中国の質問サイト「知乎」に、2026年4月30日、日本の暮らしをめぐる質問が立った。「最近、日本の普通の人たちが、必死に腰ベルトを締めて、苦しい日々を送っている、という話をよく見る。日本経済は崩壊したのか」。閲覧は817.4万回、回答は472件(10月17日時点)。賛同のいちばん多い回答(6,121)は、「起業や株で損した話は聞くが、出稼ぎで損をした人を見たのは初めてだ」と、日本で8か月働いた人の、人民元に直した収支を紹介した。そのあと、日本側の数字で、回答の言い分を答え合わせした。
元投稿
質問:最近刷到很多说日本普通民众正在使劲儿勒紧裤腰带过苦日子,日本经济是崩盘了吗?(最近、日本の普通の人たちが、必死に腰ベルトを締めて苦しい日々を送っている、という話をよく見る。日本経済は崩壊したのか)
補足:「都说日本看上去很好,但普通民众过的很惨。」(日本は見たところ良さそうなのに、普通の人たちは悲惨な暮らしだ、と言われる)
知乎/2026年4月30日/フォロワー1,051・閲覧8,173,525回・回答472件
→ https://www.zhihu.com/question/2033432499662106866
回答1「出稼ぎで8か月働いて、人民元に直したら、元本より減っていた」
回答者:人性本恶
投稿日:2026年5月25日(6月3日に追記)
賛同6,121
→ 回答ページ
抖音刚刷到一哥们去日本打工,去之前30万rmb换了580万日元,打工8个月挣了100万日元加上带过去的共计680万日元,折合人民币29万…听说过创业炒股亏的,第一次见着打工亏的
抖音(中国版TikTok)で、日本へ出稼ぎに行った男を見た。行く前に30万元(約709万円)を580万円に替え、8か月働いて100万円を稼ぎ、持っていった分と合わせて680万円になった。人民元に直すと29万元(約686万円)……。起業や株で損をした話は聞いたことがあるが、出稼ぎで損をしたのを見たのは初めてだ。
回答2「日本の報道の街頭取材で、月給3,000元(約7万1,000円)の人の夕食は、キャベツと豆腐だった」
回答者:鲍鱼王
投稿日:2026年5月6日
賛同5,596
→ 回答ページ
上周看到一个日媒的街拍
先週、日本のメディアの街頭取材を見た。
按照汇率换算的话,是月薪3000元人民币
為替で換算すると、月給は3,000元(約7万1,000円)だ。
卷心菜拌豆腐,连米饭都没有
夕食は、キャベツと豆腐を和えたもので、ご飯さえない。
一餐大概120日元,每日三餐360日元,每月1万日元出头
1食は約120円、1日3食で360円、1か月で1万円ちょっとだ。
回答3「日本経済のいちばん怖いところは、もう崩壊する必要がないことだ」
回答者:游千界
投稿日:2026年5月25日
賛同3,837
→ 回答ページ
日本经济最可怕的地方,是它已经不用崩盘了。
日本経済のいちばん怖いところは、もう崩壊する必要がないことだ。
只要正常运转下去,就会把普通人一点一点磨成低薪零件。。。
普通に回り続けるだけで、普通の人を、少しずつ、低賃金の部品にすり減らしていく……。
一个六十七岁的日本老头,站在传送带旁边贴标签,手抖到连胶带都撕不开。
(埼玉の物流倉庫で、深夜に)67歳の日本の老人が、ベルトコンベヤーのそばでラベルを貼っていて、手が震えて、テープもはがせない。
家里四口人,真正还愿意干农活的只有他爸一个。
(新潟で米を作る日本人の同級生の家は)家族4人のうち、まだ農作業をする気があるのは、父親ひとりだけだ。
一亿多人口,接近三成老人,年轻人越来越少,结婚和生育率低,消费欲望低,工资涨得像蜗牛爬,税和保险像吸血虫一样贴在工资单上。
1億人あまりの人口、3割近い高齢者。若者はどんどん減り、結婚率も出生率も低く、消費意欲も低い。賃金はカタツムリのようにしか上がらず、税と保険は、吸血虫のように給与明細に張りついている。
回答4「日本は経済が良くて金持ちだ。ワールドカップに好きなだけ使って、音楽を鳴らして踊っている」
回答者:momo牛魔
投稿日:2026年5月16日
賛同2,873
→ 回答ページ
1亿日本人花2亿美元看世界杯,14亿中国人只花0.6亿美元看世界杯,明明日本经济很好很有钱的好吧,随便花,接着奏乐接着舞
