中国人「日本米は高くないと言うが、スーパーの値段は2年で倍になり、備蓄米の94%はJA全農が落札した」

中国の質問サイト「知乎」に、2025年4月から答えが集まり続けている質問がある。「中国語のネットでは騒いでいるが、日本米の値段は日本人にとって全然高くない、という説は正しいか」。閲覧は2,390万回、回答は1,659件。上位3回答は、「日本人が米を買えない、というのは日本のテレビが言っただけだ」「農協が95%を買い占めた」「6,000円でも人民元にすれば安い」と、どれも皮肉まじりだった。

米類の物価上昇率、スーパーの平均価格、家計の米代、備蓄米の行き先、農協の集荷率を、総務省・農林水産省・各報道で答え合わせした。2026年9月の最新の値段も添える。

元投稿

質問:“别看简中网上热度高,日本米价对于日本人来说根本不贵”这种说法是否正确?(中国語のネットでは盛り上がっているが、日本米の値段は日本人にとって全然高くない、という説は正しいか)
補足:「もともと米に使うお金は、月の給料の1%しかなかった。それが2%に上がっただけで、麺や焼肉という代わりもあり、麺と肉の値段は上がっていない。日本人は暮らしが良すぎて、気軽に愚痴を言っているだけだ」(説の要旨)
知乎/2025年4月28日/フォロワー2,258・閲覧23,900,242回・回答1,659件
→ https://www.zhihu.com/question/1900187498686158346

最多賛同の回答「日本人が米を買えないというのは、日本のテレビが言った話だ」

回答者:日服第壹男枪
投稿日:2025年10月31日
賛同18,589(この質問でいちばん多い)・コメント501
→ 回答ページ

日本人吃不起米,是东视说的。韩国人吃不起肉,是KBS说的。美国人天天三份工,卖血是美国人跑小红书上说的。来源都给你了,祸首你们不骂,骂我这个看戏的干什么?

日本人が米を買えないというのは、「东视」(日本のテレビ局を指すとみられる)が言ったことだ。韓国人が肉を買えないのは韓国のKBSが、アメリカ人が一日三つ働いて血を売るのは、アメリカ人自身が小紅書(RED)で言ったことだ。出所は全部示した。元凶のほうを罵らず、芝居を見ているだけの私を罵るのは、なぜか、と書く。「値段は高い」という話の出どころは自国のメディアだ、という皮肉の回答だ。

回答2「備蓄米を3回出しても1銭も下がらない。農協が95%を買ったからだ」

回答者:微信ユーザー
投稿日:2025年6月1日
賛同13,459・コメント268
→ 回答ページ

政府连放三轮储备米后米价一分没跌,因为农协把市面上95%的米都买走了?特么的,这搁在中国,刑场的枪声能比过年还热闹……

政府が備蓄米を3回続けて放出しても、米の値段は1銭も下がらなかった。農協が市場の米の95%を買ってしまったからだというのか。ふざけるな、これが中国なら、刑場の銃声が正月の爆竹より賑やかになる……、と書く。

回答3「6,000円でも人民元にすれば安い。安倍氏も高いと言っていない」

回答者:半人半麻薯的庭师(元3Dモデラー)
投稿日:2025年4月30日
賛同7,894・コメント165
→ 回答ページ

大米的价格已经涨到6000日元5公斤了。才300多人民币。确实不贵。你看,安倍都没嫌贵。中国人为啥要替他们觉得贵?

米の値段は5kgで6,000円まで上がった。それでも人民元にすれば300多元(中国語の言い方)で、確かに高くない。安倍氏も高いと言っていないのに、なぜ中国人が日本人の代わりに高いと思うのか、と書く。添付の写真は、日本のテレビのニュース画面。見出しは「コメ ついにスーパーで5kg=6000円台も」で、買い物客の母親が「高いですね。前は10kg買える値段だった」と答えている。

裏取り

確認できたこと

米は2年前の約2倍になった。総務省の2025年5月の消費者物価指数で、米類は前年同月比101.7%上昇。比べられる1971年1月以降で最大の上げ幅だった(日本経済新聞)。農林水産省がまとめるスーパーのPOSデータでは、2025年5月12〜18日の週に、5kgの平均価格が4,285円。集計を始めた2022年3月以降の最高値だった(nippon.com)。

スーパーの米5kg平均価格。2025年5月12日の週に4,285円、2026年9月14日の週に2,934円の棒グラフ
農林水産省のPOS統計にもとづく、スーパーの米5kg平均価格(税込)。出典:nippon.com・Yahoo!ニュース(不破雷蔵氏)

備蓄米は、すぐには店頭に届かなかった。2025年3月に3回に分けて競争入札で出した備蓄米のうち、1回目の94%をJA全農が落札し(日本経済新聞)、2回目も94%を落札した(日本経済新聞)。4月13日時点で、約21万トンのうち小売店に届いたのは3,018トン(1.4%)だった(朝日新聞)。回答2の「放出しても下がらなかった」は、この時期については事実だった。

家計の米代は、2年で2倍以上になった。総務省の家計調査をまとめた農業利益創造研究所によると、2025年の米の購入額は1世帯で年47,739円。2023年の20,397円の約2.3倍だ(農業利益創造研究所)。2人以上の世帯のエンゲル係数は28.6%で、44年ぶりの高水準となった。

1世帯あたりの米の年間購入額。2023年20,397円、2024年27,196円、2025年47,739円の棒グラフ
総務省の家計調査(2人以上の世帯)をもとにした、米の年間購入額。出典:農業利益創造研究所

