中国人「寿司の技術性は、餃子を包むことにも及ばない」

中国の質問サイト「知乎」に、2019年11月27日に立った質問がある。「寿司の神様がミシュランから星を外されたことを、どう見るか」。閲覧は395万回、回答は298件。いちばん多く賛同を集めた回答は、「寿司は、料理のなかで神格化されたゴミだ。技術性は餃子を包むことにも及ばない」と書いた。ただし、日本で暮らした人の回答は、味の話ではなく、「神様」にされた人の振る舞いへの違和感を書いていた。

「星を外された」という前提、小野二郎さんの現在、寿司の起源、日本の一流店の予約の仕組みを、ミシュランの説明と報道、店の公式サイト、観光庁の資料で答え合わせした。

元投稿

質問:如何看待寿司之神被米其林摘星?(寿司の神様がミシュランの星を外されたことを、どう見るか)
補足:なし(「如題」=題名のとおり)
知乎/2019年11月27日/フォロワー703・閲覧3,953,783回・回答298件
→ https://www.zhihu.com/question/358064092

回答1「寿司は神格化されたゴミだ。包む餃子のほうが、よほど技術がいる」

回答者:凯特西零号机
投稿日:2022年5月24日
賛同12,958・コメント2,451
→ 回答ページ

我偏激一点,寿司就是料理里被神化的垃圾,其技术性还不如包饺子,把顶级食材做成寿司是一种犯罪,一切对寿司师傅的尊重,都是对寿司使用的顶级食材的不尊重

少し極端に言う。寿司は、料理のなかで神格化されたゴミだ。技術性は餃子を包むことにも及ばない。最高級の食材を寿司にするのは罪で、寿司職人に向けられる敬意はすべて、寿司に使われる最高級の食材への不敬だ。

寿司的制作过程,连调味的环节都没有,酱油和芥末还要客人自己放

寿司を作る工程には、味つけの段階さえない。醤油とわさびは、客が自分でつける。

回答者は続けて、寿司の「売り」を一つずつ打ち消す。新鮮な生の肉は「人類の進んだ冷蔵技術と、食材そのものの手柄」、やわらかい米と醤油は「農家の手柄」、温度管理は「手が温度計より正確なのか」。客に合わせた対応が売りだと言うなら、それは別のサービス業のほうがよほど上で、そのうえ寿司職人に不機嫌な顔までされる、と皮肉る。

你要是自称包饺子之神我还敬你三分

餃子を包む神様を名乗るなら、少しは敬意を払う。

理由は、餃子の餡は味の複雑さが料理に並ぶこと、皮は水と粉の比率や発酵の時間と温度が要ること、包み方(皮の量、口の閉じ方、汁を閉じ込める工夫)が味を変えること。最後は「日本の仙人は、ガマ仙人と山本仙人の二人しか認めない」と、冗談で締める。

回答2「日本に4年留学した。ただの酢飯と魚で、神様の振る舞いは傲慢に見える」

回答者:腹部赘肉(プロフィールの表示「暗黑4要来了。杀杀杀」)
投稿日:2019年12月4日
賛同3,640・コメント251
→ 回答ページ

他会观察你是男是女来决定寿司醋饭的多少,观察你是左手还是右手决定寿司摆放的位置

(小野二郎さんは)客が男か女かを見て酢飯の量を決め、左利きか右利きかを見て、寿司を置く位置を決める。

4年間日本に留学した回答者は、近ごろ読んだ「小野二郎さんを美化する短い文章」を紹介する。そこでは、食事は30分だけ(アメリカ大統領と日本の首相のときだけ90分)、雨の日に10分遅れた女性客は「あなたは20分しかない」と言われ、食事のあいだ中不機嫌な顔をされる。一緒に写真を撮ることなど考えられない、という。

我觉得小野爷爷已经妖魔化了,不在是让人体验美食,更像是一个邪教教主

小野おじいさんは、もう妖怪じみたものになっている。美食を味わわせる人ではなく、邪教の教祖に近い。

很原始的料理,真的没什么技术值得炫耀,与中国各地博大精深的料理来说,简直就是没法比

ごく原始的な料理で、誇れるような技術は本当にない。中国各地の奥深い料理とは、比べようがない。

回答者は日本で酢飯を作るアルバイトをしたといい、寿司は「酢を混ぜた酢飯に、泳いでいた魚から切り取った一切れをのせ、わさびと薄い醤油で食べる」ものだと説明する。また「寿司は唐代の中国から日本に伝わった」と書く。