1億人の日本人は、ワールドカップを見るために2億ドルを使い、14億人の中国人は、6,000万ドルしか使っていない。日本経済は良くて、金持ちじゃないか。好きなだけ使って、音楽を鳴らして、踊り続けている。(皮肉)
裏取り(日本の公的な数字で答え合わせ)
確認できたこと
回答1の算数は、合う。30万元(約709万円・今のレート)を580万円に替えたのなら、1人民元あたり約19.3円。680万円を29万元(約686万円・今のレート)に戻したなら、1人民元あたり約23.4円で、いまの三菱UFJの仲値(10月16日・23.64円)とほぼ同じ(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。回答に貼られた抖音の画面にも、「6,800,000日元=288,456人民币」とあり、29万元(約686万円)は、この換算とほぼ合う。損の中身は、働いたことではなく、人民元が円に対して約2割高くなった(円が弱くなった)ことだ。(19.3円は、交換の手数料や時期の差も含むと思われる。)8か月で稼いだ100万円が、為替の差を埋めきれなかった、という計算になる。
「庶民は苦しい」という実感は、数字にも出ている。総務省の家計調査(2025年)で、食費が消費支出に占める割合(エンゲル係数)は28.6%。1981年以来、44年ぶりの高水準で、食品の値上がりが理由とされる。1世帯の月平均の消費支出は31万4,001円で、物価の影響を除いた実質で前年比0.9%増(3年ぶりのプラス)だが、食料は実質で1.2%減った(共同通信(秋田魁新報))。
回答3の「農業の担い手が減って、高齢化している」も、公式の数字と同じ向きだ。農林水産省によると、2025年の基幹的農業従事者は103万6千人で、2000年(240万人)の半数未満。平均年齢は67.7歳、65歳以上が72万1千人(69.6%)、49歳以下は13万人(12.6%)(農林水産省(令和7年度 食料・農業・農村白書))。
違った・古かったこと
「普通の人を、低賃金の部品にすり減らす」「賃金はカタツムリの速さ」(回答3)は、いまの賃金の数字とは合わない。厚生労働省の8月の毎月勤労統計(10月7日公表)では、物価の変動を除いた実質賃金は前年同月に比べて1.5%増え、8か月連続のプラス。8か月以上のプラスは、2016年2月〜2017年1月以来、約10年ぶり。名目賃金に当たる現金給与総額も、31万1,364円で3.8%増、7か月連続で3%以上の増加は34年5か月ぶり(共同通信(熊本日日新聞))。「日本経済は崩壊した」という質問の前提も、賃金の数字では、裏づけられない。
回答2の「月給3,000元(約7万1,000円)」は、回答に貼られた画面とは少しずれる。画面は、フジテレビ系(FNN)の番組「物価高時代の『1日の食費』いくら?」の場面で、字幕は「給料 月約8万円」。8万円は、いまのレートで約3,400元(約8万円)にあたり、回答の数字より1万円ほど多い。画面の取材相手の食事の中身(キャベツと豆腐)は、回答の文字だけで、画面では確かめていない。
ただし、「賃金が上がっている」は、「楽になった」と同じ意味ではない。実質賃金はプラスでも、食費の割合は44年ぶりの高さで、食料の消費は減っている。総務省の家計調査(2026年8月)でも、2人以上世帯の消費支出は1世帯あたり31万975円で、物価の影響を除いた実質で前年同月比3.1%減、9か月連続のマイナス。勤労者世帯では6.8%減だった(共同通信(熊本日日新聞))。賃金の伸びと食べものの値上がりが、ようやく並び始めた段階だ、と読むのが、数字には近い。
確かめられなかったこと
回答2の「日本の報道の街頭取材」は、元の報道そのものは見つからず、回答に貼られた画面で、番組名と給料の字幕までを確かめた(下の「違った」)。夕食「1食120円」は、確かめていない。回答4の「日本人がワールドカップに2億ドル、中国は6,000万ドル」は、放映権料などの金額を、公的な資料で確かめられなかった。回答3の、埼玉の倉庫の老人、新潟の農家、名古屋の技術者、京都の民宿の話は、本人の体験談で、ほかの裏づけはない。「3割近い高齢者」は、ここでは確かめていない。
この記事の答え合わせに使った数字(日本の賃金・家計・農業)
