中国人「日本の老人が働くのは、『気概』ではない。お金が足りないだけだ」(73歳の日本人エンジニアの求職)

中国の質問サイト「知乎」に、2026年4月8日、日本の73歳のエンジニアが中国の自動車メーカーに履歴書を出した話をめぐる質問が立った。「日本の73歳のエンジニアが、中国の自動車メーカーに履歴書を出した。この『死ぬまで働く』気概は、何を感じさせるか。人事担当がその履歴書を公開したのは、プライバシーの侵害か」。閲覧は197.2万回、回答は297件(10月17日時点)。賛同のいちばん多い回答(4,918)は、日本で研修を受けた人で、「『気概』と言うなら、彼らは顔に唾を吐きかけてくる。お金が足りないだけだ」と書いた。そのあと、日本の統計と中国の報道で、答え合わせをした。

元投稿

質問:日本73岁工程师向中国车企投递简历,这份活到老干到老的劲头带来哪些触动?HR公开其简历侵犯隐私了吗?(日本の73歳のエンジニアが、中国の自動車メーカーに履歴書を出した。この「死ぬまで働く」気概は、何を感じさせるか。人事担当がその履歴書を公開したのは、プライバシーの侵害か)
補足:「国内の自動車メーカーの人事担当が、特別な履歴書を受け取った。応募者は、73歳の日本の自動車エンジニアで、自動車業界で53年の経験があり、いまは退職した状態で、引き続き……」
知乎/2026年4月8日/フォロワー905・閲覧1,971,822回・回答297件
→ https://www.zhihu.com/question/2025327406819407576

回答1「日本には、君たちが理解できない仕事がある。『気概』と言うなら、彼らは君に唾を吐く」

回答者:硕大且俨(プロフィールの表示「面白いことか、役に立つことを書く」)
投稿日:2026年4月9日
賛同4,918・コメント524
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你们真是对日本一无所知…笑

君たちは、日本のことを何も知らない……笑。

但实际上做这个的都是70来岁的老头。

(工事現場で、フェンスを立て、カラーコーンを置き、二人が前後に誘導灯を振って、車や人をよけさせる仕事の話の続き)けれど実際には、これをやっているのは、みんな70歳前後の老人だ。

你要说活到老干到老,那确实是。

「死ぬまで働く」と言うなら、たしかにそのとおりだ。

你要说“劲头”,他们能啐你一脸哈哈哈哈

「気概」と言うなら、彼らは君の顔に唾を吐きかけるだろう(笑)。

当时日本有一个很有名的官方口径,就是一个日本家庭如果想要在退休之后除了活下来,还想要保持比较体面的生活,那么自己要有2000万日元的存款。

そのころ、日本にはとても有名な公式の言い方があった。日本の家庭が、退職後に、生き延びるだけでなく、そこそこ体面を保った暮らしをしたいなら、自分で2,000万円の貯金が要る、というものだ。

70%的人都没有。

7割の人は、持っていない。

特么的单纯是因为钱不够花,或者被老伴给撵出来发挥余热啦!

つまり、ただお金が足りないからか、でなければ、連れ合いに家から追い出されて、余熱を発揮しているだけなのだ。

回答2「これは地獄の笑い話だ。退職した伯父は、日本の医者と話した」

回答者:啦啦哈哈哈啊(プロフィールの表示「幽默老日每一天」)
投稿日:2026年4月10日
賛同1,279・コメント176
→ 回答ページ

他非常真诚地跟日本人夸日本政府是公平清廉的政府,即使是退休的老头,一次性拿完退休补贴,也有工作的权利,而不是每个月呆在家了领退休工资

(退職した伯父は、旅行先で日本の老人と話し)日本政府は公平で清廉だと、心から褒めた。退職した老人でも、退職の補助を一度に受け取ったあと、働く権利がある。毎月、家にいて退職金を受け取るだけではない、と。

