中国の質問サイト「知乎」に、2025年6月10日、こんな質問が立った。「日本は、2026年から『単身税』を取り始める。どう見るか」。閲覧は106万回、回答は195件(10月12日時点)。賛同のいちばん多い回答(1,009)は、「2026年から、日本で独身なら、別に『単身税』を払う。ニュースが出ると、全ネットが驚いた」と書いた。いちばん新しい情報を入れた回答(216)は、「正確には、独身が払う税ではない」と書き直している。そして2026年4月、この制度は実際に始まった。いまの数字で、答え合わせをした。
元投稿
質問:如何看待日本2026年要开始征收「单身税」?(日本が2026年から「単身税」を取り始める。どう見るか)
補足:「日本は来年4月から、子ども・子育て支援金を取り始める。1人あたり、平均で月250〜450円。医療保険料への上乗せとして、段階的に徴収される。このニュースが出ると、……」(要旨・本文は途中で切れている)
知乎/2025年6月10日/フォロワー373・閲覧1,063,279回・回答195件
→ https://www.zhihu.com/question/1915835476826387610
回答1「日本は、重要な一歩を踏み出した。独身なら、2026年から別に単身税を払う」
回答者:枫冷慕诗(自分の公式アカウントの記事の転載。プロフィールの表示なし)
投稿日:2025年7月1日
賛同1,009・コメント517
→ 回答ページ
太魔幻了,日本迈出了重要的一步,从2026年开始,如果你在日本是一个单身人士,那就需要缴纳额外的单身税,消息传出,全网震惊。
あまりに荒唐無稽だ。日本は重要な一歩を踏み出した。2026年から、日本で独身の人は、別に「単身税」を払わなければならない。このニュースが出ると、全ネットが驚いた。
回答は、「児童・育児支援金」の制度を、「2026年4月から、健康保険・国民健康保険に入っている全員が、子どもの保育を支えるために、追加でお金を払う。最高で月1,650円」と説明する。独身なら、年に約1,000元(約2万3,600円)を、ほかの家庭の子育てに出す計算だ。反対は42%、「他人の子育ての負担を、なぜ私が」という日本のネットの声、三原じゅん子大臣が「独身税は大きな誤解」と釈明したこと、を並べる。
続けて、日本が少子化の対策に何でも出している、と書く。2024年の出生数は68.6万人、合計特殊出生率は1.2、東京都は職員の「週休3日」を始めた、出産の補助は子どもが18歳になるまで総額750万円、公立の教育はほぼ無料、子どもの医療費は7割が出る。それでも若者は産まない。さらに「保守党の党首の百田尚樹氏が、女性は18歳から大学に行かせない、25歳を過ぎて独身なら一生結婚できない、30歳で独身なら子宮を摘出、と言った」とも書く。そして、最後に、この見立てを置く。
我个人认为效果十分有限,为什么?因为税收得太少了,一年1000块人民币,以日本人均十几、二十万的年收入水平,这简直就是毛毛雨。
私は、効果はきわめて限られると思う。理由は、取る額が少なすぎるからだ。年に人民元で1,000元(約2万3,600円)は、日本の人の平均的な年収の水準からすれば、ほとんど霧雨だ。
回答は、前漢の初めに、15歳以上の未婚の女性に人頭税を重くかけた例を引き、「効くには、年収20万の人から、結婚していなければ8万を引くくらい、痛くなければ意味がない。ただ、日本政府がやりすぎれば移民が出るから、できない」と書く。最後に「韓国は子どものいる家庭の税を軽くし、ロシアは子どものいない人に月収の6%を課したことがあり、ベルギーは独身の住宅手当を半分にし、タイは第二次大戦中に独身男性に課した」と、世界の例を並べて結んだ。
回答2「単身税なんて何だ。うちの社会保険こそ、かなりの部分が『老人税』だ」
回答者:沧海一帆渡(プロフィールの表示「生命の意義は栄誉を得ること!」)
投稿日:2025年6月12日
賛同456・コメント37
→ 回答ページ
单身税算什么,咱们的社保相当程度上就是老年人税,现在老干部们退休金都超过工薪阶层了,等90后老了有没有退休金还两说呢。
単身税なんて何だ。私たちの社会保険は、かなりの部分が「老人税」だ。いまは「老幹部」たちの退職金が、勤め人を超えている。90年代生まれが年をとったとき、年金があるかどうかも、まだ分からない。
一段落だけの回答で、日本の制度の中身には触れない。日本の話題を、中国の自分たちの年金への不安に引き寄せたものだ。賛同は456。
回答3「正確には『単身税』ではなく、『子どもなし税』だ。ただ、やがて対象は広がった」
回答者:渡边米丽爱(プロフィールの表示「人口に関心がある」)
投稿日:2025年6月12日
賛同216・コメント68
→ 回答ページ
