中国人「年収500万〜700万円は、日本で働く多くの人が一生でたどり着く最高点かもしれない」

中国の質問サイト「知乎」に、日本で働く中国人が立てた質問がある。「日本なら年収500万〜700万円は当たり前、とみんな言う。誤解じゃないのか。日本で3年働いたが、そんな人は見たことがない」。2020年11月に立ち、閲覧は約160万回、回答は303件。

答えたのは、日本で働く中国人たちだ。一人は入管庁の統計を持ち出して「700万円の壁」を説明し、一人は転職で1,000万円を超えた経験を語り、一人は6年分の給与明細と転職先の内定通知書を貼った。

元投稿

質問:为什么那么多人说在日本工作年收能达到500-700万,是不是有什莫误解,本人日本工作三年,没见过?
(日本で働けば年収500万〜700万円になると、なぜ多くの人が言うのか。何か誤解があるのでは。私は日本で3年働いているが、見たことがない)
知乎/2020年11月25日/フォロワー1,088・閲覧1,595,788回・回答303件
→ https://www.zhihu.com/question/431907665

質問の本文はこう始まる。

我真的觉得网友是不是对日本有什么误解,觉得日本的钱很好挣,动辄就说要年薪500万起,700万正常,我在日本三年,我觉得中国人在这边要是想拿到500以上……

ネットのみんなは日本を誤解しているんじゃないか。日本ではお金が稼ぎやすいと思って、何かといえば「年収は500万円から、700万円が普通」と言う。私は日本に来て3年になるが、中国人がここで500万円以上をもらおうと思ったら……

いちばん支持された回答「700万円は、外国人の天井だ」

回答者:苏菲(知乎の「新知答主」)
投稿日:2022年6月22日
賛同470・コメント238(この質問でいちばん多い)
→ 回答ページ

回答は、質問者の感覚を否定するところから始まらない。

你别说啊,没啥误解,还真就是这样。你的直觉没错,连数字都卡的正正好。500-700万这个区间,是很多人在日本工作会「卡」的区间。可能是大多数人在日本做白领一辈子能达到的最高峰。

いや、誤解なんてない。本当にそのとおりだ。あなたの直感は正しいし、数字までぴったり合っている。500万〜700万円は、日本で働く多くの人が「引っかかる」帯だ。日本でホワイトカラーとして働く大多数の人が、一生でたどり着く最高点かもしれない。

根拠として貼ったのが、出入国在留管理庁(入管庁)が2020年に行った調査のグラフだ。回答者はこれを「外国人の年収」の分布として読み、500万〜700万円の帯(10.8%)で「人数が急に増えている」と指摘した。

100万円未満から2000万円以上までを色分けした帯グラフ。100万円未満21.1%、500万円以上700万円未満10.8%
回答に貼られていたグラフ。元は入管庁「令和2年度 在留外国人に対する基礎調査」の図表23(出典:知乎の回答/入管庁の報告書)

在大多数公司里,500多万的薪资要想到达700万以上,要么完全转行,要么升为管理职位才可以。而在日企中,外国人作为技术型人才有可能混得不错,但拿到一定级别的管理职位就非常难了。

たいていの会社では、500万円台から700万円を超えるには、まったく別の業界に移るか、管理職に上がるしかない。日本企業で、外国人が技術者としてそこそこやっていくことはできる。でも、ある程度以上の管理職に就くのは、とても難しい。

下の端についても説明している。300万円台に人が多いのは、そこが「下限」だからだという。

大多数人300多万可能会勉强接受,但低于300万就真的太少了,可能直接选择了回国或者继续找300万以上的工作。

300万円台なら、たいていの人はしぶしぶ受け入れる。でも300万円を切ると本当に少なすぎる。そのまま帰国するか、300万円以上の仕事を探し続けるのだろう。

最後に、年収1,000万円を超える外国人が6%を超えることに驚き、回答者の7割が40歳未満であることを挙げて、こう結んだ。

这充分说明了在日本的外国人群体是多么优秀……40岁以下就达到了日本大部分五六十岁大叔的成就。

日本にいる外国人がどれだけ優秀か、よく分かる。40歳前で、日本の五、六十代のおじさんたちの大半と同じところまで来ているのだから。

転職で1,000万円を超えた回答者「日本人から見れば、あなたたちは恐ろしい」

回答者:Kill Multi
投稿日:2021年1月8日
賛同223・コメント37
→ 回答ページ

我自己也是新卒22.5w过来的,跳了两次 600w-800w-1X00w的样子。

私も新卒は月給22万5,000円からだった。2回転職して、600万、800万、そしていまは1,000万円台だ。

この回答者は、日本の給料を「どこに入ったか」で3つの層に分けた。

现在日本本土中小企业整体是一个下沉的结构,形成了一个巨大的200W-500w的基盘。换句话说无论你如何优秀只要进入了这个领域,基本上你的薪酬结构是跳不出这个基本盘的。