我伯伯说他每个月拿相当于50w日元的退休工资

日本の老人が、「あなたはなぜ働かずに、旅行に来られるのか」と聞くと、伯父は、毎月、50万円に相当する退職後の給与をもらっていると答えた。

回答3「この種の求職者を、現実でもよく見る。ほとんどが、昔ながらの製造業だ」

回答者:弗兰克扬(プロフィールの表示「新知答主」)
投稿日:2026年4月9日
賛同1,060・コメント134
→ 回答ページ

这位73岁的日本工程师是毕业后就进入了丰田汽车工作,一直干到了退休,然后又马上去到长城汽车继续工作。

この73歳の日本のエンジニアは、卒業後すぐにトヨタ自動車に入り、定年まで勤め、それからすぐに長城汽車に移って、働き続けた。

否则也不会只在长城汽车待了五年多就离开了,如果真的是顶尖专家级别的,一般大厂都会养这种人才,除非本人不想待了。

そうでなければ、長城汽車に5年あまりしかいないで離れたりしない。本当に最高水準の専門家なら、たいていの大手は、そういう人材を手元に置く。本人がいたくなければ別だが。

但是这些经验,对于很多国内的大厂来说,真的就是一层窗户纸。

ただ、こうした経験は、国内の多くの大手にとっては、本当に、薄い一枚の窓紙(破れば中身が見える程度のもの)にすぎない。

裏取り(いまの数字で答え合わせ)

確認できたこと

その73歳のエンジニアは、実在する履歴書の話として、報じられている。新浪新聞の記事によると、履歴書の内容は次のとおりだ。日本の久留米工業大学を出て、トヨタ自動車に1974年6月〜2015年4月(40年10か月)、長城汽車に2015年10月〜2021年4月(5年6か月)勤めた。長城では、リーン生産(無駄を省く生産方式)を担当し、2018年に同社の技術開発賞を取った。希望する仕事はリーン管理、希望月給は5万〜6万元(約118万〜142万円)、勤務地は上海を希望している(新浪新聞・網易)。回答3の「トヨタから長城に移り、5年あまりで離れた」は、この履歴書と合う。ただし、これは中国のメディアが伝えた履歴書の内容で、日本側の資料では確かめていない。

日本では、65歳以上の人が働くことは、実際に増えている。内閣府の2026年版高齢社会白書によると、2025年の就業率は、65〜69歳で54.5%、70〜74歳で36.2%、75歳以上で12.6%。65歳以上の就業者数は、22年連続で前年を上回った(内閣府 高齢社会白書(2026年版))。

「お金が足りない」は、いちばん大きな理由だが、すべてではない。同じ白書の国際比較では、65歳以上で「収入を伴う仕事をしたい(続けたい)」と答えた人は、日本が39.0%で、アメリカ(24.3%)・ドイツ(19.8%)・スウェーデン(19.1%)より、10ポイント以上高い。その主な理由は、日本では「収入がほしいから」が48.2%でいちばん多く、2番目は「働くのは体によいから、老化を防ぐから」の25.1%だった(労働政策研究・研修機構(白書の紹介))。

「公的年金だけ」の世帯は、4割を超える。公的年金・恩給を受け取る高齢者世帯のうち、公的年金・恩給が家計収入のすべてという世帯は43.4%だった(国民生活基礎調査・令和6年)(内閣府 高齢社会白書)。

違った・古かったこと

回答1の「2000万円の貯金が公式の言い方」は、言い方がずれている。2019年の金融庁の報告書が示したのは、夫65歳以上・妻60歳以上の、夫婦だけの無職の世帯で、毎月の不足額が平均約5万円、これが20年で約1,300万円、30年で約2,000万円になる、という計算だ。報告書自身が、「あくまで平均の不足額から導いた金額で、不足しない場合もありうる」と書いている。「体面を保った暮らしの条件」ではない(金融庁の報告書(2019年))。

回答1の「7割の人は、2000万円を持っていない」は、いまの統計とは合いにくい。総務省の家計調査(令和6年)では、世帯主が65歳以上の二人以上の世帯の貯蓄の中央値は1,658万円で、4,000万円以上を持つ世帯が20.0%ある(内閣府 高齢社会白書)。中央値が1,658万円なら、半数は、それ以上を持っている。2,000万円に届かない世帯の割合そのものは、私が見た資料では出ていないが、「7割が持たない」という数字は、確かめられなかった。この調査は、一人暮らしの世帯を含まない点にも、注意が要る。

