中国人「『本場の日本ラーメンとは』は、『本場の中国のスープ麺とは』と聞くのと同じだ」

中国の質問サイト「知乎」に、13年前に立った質問がある。「本場の日本ラーメンとはどういうものか」。食感や味も含めて教えてほしい、という短い質問だ。

2025年10月、この質問に一つの回答がついて、4,000以上の賛同を集めた。答えは説明ではなかった。日本各地のラーメンが「うちこそ本場だ」と言い争う、掛け合いだった。別の回答者は一言で返した。この質問は「本場の中国の汤面(スープ麺)とは?」と聞くのと同じだ、と。

元投稿

質問:正宗的日本拉面是怎样的?
(本場の日本ラーメンとはどういうものか)
補足:包括口感、味道等。(食感や味なども含めて)
知乎/2013年6月22日/フォロワー300・閲覧473,079回・回答55件
→ https://www.zhihu.com/question/21239657

いちばん支持された回答「本場? 日本じゅうが自分こそ本場だと言っている」

回答者:朝仓左卫门督义景(戦国大名・朝倉義景の官職名を名乗る)
投稿日:2025年10月20日
賛同4,395・コメント276(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

回答は「正宗?(本場?)」の一言から始まり、各地のラーメンのせりふが続く。一部を訳す。

鹿儿岛:没有大片的肉和复合味高汤还叫拉面?要的就是家的味道!
熊本:不加黑蒜油,炒蒜?焦香味是灵魂!
博多:楼上放屁,拉面必须是猪骨味噌汤底,多少带点臭的那种。

鹿児島:大きな肉と、いろいろ合わせたスープがなくてラーメンと呼べるか? 家の味こそ大事なんだ!
熊本:黒いニンニク油(マー油)を入れない? ニンニクを炒めない? 焦げた香りが魂だろう!
博多:上の連中はでたらめだ。ラーメンは豚骨味噌スープで決まり。ちょっと臭いくらいのやつな。

鸟取:什么玩意儿,拉面不是牛骨汤底吗?
尾道:必须是透亮酱油汤配硬细面才像话嘛,再来点猪油颗粒,迷糊了。
福山:鲷鱼汤底才叫高端大气上档次!吃完面汤还能做鲷鱼汤泡饭!

鳥取:何を言ってるんだ、ラーメンは牛骨スープだろう?
尾道:澄んだ醤油スープに硬い細麺でなきゃ話にならん。そこに豚の脂の粒を少々。……わけが分からなくなってきた。
福山:鯛のスープこそ高級で上品! 食べ終わったら鯛茶漬けにもなる!

富山:扯淡,拉面汤难道不应该是黑色的吗?
喜多方:在我看来,拉面汤底必须清澈透亮到跟水一样才行!
十文字:可是拉面不带麸质也太过野蛮了!
函馆:复合汤底,中粗直面的盐拉面是正统!
札幌:浓猪骨汤底,卷曲的味噌拉面是正统!
旭川:重点是沙丁鱼和酱油!蠢货!

富山:ばかばかしい。ラーメンのスープは黒いものじゃないのか?
喜多方:わたしに言わせれば、スープは水みたいに澄みきっていないと。
十文字:でも、お麩が入っていないラーメンなんて野蛮すぎる!
函館:合わせだしに中太ストレート麺の塩ラーメンが正統だ!
札幌:濃い豚骨スープに縮れ麺の味噌ラーメンが正統だ!
旭川:大事なのはイワシと醤油だ! ばか者!

このあと、一蘭、横浜の家系、二郎系といったチェーンや系統も口を出し、最後は「これもラーメンに入れろ」という主張が並ぶ。長崎(ちゃんぽん)、別府(冷麺)、香川(うどん「暴論」)、甲府(信玄公の刀削麺=ほうとう)、浜松(餃子の皮もラーメンの生地だろう)。

宫崎:拉面?先放tm二斤辣椒再说
冲绳:直接学中国就完事了有啥好争的
町田:拉面tmd不加菠萝能吃????

宮崎:ラーメン? まず唐辛子を1キロ入れてから話そうか。
沖縄:中国のをそのまま真似すりゃいい。何を争うことがある。
町田:ラーメンにパイナップルを入れないで食えるか????

