中国の質問サイト「知乎」に、2026年10月22日、高市早苗首相の就任1年をめぐる質問が立った。「高市政権の1年で、日本の賃金は1%上がり、株は30%上がった。この成績をどう評価するか」。閲覧は約6,200回、回答は13件(10月22日夜の時点)と、まだ小さな質問だが、10月21日が、高市氏が首相に指名されて1年の日にあたる。賛同のいちばん多い回答(51)は、「賃金1%、株30%は日本ではよくあること」と書いた。この記事では、この質問の数字と、回答が挙げた過去の例が、日本の公式の数字に合うのかを確かめた。
元投稿
質問:高市执政首年,日本工资涨 1%,股市涨 30%,如何评价这一表现?(高市政権の最初の1年で、日本の賃金は1%上がり、株は30%上がった。この成績をどう評価するか)
補足(要約):「自2025年10月高市政权上台以来,日本实际工资月度增幅的简单平均值为1.0%」(2025年10月の高市政権の発足以来、日本の実質賃金の月ごとの伸びの単純平均は1.0%)。「日经平均股指一度站上7万点关口,当前维持在6万5000点附近,相比一年前上涨了30%以上」(日経平均は一度7万円を超え、いまは6万5,000円前後で、1年前より30%以上高い)。「日本的长期利率从高市政权成立之初的1.6%左右逐步攀升,9月时隔30年突破3%」(長期金利は1.6%前後から上がり、9月に30年ぶりに3%を超えた)。補足の文は、日本の経済紙の記事の中国語訳のように読めるが、出典は書かれていない。
知乎/2026年10月22日/フォロワー15・閲覧約6,200回・回答13件
→ https://www.zhihu.com/question/2096554914147038395
回答1「賃金1%・株30%は、日本ではありふれた話。成果とは言えない」
回答者:飞跃本屯
投稿日:2026年10月22日
賛同51
→ 回答ページ
“工资涨 1%,股市涨 30%”,这在日本并不新鲜。
「賃金が1%、株が30%上がる」というのは、日本では珍しくない。
比如2023年是岸田文雄完整执政的第一年,当年日经225指数全年涨幅28%创下新高;但扣除物价后的日本人实际工资同比下降了2.2%。
たとえば2023年は、岸田文雄首相がまるごと務めた最初の年で、日経225は年間で28%上がって最高値を更新した。だが、物価を除いた日本人の実質賃金は、前年より2.2%下がった。
再如2013年是安培经济学的头一年(安培经济学三支箭是2012年底推出的),当年日经255指数狂涨57%,而厚生劳动省公布的日本实质工资指数却同比减少0.5%。
また、2013年はアベノミクスの最初の年で、日経平均は57%も急騰したが、厚生労働省が発表した実質賃金指数は、前年より0.5%減った。(回答は、日本円が安くなって、海外の利益が円で膨らみ、輸入の物価が上がる、という仕組みで説明し、「財政を大きく出し、通貨を大きく下げる」と呼ぶ)
只是这种即不发展生产力,又不改善财富分配的经济,真就是混日子呀。
ただ、生産力も伸ばさず、富の分配も改善しない経済は、結局、その日暮らしだ。
回答2「株が30%上がったのに賃金が1%なのは、支えているのが海外市場だから」
回答者:vector
投稿日:2026年10月22日
賛同9
→ 回答ページ
工资上涨1%但股市上涨30%,这说明支撑那些上市公司股价的是海外市场,而不是国内经济基本面改善。
賃金が1%上がり、株が30%上がったのは、上場企業の株価を支えているのが、海外の市場であって、国内経済の基礎的な条件の改善ではないことを示す。
如高市早苗所说,2026年春季劳资谈判连续3年实现5%以上的加薪,日本实现了G7国家最高的实际工资增长率
高市氏が言うとおり、2026年の春闘は3年連続で5%以上の賃上げになり、日本は、G7でいちばん高い実質賃金の伸びを実現した。(このあと回答は、人口の高齢化・自動車産業の競争力・エネルギーに、有効な手を打っていない、と続ける)
回答3「バイデンの4年間、ナスダックは50%、賃金は13%上がった」
回答者:锡默尔斯多夫领主
投稿日:2026年10月22日
賛同6
→ 回答ページ
拜登执政四年美国纳斯达克涨50%,工资涨13%,如何评价2024年总统大选驴党丢掉七个摇摆州和参议院?