最初は、「20歳以上で子どもがいなく、年収200万円を超える人に、月200〜1,000円を取る。結婚していても子どもがいなければ払う」と説明していた。ところが、末尾に「更新」として、こう書き足している。
去年只针对无子女群体的提案因反对声过高而被调整,所以今年把征收对象改为所有加入日本健康保险或国民健康保险的居民……由于单身人士和无子女家庭无法直接从中受益,因此仍被舆论称为“单身税”。
去年は子どもがいない人だけを対象にした案だったが、反対の声が大きすぎたため調整された。今年は、日本の健康保険か国民健康保険に入っているすべての住民に変わった。単身の人も、子どものいない家庭も、直接の恩恵を受けられないから、世論はいまも「単身税」と呼んでいる。
さらに、日本語の文章を貼り、「独身税は、いわば俗称であり、正確には税金ではありません。……社会保険料の上乗せになります」と、制度の仕組みを説明している。回答の途中では、日本の出生数が1976年の予測より少なく、2024年の68.6万人は1949年の4分の1だ、と数字を並べ、「単身税は、少子化の根本は変えられない。本当に産みたくない人は、このくらいのお金を気にしない」と書く。
裏取り(いまの数字で答え合わせ)
確認できたこと
制度は、予告どおり2026年4月に始まった。会社員は、健康保険料・介護保険料に上乗せされ、被用者保険の支援金率は0.23%で、労使折半(本人負担は0.115%)。年収600万円なら、2026年度の本人負担は月約575円、事業主も同額で、合計1,150円になる(freee)。平均では、健保組合で約550円、国民健康保険で約300円、後期高齢者医療で約200円とされる(BCNリテール)。質問の補足にある「月250〜450円」は、2024年の政府の試算の値で、2026年度の実額とは別の数字だ。
開始後の数字と世論は、数字が割れている。NHKは3月31日、徴収開始の見出しで「平均月額は約250円」と伝えた(NHK(X))。一方、日本経済新聞は、健保連の集計で、2026年度の保険料の上乗せは1人あたり年6,850円(月にならすと約570円)と伝えた(日本経済新聞(X))。平均の月額は、保険の種類と集計の範囲で、約250〜570円と開きがある。世論調査では、日経の4月の調査で、支援金への評価は拮抗し、39歳以下では「妥当」が55%だった(日本経済新聞(X))。
「反対42%」と「三原大臣の釈明」は、実在する。時事通信の世論調査(2024年4月)で、子ども・子育て支援金への反対は42.1%、賛成は32.8%(時事通信)。三原じゅん子大臣は2025年6月10日、「独身税と言い換えることは間違っている」と述べた(週刊女性PRIME)。
出生の数字は、むしろ悪化した。回答の2024年の出生数68.6万人は合う。2025年は、日本人の出生数が67万1,236人(概数)で、10年連続の過去最少、合計特殊出生率は1.14で、10年連続の低下(厚生労働省、nippon.com)。東京都は0.96で、3年連続で「1」を切った。
百田尚樹氏の発言は、実際にあった。2024年11月8日、YouTube番組で「女性は18歳から大学に行かさない」「25歳を超えて独身なら、生涯結婚できない法律に」などと言い、「30歳を超えたら子宮摘出」とも語った(J-CAST)。
違った・古かったこと
「日本は独身に単身税を課す」(回答1の見出し)は、制度の仕組みとしては違う。制度は、独身者だけが払うものではなく、健康保険に入っている全員が、収入に応じて払う社会保険料の上乗せだ。回答3も最初の「20歳以上・子どもなし・年収200万円超・月200〜1,000円」は、古い案で、あとで本人が書き直した。ただ、子どものいない人には直接の給付がないため、「事実上の独身税」と批判する声が続いている。共同通信系の記事は、2025年12月の時点でも、説明が不十分で理解が進まない、と伝えた(さきがけ(共同))。
百田氏の発言は「政策」ではなかった。回答1は、まるで提案のように書くが、百田氏は「むちゃくちゃな小説家のSFと考えてくれ」と前置きして話し、批判を受けて翌日に謝罪、11月10日の街頭演説で撤回した(J-CAST)。日本保守党の公式の政策として出されたものではない。
「出産補助が、18歳まで総額750万円」は、確認できなかった。児童手当は2024年10月に拡充され、第1子・第2子は、3歳未満が月1万5,000円、3歳以上から高校生年代までが月1万円。単純に足すと、約234万円になる(筆者の計算・HugKum)。第3子以降は、月3万円が長く続く場合に、約648万円という計算になるが、年齢ごとの金額の扱いは資料で差がある。
見落とされがちなこと
