中国の質問サイト「知乎」に、2016年11月から読まれ続けている質問がある。「日本の学習塾はどんなものか。中国と違うところはあるのか」。閲覧は12万回、回答は9件。いちばん支持された回答(賛同429)は、予備校ではなく、「先生が教えない塾」の話だった。公文式(KUMON)だ。
公文式の数字、予備校の現在、大学入試の変化を、文部科学省と各社の資料で答え合わせした。
元投稿
質問:日本的课外辅导班是什么样的?有什么和中国不同的地方吗?(日本の学習塾はどんなものか。中国と違うところはあるのか)
知乎/2016年11月19日/フォロワー393・閲覧118,812回・回答9件
→ https://www.zhihu.com/question/52784011
最多賛同の回答「日本には、先生が教えない塾がある」
回答者:苏菲(「新知答主」)
投稿日:2016年12月10日
賛同429(この質問でいちばん多い)・コメント51
→ 回答ページ
回答者は、日本のIT企業でのインターンで、公文式の教育モデルとウェブサイトを調べた経験から書いている。
我想给大家介绍日本一种很『特殊』并且已经进军世界的辅导班模式——KUMON教育研究会的『基于教材的自学辅导』。
日本の、とても「特殊」で、すでに世界に進出している塾の形を紹介したい。KUMON教育研究会の「教材にもとづく自学指導」だ。
这种辅导班的大部分老师都是主妇。……老师不直接传授知识,真正的『老师』是教材。而这些教室里的老师会传授教材的正确使用方法,以及一些辅助性的教学。……不需要有教师资格也可以申请开设教室和成为老师,接受培训和教学辅导之后就可以上岗,并且工作一辈子。
この塾の先生の大半は主婦だ。先生は知識を直接教えない。本当の「先生」は教材だ。教室の先生は、教材の正しい使い方や補助的な指導を教える。教員免許がなくても教室を開き、先生になれる。研修を受ければ働き始められ、一生続けられる。
根据统计,50%以上的小学生可以通过自学,提前1-3年掌握高年级的知识。
統計によると、50%以上の小学生が自学で、学年より1〜3年先の知識を身につけられる。
一个统计表:将近80%的老师都是50岁以上,五分之一的老师在70岁以上。
ある統計表では、先生のほぼ80%が50歳以上で、5人に1人は70歳以上だ。
ほかの回答
回答者:佳代千千岁
投稿日:2017年3月24日
賛同28・コメント7
→ 回答ページ
最大的不同是:日本学生不上补习班几乎是考不上好大学的。所以上补习班对于以进学为目标的日本学生来说是必选项。
いちばんの違いは、日本の学生は、塾に通わないと、いい大学にほぼ受からないことだ。だから進学を目指す日本の学生にとって、塾は必修だ。
回答者は理由を、日本の普通の中学・高校は課程が簡単で、先生が中国のように毎日見張らず、放課後も早いから、と説明する。代々木、駿台、河合塾、東進などの大手が、模試や参考書の出版まで手がけている。最後には、お金のない家の子はいい大学に入りにくく、塾は日本の教育の階級化の「毒瘤」かもしれないと結ぶ。
回答者:momo
投稿日:2017年5月13日
賛同17・コメント17
→ 回答ページ
日本奇葩的是视频课不放到网上,非要你去学校里才能看(東進ハイスクール、河合塾マナビス)。
日本の変なところは、映像授業をネットに出さず、わざわざ校舎に来ないと見られないことだ(東進ハイスクール、河合塾マナビス)。
回答者は上海出身で、日本で代々木ゼミナールと駿台に通った。校舎は「おしゃれ」で、代ゼミは一棟まるごとが校舎。授業は十数人から100人までの集団授業。高3や浪人生が、自分から夜9〜10時まで校舎で自習することに驚いた、と書く。
裏取り
確認できたこと
公文式の成り立ちは、回答のとおり「教材」から始まった。創始者の公文公氏は、小学2年の息子・毅さんのために手づくりのルーズリーフ教材をつくった。毅さんは小学6年の夏に微分・積分まで学び、公文氏は1958年に大阪に事務所を開いた(KUMON・公文公の物語)。回答の「60年前」は正しい。
教室を開くのに資格がいらないのも事実だ。くもんの先生の募集要項は「特別な資格や指導経験は不要」で、「新設」と「引継」があり、自宅か貸会場で開き、フランチャイズ契約を結ぶ。週2日・1日5時間程度から始められる(公文教育研究会・先生の募集要項)。
公文式は、いまや日本の塾の枠を超えている。2026年6月現在、全教科の学習者は約351万人(日本129万人、海外223万人)、世界61の国と地域に広がる。教室は2026年3月現在で2万3,200(日本1万4,500、海外8,700)、教室の指導者は2万1,300人(日本1万2,900人)だ(公文教育研究会・会社概要)。
「大手予備校は校舎を持つ」も事実だった。ただし代ゼミは2014年に、全国27校舎のうち20校舎の2015年度以降の募集をやめ、本部校など7校舎に集約した。浪人生が減ったためだ(日本経済新聞)。回答が見た「一棟まるごと」の姿は、いまはない。
違った・ずれていたこと
