中国の質問サイト「知乎」に、2015年2月に立った質問がある。「日本は、先進国のなかで、性別平等がもっとも遅れているのか」。閲覧は39万回、回答は51件。質問の背景には、日本人の妻と暮らす中国人男性の体験記を読んだ驚きがあった。いちばん賛同の多い回答は、「NOでもあり、YESでもある」と書き、法律や制度と、社会の文化や考え方とを分けて論じた。
この回答が書いた日本の男女平等の現状について、世界経済フォーラムの順位、男性の育児休業の取得率、共働き世帯、女性の管理職の割合を、2015年当時と2026年の最新の数字で答え合わせした。
元投稿
質問:日本是否是发达国家中性别平等最落后的?(日本は、先進国のなかで、性別平等が最も遅れているのか)
補足:「中国人男性の自述:日本人の妻をめとった幸せな生活」を読んで驚いた。日本のような先進国は、人類の発展の法則から言えば、高度に性別平等のはずだ。(以下略)(要旨)
知乎/2015年2月9日/フォロワー1,946・閲覧388,486回・回答51件
→ https://www.zhihu.com/question/28095352
回答1「NOでもあり、YESでもある。法律は進んでいるが、文化は残っている」
回答者:苏菲(プロフィールの表示「新知答主」)
投稿日:2015年2月11日
賛同3,570・コメント220
→ 回答ページ
在社会制度和政策上很少存在非常明显的对女性的不平等。甚至有时候达到过度保护的程度。
社会の制度や政策の上では、女性へのはっきりした不平等はほとんど存在しない。ときには、過度に保護するほどだ。
まず「NO(遅れていない)」の理由。法律、会社の規則、日常の接し方まで、女性の権利と平等は重んじられている、と書く。例として、痴漢の冤罪を挙げる。電車の痴漢は犯罪だが、証拠を出しにくく、女性が「触られた」と言い張れば有罪になりうる。女性専用車両が入ったあと、専門家が「男性専用車両」を呼びかけるほどになった、という。
这些其实都有一个本质因素,就是日本仍旧主流的男性工作,女性持家的家庭分工。
これらにはすべて、一つの本質的な要因がある。日本で今も主流の、男性が働き、女性が家を守る、という家庭の分担だ。
次に「YES(遅れている)」の理由を、四つ挙げる。一、女の子が、この分担のせいで、早くから仕事の努力をあきらめること。日本の女性は結婚後に専業主婦になる人が多く、中国の女性は結婚後も働き続けるのが当たり前だ、と書く。二、会社の制度の名残。かつて結婚後に辞めるのが当たり前で、女性は「臨時」として扱われ、男女の賃金が違った。法律で禁止されると、会社は「総合職」と「一般職」に分けた。一般職は補助的な仕事で、ほぼ女性向けだった。1990年以降、法律もこの区別をなくす方向に進み、いまは多くの会社が、男女を分けず総合職を採用している。
第三,物化女性的文化太过根深蒂固。
三つめ。女性を「物」として見る文化が、あまりに根深い。
回答者は、職場で性的な冗談が平気で出ること、浮気を自慢する中高年男性、発達した性産業、「見た目の社会」を、その例として挙げる。四、この男女の不平等な考え方は、男性にとっても負担で、日本のドラマ「デート〜恋とはどんなものかしら〜」の主人公のような、「専業主夫になりたい」という男性の声も出てくる、と結ぶ。
回答2「日本の治安は安心できる。ただ、性別のステレオタイプは確かに強い」
回答者:严夏(プロフィールの表示「死硬女权主义者」)
投稿日:2015年2月11日
賛同176・コメント72
→ 回答ページ
日本治安相当好,是全球恶性犯罪率最低的国家之一,媒体上也不会出现劝诫女性不要这样不要那样如果穿得少被骚扰就是你的错这样的狗屁文章
日本は治安がかなりよく、凶悪犯罪の率が世界でもっとも低い国の一つだ。メディアにも、女性に「あれはするな、これはするな、薄着で嫌がらせされたのはあなたの責任だ」と説教するような記事は出ない。
日本に1年暮らしたこの回答者は、まず数字を出す。去年の世界の男女格差報告で、日本は先進国の最下位あたりで世界104位、中国は87位で、日本より17位上だ。政治参加の分野が特に低い。次に、個人の感想として、「日本人と話すと、男女を問わず、家事の大半は女性が得意で、女性が担うべきだと当然のように考える」「授業で男子が少し際どい冗談を言うと、30代の女性の先生が『女子もいるから、こういう話はやめて』と言い、女子は必ず優しく純粋だと思っている」が嫌だ、と書く。
回答3「回答1は、ドラマの印象で書いていないか」
回答者:afishdead(プロフィールの表示「装修等 2 个话题下的优秀答主」)
投稿日:2015年2月15日
賛同61・コメント33
→ 回答ページ
不知道一楼的答案根据都是从哪儿来的,是自己的亲身体验还是仅仅根据日剧和印象中的日本来作出的结论?