中国“匠心”人往往给人一种谦逊、慈祥、友善,而日本“匠心”人往往给人一种西方的傲慢、高高在上的感觉

中国の「匠心」の人は、謙虚で、慈愛があり、友好的な印象を与える。日本の「匠心」の人は、西洋的な傲慢さ、見下ろす感じを与えることが多い。

回答3「息子の店に行った。国内の寿司店より、特別によいとは感じなかった」

回答者:real(プロフィールの表示「只是一点微光,力所能及的发亮」)
投稿日:2022年5月20日
賛同2,530・コメント188
→ 回答ページ

我2019年去日本,提前一个月都约不到寿司之神的餐位,转而约了他儿子的店。

2019年に日本へ行ったが、1か月前でも寿司の神様の席が取れず、息子さんの店を予約した。

吃的时候,也没觉得味道比国内某些寿司店好到那里去,甚至期待的仪式感都不强,更有种约束感,价格还贼贵。

食べてみても、国内のいくつかの寿司店より味がどれほどよいとは感じなかった。期待した儀式感も強くなく、むしろ縛られている感じがあり、値段はひどく高い。

匠人精神意味着浪费,效率低。匠人精神意味着难以复制,是小众玩法。

私は製造業の人間で、本心では「職人精神」という言い方に反対だ。職人精神は、無駄と低い効率を意味する。再現が難しいことを意味し、ごく一部の人の遊びだ。

結びは「私が推すのは、皆が一定の規範を守って下限を引き上げること。それが国民全体のためになり、社会の進歩だ」。

裏取り

確認できたこと

「ミシュランから外れた」は事実だった。2019年11月26日に発表された「ミシュランガイド東京2020」に、「すきやばし次郎 本店」は載らなかった。日本ミシュランタイヤの発表では「掲載対象外」とされ(トラベルWatch)、CNNは「12年連続で三つ星を獲得してきた店が、評価対象外となり名前が消えた」と報じた(CNN.co.jp)。

外れた理由は、味ではなく「予約」だった。ミシュランは、同店が一般客からの予約を受け付けていないため対象から除外した、と説明した。CNNが伝えた同社の言葉は「だれもが食べに行けるレストランを紹介する、それがミシュランの方針だ」。店はカウンター10席だけで、当時のホームページには「当分の間お電話でのご予約は見送らせていただきたい」と書かれていた(CNN.co.jp)。J-CASTも「寿司の味が落ちたわけでも、次郎さんの腕が落ちたわけでもない」という趣旨の海外報道が目立った、と紹介している(J-CASTニュース)。

回答2が触れた「小野二郎さんの店の振る舞い」の背景に、店の考え方がある。店の公式サイトは、シャリを「人肌」に保つことが握りの味を一定にするとして、米を研いで炊き上がるまで約60分、炊いたご飯に酢を回して冷まし、来店の30分前に炊き上がるようにしている、と書く。ネタは約20種で、それぞれ適温に保つ。シャリは「薄味だが酸度の利いたちょっと酸っぱい」もので、塩はニガリ入りの粗塩(すきやばし次郎 公式サイト)。回答1の「調味の段階さえない」と、店の説明は食い違う。

違った・古かったこと

質問の「星を外された(摘星)」は正確ではない。「星を外された」は、海外の見出し(英ガーディアン紙の「三つ星をはぎ取られた」など)と同じ言い方で(J-CASTニュース)、日本語の発表は「掲載対象外」だ。日本ミシュランタイヤは、一般予約ができなくなったため掲載対象外にした、と説明している(トラベルWatch)。三つ星の評価が下がった、という話ではない。

回答2の「寿司は唐代の中国から伝わった」は、確認できなかった。観光庁の多言語解説データベースは、寿司の前身の「なれずし」について、稲作と淡水魚があった東南アジアの地域に起源があると説明し、日本での寿司の最初の文字の記録は8世紀にさかのぼると書く(観光庁 多言語解説文データベース)。中国を経由した可能性は否定できないが、「唐代に中国から」という具体は、今回、公的な資料では確かめられなかった。

