中国最大の質問サイト「知乎」に、「日本・韓国・欧米の家電は、なぜ中国で失敗したのか」という質問がある。閲覧143万回、回答213件。
質問者はこう前置きしていた。「核心技術を論じれば、日本の家電は絶対に国産ブランドより上だ。なのになぜ、ずっと売れないのか」。最も賛同を集めた回答は、その前提そのものを否定した。
元投稿
質問:日本韩国欧美家用电器在中国失败的原因是什么?
(日本・韓国・欧米の家電が中国で失敗した原因は何か)
知乎/フォロワー954・閲覧1,437,613回・回答213件
→ https://www.zhihu.com/question/355630937
回答者:知乎ユーザー(匿名)
投稿日:2019年11月23日
賛同1,975・コメント204
在我看来国产家用电器之所以打败世界其他名牌,甚至反向出口占领世界的原因就是因为竞争,没有任何保护的放开竞争。任何一家如今存活的家电企业都是在一片红海中赤身上阵奋勇拼杀的成果。
私の見るところ、国産家電が世界の他の名門ブランドを打ち負かし、逆に輸出して世界を取った理由は、競争だ。何の保護もない、開かれた競争だ。いま生き残っている家電企業はどれも、真っ赤な海で裸一貫、必死に斬り合った結果である。
この回答は冒頭に、消えていった中国の家電ブランド名を16も並べている。氷熊、小天鵝、金星、牡丹、燕舞、水仙、新飛、春蘭……。勝った側の書き手が、まず死屍累々を数えるところから始めている。
そのうえで、1996年の記憶を書く。
96年的时候长虹的高端电视进口的日立显像管,一台4:3画幅的显像管电视可以做到34寸……一台电视售价15000多。质量没得说,那电视用20年都没修过。但是你要知道96年的1万块是个什么概念,2000年的时候我一个月工资才300来块钱。
96年、長虹の高級テレビは日立のブラウン管を輸入していた。4:3の34インチ。1台15,000元(約35万円)以上した。品質は文句なしで、20年使って一度も修理していない。だが96年の1万元(約24万円)がどういう額か分かるか。2000年でも、私の月給は300元(約7,100円)ほどだった。
そして、技術のハードルは低くないと続ける。
0度保鲜,说起来是个创意,但是没有高精度的温感做不到……保持0度不结冰,这不是冰箱企业的一个宣传口号,它背后是一整个产业链的提升。
0度保鮮は、言うだけなら思いつきだが、高精度の温度センサーがなければ実現しない。0度を保って凍らせないというのは冷蔵庫メーカーの宣伝文句ではなく、その裏には産業チェーン全体の底上げがある。
結びはこうだった。
产品又好,又便宜,技术还领先,凭实力占领市场,我觉得这很公平,没有为什么。
製品が良くて、安くて、技術も先を行っている。実力で市場を取った。とても公平なことだと思う。「なぜ」などない。
ほかの回答
Patrick Zhang(2019年11月18日・賛同1,824・コメント345)
→ 回答ページ
この回答者は、自宅の家電を1台ずつ入れ替えた経緯を書いている。パナソニックのエアコンが寿命を迎え、店で比べたら格力のほうが機能が多くて安かった。日本製の電子レンジが壊れたときも、国産との差が見つからなかった。
现在我家里,只剩下打印机是日本原装进口的,其它的家电都是国产的。
いま我が家に残っている日本からの輸入品は、プリンターだけだ。ほかの家電は全部国産になった。
无问东西(工学博士・2019年11月14日・賛同336・コメント111)
→ 回答ページ
因为好多家用电器的核心技术已经没有发展空间了,是个人就能做。……这就是一个涡轮带个马达就能用的东西,哪个公司都能做,就算你流体力学研究得再深入,又能提升多少使用价值呢?
