中国の質問サイト「知乎」に、2022年3月に立った質問がある。「いま日本へ留学するには、どんな助言があるか」。閲覧は27万回、回答は81件。いちばん賛同の多い回答は、「日本の学部留学は一律にやめるよう勧める。文系の大学院も、やめるよう勧める」と書いた。その回答に、「難しさを大きく見すぎている。国内の211・985(中国の重点大学)の難しさを小さく見すぎている」と反論する回答が、賛同2番手で並んだ。
日本の学部入試の難しさ、留学生の数、日本の大学の世界ランキングを、日本学生支援機構(JASSO)の統計・日本留学試験の公式の配点・QSのランキングで答え合わせした。
元投稿
質問:现在去日本留学有什么建议?(いま日本へ留学するには、どんな助言があるか)
補足:なし
知乎/2022年3月5日/フォロワー179・閲覧271,806回・回答81件
→ https://www.zhihu.com/question/520248607
回答1「日本の学部は一律にやめさせる。文系の大学院も」
回答者:疏离(プロフィールの表示「揭露日本留学真相 劝退盲目留学润日」)
投稿日:2022年3月20日
賛同760・コメント1,095
→ 回答ページ
日本本科一律劝退,文科大学院劝退。
日本の学部は一律にやめさせる。文系の大学院も、やめさせる。
考中上游大学的难度相当于普通高考大省211(如广东)。
中・上位の大学に受かる難しさは、大学入試が激しい省(例えば広東省)で、重点大学の「211」に入るのに近い。
理由は、①日本語・英語ともに「並以上」では足りず、日本語はN1よりはるか上(日本留学試験EJUの日本語で340点前後。回答者は「N1合格は280点に当たる」と書く)、英語はTOEFLで90前後が要る。②標準化された成績では選別されず、実際に落とすのは校内試験と面接。③国公立は募集が少なく、多くが地方の大学。④「難しい、高い、総費用は英米豪より高い」。そこで回答者は、「中・高専卒なら英国などで学位を積んでから修士へ」「大専からは自考(独学)の学士を経て修士へ」を薦める。
一方、理系の大学院は「留日の選択としてよい」と書く。「出身校はそれほど重要ではなく、技術が第一、出身校は二番目」と。
回答2「難しさを大きく見すぎ。国内の211・985は、もっと難しい」
回答者:鸡排排排排排排(プロフィールの表示「不会骂人」)
投稿日:2022年5月11日
賛同191・コメント329
→ 回答ページ
高赞答主要么把日本考学的难度想的太大了。要么把国内考211985的难度想的太小了。
賛同の多い回答者は、日本の入試の難しさを大きく見すぎているか、国内の211・985の難しさを小さく見すぎている。
那么按照比例算,明显不如国内学生考985困难,应该略大于国内考211的难度,小于国内考985的难度。
割合で計算すれば、明らかに、国内の学生が985に入るより難しくない。国内の211よりわずかに難しく、985よりは易しい、といったところだ。
根拠は、帝大7校と東京工業大学の学部の留学生の数。2019〜2021年のデータで合計2,120人、年間約530人しか入らない(早稲田・慶應を足しても約1,284人)。「国内で985に入るのと同じ難しさなら、受験生が5万人以上いなければならないが、JASSOの調査では、学部を受ける留学生は多くても年2〜3万人」。その一方、回答者は「日本の学部は費用対効果が低い」と認め、「国内で211・985に入って、日本の帝大の修士に来るほうがよい」と書く。結びは、「私は薦めも、やめさせもしない。客観的な事実を言うだけだ」。
我不劝进或者劝退,我只说一下客观事实。
私は薦めも、やめさせもしない。客観的な事実を言うだけだ。
回答3「日本の大学は、高考の成績を見ない」
回答者:一树
投稿日:2024年9月23日
賛同35・コメント3
→ 回答ページ
日本读大学不看你的高考成绩,看得是你的EJU成绩和校内考。
日本の大学は、高考(中国の大学入試)の成績を見ない。見るのは、EJU(日本留学試験)の成績と、校内試験だ。
短い回答で、高校3年の4月から来日でき、高考は受けなくてよい。ただ「日本留学を簡単に考えすぎないで」、よい大学なら日本語はできるだけ高く、英語もTOEFLかTOEICを。国内で語学を学んでおくと、日本の語学学校で、専門の準備に力を回せる、と助言する。
裏取り
確認できたこと
回答1の「EJUの日本語は、N1よりはるかに難しい」は、配点から見ても、重い試験だ。日本留学試験(EJU)の日本語は、読解・聴読解・聴解が各0〜400点、記述が0〜50点(JASSO 日本留学試験)。回答1の「340点」は、400点満点の85%にあたる。
回答2の「日本の学部の留学生は多くない」も、数字で見るとそのとおりだ。日本学生支援機構(JASSO)の2025年5月1日の調査で、外国人留学生は40万8,069人。内訳は、日本語教育機関14万174人、専修学校(専門課程)10万6,829人、大学院6万13人、大学(学部)9万2,442人(5.7%増)、短期大学4,138人(JASSO(日本学生支援機構))。学部の留学生は、全体の2割強だ。
「日本の大学の世界ランキングは高くない」も、その後、さらに進んだ。2026年6月18日発表のQS世界大学ランキング2027で、国内トップの東京大学は39位で4年連続で順位を下げた。京都大学は64位、大阪大学95位、東京科学大学97位が、トップ100に入った。中国の大学は、北京大学が13位、清華大学が14位、復旦大学が26位(リセマム(QS世界大学ランキング2027))。

