中国の質問サイト「知乎」に、2015年9月から答えが集まり続けている質問がある。「日本の和牛はなぜそんなに高いのか」。閲覧は379万回、回答は359件。上位の回答は、「日本人は国産をありがたがるから高い」「うまい理由は音楽でもビールでもなく、屠殺の仕方にある」と答えていた。
和牛の定義、格付けの仕組み、屠殺の工程、音楽とビールの話、中国で買えるのかを、農畜産業振興機構・日本食肉格付協会・自治体・JETROなどで答え合わせした。
元投稿
質問:日本和牛为什么那么贵?(日本の和牛はなぜそんなに高いのか)
補足:「和牛は、ビールを飲んで音楽を聴いて育つという話は本当か。和牛と普通の牛肉は何が違うのか。和牛の高さには理由があるのか。中国で買えるのか」(要旨)
知乎/2015年9月2日/フォロワー2,137・閲覧3,789,644回・回答359件
→ https://www.zhihu.com/question/35253222
最多賛同の回答「うまい理由は屠殺にある。和牛が高いのは、日本人が国産をありがたがるからだ」
回答者:匿名ユーザー
投稿日:2017年11月30日
賛同5,668(この質問でいちばん多い)・コメント811
→ 回答ページ
日本人有一个购物习惯跟咱们国家的消费者截然相反,……中国人任何事物都以进口的为贵,而隔壁日本则处处以本国产的为贵,尤其是在食物这方面。
日本人の買い物の習慣は、中国と正反対だ。中国人は何でも輸入品を貴ぶが、日本は何でも国産を貴ぶ。特に食べものがそうだと書く。そのうえで、和牛だけでなく「和豚」「和羊」「和鶏」も高い、とする。
至于和牛为什么好吃,我觉得跟什么听音乐、啤酒花什么的关系都不大,主要是因为……屠宰。
和牛がうまい理由は、音楽やビールとはあまり関係がなく、主に屠殺にある、と書く。アメリカやオーストラリアは「人道的屠殺」で、先に電気で牛を気絶させるから、毛細血管に血が残り、あとで血が抜け切らない。日本は伝統的に刀で動脈を刺して放血するから、血がよく抜け、味が良くなる、という説明だ。最後に、中国にも鲁西黄牛や潮汕の牛肉があるのに、日本のように「宣伝」しないだけだ、と結ぶ。
回答2「和牛は4品種に限られ、格付けは4項目の最低で決まる」
回答者:无二之旅(海外旅行の機関アカウント)
投稿日:2017年11月28日
賛同2,964・コメント213
→ 回答ページ
日本人的牛肉编年史,始于1872年明治天皇带头夹的那一筷子牛肉。在那之前,牛肉在日本的地位远不如鱼肉。
日本人の牛肉の歴史は、1872年に明治天皇が最初に牛肉を口にしたところから始まる。それ以前、牛肉は魚よりずっと地位が低かった、と書く。その後、「霜降り」の遺伝子を守るため、日本政府は黒毛・褐毛・短角・無角の4品種を「和牛」と定め、外国種との交配を禁じた。
格付けについては、「肌肉の色艶・脂肪の色艶・肉のしまり・脂肪交雑」の4項目をそれぞれ5段階で評価し、最終等級は平均ではなく最低の値で決まる、と説明する。4項目がすべて5でないとA5にならない。脂肪交雑(B.M.S.)はさらに12段階に分かれる。A5は脂が多すぎて炭火には向かず、A4・A3のほうが焼いておいしい、とも勧める。

回答3「世界でいちばん高い牛肉でサンドイッチを作ったら100ドル」
回答者:我是郭杰瑞(アメリカ在住の動画クリエイター)
投稿日:2018年9月4日
賛同934・コメント239
→ 回答ページ
事实证明,和牛真的很贵,连用他做的三明治都要100美元!!
