中国の質問サイト「知乎」に、2012年4月から読まれ続けている質問がある。「なぜ日本の犯罪率は低く、しかもどんどん低くなっているのか」。閲覧は33万回、回答は52件。質問者は「近代化が進むと犯罪は増える。それがほぼ普遍の法則なのに、日本はほとんど唯一の例外だ」と書いた。
いちばん支持された回答(賛同1,114)は、「日本だけではない。先進国の犯罪は、この20年でどこも大きく減った。技術のおかげだ」と答えた。2014年のこの回答を、警察庁の令和7年の犯罪情勢(2026年2月)で答え合わせした。
元投稿
質問:为什么日本犯罪率很低而且越来越低?(なぜ日本の犯罪率は低く、しかもどんどん低くなっているのか)
知乎/2012年4月29日/フォロワー780・閲覧334,060回・回答52件
→ https://www.zhihu.com/question/20207712
在现代化进程中,个人化,个人主义,城市资本主义不断发展,犯罪随之上升,这几乎是普遍规律。日本几乎是唯一的例外,而且值得注意的是日本犯罪率不仅低,而且越…
近代化の過程で、個人化、個人主義、都市の資本主義が進むと、犯罪はそれにつれて増える。これはほぼ普遍の法則だ。日本はほとんど唯一の例外で、しかも注目すべきは、日本の犯罪率が低いだけでなく、どんどん……(質問文の一部。後半は省略されている)
最多賛同の回答「犯罪が多く見えるのは、報道が多いからだ」
回答者:林浩轩
投稿日:2014年8月8日
賛同1,114(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ
不单只日本的犯罪率越来越低,实际上全世界发达国家的犯罪率在近二十年都有显著下降。
日本の犯罪率がどんどん下がっているだけではない。実際には、世界の先進国の犯罪率は、この20年で著しく下がっている。
人们觉得现代犯罪率高的原因只不过是因为现代资讯过于发达导致更多的罪案被大量报道。
人々が現代の犯罪率が高いと感じる原因は、ただ、情報が発達しすぎて、より多くの事件が大量に報道されるからにすぎない。
事实上近二十年来全世界发达国家的犯罪率都在大幅下降,这主要是科技的功劳:监控摄像机与电子报警器的普及极大的增加了犯罪的成本;手机的普及也使人们可以更方便的求救、检举罪犯、拍下犯罪过程;现代刑侦技术的发展(DNA鉴别技术等)更是令警方如虎添翼。
事実、この20年で先進国の犯罪率は大きく下がった。主な功労者は科学技術だ。監視カメラと電子警報機の普及が、犯罪のコストを大きく引き上げた。携帯電話の普及で、助けを求めたり、犯人を通報したり、犯行を撮影したりしやすくなった。DNA鑑定などの捜査技術の発展が、警察に翼を与えた。
この回答は、ほかに「ネットのおかげで若者は早熟で法を守る」「ゲームで暴力を発散できる」「ポルノやシリコン製の代用品の普及が性犯罪を減らした」などの推測も並べている。
ほかの回答
回答者:匿名ユーザー
投稿日:2018年5月1日
賛同297・コメント17
→ 回答ページ
对于现在的日本,犯罪真的等于“自杀”……不同的是,“自杀”世人或许有人不认可,骂你蠢,但家人基本上不会有来自社会的压力,甚至可能受到“同情”……但犯罪则不同,真是一人犯罪,全家蒙污,其家属在社会上永远受人指责,矮人三分,只因你一个人的“错”(罪)……
いまの日本では、犯罪はほとんど「自殺」と同じだ。違うのは、自殺は世間に認めない人がいて愚かだと言われても、家族は社会からの圧力をあまり受けず、同情さえされるかもしれないこと。犯罪は違う。一人が罪を犯せば、一家が汚れ、家族は社会で一生責められ、肩身が狭くなる。あなた一人の「罪」のために。
以前日本有时间限制,但现在连这个都取消,一但犯罪,只要受害者家属有这个意愿,无论多少年都会有人追查真凶
以前の日本には時効があったが、いまはそれも廃止された。一度罪を犯せば、被害者の家族がその意思を持つ限り、何年たっても誰かが真犯人を追う。
回答者:苔青
投稿日:2012年4月30日
賛同72・コメント7
→ 回答ページ
日本人对犯罪的容忍度相当低。一个罪犯,不光自己,其家人在社会上也难被接受。……日本民族比较单一,甚至整个国家就像个声气相通,习俗相近的大村落,在这样一个社会里要突破强大的行为准则的约束,去实施犯罪,是需要巨大勇气的。
日本人は、犯罪への許容度がかなり低い。犯罪者は、本人だけでなく家族も社会で受け入れられにくい。……日本の民族は比較的単一で、国全体が、気心が通じ、習俗の近い大きな村のようだ。そんな社会で強い行動規範を破って罪を犯すには、大きな勇気がいる。
裏取り
確認できたこと
「日本の犯罪はどんどん減った」は、2021年までは数字のとおりだ。刑法犯の認知件数は、2002年に285万3,739件のピークに達したあと、2003年から19年連続で減り、2021年に56万8,104件と戦後最少になった(令和4年版犯罪白書)。
「犯罪が多く見えるのは、報道が増えたからだ」も、日本の調査で裏づけられる。警察庁が2025年10月に行ったアンケート(15歳以上5,000人)で、この10年で治安が「悪くなったと思う」と答えた人は79.7%。その人たちが挙げた理由は、「テレビや新聞で犯罪の報道を見ることが増えたから」が76.4%、「インターネットニュースで見ることが増えたから」が61.1%で、「自分や家族が被害に遭った、遭いそうになった」は14.2%だった(警察庁・令和7年の犯罪情勢)。