最後に、鹿児島、宮崎、広島、徳島、静岡、福島、北海道、東京・町田、長野の店を14軒、「個人的なおすすめ」として挙げている。東京の有名店ではなく、地方の店ばかりだ。

2022年の回答「日本のラーメンは『系』で分かれる」

回答者:HAKU(知乎の「新知答主」)
投稿日:2022年12月2日
賛同760・コメント58
→ 回答ページ

こちらは真面目な案内だ。横浜の家系、三田の二郎系、中野の青葉系、大勝軒系など、師匠から弟子へ受け継がれる「系」と、鶏白湯系・背脂系・牛骨系といったスープの系統を、店ごとに紹介していく。

左:茶色いスープに生卵と豚バラ肉がのった徳島ラーメン。中:真っ黒なスープにネギとチャーシューがのった富山ブラック。右:白濁した豚骨スープに卵と黒いマー油がのった熊本ラーメン
回答に貼られた徳島(いのたに)、富山ブラック(西町大喜)、熊本(黒亭)。スープの色がまるで違う(出典:知乎・HAKUの回答)

1947年创业的“西町大喜”据说是富山黑拉面创始店铺,现在严守创业之初的味道。因为最初是给劳动者补充盐分的面食,是搭配白饭的下饭食物,因此味道特别浓。

1947年創業の「西町大喜」が富山ブラックの元祖とされ、いまも創業当時の味を守っている。もともとは労働者の塩分補給のための麺で、白いご飯と一緒に食べるおかずだった。だから味がとても濃い。

喜多方ラーメンの元祖「源来軒」については、こう書いている。

喜多方拉面出现于大正末期(1920~1928年),由一位浙江青年开设屋台而兴起。喜多方拉面元祖店铺就不得不说大正14年创业“源来轩”了、现在二代目依然坚守厨房,严守当时创业的味道。

喜多方ラーメンは大正の末に、浙江省から来た一人の青年が屋台を始めたことから広まった。元祖の店は大正14年創業の「源来軒」。いまも2代目が厨房に立ち、創業時の味を守っている。

左:ワンタンとチャーシューとメンマがのった澄んだ醤油スープのラーメン。右:豚骨醤油スープにチャーシューとメンマがのった和歌山ラーメン
回答に貼られた喜多方(源来軒)と和歌山(丸田屋)(出典:知乎・HAKUの回答)

東京の店では、はまぐりのだしの「金色不如帰(こんじきほととぎす)」を「何年も続けてミシュランに選ばれている」と紹介し、フランス料理の子牛のだしを使う店まで挙げている。

左:野菜がたっぷりのったタンメン。右:チャーシューとネギとソースがのった澄んだスープのラーメン
回答に貼られた東京のタンメン(トナリ)と、はまぐりだしの金色不如帰(出典:知乎・HAKUの回答)

一言の回答「中国の汤面を『本場』で聞くようなものだ」

回答者:volcano
投稿日:2025年10月20日
賛同534・コメント1
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一个不准确的类比:这个问题就好像在问正宗的中国汤面是怎样的,中国各地的汤面形态的食物都叫不一样的名字,只是日本的拉面刚好都叫拉面。

正確ではないたとえだけれど、この質問は「本場の中国の汤面(スープ麺)はどういうものか」と聞くようなものだ。中国では各地のスープ麺がそれぞれ別の名前で呼ばれている。日本のラーメンは、たまたま全部「ラーメン」と呼ばれているだけだ。

裏取り

確認できたこと

各地のせりふは、ほとんど当たっている。新横浜ラーメン博物館の解説と比べた(新横浜ラーメン博物館「全国ご当地ラーメン」)。

  • 熊本:ニンニクに火を通して使い、マー油やニンニクチップで香りをつける(ラー博)
  • 鹿児島:豚骨に鶏ガラを合わせた半濁スープ(ラー博)
  • 尾道:澄んだ醤油スープ、加水の少ない中細の平打ち麺、背脂のミンチ(ラー博)
  • 徳島:茶色の濃い醤油スープに、豚バラ肉の甘辛煮と生卵(ラー博)
  • 京都:鶏をどろどろに煮込んだスープの系統がある(ラー博)
  • 喜多方:あっさりした澄んだ醤油味(ラー博)
  • 函館は塩、札幌は味噌と縮れ麺、旭川は豚骨と魚介に醤油(函館/札幌/旭川)
  • 十文字(秋田県横手市):煮干しなどでとった和風のしょうゆスープに、細い縮れ麺と麩をのせる(横手市)
  • 町田:パイナップルを入れたラーメンの店は実在する(ラーメンデータベース)

HAKUの歴史の話も確認できた。西町大喜の創業は1947年で、戦後の復興で働く人の塩分補給のために濃い味にしたと、店自身が説明している(西町大喜「大喜の歴史」)。源来軒の創業者・潘欽星(ばん・きんせい)は中国浙江省の出身だ(福島民報)。金色不如帰はミシュランガイド東京でビブグルマンに4年続けて選ばれ、2019年版で一つ星を取った(東洋経済オンライン)。

