中国人「消したくないときは空文、消したいと言い出したときに効く条項だ」(高市首相の「敵国条項」削除要求と、国連憲章の条文)

中国の質問サイト「知乎」に、2026年9月23日、日本の首相の国連演説をめぐる質問が立った。「高市早苗氏が国連総会で、『敵国条款』を削除するよう呼びかけた。どんな情報が注目に値するか」。閲覧は592.3万回、回答は616件(10月20日時点)。賛同のいちばん多い3つの回答は、短い皮肉で、「この条項は、消したくなったときに効く条項だ」と書いた。この記事では、そもそも「敵国条項」とは何かを、国連憲章の条文と、日本・中国の発表で、順番に確かめた。

元投稿

質問:高市早苗在联合国大会呼吁删除「敌国条款」,哪些信息值得关注?(高市早苗氏が、国連総会で「敵国条項」の削除を呼びかけた。どんな情報が注目に値するか)
補足:「据俄媒报道,当地时间9月22日,高市早苗在第81届联合国大会发言时表示,联合国应从其宪章中删除“敌国”一词。」(ロシアメディアの報道によると、現地時間9月22日、高市氏は国連総会の演説で、国連は憲章から「敵国」の語を削除すべきだと述べた)
知乎/2026年9月23日/フォロワー1,363・閲覧5,923,274回・回答616件
→ https://www.zhihu.com/question/2086074591688876992

回答1「敵国条項は、消したくないときは役に立たず、消したいと言い出したときに効く」

回答者:呼噜娃
投稿日:2026年9月23日
賛同5,637
→ 回答ページ

敌国条款这东西好就好在,你不想删除的时候这东西和废话一样没用,你想删除的时候说明这个条款该起作用了。

敵国条項のいいところは、消したくないときは、ただの空文のように役に立たず、消したいと言い出したときに、この条項の出番だとわかることだ。

回答2「忘れられかけていた条項が、高市氏のおかげで、世界にもう一度知られた」

回答者:言不可弥
投稿日:2026年9月23日
賛同5,494
→ 回答ページ

笑点解析,一个快被国际社会遗忘的条款,在高市的努力下,终于再次被全世界人民认识。

笑いどころの解説。国際社会に忘れられかけていた条項が、高市氏の努力で、ようやくもう一度、世界中の人に知られた。

“原来我们还有这个权力啊”

「そうか、私たちには、まだこの権限があったのか」(と、各国は思っただろう)。

回答3「国連の設計者は、今日のことを見越していた。この条項は、歴史の警報器だ」

回答者:伊谢尔伦的长椅
投稿日:2026年9月23日
賛同4,474
→ 回答ページ

你看,联合国框架的设计者们早就想到了今天,这正是设置《敌国条款》的原因。

見てみろ。国連の枠組みを設計した人たちは、今日のことを、とっくに考えていた。それが「敵国条項」を置いた理由だ。

它的存在本身就是一种意志。

この条項があること自体が、一つの意思表示だ。

认不出谁是法西斯不要紧,因为他们一定会回来删掉这个条款,这是一种基于历史和人性的警报器。

誰がファシストか見分けられなくてもいい。彼らは必ず戻ってきて、この条項を消そうとするから。歴史と人間の性質に基づく、警報器なのだ。

裏取り(条文と、日本・中国の発表で確かめる)

確認できたこと

高市氏の発言は、本当にあった。高市首相は、2026年9月22日(日本時間23日)の国連総会の一般討論演説で、日本などを敵国とした国連憲章の「旧敵国条項」は「早急に削除されるべきだ」と求めた。2005年に「敵国」を削除するとの総会決議が採択されたことにも触れ、「国連の取り組みに大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて」と述べた(共同通信(熊本日日新聞)、自民党)。今年は、日本が国連に加盟して70年にあたる。

「敵国条項」は、国連憲章に、実際に書かれている。第53条は、地域の取り決めによる強制行動には、安全保障理事会の許可が要る、と定めたうえで、「敵国」への措置は、その例外にしている。この「敵国」は、「第二次世界大戦中に、憲章の署名国の敵だった国」と、条文の中で決められている(国連憲章 第8章)。第107条も、そういう国に対して、戦争の結果として、責任をもつ政府が取った行動や許可した行動を、憲章は無効にしない、と書く(国連憲章 第17章)。同じ趣旨が第77条にもあり、まとめて「敵国条項」と呼ばれる。

日本政府の立場は、「もう死文化している」だ。1995年の国連総会決議(50/52)は、「敵国」条項は、世界の大きな変化を考えると「時代遅れ(obsolete)」になった、と書き、憲章第108条の手続きで、これらを削除する意思を示した(国連総会決議50/52)。2005年の首脳会合の成果文書にも、削除が盛り込まれた。外務省の外交青書(2006年版)は、日本として削除を目指す、と書いている(外務省 外交青書2006)。

中国の立場は、「今も大事な意味がある」だ。9月23日、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は、この条項は「ファシズムや軍国主義が再び国際平和と安全の脅威となることを防ぐ」ためのもので、「今も重要な現実的意義がある」と述べ、日本に「歴史を鑑とし、深く反省せよ」と求めた(財聯社(中国外務省の記者会見)、共同通信)。国連総会の一般討論では、9月28日に中国の代表が反論権を使い、日本が軍国主義を復活させようとしていると主張して「断固反対」と述べ、日本の代表は「専守防衛を堅持している」と反論した。日本側は、2005年に「敵国」を削除するという総会決議が、中国も含む議場の総意で採択された、と指摘した(共同通信(熊本日日新聞))。