確かめられなかったこと

回答1の「退職後の年金が毎月15万円」と、「91歳の交通誘導員」「70歳前後の老人が現場に立つ」という見聞、「老婦人たちが夫の話題で怒り出す」という体験、「濡れ落ち葉」「粗大ゴミ」などの言葉をその場で教わったという話は、回答者自身の経験で、ほかに裏づける資料は見つからなかった。回答2の「伯父の月50万円相当の退職金」も、個人の話で、確かめようがない。

日本側のデータ

この記事の答え合わせに使った数字(日本の高齢者の就業)

就業率(2025年)65〜69歳54.5%
就業率(2025年)70〜74歳36.2%
就業率(2025年)75歳以上12.6%
65歳以上で「収入を伴う仕事をしたい(続けたい)」と答えた人(日本)39.0%(米24.3%・独19.8%・スウェーデン19.1%)
その主な理由「収入がほしいから」(日本)48.2%(2番目は「体によいから」25.1%)
公的年金・恩給が家計収入のすべての高齢者世帯43.4%
65歳以上の二人以上世帯の貯蓄の中央値1,658万円
金融庁の試算(無職の高齢夫婦・毎月の不足額)約5万円(30年で約2,000万円)

出典:内閣府 高齢社会白書(2026年版)・労働政策研究・研修機構・金融庁(2019年)

日本視点

この記事は、日本のニュースが、中国の人にどう読まれているかを見るものだ。中国の人の多くは、73歳の求職を「死ぬまで働く美談」としてではなく、「日本の老人は、お金が足りないから働く」という話として読んだ。回答1・2は、日本の高齢者の就業を、年金の少なさと結びつけた。

日本の数字では、65歳以上で働きたい人の主な理由は、「収入がほしいから」が48.2%でいちばん多い。ただし、「体によいから」(25.1%)も4人に1人いて、理由はお金だけではない。また、今回の73歳は、トヨタ40年・長城5年という、技術と管理の経験を売りにした求職で、交通誘導員や案内係の仕事をする人とは、立場が違う。回答3の言うとおり、昔ながらの製造業では、経験者が働き続ける場がある。「日本の老人は、みんなお金に困っている」でも、「みんな気概で働いている」でもなく、働く理由と、仕事の中身は、人によってかなり違うというのが、数字から見える形だ。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:65歳以上で働く人が増えていること(就業率は、65〜69歳で54.5%)、働く理由でいちばん多いのが「収入がほしいから」(48.2%)であること、公的年金だけで暮らす高齢者世帯が43.4%あること、73歳のエンジニアがトヨタから長城へ移ったという履歴。
  • ずれている・注意が必要:「2,000万円は、体面を保った暮らしの条件」(金融庁の計算は、無職の高齢夫婦の不足額)、「7割が2,000万円を持たない」(中央値は1,658万円で、合いにくい)、「理由はお金だけ」(「体によいから」も25.1%)。
  • 確かめられなかった:「退職後の年金が月15万円」、「91歳の交通誘導員」などの見聞、「伯父の月50万円相当の退職金」。
関連書籍

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まとめ

  • 知乎で197.2万回読まれた質問「日本の73歳のエンジニアが、中国の自動車メーカーに履歴書を出した。この『死ぬまで働く』気概は、何を感じさせるか」。賛同のいちばん多い回答(4,918)は「『気概』と言うなら彼らは唾を吐く。お金が足りないだけだ」と書き、3番目(1,060)は「昔ながらの製造業で、経験者が働き続けている」と見た
  • いまの数字では、2025年の就業率は65〜69歳で54.5%、70〜74歳で36.2%。65歳以上で働きたい人の主な理由は、「収入がほしいから」が48.2%でいちばん多く、「体によいから」が25.1%。公的年金だけが収入のすべての高齢者世帯は43.4%。73歳のエンジニアは、トヨタ約40年・長城汽車5年あまりの経歴で、月5万〜6万元(約118万〜142万円)を望んだと、中国の報道が伝えた
  • 「2000万円の貯金が公式の言い方」は、金融庁の試算(無職の高齢夫婦の不足額)とずれていて、「7割が持たない」は、貯蓄の中央値1,658万円と合いにくい。「月15万円の年金」「91歳の交通誘導員」は確かめられなかった

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