1番目の回答は、何を根拠にしているのかわからない。自分の実体験なのか、それともドラマと、印象のなかの日本から結論を出したのか。
日本で修士を1年半学び、東京の設計会社に勤める回答者は、自分の体験を書く。建築の仕事では、夜通しの接待や工事現場など、男性が有利な面は確かにあるが、会社は、日本語が半人前の外国人の女性である自分にも、同期の男性に劣らない育成と仕事を課す、という。先輩の女性建築士たちは、夏には日焼けするまで現場に立ち続けている。
在我周围,也许是因为接触的都是工薪阶层的男性,几乎从来没有一个人是希望自己的妻子做全职太太的。
私の周りでは、おそらく会社員の男性ばかりだからだろうが、妻に専業主婦になってほしいと望む人は、ほとんど一人もいない。
理由は「一人の給料ではとても大変だから」。育休は、保険で基本給の70%がもらえるが、東京の住宅ローンを抱える家庭では、夫婦が同時に休むと、収入の減少で家計が重くなる。日本の会社で収入を増やすには、残業しかない。日本人の恋人とは、家事を分担している。それでも、実家で、仕事のあとに家事を全部引き受ける母と、テレビの前でぼんやりする父を見ると、「どちらの国の男尊女卑がより重いのか、わからなくなる」と書く。
裏取り
確認できたこと
回答2の「世界の男女格差報告で、日本104位、中国87位」は、当時の順位のとおりだった。2014年版(142カ国)で日本は104位で、前年の105位から一つ上がった(内閣府 男女共同参画局)。中国は87位だった(Hong Kong Free Press)。
回答3の「育休は基本給の7割」は、当時の制度に近い。回答3の書いた2015年の男性の育休取得率は、厚生労働省の調査で2.30%(女性は86.6%)だった(労務ドットコム(厚生労働省 平成26年度雇用均等基本調査))。回答1の「男性が育休を取る権利が、社会の常識として扱われていない」は、数字にも出ていた。
違った・古かったこと
男性の育休は、2015年から大きく変わった。2025年度(令和7年度)の雇用均等基本調査で、男性の育児休業取得率は50.9%で初めて5割を超え、前年度の40.5%から約10ポイント上がった(女性は88.3%)。女性の管理職の割合は、課長相当職で13.2%、部長相当職で9.2%(かいけつ!人事労務)。

育休中の給付も、2025年4月に厚くなった。育児休業給付金は、休業開始から180日までは休業前賃金の67%(手取りで約8割相当)。そこに「出生後休業支援給付金」(最大28日間、休業前の賃金の13%)が加わり、合計で80%(手取りで10割相当)になった(DIME・ファイナンシャルフィールド)。回答3の「7割」は、いまの制度の最初の180日間の67%と、ほぼ同じ水準だった。
日本の順位は、2026年も低いままだ。世界経済フォーラムの2026年版(2026年9月16日発表、145カ国)で、日本は117位。前年の118位から一つ上がったが、G7では最下位で、100位以内にも入れなかった。分野別では、経済が119位、政治が121位、教育が68位、健康が49位(秋田魁新報(共同)・nippon.com)。一方、中国は103位から96位に上がり、2016年以来はじめて100位以内に戻った(nippon.com・The Diplomatic Insight(SCMPの報道を紹介))。回答2の時点では中国のほうが17位上で、いまは21位上になった。
見落とされがちなこと
回答1は、日本の「制度」と「文化」の差を、中国の人の目で整理したのに対し、回答3は、「中国の人が日本の女性を『ドラマの中の人』として見ていないか」と疑っている。この質問に対する中国の答えのなかで、いちばん賛同が多いのは「NO and YES」の説明だが、「実際の職場で見た、普通の日本人の働き方」を書いた回答は、賛同が少ない。中国の人にとっての「日本の女性」は、いまも、ドラマと体験記を通して見られている、と読める。
確かめられなかったこと