| 人民元の仲値(三菱UFJ・2026年10月16日) | 23.64円 |
| 回答1の換算(行く前・580万円に替えた分) | 1人民元あたり約19.3円 |
| 回答1の換算(戻したとき・680万円を人民元に直した分) | 1人民元あたり約23.4円 |
| 実質賃金(2026年8月・前年同月比) | +1.5%(8か月連続プラス・約10年ぶり) |
| 現金給与総額(2026年8月・前年同月比) | 31万1,364円(+3.8%) |
| 家計の消費支出(2026年8月・2人以上世帯・実質・前年同月比) | −3.1%(9か月連続マイナス・1世帯31万975円) |
| エンゲル係数(2025年・2人以上世帯) | 28.6%(44年ぶりの高水準) |
| 1世帯の月平均の消費支出(2025年) | 31万4,001円(実質+0.9%・3年ぶりプラス) |
| 基幹的農業従事者(2025年) | 103万6千人(2000年は240万人)・平均67.7歳 |
| 65歳以上の基幹的農業従事者(2025年) | 72万1千人(69.6%) |
日本視点
この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。中国の人の多くは、「日本経済は崩壊した」という言葉を、出稼ぎの収支、月給の安い人の食事、老人の深夜の仕事といった、1人ひとりの場面で語った。回答1・2は数字と画面、回答3は自分の見聞を、長い文章にまとめた。回答4は、「日本は金持ちだ」と、皮肉で返した。
日本側の数字は、一方向では語れない。賃金は、実質で8か月連続プラスと、ここ10年ほどで最も良い局面にある。一方で、食費の割合は44年ぶりの高さで、農業の担い手は、平均67.7歳まで高齢化している。「崩壊」でも「順調」でもなく、「賃金は上がり始めたが、食べものの値上がりと、人手不足の足元の問題は、まだ重い」というのが、公式の数字が示す姿に近い。回答1の「出稼ぎで損をした」も、日本経済の崩壊ではなく、円と人民元の差が生んだ数字だ。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:回答1の為替の算数、庶民の生活の苦しさ(エンゲル係数28.6%は44年ぶり、食料の消費は実質減)、農業の高齢化(平均67.7歳)。
- ずれている:「賃金はカタツムリの速さ」「普通の人を低賃金の部品にすり減らす」(回答3)は、実質賃金が8か月連続でプラス、現金給与総額が3.8%増という数字と合わない。「日本経済は崩壊した」という前提も、賃金の面では裏づけられない。月給「3,000元(約7万1,000円)」(回答2)は、画面の「月約8万円」と1万円ほどずれる。
- 確かめられなかった:街頭取材の元の報道と「1食120円」(回答2)、ワールドカップの金額(回答4)、各体験談の細部、「3割近い高齢者」。
実質賃金がマイナスだった長い時期に、なぜ賃金が上がらなかったのか。労使関係と企業の判断から、日本経済の30年を読み解く新書です。今回の「賃金は上がり始めたのに、苦しい」という落差の背景を、一歩深く知りたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で817.4万回読まれた質問「日本の普通の人たちが苦しい日々を送っている、という話を見る。日本経済は崩壊したのか」。賛同のいちばん多い回答(6,121)は、出稼ぎで8か月働いたのに、人民元に直すと元本割れした、と紹介した
- 日本側の数字では、実質賃金は2026年8月に前年同月比で1.5%増え、8か月連続のプラス。一方で、エンゲル係数は2025年に28.6%で44年ぶりの高水準、基幹的農業従事者の平均年齢は67.7歳。回答1の損は、為替(人民元が円に対して約2割高)の差で説明できる
- 「賃金はカタツムリの速さ」は、いまの数字とは合わない。街頭取材(回答2)、ワールドカップの金額(回答4)は確かめられなかった。「崩壊」でも「順調」でもなく、賃金は上がり始めたが、食費と人手不足の問題はまだ重い、というのが数字に近い
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