中国人「日本の給料は本当に高くない。物価は高い。桜は毎年同じで見飽きる」

中国の質問サイト「知乎」で、1,100万回以上読まれた質問がある。「日本に住む中国人が、国内の人にふつう言わない事実は何か」。質問者は、海外に住む中国人は華やかな面しか見せない、空気がきれい、地下鉄の乗客のマナーがいい、とは言うが、大家が外国人を断ることは言わない、と書いた。

いちばん支持された回答は3万以上の賛同を集めた。答えは、語尾をそろえた数え歌だった。給料、物価、食事、酒、娯楽。暮らしの細かいところを、身もふたもなく並べていく。市役所で働く中国人も、日本の役所の「言わないこと」を書いた。数字の部分を、いまの統計で確かめた。

元投稿

質問:生活在日本的华人,一般不会告诉国内人哪些事实呢?
(日本に住む華人〔中国系の人〕が、国内の人にふつう言わない事実は何か)
知乎/2020年11月15日/フォロワー5,857・閲覧11,658,824回・回答399件
→ https://www.zhihu.com/question/430370491

いちばん支持された回答「給料は本当に高くない。物価はやっぱり高い」

回答者:虎博士(知乎の「経済の話題の優秀回答者」)
投稿日:2020年11月16日
賛同30,174・コメント1,114(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

回答は、すべての行が「〜的」で終わる七字の数え歌になっている。出だしはこうだ。

美食真的蛮少的,种类就那几样的。
碳水真的超多的,油炸也是不少的。
最后自己做饭的,基本都是被逼的。
玩乐几乎没有的,只有喝酒唱歌的。

おいしいものは本当に少ない。種類はいつも同じ。
炭水化物がすごく多い。揚げ物もけっこう多い。
結局みんな自炊する。ほとんどは、そうするしかないから。
遊びはほとんどない。あるのは酒とカラオケだけ。

工资真的不高的,物价还是蛮贵的。
交通真的超贵的,走路还是会累的。
衣服倒是便宜的,优衣库很舒服的。
房价可以接受的,小社畜买得起的。
涨价那是别想的,三十年如一日的。

給料は本当に高くない。物価はやっぱり高い。
交通費はすごく高い。歩くのはやっぱり疲れる。
服はむしろ安い。ユニクロは着心地がいい。
家の値段は手が届く。平凡な会社員でも買える。
給料が上がるなんて思わないこと。30年、毎日が同じだ。

天空很蓝是真的,地震更多怕怕的。
樱花每年都看的,枫叶也是很美的。
然而年年一样的,有点审美疲劳的。

空が青いのは本当。地震が多いのは怖い。
桜は毎年見に行く。紅葉もきれいだ。
でも毎年同じで、ちょっと見飽きた。

反響を受けて、回答者は何度も書き足した。食べ物の回では、寿司も刺身もラーメンも牛丼もおいしいが「半年で全部食べ飽きる」。中国には八大料理のほか新疆や東北の料理まであって「食べ飽きることなどありえない」と書く。酒の回では、日本の飲み会は乾杯のあと酒を勧めあわないので「国内より雰囲気はいい。ただ料理が少なくて、半分しか腹がふくれない」。

給料の回は、こう始まる。

为了描述方便了,单位都是日元滴。要想换软妹币么,乘以零点零六滴。……低端就是打工么,时薪一千左右滴。……收入就十八万了,一个人挺舒服滴。……老牌企业相似么,起薪二十一万滴。税后就十八万了,跟打工差不多滴。

説明のため単位は円にする。人民元にするなら0.06を掛けてね。……いちばん下はアルバイトで、時給1,000円くらい。……月の収入は18万円、一人ならけっこう快適。……老舗の企業も似たようなもので、初任給は21万円。手取りは18万円で、アルバイトとほとんど変わらない。

それでも大学に行くのは、家賃補助や通勤手当、年2回のボーナスといった福利が違うからだという。総合商社なら30代で年収1,000万円を超えるが、毎晩のように客と明け方まで飲む。そして最後にこう書く。

为啥上千老说么,其实是个瓶颈滴。上千已经不多了,再往上是更难滴。贫富差距较小么,发财就不容易滴。五百万算不少了,一半人到不了滴。年薪上千的人么,百分之十左右滴。

なぜ「1,000万円」ばかり言うのかというと、それが天井だからだ。1,000万円はもう少数で、その上はもっと難しい。貧富の差が小さいぶん、金持ちになるのは簡単ではない。500万円でも少なくない。半分の人は届かない。年収1,000万円の人は1割くらいだ。