動画付きの回答で、「和牛を使ったサンドイッチは1個100ドル」と書く。本文は動画の紹介が中心で、理由の説明はない。画像には、和牛とサブウェイのサンドイッチを並べたサムネイルが付いている。
裏取り
確認できたこと
和牛は4品種に限られる。農畜産業振興機構によると、和牛は黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種で、このうち黒毛和種が9割以上を占める(農畜産業振興機構)。回答2の説明と合う。
格付けは、4項目の最低で決まる。日本食肉格付協会の規格では、枝肉は「歩留等級(A〜C)」と「肉質等級(5〜1)」を組み合わせた15段階。肉質等級は、脂肪交雑・肉の色沢・肉の締まりときめ・脂肪の色沢と質の4項目のうち最も低い等級で決まる(日本食肉格付協会・農林水産省)。回答2が書いた通りだ。ただ、A5のAは歩留等級(取れる肉の量)で、味ではない。味に関わるのは後ろの数字(肉質)だ。
肉食の歴史も合う。日本は675年の天武天皇の詔以来、長く肉食を禁じる風習があり、1872年(明治5年)1月24日に明治天皇が牛肉を食べたと公表して解禁を示した(キッコーマン国際食文化研究センター)。ただし禁止は絶対ではなく、薬食いなどの例外はあった。
違った・古かったこと
「日本は刀で放血、米豪は電気で気絶」は、日本の側が違う。日本の牛のと畜は、生きた牛を検査したあと、屠畜銃(キャプティブボルト)などで気絶させ、その後に頸の太い血管を切って放血する工程だ(北九州市の食肉センター資料)。つまり、日本も気絶させている。「気絶させると血が抜けず味が落ちる」という点そのものは、今回、科学的には確かめられなかった。
音楽とビールの話は、「一部の農家の話」だ。松阪市は、牛の食欲が落ちたときにビールを飲ませる農家があると紹介している(松阪市)。一方、神戸ビーフの公式サイトは、音楽を聞かせたりビールを飲ませたりマッサージをしたりする育て方はすべての神戸ビーフの標準ではなく、肉質向上への効果は実証されていないとしている(神戸肉流通推進協議会)。質問の補足の「和牛はみんなビールと音楽で育つ」は、誇張だ。
確かめられなかったこと
回答1の「日本人は何でも国産を貴ぶ」の例(国産ニンニクは1個200円で中国産は3個100円、など)は、今回、価格を確かめていない。「和牛が高い一番の理由」(品種・肥育期間・飼料費・子牛価格)も、数字では確かめられなかった。農畜産業振興機構は、飼料代など生産コストの高騰で、生産農家の経営が厳しい状況が続いていると書いている(農畜産業振興機構)。回答3の「サンドイッチ1個100ドル」は、動画の内容で、価格は確認していない。「中国の牛肉のほうがうまい」「A5は炭火に向かない」は味の好みで、数字では確かめられない。
中国で買えるのか
質問の最後の「中国で買えるのか」については、中国の税関総署と農業農村部が2019年12月19日、2001年のBSE発生以来続けてきた日本産牛肉(30か月齢以下の骨なし肉)の輸入禁止措置を解除すると発表した(ジェトロ)。具体的な検疫条件は別に決めるとされた。その後、2025年7月には、輸出再開へ向けた検疫協定が発効したと報じられた(日本経済新聞)。ただし、2026年10月の時点で、実際に日本産牛肉が中国の店で買える状態かどうかは、今回確かめていない。
この質問の答え合わせに使った数字
| 和牛の品種 | 黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種/黒毛和種が9割以上 |
| 枝肉の格付け | 歩留等級(A〜C)×肉質等級(5〜1)の15段階/肉質は4項目の最低値で決まる |
| 牛のと畜の工程 | 生体検査 → 気絶(屠畜銃)→ 放血 → 検査 |
| 日本の肉食の解禁 | 1872年(明治5年)1月24日に明治天皇が牛肉を食べたと公表 |
| 中国の日本産牛肉の禁輸 | 2001年から禁止 → 2019年12月19日に解除を発表 → 2025年7月に検疫協定が発効 |
日本視点
この質問の答えは、日本の人が読むと、ひとつの視点を教えてくれる。中国の人は、和牛の値段を「ブランドの物語」として読み、日本の人は「格付けの規格と肥育の費用」として読む。回答1の「日本人は国産を貴ぶ」は、日本人が自分たちでは気づきにくい視点だ。一方で、「屠殺の仕方が違う」という説明は、日本の工程そのものと食い違っていた。
そして、日本人にとって耳が痛いのは、「A5」という3文字が、味の保証だと思われていることだ。A5のAは取れる肉の量で、味の等級ではない。回答2が書いた「A5は脂が多すぎて焼肉には向かず、A4・A3のほうがおいしい」という話は、規格とは別の、好みの話だ。高い値札は、おいしさの証明ではなく、規格と生産コストの結果でもある。
どこが当たっていて、どこがずれているか
- 当たっている:和牛は4品種に限られること、格付けが4項目の最低値で決まること、1872年の肉食解禁、中国の禁輸は2019年に解除が発表されたこと。
- ずれている:「日本は気絶させずに刀で放血する」(日本も屠畜銃で気絶させてから放血)、「和牛はビールと音楽で育つ」(一部の農家の話で、効果は実証されていない)。
- 確かめられなかった:「日本人は何でも国産を貴ぶ」の価格の例、和牛が高い一番の理由、100ドルのサンドイッチ、中国で今買えるかどうか。
和牛とは何か、格付けのしくみ、部位ごとの食べ方までを、写真つきで整理した本です。「A5は味の等級ではない」という話を、日本側の資料で確かめたい人に向いています。
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まとめ
- 知乎で379万回読まれた「和牛はなぜそんなに高いのか」。上位の回答は、「日本人は国産を貴ぶから高い」「うまい理由は屠殺にあり、日本は刀で放血する」「和牛のサンドイッチは100ドル」と答えた
- 裏取りでは、和牛が4品種で黒毛和種が9割以上、格付けが4項目の最低値で決まること、1872年の肉食解禁を確認。一方、「日本は気絶させない」は違い、日本も屠畜銃で気絶させてから放血する。音楽とビールの育て方は一部の農家の話で、効果は実証されていない
- 中国の日本産牛肉の禁輸は2019年12月に解除が発表されたが、2026年10月の時点で実際に買えるかどうかは確かめていない
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