日本の中小企業は、全体が沈んだ構造で、200万〜500万円の巨大な土台になっている。どれほど優秀でも、この領域に入ったら、給料はまずこの土台から抜け出せない。

その上に、日本の大企業の「500万〜800万円の壁」があり、留学生の大半はここにいる。さらに上が、金融や外資系の「上限なしの1,000万円以上」だという。そして、自分を「平凡だ」と思っている中国人の若者に向けて、こう書いた。

你们觉得自己平平无奇是因为你们一直以来比较的对象是考上top2或者托福115去藤校的隔壁家的孩子。在日本人眼里你们这帮不知道哪里来的第三世界歪果仁本科修士毕业的有一门专业,而且会中文会英语,更可怕的是还会说日语。吓死人了好吗。

自分を平凡だと思うのは、ずっと比べてきた相手が、北京大学や清華大学に受かった子や、TOEFL115点でアイビーリーグに行った隣の家の子だったからだ。日本人から見れば、どこから来たかも分からない外国人が、学部や修士を出て専門を持ち、中国語も英語もできて、なんと日本語まで話す。恐ろしいでしょ。

上结论:终身雇佣制乙烷,退休金别指望,研究业界能跳赶紧跳。

結論。終身雇用はもう終わった。退職後のお金はあてにするな。業界をよく調べて、移れるならさっさと移れ。

6年分の給与明細を貼った回答者「日本企業はこんなもんだ」

回答者:匿名(日本の国立大学で工学の修士を取り、伝統的な大手製造業に就職)
投稿日:2021年9月25日
賛同152・コメント175
→ 回答ページ

この回答者は、毎月の給与明細をエクセルに記録してきたという。税や社会保険料を引く前の額で、6年分を並べた。

  • 1年目 366万円(賞与が少ない)
  • 2年目 492万円(残業代93万円。「あと数万円で500万に届かなかった」)
  • 3年目 565万円(残業代107万円)
  • 4年目 523万円
  • 5年目 587万円
  • 6年目 573万円
2019年4月から7月の給与明細の一覧。月の支給額は30万〜34万円台、6月の賞与は57万5,350円
回答に貼られていた給与明細の一覧(2019年4〜7月)。「数字がうそだと言う人がいるので」と画面を出した(出典:知乎の回答)

残業代で年収が100万円近く動くのが分かる。数日後、回答者は追記した。いまの課長と合わず、転職活動をして、第一志望の会社から内定をもらったという。

採用内定通知書の内定条件。入社日2021年12月1日予定、年収5,966,000円、本給32万円/月、賞与212万6,000円/年
回答に貼られていた内定通知書の一部。勤務地は回答者が赤で消している(出典:知乎の回答)

工资比预想少了点(我其实希望是650万,人家不一定会给啊),不含加班费和任何补贴,596万(基本工资32万/月+210多万的奖金),比现在公司多了50万日元,日企就这样吧,感觉也没有什么谈判的余地,无所谓了。

給料は思ったより少し低かった(本当は650万円がほしかったが、向こうが出すとは限らない)。残業代も手当も入れずに596万円(月給32万円と賞与210万円あまり)。いまの会社より50万円多い。日本企業はこんなもんだ。交渉の余地もなさそうだし、まあいい。

裏取り

確認できたこと

いちばん支持された回答のグラフは、本物の政府統計だ。入管庁が2020年9月に行った「在留外国人に対する基礎調査」で、500万〜700万円は10.8%、700万〜1,000万円は6.8%、1,000万円以上は合わせて6.0%だった。回答者の年齢も20代と30代で約7割を占める(入管庁「令和2年度 在留外国人に対する基礎調査 報告書」)。

内定通知書の数字も合っている。月給32万円の12か月分と賞与212万6,000円を足すと、596万6,000円になる。

事実と違ったこと

グラフは「一人の年収」ではなく「世帯の年収」だった。報告書の見出しは「2019年の世帯年収」。夫婦の収入などを合わせた額だ。回答は「年収1,000万円超の外国人は6%超、日本全体の平均も5〜6%」と比べたが、日本側は一人ひとりの給与なので、同じ物差しではない。

「500万〜700万円で人数が急に増える」は、区切り方の見かけだった。グラフの区切りは、400万円台までは100万円ごとだが、500万〜700万円は200万円、700万〜1,000万円は300万円の幅がある。100万円あたりに直すと、300万円台15.6%、400万円台8.9%、500万〜700万円は5.4%、700万〜1,000万円は2.3%。300万円台から上は、年収が上がるにつれて、なだらかに減っているだけだ。

「完全に無作為の調査」とも言い切れない。調査票を送った1万人は無作為に選ばれたが、答えたのはウェブで回答した1,600人(回答率17.1%)だけだ(同報告書)。

「200万円を超えると税の優遇が受けられない」は、半分だけ当たっている。回答者は、留学生や日本人の配偶者の収入が200万円以下に集まる理由をこう説明した。留学生のアルバイトが少ないのは税ではなく、週28時間以内という入管法の決まりのためだ(入管庁)。配偶者のほうは、配偶者特別控除が受けられなくなるのが給与でおよそ201万円からなので、「200万円」という線は近い(国税庁)。