「塾に行かないと、いい大学にはほぼ受からない」は、いまは言いすぎだ。令和7年度の入試では、大学入学者のうち、総合型選抜が19.5%、学校推薦型選抜が34.1%、あわせて53.6%が「年内入試」だった。学力試験を軸にする一般選抜は、残りの約46.4%だ(文部科学省・令和7年度入学者選抜実施状況)。

「映像授業はネットで見られない」も、もう違う。リクルートの「スタディサプリ」は、2020年9月に有料会員が152万人に達した(ストレイナー)。回答の2017年は、映像授業のネット配信が広がる前だった。
確かめられなかったこと
「50%以上の小学生が1〜3年先の学習を自学で身につける」と「先生の約80%が50歳以上、5人に1人が70歳以上」は、公文教育研究会の公開資料では確かめられなかった。「東進は東大合格率が最高で、いちばん価格が安い」も、確かめる資料を見つけられなかった。
「塾はお金の格差を広げる毒瘤」は、数字ではどうか
最後の指摘は、統計が一部を裏づける。文部科学省の令和5年度の調査では、保護者が1年間に子供1人にかけた「学校外活動費」(学習塾・家庭教師・習い事などの合計)は、公立小学校で25万6,489円、公立中学校で35万6,018円、公立高校で24万5,431円、私立中学校で42万2,981円だった(子供の学習費調査)。

そして、家庭の収入と進学先の関係は、東京大学の例で見える。東大の「学生生活実態調査」では、世帯年収950万円以上の家庭の割合が、大学生の子がいる一般の家庭では25.9%なのに、東大生の家庭では57.3%だった(ニューズウィーク日本版)。ただし、これは塾だけの影響ではなく、家庭の教育への投資全体の差だ。
日本の塾と受験をめぐる数字
| 公文式(2026年) | 学習者 約351万人(日本129万人・海外223万人)/世界61の国と地域/教室 2万3,200(日本1万4,500) |
| 代々木ゼミナール(2014年の発表) | 全国27校舎 → 7校舎に集約(20校舎は2015年度以降の募集をやめた) |
| 大学入学者の選抜区分(令和7年度) | 総合型 19.5%+学校推薦型 34.1%=年内入試 53.6% |
| 学校外活動費(公立中学校・年額) | 35万6,018円(学習費総額54万2,450円の約66%) |
| 世帯年収950万円以上の家庭の割合 | 東大生の家庭 57.3%/大学生の子がいる一般の家庭 25.9% |
日本視点
この質問への答えが、「先生が教えない塾」から始まったのは、日本の「塾」が、学力を上げる場所だけでなく、主婦が働く場所、教材を売る事業、競争に備える保険など、いくつもの顔を持つからだ。公文式は、資格がなくても教室を開けるしくみで、世界61の国と地域に広がった。
一方、予備校は、少子化と入試の変化で、校舎を大きく減らした。年内入試が5割を超えたいま、「塾なしでは受からない」という見方は、一般選抜を受ける人にだけ強く当てはまる。
それでも、「塾は家庭のお金の力と結びつく」という回答者の指摘は、公立中学校の保護者の支出の約66%が学校外活動費だという数字と、東大生の家庭の収入の偏りに、いまも通じている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:公文式の成り立ちと教材中心の方式、教室を開くのに資格がいらないこと、塾と家庭の収入の関係。
- 半分当たっている:「塾に行かないと、いい大学にはほぼ受からない」(一般選抜では強く当てはまるが、入学者の53.6%は年内入試)。大手予備校の校舎(2014年に27校舎から7校舎に集約)。
- ずれている:「映像授業はネットで見られない」。確かめられなかった:先生の年齢構成、先取り学習の割合。
日本人にとっての学びはこうだ。中国人が日本の塾に見るのは、受験のための競争の場より、「先生の資格ではなく、教材が教える」という別のしくみだ。ただしそのしくみが広がった一方で、家庭の収入が学びの機会に結びつく問題は、塾の形が変わってもなくなっていない。
公文式と難関大の学生の関係を、教育ジャーナリストがたどった本です。教材が教えるしくみが、学びにどう働くのかを考える手がかりになります。
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まとめ
- 知乎で12万回読まれた「日本の学習塾はどんなものか」。最多賛同の回答は、予備校ではなく、教材が教える公文式を紹介した
- 裏取りでは、公文式の成り立ちと資格不要の教室、世界61の国と地域に351万人の学習者がいることを確認。一方、「塾なしでは大学に受からない」は、入学者の53.6%が年内入試の今は言いすぎで、映像授業のネット配信も広がった
- 公立中学校の学校外活動費は年35万6,018円で、東大生の家庭の57.3%は世帯年収950万円以上。塾と家庭のお金の関係は、数字でも見える
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