別の回答「海外の中国人が語る『事実』は、その人の階層の事実にすぎない」

回答者:neo-mashiro(日本と北米に長く住んだと書く)
投稿日:2021年2月20日
賛同12,810・コメント695
→ 回答ページ

无论是日本还是哪里,任何一个国家的海外华人,他们和你讲的“事实”都只是他们自己所在的社会阶级的“事实”,你所在的阶级,决定了一个社会将向你展示哪一面。

日本でもどこでも、海外の中国人があなたに語る「事実」は、その人がいる社会階層の「事実」にすぎない。あなたがどの階層にいるかで、その社会はどの面を見せるかが決まる。

回答者によれば、東京の名門校に通い、外資系でインターンをして700万〜800万円もらう学生には、日本は天国に見える。IT派遣で定時に帰り、飲み会もない人は、日本の職場の重圧を知らない。そして「日本人は表向き礼儀正しいが、中国人への反感を口には出さない」とも書く。日本の飲み会の思い出は「毎晩7割酔って終電で帰った」ことだという。

市役所で働く中国人「市民が聞かなければ、役所は教えない」

回答者:九五吉祥在东瀛(日本の民商法の博士。市役所勤めと書く)
投稿日:2024年2月14日
賛同1,642・コメント313
→ 回答ページ

この回答は、日本の役所の中から見た事実を15項目並べる。まず生活保護(中国語で「低保」)について。

在日本申请低保(生活保护)时,市负责部门会发出80多封信,分别向各银行各保险公司以及申请者的所有能联系上的亲属,确认该申请者有无存款有无储蓄型保险,以及亲属们有无抚养扶助义务和能力,当然这是在征求申请者同意的前提下,申请者拒绝则无法申请,有不少想申请的人,因为不愿意让亲属们知道自己现状,所以放弃,宁肯当流浪汉。

日本で生活保護を申請すると、市の担当部署は80通以上の手紙を出す。銀行、保険会社、そして連絡がつく親族すべてに、預金や貯蓄型の保険があるか、親族に扶養する義務と力があるかを確かめる。もちろん申請者の同意が前提だが、拒めば申請できない。自分の今の状況を親族に知られたくなくて申請をあきらめ、路上生活を選ぶ人も少なくない。

ほかにも、生活保護を受けると原則として車を持てないこと、ひとり親の手当では男性と暮らしていないかを調査員が家まで確かめに来ること、離職後の住民税の減免やふるさと納税は「市民が聞かなければ教えない」と研修で言われたことを書く。

有电话打进市役所时,不管对方要找的人职位多高,接电话的人不能说,比方说,要找田中市长,不在,接电话的人只能说田中不在,后面不能加职位。

市役所に電話がかかってきたとき、相手が探している人がどんなに偉くても、「田中市長は不在です」とは言えない。「田中は不在です」と言うしかなく、役職をつけてはいけない。日本の「内と外」の区別であり、税金で給料をもらう以上、市民が自分より上だと分かっているべきだからだ。

後半は外国人向けの助言だ。市役所には無料の法律相談や医療機関の案内があり、日本語が分からない子どもには市の負担で付き添いの通訳がつくことがある。家庭内暴力を受けたら、警察より先に市の家庭・児童の相談窓口へ行けば、加害者に見つからない住まいを無料で用意してくれる、と書いている。

青空を背にしたロウバイの黄色い花と、桜の枝のふくらんだつぼみの写真3枚
市役所勤めの回答者が回答の最後に添えた写真。冬のロウバイと、春を待つつぼみ(出典:知乎・九五吉祥在东瀛の回答)

裏取り

確認できたこと

「初任給21万円」は2020年当時の数字として正しい。厚生労働省の調査で、大学卒の初任給は2019年に21万200円だった(厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査(初任給)」)。

生活保護を受けると原則として車を持てない、は正しい。厚労省は「自動車については処分していただくのが原則」と説明している。ただし、通勤用の車を持ちながら仕事を探す場合など、処分せずに保護を受けられることもある(厚生労働省「生活保護を申請したい方へ」)。

ひとり親の手当の調査も、制度としては実在する。児童扶養手当は、事実上の婚姻関係(事実婚)にあると支給されない。国は、形式的に決めつけず、実際の生活の状況を確かめて判断するよう自治体に通知している(厚生労働省の通知)。

事実と違ったこと

「500万円に届かないのは半分」ではなく、6割以上だ。国税庁の調査で、1年を通じて働いた人のうち年収500万円以下は、2020年に69.1%、2024年に63.4%だった(国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」)。

国税庁の給与階級別給与所得者数・構成割合の表(男女計)。令和2年分から令和6年分まで、100万円以下から2,500万円超までの人数と割合が並ぶ
年収の階級別の割合(男女計)。500万円以下の5つの階級を足すと、令和2年分69.1%、令和6年分63.4%(出典:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」 第16表)

