首脳へのファーストネームの呼びかけを引いて皮肉った
- 裏取りでは、9月30日に郭嘉昆副報道局長が肩書きなしで呼んだこと(8月17日にも林剣副報道局長)、10月7日の外務報道官会見での日本政府の見解、10月8日に毛寧報道局長が一文で答えたことを確認した。トランプ氏とマクロン氏へのファーストネームの呼びかけも、日本側の記録にある
- 「いつも呼び捨て」ではなく、4月と6月は肩書き付きだった。交渉が閉じたという読みや、日本側の発言の一部は確かめられなかった。中国の人は、呼称を外交の段階を示す合図として読んでいる
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