バイデン政権の4年間で、アメリカのナスダックは50%、賃金は13%上がったが、2024年の大統領選で、民主党が7つの激戦州と上院を失ったことを、どう評価するか。(質問への答えは、この1行だけ。株と賃金が上がっても、選挙には勝てない、という皮肉に読める)
裏取り(日本の公式の数字で確かめる)
確認できたこと
日経平均の「1年で30%以上」は、そのとおり。高市氏の首相指名が決まった2025年10月21日の日経平均の終値は49,316円06銭(株探)。1年後の2026年10月21日の終値は6万4,621円(株探)。上昇率は約31.0%になる(この記事の計算)。「一度7万円を超えた」も合う。日経平均は6月18日に、終値で初めて7万円台に乗り、7万1,053円49銭になった(nippon.com)。
実質賃金の「8か月連続プラス」も、そのとおり。厚生労働省の毎月勤労統計調査(2026年8月分・速報・10月7日公表)では、現金給与総額は1人平均31万1,364円(前年同月比3.8%増)、物価を除いた実質賃金は1.5%増だった(消費者物価指数「持家の帰属家賃を除く総合」で実質化・同指数は2.2%上昇)(厚生労働省)。実質賃金は8か月連続のプラスで、8か月以上の連続は、2016年2月から17年1月の12か月連続以来、約10年ぶりと報じられた(共同通信)。
春闘の「3年連続5%以上」と、長期金利の「30年ぶりに3%超」も、そのとおり。連合の最終集計では、2026年春闘の平均賃上げ率は5.01%で、3年連続の5%台(共同通信)。新発10年国債の利回りは、9月1日に約30年ぶりに3%を超えた(共同通信)。
回答1の「2023年は日経が28%上がり、実質賃金が下がった」は、おおむね合う。2023年の大納会の日経平均の終値は3万3,464円17銭(ロイター)。2022年末の終値2万6,094円50銭(日経平均プロフィル)と比べて、約28%の上昇になる(この記事の計算)。実質賃金は、厚生労働省の確報で、2023年度に2.2%減(厚生労働省)。ただし、これは年度(2023年4月〜2024年3月)の数字で、株の「2023年(暦年)」とは期間が少しずれる。
違った・古かったこと
「賃金が1%」は、賃金そのものの伸びではなく、実質賃金の月ごとの伸びの平均。質問の見出しは、「賃金1%・株30%」と並べているが、補足の中身は、「実質賃金の月ごとの伸びの単純平均が1.0%」のことだ。名目の賃金は、2026年8月で前年同月比3.8%増、共通事業所で見ても2.8%増と、1%より大きい(厚生労働省)。1%は、名目の賃金の伸びから、物価の上昇を引いたあとの数字になる。回答1の「賃金1%・株30%」の対比は、実質と名目を並べて、賃金の伸びを小さく見せている面がある。
「実質賃金が上がった」のには、政府の補助の効果がある。総務省統計局の2026年8月の消費者物価(全国)の資料には、ガソリンの暫定税率の廃止や政策の効果が、消費者物価(総合)の上昇率を0.62ポイント押し下げている(試算値・エネルギーの寄与度)と書かれている(総務省統計局)。質問の補足も「汽油、电力、燃气领域的政府补贴贡献巨大」と書いている。実質賃金のプラスは、賃上げだけの成果ではない。
回答1の「2013年は、日経が57%上がり、実質賃金が0.5%減った」は、確かめられなかった。日経平均が2013年に約57%上がったこと自体は、年末の終値の比較で知られているが、厚生労働省の確報で、2013年の実質賃金の前年比を、この記事では確かめられなかった(「0.5%減」が、確報の数字かどうかは不明)。
確かめられなかったこと
質問の補足の「第2次安倍政権の1年目は実質賃金が0.9%減、小泉政権は0.7%減」と、「高市政権の発足以来の実質賃金の月ごとの伸びの単純平均が1.0%」は、補足の元の記事を開けず、確かめられなかった。円相場の「151円から163円、いまは160円前後」と、「2025年度の設備投資が128兆円」、「日米の協調介入」、9月の日米首脳会談でのトランプ氏の発言も、確かめていない。回答2の「日本は、G7でいちばん実質賃金の伸びが高い」は、高市氏の発言として質問の補足に出てくるが、各国の数字との比較は、確かめていない。
