中国人「日本の実店舗がECに勝ったのではない。中国の実店舗が、ECに惨敗したのだ」

中国の質問サイト「知乎」に、2023年2月から読まれ続けている質問がある。「日本の実店舗は、なぜネット通販に勝てるのか」。閲覧は133万回、回答は335件。上位の回答は割れた。ある回答は、日本の小売の革新の歴史を説き、ある回答は「日本の実店舗がECに勝ったのではない。中国の実店舗が、ECに惨敗したのだ」と返した。

3つの回答が使った数字と年号を、経済産業省・中国国家統計局・企業の決算で確かめた。

元投稿

質問:日本的实体店为什么能打败电商?(日本の実店舗は、なぜEコマースに勝てるのか)
知乎/2023年2月16日/フォロワー733・閲覧1,329,801回・回答335件
→ https://www.zhihu.com/question/584328264

最多賛同の回答「日本はインターネットを逃したが、実店舗の革新は止まらなかった」

回答者:人神共奋(「職場」など2つの話題の優秀回答者)
投稿日:2025年4月24日
賛同420(この質問でいちばん多い)・コメント150
→ 回答ページ
本文は、投資コラム「全球配置核心資産シリーズ・日本消費編」の転載で、画像11枚を含む長文だ。

一个国家消费产业的发达程度,与零售业态的丰富有直接的关系,而零售又是消费中最容易发生创新与颠覆的领域,日本错失互联网,却在线下零售方面始终保持创新,诞生了便利店、百元店、硬折扣、二手店、专业连锁、SPA等诸多商业形态,同时在新零售方面诞生了优衣库这一类世界级企业。

一国の消費産業の発達は、小売業態の豊かさと直結している。小売は、消費のなかでも革新と破壊がいちばん起きやすい分野だ。日本はインターネットの機会を逃したが、実店舗の小売では革新を続けた。コンビニ、100円ショップ、ハードディスカウント、中古店、専門チェーン、SPAなど数々の業態を生み、ユニクロのような世界的企業が生まれた。

1979年,伊藤洋化堂将美国的7-ELEVEn引入日本,并进行了本土化改造,日本第一个真正意义上的商业形态创新——便利店出现了。

1979年、伊藤洋華堂(原文のまま)がアメリカのセブン-イレブンを日本に導入し、現地向けに改造した。日本で初めての本当の意味での業態革新、コンビニが生まれた。

优衣库的加价倍率大约在2-2.5倍,显著低于行业平均水平的5-7倍,没有代理商、批发商等中间层。加上必要的促销,整体毛利率仅为50%,但净利润率可以做到12%以上

ユニクロの価格の上乗せ倍率は約2〜2.5倍で、業界平均の5〜7倍を大きく下回る。代理店や卸などの中間層もない。販促を加えても、全体の粗利率は50%にすぎないが、純利益率は12%以上を出せる。

ほかの回答

回答者:凤歌笑孔丘(大阪大学・経済学博士)
投稿日:2025年4月27日
賛同351・コメント53
→ 回答ページ

没有什么这个那个的原因。
你去日亚、乐天啥的买几次就知道了。
网购体验拉的一批,还停留在淘宝20多年前的水平。

あれこれ理由を挙げる必要はない。日本のアマゾンや楽天で何度か買ってみれば分かる。ネット通販の体験はひどいもので、20年以上前の淘宝(タオバオ)の水準にとどまっている。

回答者が挙げた3点は、商品説明が簡素で高画質の写真すらない、有人のカスタマーサービスがなくアフターサービスはメールか電話、サイトの機能が単純で使い方を探すのに時間がかかる、だ。1点目のコメント欄で、有人の窓口があるとの指摘を受け、回答者は文面を修正している。

回答者:西红柿炖番茄(「新知答主」)
投稿日:2025年4月28日
賛同195・コメント144
→ 回答ページ

请问国内哪个商场敢把不同品牌的电视产品放在一起,播放同一个画面?在日本这就可以,而这又恰恰是消费者最想看到的直观对比

中国のどのショッピングモールが、異なるブランドのテレビを並べて同じ映像を流す勇気があるだろうか。日本ではできる。それこそ、消費者がいちばん見たい直接の比較だ。

家電量販店で、複数メーカーのテレビが並び、同じゲーム映像が映し出されている売り場
回答に貼られていた写真。複数メーカーのテレビに同じ映像が映る(出典:知乎の回答(西红柿炖番茄))

所以真的是日本的实体店打败了电商吗?
我认为单纯就是国内的实体店败给了电商,而且一败涂地。

だから、本当に日本の実店舗がECに勝ったのだろうか。私は、単に中国の実店舗がECに負けた、それも惨敗だと思う。

回答者は神戸と京都を5日間歩いて買い物をした体験から、中国の売り場の問題を挙げる。客によって見積もりが違う。販売員が追いかけてきて「教育」しようとする。日本の売り場では、パタゴニアで買い物袋をつけない理由を丁寧に説明され、帰りぎわに中国語で「新年快乐」と言われた。さらに、鮮度の差を2枚の写真で示した。

