日本のアニメやゲームは、なぜ世界で通用するのか。中国の質問サイト「知乎」に、2022年3月、こんな質問が立った。「なぜ今の日本は、世界に影響力のあるACGN(アニメ・コミック・ゲーム・小説)作品を作り、自分たちの文化を世界に輸出できるのか」。閲覧は約90万回、回答は303件。
上位の3回答は、日本の仕組みをほとんど語らない。語るのは中国の側の話だ。規制で作品がやせ細る、文化を背負わされる、輸出を狙うと輸出できない。あれから4年半。中国は『黒神話:悟空』と『哪吒2』を出した。当たったところと外れたところを、数字で確かめた。
元投稿
質問:为什么目前日本可以做出有世界影响力的ACGN作品,向全世界输出自己文化?
(なぜ現在の日本は、世界的な影響力を持つACGN作品を作り、自国の文化を世界に輸出できるのか)
知乎/2022年3月13日/フォロワー844・閲覧898,751回・回答303件
→ https://www.zhihu.com/question/521737981
动画例如 eva 魔女小圆 海贼王 3a游戏例如 只狼
最多賛同の回答「作品が“無害な子ども向け”に削られていく」
回答者:Yue Yu(自己紹介欄は「雨は4年11か月と2日降った」)
投稿日:2022年3月16日(3月23日編集)
賛同2,611(この質問でいちばん多い)・コメント205
→ 回答ページ
见血就是暴力,无奈只能换成石油。
裙子穿到膝盖以上就是软色情,女角色只能穿得像阿富汗妇女。
在剧情中加入欺骗、背叛、阴谋等元素就说是在带偏青少年价值观。
血が見えれば暴力だと言われ、しかたなく石油に置き換える。スカートが膝より上なら軟らかいポルノだと言われ、女性キャラはアフガニスタンの女性のような服しか着られない。筋書きに欺き・裏切り・陰謀を入れれば、青少年の価値観を歪めると言われる。
回答は「『熊出没』のような単純な子ども向けアニメでさえ、数年後に『整改』(是正の指導)が入った」「国内最大のゲーム会社は盗作で育った」と続け、魯迅の講演(「天才がまだ生まれないうちに」1924年)を引いて結ぶ。
鲁迅曾说:比天才更重要的,是能诞生天才的土壤。
比抄袭好作品更重要的,是能诞生出好作品的土壤。
可一百年过去了,这句话依旧没能警醒沉睡中的人们。
魯迅はかつて言った。天才よりも大事なのは、天才が生まれる土壌だ。優れた作品を真似ることよりも大事なのは、優れた作品が生まれる土壌だ。しかし百年たっても、この言葉は眠っている人々を目覚めさせていない。
別の回答「日本は、文化を輸出する荷物を背負っていない」
回答者:疯癫的A兵者(知乎の「新知答主」)
投稿日:2022年3月23日(5月20日編集)
賛同1,114・コメント63
→ 回答ページ
日本文化产品在“娱乐化”自己的文化方面做得很好,它们没有“包袱”——既不必须一定要原汁原味日本传统文化,也不必要一定多么“正能量”充满了文化经典,所以作品生命力一直很高,总能在融合和娱乐化中找到市场平衡点,适应了市场
日本の文化製品は、自国の文化を「娯楽にする」のがうまい。「荷物」(包袱)がないからだ。本場そのままの日本の伝統文化である必要も、「ポジティブなエネルギー」に満ちた文化の古典である必要もない。だから作品の生命力が高く、他の文化との融合と娯楽化の中で、市場との折り合いをいつも見つけてきた。
例に挙げるのは『ポケモン』と『妖怪ウォッチ』だ。日本の伝統文化からアイドルの流行まで盛り込み、「日本らしさ」が濃いのは妖怪ウォッチのほうで、国内では一時ポケモンに並ぶ人気だった。ところが世界で流行ったのはポケモンだった、という。

如果要扶植一个作品,让相关负责人投票,在中国咱们国家会选哪一个……日本动漫反正是没有这种包袱的,它们甚至可以“肆意”(真不夸张)与其他文化融合提升自己在世界上的生命力
仮に一つの作品を国が後押しするとして、担当者に投票させたら、中国はどちらを選ぶだろうか……。日本のアニメには、そういう荷物がない。他の文化と好きなだけ混ざって、世界での生命力を高められる。
別の回答「文化輸出は、作品のおまけにすぎない」
回答者:duck不必
投稿日:2022年3月22日
賛同618・コメント64
→ 回答ページ
因为所谓文化输出,只是这些东西的副产品。
我们说爱屋及乌,文化输出结果只是这个“乌”。
いわゆる文化輸出は、これらの副産物にすぎない。「家を愛すれば、屋根の上のカラスまで愛する」(好きになれば、その周りのものまで好きになる)と言うが、文化輸出はそのカラスの部分だ。
回答者は『メタルギア』シリーズを例にする。日本文化はほとんど入っていないのに、映画のような語りで海外のプレイヤーを魅了し、制作者・小島秀夫のファンから日本への興味が生まれた。『ペルソナ5』は舞台が東京で、世界のプレイヤーがゲームの場面を探して東京を歩き、日本の食や遊びを受け入れていく。これが「作品で世界に影響する」やり方だと言う。
而中国现在的文化输出呢?就是喋喋不休地告诉老外“我们中国人传统文化是这个”“我们中国人喜欢吃这个”“我们中国人为什么喜欢吃这个呢?这个背后有段故事……”
老外听了只会说句“so what?”