多くの家電の核心技術には、もう発展の余地がないからだ。誰でも作れる。……掃除機なんてタービンにモーターを付ければ動く代物で、どの会社でも作れる。流体力学をどれだけ深く研究したところで、使用価値がどれだけ上がるというのか。
裏取り
確認できたこと
日本メーカーは実際に白物家電から降りた。東芝は2016年3月17日、白物家電事業を中国の美的集団(Midea)に譲渡すると発表している。子会社の東芝ライフスタイルから映像機器事業を切り離し、白物家電事業のみとなった同社の株式の過半を譲渡する内容だった。対象事業の売上高は2015年3月期で2,254億円(EE Times Japan)。
東芝が最初ではない。2011年に三洋電機の冷蔵庫・洗濯機部門がハイアールへ、2016年にはシャープが台湾の鴻海精密工業の傘下に入っている。回答が書かれた2019年の時点で、この流れはすでに終わっていた。
確認できなかったこと・注意すべきこと
3本とも2019年11月の回答で、7年前のものだ。当時の中国の家電売り場の実感として読む必要がある。
「核心技術に発展余地がない」は、工学博士個人の見立てであって検証された事実ではない。掃除機や冷蔵庫について述べたもので、家電以外にそのまま広げられる主張ではない。実際、後述するとおり分野によって当てはまらない。
違った・古かったこと
2019年の回答が書いた「国産家電が世界の名門を打ち負かした」は、その後、本当に世界規模になった。美的集団(Midea)の2025年の売上高は4,585億元(約10兆8,200億円)、純利益は439.5億元(約1兆370億円)で、海外の売上は1,959億元(約4兆6,200億円)、全体の約43%(每日经济新闻)。ハイアールの上場子会社・海爾智家の2025年12月期は、売上高3,023億4,700万元(約7兆1,350億円)で5.7%増(36Kr Japan)。回答が「何の保護もない競争」と呼んだ土俵で勝った会社が、いまは日本の同業の何倍もの売上を持っている。

一方で、「競争が強くした」の競争は、勝ったあとも終わらない。格力電器の2025年の売上高は1,704億元(約4兆230億円)と、前年より約9.9%減った(報道。KrASIA)。回答が書いた「真っ赤な海」は、いまも、勝者どうしの消耗戦として続いている。
日本の市場にも、同じ流れが届いた。ハイアールは、2025年に日本の洗濯機市場でパナソニックを抜き、アクアとの合計で2位(シェア17.7%)になったと、自社の発表で主張している。自社の主張で、独立した統計では確かめていない(財経新聞)。
見落とされがちなこと
3つの回答は、どれも「中国国内の話」で終わっているが、勝った側は、とっくに国内の外へ出ている。美的の売上の約43%は海外で、日本の店頭にも、ハイアールの洗濯機が並ぶ。2019年には「中国の市場で、日本の家電がなぜ負けたか」だった問いが、2026年には「日本の市場で、誰が日本の家電を置き換えるか」に、向きを変えている、と読める。
確かめられなかったこと
回答1の「1996年の長虹の高級テレビは15,000元(約35万円)以上、日立のブラウン管」「2000年の月給は300元(約7,100円)ほど」は、回答者の記憶で、当時の価格資料では確かめなかった。回答の「16の消えた国産ブランド」の消滅の経緯も、個別には確かめていない。ハイアールの日本での順位は、自社の主張のみ。格力の2025年の純利益の数字は、報道によって表記が違うため、本文では使わなかった。
この記事で足した2026年の数字
| 美的集団(Midea)2025年 | 売上高 4,585億元(約10兆8,200億円)/純利益 439.5億元(約1兆370億円)/海外 約43% |
| 海爾智家(ハイアール)2025年12月期 | 売上高 3,023億4,700万元(約7兆1,350億円)(5.7%増) |
| 格力電器(Gree)2025年 | 売上高 1,704億元(約4兆230億円)(約9.9%減) |
| 日本の洗濯機市場(ハイアール+アクア) | 2位・17.7%(ハイアールの自社の主張) |
日本視点
中国側の見立ては、結果として当たった。日本メーカーは白物家電から降り、その事業は中国企業が持っている。ここに反論の余地はない。
ただし、Patrick Zhangさんが何気なく書いた一行が引っかかる。「いま我が家に残っている日本からの輸入品は、プリンターだけだ」。彼は例外としてプリンターを挙げ、そのまま通り過ぎた。
その例外を数字で見ると、風景が変わる。キヤノンの2025年度自社推定による世界シェアはこうだ(キヤノン)。
- レーザープリンター 40%・世界1位(OEM供給分を含む)
- FPD露光装置 62%・世界1位
- レンズ交換式カメラ 46%・世界1位
- インクジェットプリンター 28%・世界2位
- 半導体露光装置 31%・世界2位
- 複合機 18%・世界2位
日本が降りたのは「誰でも作れるようになった完成品」だった。回答者自身の言葉を借りれば、タービンにモーターを付ければ動く類のものだ。一方で、買い替えサイクルが長く参入者が限られる装置分野では、いまも1位を取り続けている。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:保護のない競争が中国メーカーを鍛えたという説明。産業チェーンの底上げが先にあり、完成品の品質はその結果だという順序も、0度保鮮の例で具体的に語られている。
- ずれている:「核心技術に発展余地がない」を家電の外まで広げたところ。露光装置のように、発展余地が残っていて日本が押さえたままの領域がある。
日本人にとっての学びは、勝ち負けの結論ではなく語り方の違いにある。
日本ではこの出来事を「安売り競争に負けた」「価格で敵わなかった」と、負けた理由として語ることが多い。中国側は同じ出来事を「保護がなかったから強くなれた」と、勝った理由として語っている。
消えた16のブランド名を自分で数え上げたうえで、それを勝因として引き受けている。この語り口は、次に同じ構図が来る分野でも同じように働く。
日本の電機メーカーが、なぜ家電や半導体で競争力を失ったのかを、現場の体験から整理した新書です。回答が「保護のない競争」と呼んだ勝負を、日本の側から振り返りたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で143万回読まれた質問に、中国人が「勝因は保護なき競争だ」と答え、1,975の賛同を集めた
- 東芝は2016年に白物家電事業を美的集団へ譲渡。対象事業の売上高は2,254億円だった
- ただし日本が降りたのは完成品であり、レーザープリンター40%・FPD露光装置62%など、装置分野ではいまも世界1位を保っている
- 2025年は、美的の売上高が4,585億元(約10兆8,200億円)、ハイアールが3,023億元(約7兆1,350億円)。国産家電は世界規模になり、日本の洗濯機市場でもハイアールが2位を主張している
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