4年後の答え合わせ

国籍・地域別の世帯収入の表。中国(n=1,897)は500万円以上700万円未満14.0%、700万円以上1,000万円未満11.8%
入管庁「令和6年度 在留外国人に対する基礎調査」の国籍・地域別の世帯収入(2023年分)(出典:入管庁の報告書 58ページ)

入管庁の同じ調査の最新版(2024年度、回答7,621人)には、国籍別の表がある(入管庁)。中国籍の人(1,897人)の世帯収入は、500万〜700万円が14.0%、700万〜1,000万円が11.8%、1,000万円以上が7.6%。合わせると、3世帯に1世帯が500万円を超えている。在留資格「技術・人文知識・国際業務」(いわゆるホワイトカラーの就労ビザ)の人で見ると、いちばん多いのは300万円台(26.6%)だった。

日本側のデータ

日本の給与所得者の平均給与(2024年分・1年を通じて勤務した人)

全体478万円
男性 30〜34歳512万円
男性 35〜39歳574万円
男性で最も高い55〜59歳735万円
年収1,000万円を超える人の割合6.2%

出典:国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」/同 報告書

日本人の男性でも、30代後半の平均が574万円、いちばん高い50代後半で735万円だ。「500万〜700万円が一生の最高点」という見立ては、外国人に限らず、日本の会社員の平均像にかなり近い。

変わったのは為替だ。質問が立った2020年は、人民元の年平均レートは15.48円/元だった(世界経済のネタ帳)。中国の都市部の非私営企業の平均年収は97,379元(約151万円)で(中国国家統計局)、日本の500万円はその3.3倍にあたった。2025年の平均年収は129,441元(約306万円)に上がり(中国国家統計局)、いまのレート(三菱UFJ銀行の9月25日の仲値、23.63円/元)で比べると、500万円は1.6倍にすぎない。

日本視点

この質問で中国人が議論しているのは、日本の給料の高さそのものではない。「日本に来て働く価値があるか」だ。だから数字はいつも、中国に帰ったらいくらもらえるか、隣の家の子はどこまで行ったか、と並べて語られる。

2番目の回答の「中小企業の200万〜500万円」「大企業の500万〜800万円」「外資の1,000万円以上」という3層の見取り図は、日本の研究者の見方とも重なる。社会学者の小熊英二は、日本人の生き方を「大企業型」「地元型」「残余型」に分け、どの会社に入ったかで一生の賃金の形が決まる仕組みを描いた。外から来た中国人は、その仕組みを「天井」として、はっきり感じ取っている。

一方で、答え合わせで見えたように、500万円の重みは4年で半分になった。中国の給料が上がり、円が安くなったからだ。2020年の回答者たちが「日本で頑張れば届く」と語った数字は、いまの中国の若者には「わざわざ行くほどではない」数字に見えているかもしれない。

どこが当たっていて、どこがずれているか

  • 当たっている:入管庁の調査の数字(500万〜700万円10.8%、1,000万円以上6.0%、20〜30代が約7割)。内定通知書の計算。
  • 当たっている:「500万〜700万円が多くの人の最高点」。日本人男性でも30代後半の平均は574万円。
  • ずれている:グラフは一人の年収ではなく世帯の年収。日本人の個人の給与とは比べられない。
  • ずれている:「500万〜700万円で急に増える」は、区切りの幅が倍になっているための見かけ。
  • 見えていない:円安と中国の賃上げで、日本の500万円の重みは2020年の約半分になった。

日本人にとっての学びはこうだ。中国人は日本の年収を「日本で働く価値があるか」の物差しとして読み、「700万円の壁」を外国人が越えにくい天井として語っている。そしてその物差しは、円安と中国の賃上げで、4年のうちに大きく縮んだ。

関連書籍

日本の雇用・教育・福祉が、なぜいまの形になったのかを歴史からたどった一冊です。日本人の生き方を「大企業型」「地元型」「残余型」に分ける見方は、Kill Multiの回答の「3つの層」を日本側から説明してくれます。

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まとめ

  • 知乎で約160万回読まれた「日本で年収500万〜700万円は誤解では?」。いちばん支持された回答は「誤解ではない。多くの人が一生でたどり着く最高点かもしれない」と書き、700万円を外国人の天井と呼んだ
  • 根拠のグラフは入管庁の本物の統計だが、中身は「世帯の年収」で、区切りの幅も途中で変わっていた。「500万〜700万円で急に増える」は見かけだった
  • 最新の調査では中国籍の3世帯に1世帯が500万円超。ただ中国の賃上げと円安で、500万円は中国の平均年収の3.3倍から1.6倍に縮んだ

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