違った・古かったこと
回答2の「年に2〜3万人」という受験者の数は、いまは当てはまらない。日本語教育機関に在籍する留学生は、2025年5月に14万174人で、回答2が引いた2020〜2021年の2〜3万人(学部を受ける人の推計)とは、数え方が違い、単純には比べられないが、桁が違う。学部の留学生は、2025年に9万2,442人(前年比5.7%増)と増え続けている。国内の入試の厳しさを割合で比べる前提が、動いている。
回答1・2の「中国での評価は、帝大と早慶以外は低い」は、一部、数字に出た。QS2027で、中国の大学は北京大学13位・清華大学14位と、東京大学の39位を、いずれも上回る。「世界ランキングで見る」という中国側の物差しからは、日本の大学が、一段と見えにくくなっている、と読める。
見落とされがちなこと
2つの回答が争っているのは、難易度の高さではなく、「日本の学部留学が、割に合うか」だ。回答1は「割に合わない、英米豪へ」、回答2は「難しくないが、費用対効果は低い、修士から日本へ」。回答2も、日本の学部を薦めていない点では、回答1と同じだ。中国の人にとっての日本留学は、大学の名前や世界ランキングで、中国国内での評価を測る、という見方が強い。
確かめられなかったこと
回答1の「EJU日本語280点がN1合格に当たる」「MARCH以上のTOEFLは90前後」「早稲田の留学生入試の倍率は8.3倍(一般入試3.9倍)」は、今回確かめられなかった。回答1の「日本の学部は2年の語学学校+4年で、年20万元(約472万円)」、回答2の「二本・三本から帝大の修士に入るには、30万元(約708万円)以上と最低2年」も、個人の試算で、確かめられなかった。2026年の日本語教育機関の入学要件の変更は、民間サイトの記載にとどまり、公的な資料では確かめなかった。
この質問の答え合わせに使った事実
| 日本留学試験(EJU)の日本語の配点 | 読解・聴読解・聴解 各0〜400点/記述 0〜50点 |
| 外国人留学生(2025年5月1日現在) | 40万8,069人。日本語教育機関 14万174人/大学院 6万13人/大学(学部) 9万2,442人 |
| QS世界大学ランキング2027(2026年6月18日) | 東京大学 39位(4年連続で下落)/京都大学 64位/北京大学 13位/清華大学 14位 |
日本視点
この質問は、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人は、日本の大学を、日本国内の偏差値や知名度ではなく、「世界ランキング」と「中国での認知度」で測っている。回答1が、文系の大学院について「MARCH(日本の私大のグループ)や地方の帝大では、帰国しても大手企業の履歴書審査を通らない」と書いたのは、その物差しの話だ。
日本の人にとって、ここは耳が痛い。日本の大学は、世界ランキングの順位を下げる一方で、留学生の数は増えている。その中身は、日本語学校と専門学校が多く、学部は2割強。回答2が引いた「年に2〜3万人」の受験者の推計と、数え方は違うが、日本語学校の在籍は、いま14万人だ。
そして、回答1・回答2が、どちらも「理系の大学院は日本留学の選択肢」と書いている点は、日本の強みを、中国の人が、学部ではなく、研究と技術の側で見ていることを表す。「日本留学」といっても、どの段階で、何を目的に来るかで、まったく別の話になる。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:EJUの日本語が高配点で重いこと。日本の大学の世界ランキングが下がっていること。学部の留学生が、全体の2割強にとどまること。
- 注意が必要:「年に2〜3万人」の受験者の前提は、日本語教育機関の在籍14万人のいまは当てはまらない。「帝大と早慶以外は評価が低い」は、中国側の物差しの話で、日本国内の評価とは別。
- 確かめられなかった:EJUとN1の換算、早稲田の倍率、費用の試算。
世界の大学ランキングが何を測っているのか、日本の大学がどう位置づけられているのかを、整理して解説した本です。回答1・2が、ランキングを物差しに留学を考えている背景を、日本側の議論から知りたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で27万回読まれた「いま日本へ留学するには、どんな助言があるか」。賛同の多い回答は「日本の学部は一律にやめさせる。文系の大学院も」と書き、2番手の回答は「国内の211・985のほうがはるかに難しい」と反論した
- 裏取りでは、EJUの日本語は読解・聴読解・聴解が各400点満点。2025年5月の留学生は40万8,069人で、日本語教育機関が14万174人、学部は9万2,442人。QS2027で東京大学は39位(4年連続で下落)、北京大学は13位
- EJUとN1の換算や早稲田の倍率は確かめられなかった。2つの回答はどちらも、日本の学部は割に合わない、と見ている
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