事実と違ったこと

博多ラーメンは「豚骨味噌」ではない。博多は豚骨だけを強火で炊いた白いスープで、タレは塩か薄口醤油だ。味噌は使わない(ラー博)。「ちょっと臭いくらい」のほうは当たっていて、ラー博も臭み消しにニンニクやショウガを入れる店があると書いている。

旭川の魚は「イワシ」とは限らない。ラー博は、豚骨に「鯵の煮干し等」の海産物を合わせると説明している(ラー博)。

源来軒の創業年は、回答では「大正14年」だが、報道では1924年(大正13年)だ(福島民報)。

3年後の答え合わせ

「いまも2代目が厨房に立つ」源来軒は、もうない。2代目は2023年に亡くなり、店は後継ぎが見つからず、2025年9月24日に101年の歴史を閉じた。2代目は生前「店の味を守れなくなったら閉めてほしい」と言い残していたという(福島民報)。

日本側のデータ

日本のラーメン店の経営(帝国データバンク)

ラーメン店の市場規模(2025年度)8,855億円(過去最高・2015年度の1.6倍)
上位50社のチェーン店舗数(2025年度末)6,305店(初めて6,000店を超えた)
ラーメン店の倒産(2024年)79件(年間で過去最多)
ラーメン店の倒産(2025年)59件

出典:帝国データバンク「ラーメン店市場動向調査(2025年度)」・同「ラーメン店の倒産動向(2025年)」

市場は過去最高なのに、倒産はコロナ前より多い。帝国データバンクによると、倒産した店の約8割は資本金1,000万円未満の小さな店で、原材料費や人件費の値上がりを価格に乗せきれなかった(帝国データバンク)。チェーンが伸びる一方で、源来軒のような町の老舗は減っている。

日本視点

日本人にとっては、ご当地ラーメンが多いのは当たり前すぎて、あらためて並べることもない。いちばん支持された回答は、それを中国語で一つずつ擬人化して、言い争わせた。細部まで驚くほど正確で、中国のラーメン好きが、日本人以上に日本の地方の味を知っていることが分かる。

そして、volcanoの一言が中国人の見方をよく表している。中国では、蘭州牛肉麺、重慶小面、武漢の熱乾麺と、地方の麺はそれぞれ別の名前を持つ。中国人から見ると、日本は違う料理をまとめて「ラーメン」と呼び、そのうえで「本場はどこか」を争っている国だ。

もう一つ、回答に何度も顔を出すのが中国とのつながりだ。喜多方の元祖は浙江省の青年の屋台で、ラー博によると、鹿児島で最初のラーメン店「のぼる屋」も、横浜で看護師をしていた女性が患者の中国人料理人からスープの作り方を習ったのが始まりだという(ラー博)。沖縄の「中国のをそのまま真似すりゃいい」という冗談は、日本のラーメンが中国の麺から分かれ、日本各地で別の料理になっていったことを、中国人は知ったうえで笑っているということだ。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:熊本のマー油、尾道の背脂、徳島の生卵と豚バラ、富山の黒いスープ、十文字の麩、函館の塩、札幌の味噌。町田のパイナップルラーメンまで実在する。
  • 当たっている:富山ブラックは1947年創業の西町大喜が元祖で、労働者の塩分補給のための味。喜多方の元祖は浙江省出身の潘欽星。
  • ずれている:博多は「豚骨味噌」ではなく、豚骨だけのスープに塩か薄口醤油のタレ。
  • 変わった:2022年に「2代目が守っている」と書かれた源来軒は、2025年9月に101年で閉店した。

日本人にとっての学びはこうだ。中国人は日本のラーメンを「中国から来て、日本各地で別々の料理に育った麺」として見ている。だから「本場はどこか」という問いそのものを、笑いの種にしている。

関連書籍

喜多方の元祖は浙江省の青年、鹿児島の最初の店は中国人料理人の教えから始まりました。中国の麺がどうやって日本の「ラーメン」になったのか。麺の歴史を中国までさかのぼって調べた料理研究家の本です。

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まとめ

  • 知乎の「本場の日本ラーメンとは」に、2025年、日本各地のラーメンが「うちこそ本場」と言い争う掛け合いの回答がつき、4,395の賛同を集めた
  • 各地の特徴はほとんど正確だった。違ったのは博多(豚骨味噌ではなく豚骨だけ)くらい。別の回答者は「本場の中国の汤面を聞くようなものだ」と返した
  • 回答に出てくる喜多方の元祖・源来軒は、2025年9月に101年で閉店した。ラーメンの市場は過去最高だが、小さな店の倒産はコロナ前より多い

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