見落とされがちなこと

3つの回答は、どれも「味」の話ではなく「神格化」への反発の話だ。回答1は技術の評価、回答2は態度、回答3は「職人精神」という考え方そのものに反対している。そして、ミシュランが外した理由(一般客が予約できない)は、3つのどの回答にも出てこない。中国の人の「神様」への違和感は、星の有無ではなく、一般の客が入れない店が「世界最高」とされることへの違和感に近い、と読める。

確かめられなかったこと

回答2の「食事は30分、大統領と首相のときだけ90分」「客の性別で酢飯の量を変え、左右で置く位置を変える」「章魚(タコ)を40分按摩する」は、店の公式サイトや報道では確かめられなかった(公式サイトにある「30分」は、酢飯を寝かせる時間のこと)。回答1の「手が温度計より正確なのか」、回答3の「国内の寿司店と味は変わらない」は、個人の感想で、検証できる種類の話ではない。

日本側のデータ

この質問の答え合わせに使った事実

ミシュランガイド東京2020(2019年11月26日発表)「すきやばし次郎 本店」は掲載対象外(一般客の予約を受け付けないため)
店の規模・実績カウンター10席のみ/2019年版まで12年連続で三つ星
小野二郎さん1925年生まれ。2019年に最高齢の三つ星シェフとしてギネス認定。2025年10月27日に百歳
シャリ(公式サイト)米を研いで炊き上がるまで約60分。温度は人肌。ネタは約20種
寿司の起源(観光庁)前身の「なれずし」は東南アジアの稲作・淡水魚の地域に起源。日本での最初の記録は8世紀

出典:トラベルWatch・CNN.co.jp・Precious・すきやばし次郎 公式サイト・観光庁

日本視点

この質問は、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人の目には、「神様」が必要以上に高いところに置かれて見える。その違和感は、技術の話ではなく、「誰でも行ける店ではない」ことへの違和感と重なっている。回答3が、1か月前でも席が取れず、息子さんの店に行った、と書いたのは、その典型だ。

ただ、日本の人にとって、「予約が取れない」は、少し違う意味を持つ。CNNは、日本では米国などと違い、一流のレストランは常連やシェフの知り合いしか予約できない場合が多く、外国人は高級ホテルのコンシェルジュを通した場合だけ受け付ける店もある、と説明している(CNN.co.jp)。一流店が「紹介制」であることは、日本の飲食文化の仕組みであって、特定の店だけの傲慢とは限らない。その仕組みが、中国の人には閉鎖的に見える。

そして、回答3の「規範を守って下限を上げる」という考え方は、中国の製造業の人らしい発想で、日本の「職人」が背負ってきたものとは、逆の方向を見ている。「神様」は外から付けられた称号で、店の側は、10席のカウンターを守り続けているだけ、とも言える。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:寿司の前身(なれずし)が、日本の外の東南アジアに起源を持つこと。ミシュランが「一般客が行けない店」を載せない方針であること。
  • 注意が必要:「星を外された」ではなく「掲載対象外」。「調味の段階がない」と言うが、店はシャリの酸度と塩加減に気を配っている。
  • 確かめられなかった:食事時間30分、性別・利き手での調整、タコ40分、「息子の店」が本店とどれほど違うか。
関連書籍

小野二郎さんが、7歳で奉公に出た時代から、銀座に店を開き、百歳になるまでを語りおろした本です。「神様」と呼ばれる人が、自分の仕事を自分の言葉でどう説明しているかを知りたい人に向いています。

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まとめ

  • 知乎で395万回読まれた「寿司の神様がミシュランから外されたことをどう見るか」。賛同の多い回答は「寿司は神格化されたゴミで、技術性は餃子を包むことにも及ばない」と書き、日本に4年留学した人は、神様の振る舞いを傲慢と見た
  • 裏取りでは、ミシュランガイド東京2020に載らなかったのは事実だが、理由は味ではなく、一般客の予約を受け付けないことだった。小野二郎さんは2025年10月27日に百歳。寿司の起源は東南アジアのなれずしにあるとされる
  • 「食事は30分」「男女で酢飯の量を変える」「タコ40分」は確かめられなかった。中国の人の違和感は、星の有無より、「誰でも行ける店ではない」ことに向かっている

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