では、いまの中国の文化輸出はどうか。「われわれ中国人の伝統文化はこれだ」「われわれ中国人はこれが好きだ」「なぜ好きかというと、この裏にはこんな物語が……」と、外国人にしゃべり続けるだけだ。外国人は「so what?(それで?)」としか言わない。
裏取り
確認できたこと
Yue Yuが挙げた規制は、実在する。2013年10月12日の『新聞聯播』は、『喜羊羊と灰太狼』と『熊出没』の2作を名指しし、暴力が度を越し言葉が粗野だとして「整改」中だと報じた(中新網)。2021年9月25日には、国家広播電視総局の担当者が「暴力血腥、低俗色情などの場面を含むアニメの配信を断固として拒む」と述べた(央広網)。
ゲームへの規制も強い。2021年8月30日の通知で、未成年に網絡ゲームを提供できるのは、金・土・日と祝日の20時から21時の1時間だけになった(国家新聞出版署の通知)。
日本に「荷物」が少なく、日本の外で売れているのも数字で確かめられる。『ペルソナ』シリーズは2026年6月時点で世界累計3,000万本を超え、その約8割が海外だった(セガの発表を報じた電ファミニコゲーマー)。『ペルソナ5』シリーズだけで1,300万本を超える。舞台は、回答者が挙げた通り東京だ。
ポケモンと妖怪ウォッチの差も確かだ。ポケモンの関連ゲームは2026年3月末で累計5億1,500万本以上、テレビアニメは190以上の国と地域で放送された(株式会社ポケモン)。妖怪ウォッチはシリーズ累計1,000万本を2015年12月に超えた(4Gamer)が、北米で本格展開した2015年秋から半年余りの2016年6月、北米版は約40万本。レベルファイブの日野社長は「まだまだ全然足りない」と述べた(t011)。
ずれていたこと
「日本にはしがらみがない」とまでは言えない。国内で売る家庭用ゲームは、CEROの審査で、全年齢・12歳以上・15歳以上・17歳以上・18歳以上に分けられる。暴力や性の表現に基準がある(CERO)。違いは、審査するのが国ではなく業界の団体で、決まるのは対象年齢の区分だという点だ。
確かめられなかったこと
「血を石油に置き換えた」「アイコンが生殖器に似ているとして描き直した」といった個別の事例は、公式の資料では見つからなかった。「最大のゲーム会社は盗作で育った」は評価の言葉で、比べる資料はない。妖怪ウォッチが伸びなかった理由が「日本らしさが濃すぎたから」かどうかも、原因まで書いた一次資料はなかった。
4年後の答え合わせ
まず、Yue Yuの悲観は、少なくとも「世界に出られない」という点では外れた。2024年に出た『黒神話:悟空』は、世界販売2,800万本超・売上90億元(約2,120億円)超と、浙江省の宣伝部長が述べた(IT之家)。開発元は、販売の約半分が中国の外だと認めている(游民星空)。2025年の中国のゲーム企業の海外売上は204.55億ドルで、前の年より10.23%増えた(新華網)。
次に、映画では、Yue Yuの言った『熊出没』が生き残った。2025年の中国映画の興行は518.32億元(約1兆2,230億円)で、アニメ映画が250億元(約5,900億円)を超え、市場の半分近くになった。年間の上位10本にはアニメが4本入り、国産3本の中に『熊出没・重啓未来』もある(国家電影局)。1位の『哪吒之魔童鬧海(ネジャ2)』は世界興行159.49億元(約3,760億円)で、アニメ映画の歴代世界1位になった。
ただし、duck不必の言う「輸出」は、まだ届いていない。ネジャ2は、2025年4月の時点で、中国本土の外の興行が約6,000万ドル。総額21.5億ドルの3%に満たなかった。財新は理由に、道教など中国神話の下地、世界的なスターの不在、北米での上映数の少なさ、宣伝の準備不足を挙げた(財新)。ゲームは世界に出たが、映画はほぼ国内で完結している。