この記事の答え合わせに使った数字(高市政権の1年と日本の賃金・株)
| 日経平均の終値(2025年10月21日)→(2026年10月21日) | 49,316円06銭 → 6万4,621円(約+31.0%・この記事の計算) |
| 日経平均の終値の最高(初の7万円台・2026年6月18日) | 7万1,053円49銭 |
| 現金給与総額(2026年8月・1人平均) | 31万1,364円(前年同月比 +3.8%) |
| 実質賃金(2026年8月・前年同月比) | +1.5%(8か月連続のプラス・物価は+2.2%) |
| 春闘の平均賃上げ率(連合・最終集計) | 5.01%(3年連続の5%台) |
| 新発10年国債の利回り | 3%超(9月1日・約30年ぶり) |
| ガソリン税廃止などの政策が物価を押し下げた幅(2026年8月・試算値) | ▲0.62ポイント |
日本視点
この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。回答は、「賃金1%・株30%」を、「恩恵は株主に偏り、賃金は置いていかれた」と読んでいた。小さな質問で、賛同も少ないが、数字の対比のしかたが、そのまま論点になっている。
数字で見ると、株は約31%上がり(49,316円→6万4,621円)、実質賃金は8か月連続で上がった(8月は+1.5%)。一方で、実質賃金のプラスには、ガソリンなどの政策による物価の押し下げ(▲0.62ポイント)が含まれ、名目の賃金(+3.8%)と、実質(+1.5%)は別の数字。「賃金1%、株30%」は、実質の伸びの平均と株価を並べた比べ方で、「賃金が1%しか上がっていない」という意味ではない。株のほうも、円安と海外の利益で支えられている面があり(回答2)、日本の長期金利は3%を超えている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:日経平均の約31%上昇(49,316円→6万4,621円)と、一度7万円を超えたこと。実質賃金の8か月連続プラス。春闘の5.01%。長期金利が約30年ぶりに3%超。2023年に株が約28%上がり、実質賃金が年度で2.2%減ったこと。
- ずれている:「賃金が1%」は、名目ではなく、実質の月ごとの伸びの平均で、名目の賃金は2026年8月に+3.8%。実質賃金のプラスには、政府のエネルギー補助の効果が含まれる(▲0.62ポイント)。
- 確かめられなかった:2013年の実質賃金「0.5%減」。第2次安倍政権・小泉政権の1年目の実質賃金。補足にある円相場・設備投資・日米協調介入。
日本で賃金が上がりにくいのはなぜか、日本経済の30年を振り返りながら整理した新書です。今回の「株は上がったのに、賃金は」という問いを、数字の外から考えたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎の質問「高市政権の1年で、賃金は1%、株は30%上がった。どう評価するか」(約6,200回・13回答)。賛同のいちばん多い回答(51)は、「賃金1%・株30%は日本ではよくあること。2023年は日経が28%上がり、実質賃金は下がった」と書いた
- 日経平均は、2025年10月21日の49,316円から、2026年10月21日の6万4,621円へ約31%上がった。実質賃金は、2026年8月に+1.5%で8か月連続のプラス(名目は+3.8%・春闘は5.01%)。ただし、実質賃金の押し上げには、ガソリンなどの政策による物価の押し下げ(▲0.62ポイント)が含まれる
- 質問の「賃金1%」は、名目の賃金ではなく、実質賃金の月ごとの伸びの平均。回答1の「2013年に実質賃金0.5%減」と、補足の「第2次安倍政権は0.9%減」は、確かめられなかった
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