「年収1,000万円は1割くらい」も多すぎる。1,000万円を超える人は、2020年に4.7%、2024年でも6.2%だ(国税庁)。

「親族への問い合わせを拒めば、生活保護を申請できない」は正しくない。厚労省は「同居していない親族に相談してからでないと申請できない、ということはありません」と明記している(厚生労働省)。2021年には、扶養が期待できない親族(10年ほど音信不通、暴力があった、など)には問い合わせないよう、運用を改めた(厚生労働省の事務連絡)。回答者は2024年に書いているが、市の現場の説明がこの見直しに追いついていないのかもしれない。

6年後の答え合わせ

「給料が上がるなんて思わないこと。30年、毎日が同じだ」は、数字の上では外れ始めた。

日本側のデータ

回答(2020年)の数字と、いま

大学卒の初任給21万200円(2019年)→ 26万2,300円(2025年)※集計方法が2020年に変更
最低賃金(全国加重平均)902円(2020年度)→ 1,121円(2025年度)
年収1,000万円超の割合4.7%(2020年)→ 6.2%(2024年)
1円は何元か約0.06元(回答)→ 約0.042元(2026年9月25日)

出典:厚生労働省(2019年)・厚生労働省・同(最低賃金)・国税庁・三菱UFJ銀行の仲値

大学卒の初任給は2025年に26万2,300円になり、前の年より5.6%上がった(厚生労働省)。2020年から集計の方法が変わり(通勤手当を含めるなど)、2019年以前とは単純には比べられないが、新しい方法で遡った数字でも2019年の男性22万2,100円から2025年の26万4,900円へ上がっている(労働政策研究・研修機構)。最低賃金の全国平均は2025年度に1,121円で、すべての都道府県で1,000円を超えた(労働政策研究・研修機構)。

ただ、中国の家族に仕送りする人にとっては、逆に悪くなった。回答は「円に0.06を掛ければ人民元」と書いたが、いまは1元が23.63円で、1円は約0.042元にしかならない(三菱UFJ銀行の9月25日の仲値)。初任給26万2,300円は約1万1,100元で、2020年の21万円(約1万2,600元)より人民元では少ない。

日本視点

日本人が読むと、数え歌の中身はほとんど「知っていること」だ。給料は上がらず、飲み会で酔いつぶれ、桜は毎年同じ。在日中国人が国内に言わない「事実」は、日本人が自分の国について毎日ぼやいていることと、ほぼ同じだった。違うのは比べる相手だ。食べ物の単調さを嘆くとき、比べているのは中国の八大料理で、娯楽の少なさを嘆くとき、比べているのは食事も按摩もそろった中国の大型浴場だ。

neo-mashiroの「見える日本は、その人の階層で決まる」は、日本人にも当てはまる。外資系の高給取りと派遣のエンジニアでは、同じ東京でも見えている国が違う。

市役所勤めの回答は、日本の役所の二つの顔を描いている。困った外国人には通訳も住まいも無料で用意する細やかさと、生活保護やひとり親の手当では預金や同居を細かく確かめる厳しさだ。「市民が聞かなければ教えない」という一文は、日本の制度が「申請しないと使えない」仕組みであることを、外から来た人の目で言い当てている。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:2020年の大卒初任給21万円。生活保護では原則として車を持てない。ひとり親の手当は事実婚だと支給されない。
  • ずれている:年収500万円に届かないのは「半分」ではなく6割以上。1,000万円超は「1割」ではなく6.2%(2024年)。
  • ずれている:親族への問い合わせを拒んでも、生活保護は申請できる。2021年から、扶養が期待できない親族には問い合わせない運用になった。
  • 変わった:初任給は26万2,300円、最低賃金は1,121円に上がった。ただ円安で、人民元にすると目減りしている。

日本人にとっての学びはこうだ。在日中国人が国内に言わない「日本の事実」は、給料・物価・娯楽への、日本人自身と同じぼやきだった。違うのは、その比較の相手がいつも中国の暮らしだということだ。

関連書籍

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まとめ

  • 知乎で1,100万回以上読まれた「日本に住む華人が国内に言わない事実」。いちばん支持された回答は「給料は本当に高くない、物価は高い、桜は毎年同じで見飽きる」と数え歌で書いた
  • 初任給21万円は当時として正しい。ただ「500万円に届かないのは半分」は6割以上、「1,000万円は1割」は6.2%で、実態より甘い。市役所勤めの回答の「親族照会を拒めば生活保護を申請できない」も正しくない
  • 6年で初任給は26万円台、最低賃金は1,121円に上がった。ただ1円は0.06元から0.042元になり、人民元で見ると目減りしている

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