日本のコンテンツの海外での数字
| コンテンツ産業の海外売上(2023年) | 5.8兆円(10年で約3倍・2033年の目標は20兆円) |
| アニメ産業の海外市場(2021年) | 1兆3,134億円 |
| アニメ産業の海外市場(2024年) | 2兆1,702億円(国内は1兆6,705億円) |
| 『鬼滅の刃 無限城編』世界興行(2026年4月) | 1,179億円(国内402億円・海外777億円=約66%) |
| 『ペルソナ』シリーズ(2026年6月) | 3,000万本超(約8割が海外) |
| 妖怪ウォッチ北米版(2016年6月) | 約40万本(シリーズ累計は2015年12月に1,000万本) |
日本視点
回答者たちは、日本の強さを「荷物のなさ」に見た。日本の側から見ても、これは半分当たっている。経済産業省は、日本の優位を「原作の多様性」と書く(エンタメ・クリエイティブ産業戦略)。日本の役所が強みに置くのは、国が後押しした作品ではなく、原作の多様さだ。回答者が書いた「国が投票で後押しする作品を選ぶ」形とは、出発点が逆だ。
一方で、日本自身がこの強さを収益に変えきれていない。同じ資料は、海外売上のうち、ゲーム以外は「売上の多くが海外企業に流れている」と認める。アニメでも「制作会社に収益が還元されにくい業界構造」が現場の賃上げを妨げ、人材が業界の外へ流れる恐れがあると書く。世界で売れているのは日本の作品だが、その利益の多くは、作った日本の現場には戻っていない。制作会社が製作委員会に入れるように支援する、という対策が並ぶのは、そのためだ。
同じ資料は「欧米に次いで、中韓が台頭」と書き、「中国(ゲーム)が世界市場における主要プレイヤーへ」と名指しする。知乎の回答者が「中国には無理だ」と嘆いた分野で、日本の役所は「もう追いつかれ始めている」と書いている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:娯楽として作られて売れた作品が多い。ペルソナは海外が約8割、鬼滅は約66%。
- 当たっている:中国の規制は強い。『熊出没』の整改(2013年)も、未成年のゲーム制限(2021年)も実在する。
- ずれている:日本にも年齢別の審査があり、「何を描いてもいい」わけではない。中国のゲームは、2024〜25年に世界へ出た。
- 見えていない:日本の産業は、海外で売れた利益を制作現場に戻せていない。
日本人にとっての学びはこうだ。中国の回答者が日本に見たのは、「文化を輸出する」ために作らなかったから、結果として文化が輸出された、という逆説だ。日本の役所は、その強みが利益に結びついていないこと、中国のゲームに追われ始めていることまで書いている。
回答が指摘した「作品の力」と、日本のアニメの利益がどこへ流れるかを、配信時代のビジネスの仕組みから読み解く本です。製作委員会方式やライセンスの構造を整理しています。
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まとめ
- 知乎で約90万回読まれた「なぜ日本は世界に影響力のあるACGNを作れるのか」。上位の回答は、中国の規制と「文化を輸出しよう」と背負う姿勢を語った
- 規制は実在する。日本は「荷物」が少なく、ペルソナの約8割・鬼滅の約66%は海外で売れた。日本にも年齢審査(CERO)はある
- 4年後、中国は黒神話とネジャ2を出した。ただしネジャ2の海外は3%未満。日本は世界で売れても、利益が現場に戻らない課題を抱える
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