中国の質問サイト「知乎」で2025年に立った質問が、419万回読まれている。「日本は『失われた30年』の不況の中で、なぜ98%以上の就職率を保てたのか」。中国では若者の就職難が深刻になっていて、日本の数字がまぶしく見えたのだ。
最も支持された回答(賛同9,374)は、まず前提を正した。日本はずっと98%だったわけではない。そのうえで日本の就職氷河期をたどりながら、段落の終わりに何度もこう書き添えた。「見覚えがあるだろう?」
元投稿
質問:日本在“失去的30年”经济低迷下,为何能维持98%以上的就业率?
(日本は「失われた30年」の不況の中で、なぜ98%以上の就職率を保てたのか)
知乎/2025年6月30日/フォロワー1,228・閲覧4,187,279回・回答392件
→ https://www.zhihu.com/question/1923152115162916283
質問には「ここでの98%は大学卒業生の就職率で、日本全体の数字ではない。日本の大卒就職率の計算方法を調べてから答えてほしい」という補足が付いている。
回答者:杭西谷
投稿日:2025年7月28日
賛同9,374・コメント957(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
首先要纠正一个前提错误:日本可不是在这30年里都维持98%的就业率。……从1992年开始,仅仅四年,日本的大学生就业率就从80%以上暴跌至67%……大批找不到工作的学生涌向考研和考公(是不是非常熟悉)。
まず前提の誤りを正したい。日本はこの30年、ずっと98%の就職率を保っていたわけではない。……1992年から、わずか4年で、日本の大卒就職率は80%以上から67%に急落した。……仕事が見つからない大勢の学生が、大学院受験と公務員試験に押し寄せた(見覚えがあるだろう?)。

回答者は続けて、大学院生を増やして就職難をしのごうとした結果「学歴の価値が下がった」こと、派遣労働を広げて正社員の枠が新卒だけに閉ざされたことを挙げ、そのたびに「見覚えがあるだろう?」と書く。数えると8回になる。そして、98%という数字はようやく訪れた春にすぎない、と言う。
所以从结果来看,日本实际上是通过“熬”,一直熬到了人口年龄结构变化,形势转好。
結果から見れば、日本は実のところ「耐えた」のだ。人口の年齢構成が変わり、状況がよくなるまで、ひたすら耐え抜いた。
回答者は、日本が持ちこたえられた理由として、戦後早くに国民皆保険を整え、貧富の差を広げすぎなかったこと、国内で鍛えられた企業が海外で稼いだことを挙げる。そして、こう締めくくっている。
日本那么黑暗的几十年,现在看着都挺过来了,眼前一时的困难,无须太过悲观。
あれほど暗かった日本の数十年も、いま見れば乗り越えられている。目の前の一時的な困難に、悲観しすぎる必要はない。
ほかの回答
宝宝(2025年7月17日・賛同1,779)
→ 回答ページ
日本政商一体,有钱人也有政治地位,所以不会轻易的套现跑路,会和民众一起抗经济下行。而掉进中产阶级陷阱的国家,基本都是前三排跑的干净利索。
日本は政界と財界が一体で、金持ちも政治的な地位を持っている。だから簡単に資産を現金化して逃げたりせず、国民と一緒に不況に耐える。中所得国の罠に落ちた国では、たいてい前の3列(上の人たち)がきれいに逃げていく。
裏取り
確認できたこと
日本の大卒就職率(二つの数え方)
| 1991年(卒業者のうち就職した人の割合) | 81.3% |
| 1996年(同) | 65.9% |
| 2003年(同・最低) | 55.1% |
| 2025年春(就職希望者のうち就職した人の割合) | 98.0% |
「4年で80%台から67%に急落」は、ほぼそのとおりだ。文部科学省の学校基本調査では、卒業者のうち就職した人の割合は1991年の81.3%から1996年に65.9%へ下がり、2003年には55.1%まで落ちた(武庫川女子大学 教育研究所)。
「98%」は数え方が違う。文部科学省と厚生労働省の調査で2025年春に98.0%とされたのは、「就職を希望した人のうち、就職できた人」の割合だ(リセマム)。大学院に進む人や就職を希望しない人は分母に入らない。質問の補足が「計算方法を調べてから答えて」と書いたのは、この違いのことだ。
事実と違ったこと
「2014年には正社員と派遣社員が6対4になった」は、非正規と派遣を取り違えている。2014年に4割近くを占めたのは、パートやアルバイト、契約社員などを含む「非正規雇用」全体だ(労働政策研究・研修機構)。回答者自身が貼った厚生労働省の円グラフでも、非正規は40.5%、そのうち派遣社員は2.7%にとどまる。

日本視点
この回答が9,000を超える支持を集めたのは、日本の話が、そのまま中国の若者の話だったからだ。中国の16〜24歳の失業率は2026年8月に18.9%と、学生を統計から外した2023年12月以降で最悪の水準に並んだ。(日本経済新聞)。大学院受験と公務員試験への殺到、学歴の値打ちの低下、不安定な働き方の広がり。回答者が「見覚えがあるだろう?」と8回書いたのは、中国の読者に向けた言葉だ。
日本人にとっては、忘れかけていた記憶を外から見せられる思いがする。就職氷河期の世代は、いま40代から50代になった。回答者はその時代を「一代人的寒冬(一世代の冬)」と呼び、日本は「耐えた」と書いた。耐えた結果、救われなかった人たちがいたことも、日本人は知っている。
それでも回答は、日本を反面教師としてだけ描いてはいない。最後は「日本もあの暗い数十年を乗り越えた。悲観しすぎることはない」という励ましで終わる。日本の失われた30年が、中国では「希望の根拠」として読まれている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:日本の大卒就職率は1990年代に急落し、2003年には55.1%まで落ちた。98%は最近の数字だ。
- 当たっている:「98%」は就職希望者を分母にした数字で、卒業者全体の割合とは違う。
- ずれている:「正社員と派遣が6対4」は誤り。4割を占めたのは非正規全体で、派遣は2〜3%だった。
- 見えていない:氷河期世代には、いまも不安定な働き方から抜け出せなかった人たちがいる。
日本人にとっての学びはこうだ。日本の就職氷河期は、いま中国の若者にとって「見覚えのある話」になっている。そして「日本も乗り越えた」という希望としても読まれている。
就職氷河期世代のその後の収入や家族のかたちを、データで追った一冊です。回答が「耐えた」とまとめた時代の、耐えた後の姿が分かります。
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まとめ
- 知乎で419万回読まれた「失われた30年でも、日本はなぜ就職率98%なのか」に、中国人が日本の就職氷河期をたどり「見覚えがあるだろう?」と8回書いた回答が、9,374の支持を集めた
- 日本の大卒就職率は2003年に55.1%まで落ちた。いまの98%は就職希望者を分母にした数字だ。「正社員と派遣が6対4」は非正規全体と取り違えていた
- 中国の若年失業率は2026年8月に18.9%。日本の氷河期は、中国では他人事ではない話として、そして「乗り越えられる」という希望として読まれている