違った・古かったこと

「農協が市場の米の95%を買った」は、数字と合わない。農林水産省の令和4年産のデータでは、国内の米の生産量727万トンのうち、約350万トンは農家が直接売る分や自家消費で、残りが集荷業者を通る。集荷業者が扱う主食用303万トンのうち、JAの集荷は284万トン(9割以上)。ただ、生産全体では約4割だ(東洋経済オンライン)。ただし、備蓄米の入札では、回答2のいう「JAが大半を握った」状況があった(上の94%)。

「6,000円」は、平均ではなかった。スーパーの平均の最高値は4,285円で、6,000円台は一部の店・銘柄の値札だ。回答3の写真の見出しも「6000円台も」と書いている。「300多元」という換算は、2025年4月ごろの1元(約20円)のレートでの数字だ。2026年10月の三菱UFJ銀行の1元(約23.6円)のレートでは、6,000円は約254元(約6,000円)になる。いずれにせよ、平均の話ではない。

「下がらなかった」は、その後の話ではなくなった。2025年5月26日に、小泉進次郎農林水産相が随意契約で備蓄米を5kg2,000円程度で出す方針を表明し(日本経済新聞)、放出した備蓄米は計52万トンが完売した(共同通信)。スーパーの平均は、2026年9月14〜20日の週に2,934円。2025年5月のピークから約32%下がり、記録のある2025年2月以降で初めて3,000円を割った(Yahoo!ニュース(不破雷蔵氏))。

確かめられなかったこと

元の説の「米代は給料の1%から2%に上がっただけ」は、給料との比較ではなく、家計の消費支出との比率でしか確かめられなかった。2025年の2人以上の世帯の消費支出は1か月平均314,001円(年約377万円・総務省統計局)で、米代47,739円はその約1.3%(筆者の計算)。2023年の比率は今回確かめていない。「麺と肉の値段は上がっていない」も、パンや麺類の家計支出が増えている(同じ農業利益創造研究所の整理)ため、そのままは言えない。回答3の「安倍氏も高いと言っていない」は、安倍氏が2022年7月に亡くなっているため、皮肉なのか言い間違いなのかを判断できなかった。

日本側のデータ

この質問の答え合わせに使った数字

米類の物価(2025年5月)前年同月比 +101.7%(1971年以降で最大の上げ幅)
スーパー5kgの平均価格4,285円(2025年5月12日の週・最高値)→ 2,934円(2026年9月14日の週)
備蓄米の入札JA全農が1回目・2回目とも94%落札/4月13日時点で店頭に届いたのは 3,018トン(1.4%)
1世帯あたりの米の年間購入額2023年 20,397円 → 2025年 47,739円(食料支出の3.7%・消費支出の約1.3%)
JAの集荷(令和4年産)生産727万トンの約4割/集荷業者が扱う主食用の9割以上

出典:日本経済新聞・nippon.com・Yahoo!ニュース・農業利益創造研究所・東洋経済

日本視点

この質問の答えは、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。「高い」か「高くない」かは、割合で見るか、1回の会計で見るかで変わる。米代は消費支出の約1.3%で、食料支出の3.7%。数字だけを見れば、家計を大きく崩す額ではない。でも米は、1回の買い物が4,000円を超える商品で、値札を見るたびに実感が重なる。回答3の写真の母親の「前は10kg買える値段だった」という一言は、割合の数字が見えない場所の実感だ。

そして、中国語のネットの「日本人は大げさだ」という見方は、半分だけ当たっている。米類が2倍になったのは統計の事実で、日本のテレビの作り話ではない。一方で、「買えない」という言い方は、家計の数字とは合わない。回答1の皮肉は、「出どころを示せ」という点で、実は日本側にとっても耳が痛い。出どころは、総務省の物価統計と、農林水産省のPOSデータだからだ。

もうひとつ。この質問の答えは、時期によって変わる。2025年の時点では「備蓄米を出しても下がらない」という声は事実だった。2026年9月の2,934円は、その熱が引いたあとの値段で、同じ質問にいま答え直すと、結論が変わる部分がある。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:米類が2倍になったのは事実、備蓄米の入札を落札したのはほとんどJA全農、4月時点では店頭に1.4%しか届いていなかったこと。
  • ずれている:「農協が95%を買った」(生産全体の約4割)、「6,000円」が平均だという印象(平均の最高値は4,285円)、「その後も下がらない」(2026年9月は2,934円)。
  • 確かめられなかった:「給料の1%→2%」(消費支出の約1.3%までしか出せない)、「麺と肉は上がっていない」、「安倍氏」の一言。
関連書籍

この「令和の米騒動」を、農政と食料安全保障の目で読み解いた新書です。回答2の「農協」の話や、備蓄米の使われ方を、日本側の議論で確かめたい人に向いています。

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まとめ

  • 知乎で2,390万回読まれた「日本米の値段は日本人にとって高くないのか」。上位の回答は、「日本人が買えないというのは日本のテレビが言った話」「備蓄米を出しても下がらない、農協が95%買った」「6,000円でも人民元にすれば安い」と答えた
  • 裏取りでは、米類の物価上昇率が前年比101.7%、スーパー平均が4,285円(2025年5月)、備蓄米の入札をJA全農が94%落札し、4月13日時点で店頭に届いたのは1.4%だったことを確認。一方、「農協が95%」は生産全体の約4割、「6,000円」は平均ではない。2026年9月の平均は2,934円まで下がった
  • 「給料の1%から2%」は、消費支出の約1.3%までしか確かめられなかった。安倍氏の一言は判断できなかった

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