違った・古かったこと

回答2の「忘れられかけていた条項」は、条文が今も憲章にあるという点では本当だが、「各国にまだ権限がある」と読めるかは別の話だ。1995年の総会決議は「時代遅れ」と認めている。ただし、この決議は勧告で、憲章の文章そのものは変わっていない。文章を消すには、憲章第108条のとおり、総会の3分の2の賛成と、安全保障理事会の常任理事国5か国すべてを含む、加盟国の3分の2の批准が要る(国連憲章 第18章)。つまり、中国が反対すれば、条文は消せない。回答1の「消したいと言い出したときに効く」は、この仕組みの皮肉として読める。

回答3の「設計者は今日のことを見越していた」は、条文の目的とは少し違う。第53条の条文は、「敵国による侵略政策の再開に対する、地域の取り決めによる措置」を例外にする、と書いている。戦争が終わった直後の、戦後処理のための決まりだ。「消そうとする人が戻ってきたときの警報器」という読み方は、回答者の解釈で、条文や会議の記録には書かれていない。

確かめられなかったこと

2005年の成果文書の原文は、外務省のページが読めず、この記事では確かめていない(日本の外交青書と、共同通信の報道で、「削除が盛り込まれた」と書かれていることまで)。1995年の決議の賛成・反対の票数も、公的な資料では確かめていない。中国の代表の「再軍事化」「非核三原則の見直し」の主張の中身は、この記事では評価していない。回答者の「世界が驚いた」「ほかの国も権限を思い出した」は、各国の反応の資料が見つからず、確かめられなかった。

日本側のデータ

この記事の答え合わせに使った条文と日付(国連憲章・総会決議・演説)

高市首相の国連演説(一般討論)2026年9月22日(日本時間23日)
日本が国連に加盟してから70年(2026年)
敵国条項が書かれた条文国連憲章 第53条・第77条・第107条
「敵国」の定義(第53条の2項)「第二次世界大戦中に、憲章の署名国の敵だった国」
総会決議50/52(1995年)「敵国」条項は時代遅れ(obsolete)・削除手続きの意思を表明
憲章を改正する条件(第108条)総会の3分の2+加盟国の3分の2の批准(常任理事国5か国すべてを含む)
中国外務省の反応(郭嘉昆副報道局長)9月23日・「今も重要な現実的意義がある」
国連総会での応酬(中国・日本・北朝鮮の代表)9月28日・中国が反論権を行使

出典:共同通信(熊本日日新聞)・国連憲章・国連総会決議50/52・財聯社・共同通信

日本視点

この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。賛同の多い3つの回答は、どれも、条文の説明ではなく、短い皮肉と、歴史の読み方で答えた。「消したくなったときに、条項が効く」(回答1)、「忘れられていた条項を、世界に思い出させた」(回答2)、「消そうとすること自体が警報だ」(回答3)。同じ出来事が、日本では「70年の貢献に対して、いまも『敵国』と書かれているのは不当だ」という話として伝わり、中国では「歴史の反省の話」として読まれている。

条文の側から見ると、事実はこうなる。条項は、憲章の文章としては今も残っているが、1995年の総会決議が「時代遅れ」と認めている。消すには、中国を含む常任理事国5か国の批准が要る。日本が求めているのは「条文を消すこと」、中国が反対しているのは「消すこと」と「日本の今の安全保障の動き」を重ねて読むこと、と言える。この記事は、どちらが正しいかを決めるのではなく、条文と、双方の発表を、並べて見せるものだ。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:回答1の「消したいと言い出したときに効く」という皮肉の背景(憲章第108条で、消すには常任理事国5か国すべての批准が要る)。回答2の「条項は、まだ憲章に残っている」(条文で確認)。
  • ずれている:回答3の「設計者は、今日の事態を見越して警報器にした」は、条文の目的(戦後処理と、侵略政策の再開への備え)とは違う、回答者の解釈。回答2の「各国にまだ権限がある」は、1995年の総会決議が「時代遅れ」と認めている点を、書いていない。
  • 確かめられなかった:2005年の成果文書の原文、1995年決議の票数、各国の反応、中国の代表の主張の中身。
関連書籍

国連はどんな考えで作られ、「敵国条項」はなぜ憲章に入ったのか。第二次世界大戦の最中に、戦後の国際秩序を設計した人たちの議論を、外交史の研究でたどる専門書です。値段は高めですが、今回の条文の背景を、じっくり知りたい人に向いています。

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まとめ

  • 知乎で592.3万回読まれた質問「高市氏が国連総会で『敵国条項』の削除を呼びかけた。どんな情報が注目に値するか」。賛同のいちばん多い回答(5,637)は、「消したくないときは空文、消したいと言い出したときに効く条項だ」と皮肉った
  • 条項は、国連憲章の第53条・第77条・第107条に、今も書かれている。1995年の総会決議は「時代遅れ」と認めたが、消すには、常任理事国5か国すべてを含む加盟国の3分の2の批准が要る。日本政府は「死文化している」、中国は「今も重要な意味がある」と述べた
  • 「設計者は今日を見越した警報器だ」(回答3)は、条文の目的とは別の解釈。2005年の成果文書の原文と、1995年決議の票数は、確かめられなかった

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