スーパーの精肉売り場で、ステーキ用の和牛が並び、店員が肉を整えている
回答者が「ネットでは買えない鮮度」の例として貼った、スーパーの牛肉売り場(出典:知乎の回答(西红柿炖番茄))
スーパーの総菜売り場に並んだ、すし折りの数々
同じ回答の、スーパーのすし売り場。回答者は「1箱60〜80元(約1,400〜1,900円。回答者の換算レートは1人民元=20円)」と書いている(出典:同上)

裏取り

確認できたこと

「実店舗がECに負けたのは中国のほうだ」は、数字に出ている。日本の物販のEC化率は、2024年に9.78%(市場規模15兆2,194億円)で、前年より0.40ポイント上がった(経済産業省の市場調査・ネットショップ担当者フォーラム)。中国の2025年の実物商品のネット小売額は13兆923億元(約309兆円)で、社会消費品小売総額に占める割合は26.1%だった(国家統計局)。単純に比べると、中国のほうが約2.7倍高い。

ユニクロの数字は、ほぼ回答のとおりだ。2025年8月期の連結は、売上収益3兆4,005億円、売上総利益1兆8,288億円で粗利率53.8%、親会社の所有者に帰属する当期利益4,330億円で純利益率12.7%だった(ファーストリテイリング決算資料)。「粗利率50%・純利益率12%以上」は当たっている。

ドン・キホーテの「ごちゃまぜの陳列」も実在する。創業者は1978年10月、西荻窪の18坪の雑貨店「泥棒市場」から出発し、1989年3月に開いた府中店(第1号店)は、商品を高く積む「圧縮陳列」と深夜営業が特徴だった(PPIH・沿革)。

違った・ずれていたこと

コンビニの導入は1979年ではなく、1974年だった。セブン-イレブンの日本1号店は1974年5月15日、東京・江東区豊洲に開店した。導入したのは、回答の言う伊藤洋華堂(イトーヨーカドー)で、1973年11月にアメリカのサウスランド社とライセンス契約を結び、ヨークセブンを設立した。最初に売れたのはサングラスだった(食品産業新聞)。回答の年号は5年ずれていた。

「日本はインターネットを逃した」は言いすぎだ。日本の物販のECは15兆円を超え、ほぼ毎年伸びている。EC化率が低いのは、ECが不在だからではなく、実店舗が残っているからだ、という読みも成り立つ。

確かめられなかったこと

ドラッグストアの売り場の構成比「医薬品・化粧品・日用品=3:3:4」、日経平均の構成に占める消費関連の割合、日本のECの有人対応の実態は、確かめる資料を見つけられなかった。中国の売り場で「客によって見積もりが違う」も、体験談だ。

2年後の答え合わせ

質問が立った2023年から、日本のEC化率は9.38%(2023年)→9.78%(2024年)と上がり続けている。中国は2025年に26.1%で、実物商品のネット小売額は前年比5.2%増。どちらも、実店舗を「飲み込んだ」というより、ECの比率が緩やかに上がっている段階だ。

日本側のデータ

物販のEC化率の比較(定義が違うため、概算の比較)

日本(2024年)物販系BtoC-EC 15兆2,194億円・EC化率 9.78%
中国(2025年)実物商品のネット小売額 13兆923億元(約309兆円)・社会消費品小売総額に占める割合 26.1%

出典:経済産業省・中国国家統計局。日本は物販系BtoCの市場規模に占める割合、中国は社会消費品小売総額に占める割合で、定義が異なる

日本視点

3つの回答は、同じ「実店舗の強さ」を、まったく違う場所に探している。最多回答は「小売の革新の歴史」に、2位は「ECの使いにくさ」に、3位は「店が客を尊重しているか」に原因を置いた。

日本の統計が確かに言えるのは、EC化率が9.78%と、中国の4割弱にとどまっていることだけで、その理由までは示していない。ユニクロや、店頭の陳列の工夫は、「店が客に何を見せるか」を磨いた結果だと言えるが、それがECを退けたのかは、この数字からは言えない。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:中国のEC化率のほうが高い、ユニクロの粗利率と純利益率、ドン・キホーテの圧縮陳列と深夜営業。
  • 半分当たっている:「日本のECは使いにくい」(回答者自身が、有人窓口の指摘を受けて修正)、「日本はインターネットを逃した」(15兆円市場がある)。
  • ずれている:「セブン-イレブンの日本導入は1979年」(実際は1974年)。

日本人にとっての学びはこうだ。中国人が日本の実店舗に見ているのは、「ECに勝った強さ」というより、「客を尊重する売り場」への羨ましさだ。統計が示すのは、日本のEC化率が低いことだけだが、中国人にとっての答えは、自分の国の店の側にある。

関連書籍

回答が挙げた「圧縮陳列」と深夜営業を生んだドン・キホーテの創業者が、実店舗の売り場づくりを自分の言葉で語った本です。

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まとめ

  • 知乎で133万回読まれた「日本の実店舗はなぜECに勝てるのか」。回答は、小売革新の歴史・ECの使いにくさ・店が客を尊重しているか、の3つに割れた
  • EC化率は日本9.78%(2024年)、中国26.1%(2025年)。ユニクロの粗利率53.8%・純利益率12.7%は回答のとおり。一方、日本のセブン-イレブン導入は1979年ではなく1974年
  • 「日本の実店舗が勝った」のかどうかは、数字からは言えない。中国人がうらやんでいるのは、売り場が客を尊重していることだった

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