時効の廃止も本当だ。2010年4月27日、殺人罪や強盗殺人罪などの公訴時効を廃止する刑事訴訟法の改正が成立し、即日施行された。捜査中で、時効が成立していない過去の事件にも適用される(nippon.com)。
違った・ずれていたこと
「どんどん低くなっている」は、2022年からは違う。刑法犯は2021年の56万8,104件を底に、2022年60万1,331件、2023年70万3,351件、2024年73万7,679件、2025年77万4,142件(前年比4.9%増)と、4年連続で増えた。人口1,000人あたりでは6.3件で、前年より0.3件増えた。2019年(コロナ前)も上回った(警察庁)。

「若者がいちばん犯罪をしない」「科学技術が犯罪を減らした」も、いまは半分しか当たらない。少年による刑法犯の検挙人員は2004年から減り続けたが、2022年から増加に転じ、2024年は2万9,675人(前年比13.2%増)。少年の人口比は1981年の1,432.2をピークに下がったあと、2022年から3年連続で上がり、2024年は278.8だった(令和7年版犯罪白書)。また、技術を使った犯罪も増えている。2025年の知能犯(詐欺など)は7万7,473件で、前年より25.0%(1万5,487件)増えた(警察庁)。
確かめられなかったこと
「ゲームやポルノが暴力・性犯罪を減らした」は、回答者自身の推測で、確かめる資料を見つけられなかった。「先進国の犯罪は、この20年でどこも大きく減った」も、日本以外の国は今回は調べていない。「犯罪者の家族は社会で一生責められる」は、体験談で、統計は見つからなかった。
答え合わせ:「治安のいい国」への見方は、犯罪の中身と一緒に変わった
日本の治安をめぐる数字
| 刑法犯の認知件数 | 2002年 285万3,739件(ピーク)→ 2021年 56万8,104件(戦後最少)→ 2024年 73万7,679件 → 2025年 77万4,142件 |
| 知能犯(詐欺など) | 2021年 3万6,663件 → 2025年 7万7,473件(約2.1倍) |
| 「日本の治安はよい」と思う人(警察庁のアンケート) | 2023年 64.7% → 2024年 56.4% → 2025年 60.3% |
| 「この10年で治安は悪くなった」と思う人 | 2023年 71.9% → 2024年 76.6% → 2025年 79.7% |
出典:警察庁・令和7年の犯罪情勢。2021年の知能犯は、同資料の図の数値
警察庁は、令和7年の犯罪情勢を「厳しい状況にある」と総括している。理由は、詐欺の被害額が4,000億円を上回るなど、被害が深刻なことだ(同上)。
日本視点
回答者たちは、日本の犯罪の少なさを、技術、法治、社会の目で説明した。2025年の数字は、「犯罪が多く見えるのは報道のせい」という10年前の指摘が、そのまま日本の調査にも出ていることを示す。そして同時に、犯罪の中身が、窃盗から詐欺やネットへ移っていることも示す。
つまり、日本は「犯罪の少ない国」のままだが、「どんどん減る国」ではなくなった。そして人々の不安は、自分が被害に遭ったからではなく、被害の話をよく聞くようになったから膨らんでいる(被害に遭ったことを理由に挙げた人は14.2%)。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:2021年までの減少、時効の廃止、「犯罪が多く見えるのは報道のせい」(アンケートの理由の76.4%)。
- 半分当たっている:「技術が犯罪を減らした」(技術を使う詐欺は増えている)、「若者は犯罪をしない」(少年の検挙は2022年から増加)。
- ずれている:「どんどん低くなっている」(2022年から4年連続で増加)。
日本人にとっての学びはこうだ。中国人が日本に見る「犯罪の少ない国」は、2021年までは数字のとおりだった。いまの日本は、犯罪が少ないままなのに、増え始めたことと、増えたと感じることの両方に直面している。「治安がいい」ことは、一度手に入れれば続くものではなく、数字を見ながら守り続けるものだ。
犯罪の統計を、エビデンス(証拠)にもとづいて読み解く犯罪学の入門書です。報道の量と実際の犯罪件数の違いを考える手がかりになります。
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まとめ
- 知乎で33万回読まれた「なぜ日本の犯罪率は低く、どんどん低くなっているのか」。最多賛同の回答は「先進国の犯罪は技術で減った。多く見えるのは報道が増えたからだ」だった
- 警察庁の統計で、2021年までの減少は確認できた。「報道で多く見える」も、アンケートで76.4%の人が理由に挙げた。ただし刑法犯は2022年から4年連続で増え、2025年は77万4,142件になった
- 技術を使った犯罪(知能犯・詐欺)も2025年に前年比25.0%増えた。日本は犯罪の少ない国のままだが、「どんどん減る国」ではなくなった
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