回答1の「日本の女性の多くは、結婚後に専業主婦になるため、結婚前から条件のよい夫を得るための振る舞いを磨く」「日本に来る中国人女性の少なくとも半数は『理工女』タイプだ」は、回答者の個人的な見方で、統計では確かめられなかった。回答1の「日本は、職場で性的な冗談が平気で出る、おそらく唯一の国」、回答3の「友人に、専業主婦を望む男性はほとんどいない」も、個人の経験の範囲だ。
この質問の答え合わせに使った事実
| 世界の男女格差報告(2014年版・142カ国) | 日本104位/中国87位 |
| 世界の男女格差報告(2026年版・145カ国) | 日本117位(G7最下位)/中国96位(2016年以来の100位以内) |
| 男性の育児休業取得率 | 2014年度 2.30% → 2024年度 40.5% → 2025年度 50.9% |
| 女性の管理職の割合(2025年度) | 課長相当職 13.2%/部長相当職 9.2% |
| 育児休業中の給付(2025年4月から) | 出生後休業支援給付金で13%上乗せ、合わせて給付率80%(最大28日間) |
出典:内閣府・Hong Kong Free Press・秋田魁新報(共同)・nippon.com・労務ドットコム・かいけつ!人事労務・DIME・ファイナンシャルフィールド
日本視点
この質問は、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人は、日本の性別の問題を、「法律」と「文化」に分けて考えている。法律や安全は評価し、家庭の分担と、職場の空気を指摘する。この整理は、2026年の日本の順位の内訳(経済119位・政治121位・教育68位・健康49位)とも、方向が合う。
日本の人にとって、ここは意外かもしれない。いま「日本は遅れている」と言われる分野は、法律の整備ではなく、経済と政治への参加だ。一方、男性の育休は、2015年の2.3%から2025年度の50.9%へと、約22倍になった。回答1が「政策や法規ですぐ緩和される」と見た二つの問題(家庭の分担と、会社の制度の名残)は、この10年で実際に動いた。
そして、中国の側も、順位を上げたとはいえ、96位だ。この質問の答えは、「日本が遅れているか」より、「どの物差しで測るか」に近い。回答3の問い(ドラマの印象で語っていないか)は、日本側にも向けられる。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:世界の男女格差報告で、日本の順位が低く、中国が上であること(2014年も2026年も)。男性の育休が少なかったこと(2015年は2.30%)。「総合職」「一般職」の区別が、法律の変化とともになくなりつつあったこと。
- 注意が必要:回答1の言う「男性が働き、女性が家を守る分担」は、共働き世帯が2024年に1,300万世帯、専業主婦世帯が508万世帯となり、共働きが大きく上回る形で変わっている(労働政策研究・研修機構)。
- 確かめられなかった:日本の女性の結婚観についての一般化、職場の性的な冗談の国際比較。
日本が「男女格差の後進国」と言われる理由を、職場や家庭にある無意識の思い込みから考える本です。回答3の「ドラマの印象ではなく、実際の姿で見る」ために、日本側の議論を知りたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で39万回読まれた「日本は、先進国のなかで、性別平等がもっとも遅れているのか」。賛同の多い回答は「NOでもあり、YESでもある」と書き、法律と文化を分け、別の回答は「ドラマの印象で語っていないか」と問うた
- 裏取りでは、2014年の世界の男女格差報告は日本104位・中国87位で当時のとおり。2026年版は日本117位(G7最下位)、中国96位。男性の育休は2014年度の2.30%から、2025年度の50.9%へ
- 「日本の女性の振る舞い」の一般化は確かめられなかった。この質問の答えは、「日本が遅れているか」より、「どの物差しで測るか」に近い
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