3つの回答は、「いくら取るか」を議論したが、「何に使うか」を書いていない。回答1は「取る額が少なすぎて効かない」、回答2は中国の年金への不安、回答3は「産みたくない人はお金を気にしない」。しかし、日本で批判が続く理由は、額よりも、「子どもがいない人には直接の恩恵が見えない」「政府は『実質的な負担は生じない』と説明するが、その前提に疑問がある」という点にある。三原大臣は、独身者や子育てを終えた世帯にも恩恵があると説明したが、その発言が、かえって批判を強めたとも報じられている。
確かめられなかったこと
回答1の「最高で月1,650円」は、出典が確認できなかった。2028年度に年収1,000万円の人を、料率0.4%前後・労使折半で当てはめた筆者の計算では約1,670円で、近い数字になる。回答1の「東京都は4日勤務」は、東京都が2025年4月から「週休3日」を選べる制度を始めたが、中身は確認していない。回答3の1976年・1997年・2017年の「中位推計」の数字、「在日外国人の出産意欲は日本人より低い」は、確認していない。回答1の汉の「五算」は、『漢書』惠帝紀に「女子年十五以上至三十不嫁、五算」とあるが、細かい数字(120銭・600銭)は資料で解釈に差がある。
この記事の答え合わせに使った事実
| 制度の開始 | 2026年4月分から。会社員は5月分の給与から天引き |
| 被用者保険の支援金率(2026年度) | 0.23%(労使折半・本人0.115%)。年収600万円で本人約575円/月 |
| 平均負担(試算) | 健保組合 約550円・国保 約300円・後期高齢者 約200円 |
| 世論調査(時事・2024年4月) | 反対42.1%・賛成32.8% |
| 出生数(2025年・日本人) | 67万1,236人(概数)。10年連続の過去最少 |
| 合計特殊出生率(2025年) | 1.14(10年連続の低下)。東京は0.96 |
| 児童手当の合計(第1・2子・0〜18歳) | 約234万円(筆者の計算) |
日本視点
この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。中国の人は、日本の子ども・子育て支援金を「単身税」として読み、「額が少なくて効かない」と評価した。「単身者が、他人の子どもの費用を払う」という図は、中国の人にも、そのまま伝わりやすい。
ただ、日本の人にとっては、「単身税」という呼び名は、仕組みとしては不正確なのに、「恩恵が見えない」という実感のほうに当たっているために、消えない。名前の正しさより、使い道の見え方が、反発の中心だ。一方で、2025年の出生数は67万人、合計特殊出生率は1.14と、人口の減り方のほうは、1年の間に、さらに進んだ。支援金の月数百円という額は、中国の回答が言うとおり、それだけで流れを変える大きさではない。何に、どの順で使い、独身の人にどう見せるかが、日本の人にとっての次の問いになる。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:2026年4月の開始、医療保険料への上乗せ、「反対42%」と三原大臣の釈明、出生数68.6万人、「額が小さく、これだけでは流れを変えにくい」という見立て。
- 外れた・注意が必要:「独身だけが払う」(全加入者が払う)、「百田氏が政策を出した」(SFと断って謝罪・撤回)、「18歳まで総額750万円」(第1・2子は約234万円)、「出生率1.2」(2025年は1.14)。
- 確かめられなかった:「最高1,650円」、中位推計の数字、「外国人の出産意欲」、漢の「五算」の細かい金額。
日本の少子化対策がなぜ効かないのかを、「結婚・出産が回避される本当の原因」から論じた新書です。お金の額だけでなく、「産む前に、何があれば産めるのか」を考えたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で106万回読まれた質問「日本が2026年から『単身税』を取り始める。どう見るか」。賛同のいちばん多い回答(1,009)は、「独身は、別に単身税を払う。年に約1,000元(約2万3,600円)だが、額が小さく、効果は限られる」と書いた。ほかに、中国の年金への不安に話を寄せた回答と、「正確には単身税ではなく、社会保険料の上乗せだ」と書き直した回答がある
- いまの数字では、制度は2026年4月に始まり、被用者保険の支援金率は0.23%(労使折半)。年収600万円で本人は月約575円。2025年の出生数は67万1,236人、合計特殊出生率は1.14で、10年連続の過去最少・低下。「反対42%」は2024年4月の調査
- 「独身だけが払う」は違う(全加入者が収入に応じて払う)。百田氏の発言は、SFと断って謝罪・撤回したもので、政策ではない。「最高1,650円」や「18歳まで750万円」は確かめられなかった。呼び名が消えないのは、額より「恩恵が見えない」ことが理由だ
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